【第11話:特待生】
「自己紹介がまだじゃったの。儂がシグルス守護者養成学校校長のワグナーじゃ」
ワグナー校長は校長室に入って簡単な自己紹介をすると、僕らにソファに座って少し待つように言い、前室にいた秘書の方のところに向かいました。
扉越しに聞こえた「飲み物と軽いお菓子でも出してやってくれ」という言葉に、隣に座ったセリアが静かに大喜びするという器用な真似をしています。
校長室は意外と質素な作りをしていました。
ちょっと高そうな壺が飾ってあったり、少し絨毯やソファがふかふかだったりと、豪華ではあるけど上品にまとめられた気品の漂う部屋といった感じでしょうか。
そんな中で目に付いたのが、壁一面の本棚とそこに収められた山のような書物です。
さすが守護者養成学校の校長ですね。
守護者には剣や魔法、魔銃、それに各々が個別に授かったギフトを用いて魔物と戦います。
そのためには様々な知識が必要なのでしょう。
ただ、後で聞いた話だけど、ローズがここの本を借りた時に表紙と違う本が混ざっていて、その本の中身が……げふんげふん。
まぁ知らずに開いてモロに見てしまったらしく、そこから校長の扱いが変わったらしいです。
おっと……話がそれたけど、案内された校長室はいたって普通で、出されたお菓子も美味しかったです。じゃなくて……お互い自己紹介を終えた後は、質問に答える形で進んでいったのでした。
~
「今日僕たちの身に起きたことは、だいたいこんな感じです。報告ってこれで大丈夫ですか?」
今日起きた事の報告を僕が中心になって話をしました。
ところどころローズに補足してもらい、だいたい30分ほどかけてようやく話を終えました。
僕が一人でソーンバードの群れを倒した事は話していませんけど。
一通りの説明を終えたので、僕は果実水を一気に飲み干して喉を潤します。
決して美味しかったからもう一杯おかわりが欲しかったわけではないです。
セリアが3杯も飲んでて羨ましかったわけでもないのです。
「うむ。だいたいの事はわかったよ。ご苦労じゃったのぉ」
「いえ。僕はたまたま魔物を早く発見する事が出来たので、警報を発動させただけですから」
「しかし、かなり早く警報が鳴ったお陰で、今回は被害が軽微だと衛兵が言っておったぞ。よくやったな」
目の前で一人犠牲者を見ているので素直には喜べないけど、それでも礼は言っておかないと。
「そうですか。ありがとうございます」
でも素直に褒められると、僕はローズに言われて色々隠しているので、ちょっと申し訳ない気になります。
「それでエロじ……校長の用件は以上でしょうか?」
隠し事より、毒舌で申し訳ない気になります……。
「うっ!? い、いや、本題はこれからなんじゃ」
本題? 襲撃の件について話しを聞きたいのかと思ってましたが、どうもそっちはついでのようです。
「本題?……本題って何なんですか? あ、お菓子ご馳走様でした!」
「ほっほっほ。美味かったか? 面白い子じゃのぅ」
セリアがお菓子を完食して満足気だ。
僕も後で貰おうと思ってたのに……。
「それで、本題って言うのは何でしょうか?」
「うむ。本題と言うのは他でもない。ダインについてじゃ」
「へ? 僕についてですか?」
僕はまさか僕自身のことが本題だとは思っていなかったので、少し間抜けな声をあげてしまいました。
「そうじゃ。お主が守護者養成学校の適正検査で……満点を叩きだしたことについてじゃ」
あれ? そんなこと?
「ま、満点……」
「えぇぇぇぇ!? ダインって満点だったの!? やっぱりダインは凄いね!」
ローズは呆気にとられ、セリアは僕の手を取って立ち上がって喜んでいる。
「へ~満点だったんですね。でも、それが何かあるんですか?」
そう言って尋ねた僕の横で、ローズがなぜか溜息をついていた。
「ダイン……満点はこの学校創立以来誰もとった事のない点数よ」
「わぁ! やっぱりダイン凄いね! 将来は高ランク守護者も夢じゃないよ!」
守護者養成学校って創立何年なんでしょうね?
セリアが創立以来初めての快挙だと自分の事のように喜んでくれているのは嬉しいのですが、ローズの表情を見るにそれはそれで何か不味い気がしてきました……。
「セリア、話が進まないからあなたは少し黙ってて……史上初って事は、現在から過去に渡って後にSランク守護者になった人も含めて、誰も出せなかった点数ってことなのよ?」
「え? それなら尚更凄いし、喜ぶことなんじゃないの?」
「セリアよ。そもそもじゃなぁ……適性検査は基本的に満点がとれないように作ってあるのじゃ。例えば現役のSランク守護者最強、シグルス第一席の『焔のバロン』ですら今受けても取れんようにのぉ」
シグルスではその強さに応じて上位守護者にはランク付けがされています。
特にランキング上位7人は『七枚盾』と呼ばれ讃えられています。
そしてその中の筆頭がバロンさんって凄い魔法剣士なんです。
これは僕でも知っているぐらいの有名な人たちですね。
「え? 絶対取れないってのはどういう事でしょう??」
詳しく話を聞いてみると、守護者適性検査は入学後の個別カリキュラムを作成するために、少し特殊なテストを設けているという話でした。
同じような難易度の検査やテストをいくつクリアしたかではなく、物凄く簡単なものから徐々に段階を踏んで絶対にクリアできないであろう難易度のものまで用意して、その者がどの段階の実力を持っているか? 将来的にどのレベルまで成長する可能性があるかなどを見る為、検査項目の中には必ず失敗する前提の項目がいくつも存在するらしい。
「じゃぁ僕は、その失敗する前提の検査項目を全てクリアしちゃったって事なんですね。あの……何かすみません」
うん。とりあえず謝っておこう。
「いや。別に謝らんでも良いのじゃが……」
ローズは話を聞きながら、校長が用意した僕の検査結果の紙に目を通していたのだけど、
「基礎運動能力に反射神経、潜在魔力、射撃、投擲、剣術、状況判断能力まで全適性満点なのね……」
そう言って大きな溜息をついて、その紙をそっとテーブルに戻した。
「ふぅ……校長、やっぱりダインは特待生にされるのですか?」
う~ん……やっぱりそうなるのかぁ……特待生にならないようにって難しいなぁ……。
「凄いじゃない! 特待生って……えっ!? 特待生!?」
セリアも特待生は全寮制だという事を知っているのかな。
「ダイン……特待生だって……よよ、良かったわね!」
うん。凄いやせ我慢だ。
今にも泣きそうな顔になっています。
いろいろ隠そうとしたけど、こんなにすぐバレるとは思わなかったな。
僕も特待生になる覚悟を決めるべきなのかと悩んでいると、校長から予想外の言葉が出てきました。
「話が盛り上がって青春している所悪いが……特待生にするつもりはないぞい?」




