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【第17話:気と魔力、そして異能】

「これが私の()()『樹氷』よ」


 僕の目の前には高さ3m近くある氷の木が聳え立っていました。


 僅か1秒足らずの出来事です。

 その瞬きをするほどの間に、氷の木は芽生え、この大きさにまで成長したのです。


 そして……、


「穿て!」


 その短い一言に呼応して氷の枝が鋭い先端を伸ばし、10mは離れている壁に向かって凄まじい速度で突き出されたのです。

 先ほどの「氷の牙(アイスファング)」を遥かにうわ回る威力と速度です。


 壁際でこちらを見守っていたセリアたちからも、どよめきが起こっています。


「す、凄いですね。あんな一瞬で木になっただけでも驚きなのに……凄い威力の攻撃を自在に……」


 フォレンティーヌさんが魔法は対魔物ではそこまで強力じゃないと言った理由が、少し納得してしまいました。

 詠唱による隙もなく、それでいてギフトは魔力を消費しない、もしくは消費量が少なく、この威力なのですから。


「うん。今度はホントに驚いてくれてるみたいね」


 僕が本気で驚いたのが嬉しかったのか、少し上機嫌なのがちょっと悔しいですね……。


 しかし、僕はそれよりも少し気になっていることがあります。


「あの……今、『樹氷』の事をギフトでなく、()()って言った気がするんですが、ギフトの事を異能とも呼ぶんですか?」


 フォレンティーヌさんはこの都市国家の出身じゃないと聞いていたので、他の国ではそんな呼び方をするのかと思って尋ねたのですが、返って来たのは否定の言葉でした。


「ふふふ。ちゃんと気付いてるくれて良かったわ。でも、異能とギフトは似て否なるものよ」


 そう言って笑みを浮かべるフォレンティーヌさん。


 しかし、異能と言う言葉になにかの引っ掛かりを覚えるのはなんなのでしょうか?

 この一年で図書館の本をほとんど読みましたが、そこには異能なんて言葉は出てこなかった筈です。


 僕は何故か読んだ本の事は()()()()()()()()()()()ので、間違いないと思います。

 ローズが言うには異様なほどの記憶力らしいですが、普通の記憶力と言うのがよくわからないんですよね。


 まぁ僕のことは置いておいて、異能というのがどういうものなのかと言うのが気になります。


「異能って言葉、どこかで聞いた気はするんですが、いったいどういうものなのですか? 本などには載ってなかったと思うのですが?」


「やっぱり本当に記憶が無いのね」


 フォレンティーヌさんはそう小さく呟いて、おもむろに胸元に手を入れます。

 ちょっと透き通るような白い肌が見えて目のやり場に困っていると、そこから取り出した赤く発光している物に目を奪われました。


「あ、それは僕のペンダントと同じもの??」


「そうよ。このペンダントはね。異能を発現する為の鍵になっているの」


 それってつまり……。


「つまり、ダイン。あなたにも異能の力があるって事よ」


 ギフトではなく、異能という力が僕にも……。


「でも、その異能という力が僕にあったとしても、どういった力を僕が持っているかの記憶がないんですが……」


「心配しなくても大丈夫よ。異能の力はそのペンダントに刻まれているから」


「このペンダントに?」


 僕はポケットからペンダントを取り出して細部まで確認してみますが、何かの紋様のようなものが彫り込まれている以外は何も見つける事が出来ませんでした。


「普通に見てもなにもないわよ。そのペンダントに(オーラ)を流し込むの。こちらの世界でいう魔力よ。こちらの世界で1年も暮らしていれば、魔力の扱いはもう慣れたものでしょ」


 たしかに魔導学で作られたものはだいたい魔力を流し込むことで操作します。


 もしかして僕は、元いた世界で(オーラ)を扱うことが出来たおかげで、この世界に来ても普通に暮らせていたんでしょうか。

 僕自身の記憶は未だ戻らないですが、元いた世界の知識は残っています。

 そして元いた世界の普通の人は、(オーラ)などというものは扱えないはずですから。


 とにかく普段から魔力としては使っているので、同じようにペンダントに流し込んで見ることにします。


「じゃ、じゃぁやってみます」


 僕は手にしたペンダントにもう一度視線を向け、ゆっくりと魔力を流し込んでいきました。

 すると、淡く赤い光を発光し始め……頭の中でカチリと音を立てて何かが解除されたような感覚に襲われます。


 その直後でした。突然、脳内に機械的なアナウンス音声が流れ込んできたのです。


『概念的安全装置レベルΖ(ゼータ)ヲ解除シマシタ。以後、以下ノ異能ガ使用可能トナリマス』


「え? え? なにこれ??」


 僕がその脳内に直接流れる音声に驚いていると、いたずらが成功したみたいに楽しそうなフォレンティーヌさんの顔が視界に映って少しげんなりします……。

 知ってて黙っていましたね……。


 でも、お陰で少し落ち着くことが出来ました。


『身体強化ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


『気功法衣ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


「身体強化に気功法衣っていったい……」


 そう呟いた時には、その二つの異能がどういったものなのかを理解していました。

 身体強化は読んで字の如く、身体能力を大幅にあげる異能で、気功法衣は(オーラ)、この世界でいうところの魔力を纏って防御力をあげる異能のようです。


 そしてこの二つの異能は常時その能力を発揮する異能のようで、パッシブと呼ばれ、使用するときだけ発動させる異能をアクティブと呼び、フォレンティーヌさんのさっき見せてくれた『樹氷』などはこちらに分類されるものでしょう。


「ダインは前衛型の異能力者なのかしら? その二つが使えるのならランクEは確定ね。使えるのはそれだけ?」


「いえ、まだ他にも……」


 実はこうやって話している間にも、まだアナウンスが流れていたのです。


『式神奏者ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


 この異能はあの映像で見たもののようですね。

 なんらかの式神を従えて使役するもののようですが、僕のこの『式神奏者』という異能は少し特殊なようで、普通の式神以外に、映像でみたような機甲兵器を改良した機甲式と呼ばれるようなものも使役出来るようです。


「えっと、ほかに『式神奏者』ってのも……」


「へ~、式神系って結構強い異能じゃない。奏者ってのは聞いたことないけど……でも、先の二つと合わせると本人も鍛えれば戦えそうだし、三つ合わせると私と同じBランクか、少なとくともCランク能力者ぐらいにはなるかしら?」


「あ、あの……フォレンティーヌさん……」


「あっ、でも、この世界では新たな式神はもう手に入らないでしょうから、現時点でどんな式神を手に入れているかによるわね」


「……フォレンティーヌさ~ん……」


 フォレンティーヌさんは一人で考え込んで、一人で納得しているようですが、僕の声が中々届きません。


 どうしよう……アナウンスが止まらないのですが……。


『幻想世界ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


『時の箱舟ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


『次元遮断ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


『衛星射撃ノ使用制限ヲ解除シマシタ』


『妖精の囁きノ使用制限ヲ解除シマシタ』


「これ、いつまで続くのかな……」


 僕は、中々終わらない脳内アナウンスにひくつく頬を指で揉みほぐし、軽い現実逃避を始めるのでした。


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