王都を出て次なる道へ?
現在、王都ノワール大広場にて国王陛下による報奨が、活躍した冒険者達に渡されていた。
「次にバルムンク。お主は冒険者の多くを率いて指示を出しながらもお主自身も数多くのモンスターを倒したと聞いた。大義であった。よってお主には五百万ゼニーと獅子勲章を与える」
「ありがたき幸せ」
バルムンクが呼ばれたからそろそろ自分の番だろうなぁ。
「次に勇者サラ。お主は勇者として皆を導き、多くのモンスターを倒し、モンスターを増やしていた魔王の配下ヒルビッダーなるものを倒した功績は大きい。よってお主には八百万ゼニーと青龍勲章を与え、貴族位も与え、準男爵の位を授ける」
「ありがたき幸せ」
お金や勲章はもらえるとは思っていたけどまさか貴族位がもらえるなんて。
まぁ、準男爵なんて一代限りの名誉貴族みたいなものだけどね。
私でこれなら最も活躍した海人はどうなるんだろう?
「最後にカイト。お主は敵魔族を捕獲し、モンスターの増える理由であった魔笛ハーメルンを破壊し、勇者に敵魔族を倒させた。その後も最も多くモンスターを討伐した功績は最も大きい。よってお主には一千万ゼニーと玄武勲章を与え、貴族位も与え、準男爵の位を授ける」
「ありがたき幸せですが、私は勇者サラ様の執事です。ですので私の報奨はすべてサラ様にお与え下さい」
「本当によいのだな?」
「はい、お願いします」
「勇者サラよ再び前へ」
「は、はい」
「お主の執事は執事の鏡だな。お主には新に一千万ゼニーと玄武勲章を与え、貴族位を男爵とする。だが今は渡せる領地がないが良いか?」
「あ、ありがたき幸せ」
ヤッフー!! 海人のおかげで勲章二つに貴族位が男爵になったわ。お金もたんまり貰ったし、私は一気に人気者よ!
報奨式も終わり、王様は城へと帰っていき、先程まで人々でいっぱいだった大広場も通常の多さに戻った。
私達も冒険者ギルドにクエストでも見に行こうとしたらバルムンクに声をかけられた。
もしかして引き抜きって奴? たぶん私が欲しいんだわ! でもダメ! 私には海人とフロムがいるからいけないわ!
「今回の戦いは凄かったねカイト。思わず君の戦いに見惚れてしまったよ。それでもしよかったら僕らのパーティーに入らないかい?」
……えっ? そっち!?
「お誘いはありがたいのですが、私は咲良お嬢様の執事ですのでお断りさせていただきます」
「い、いやもちろん勇者サラも誘うつもりだったさ。なんならフロム嬢にも来てもらいたい」
この爽やかイケメンめ! 私とフロムをついでみたいに言いやがったわ。誘いの答えはもちろんノー!
「申し訳ないのだけれど今の所はこの三人で冒険しようかと思っているの」
「……そうか、わかった。でも気が変わったらいつでも声をかけてくれ。それじゃあまた」
「ええ、それじゃあまた」
バルムンク達は簡単に引き下がってくれたけど、他のパーティーの勧誘がしつこい。誰も彼も海人を勧誘する。この勇者サラを置き去りにして。
なんか面白くない。勇者の筈なのに執事に負けるとは。
海人に嫉妬していると、兵士が来て城まで来るように伝えろと命令されたらしい。
何で呼ばれたかはわからないけど今回のモンスターパレードを止めた事を改めて褒めてくれるに違いない。
案内されたのは玉座の間ではなく、王様の執務室だった。
「よく来てくれたな三人とも。実はお願いがあってのう。勇者サラの執事カイトを余の執事に迎えたいのじゃがどうだろう?」
「申し訳ないのですが、私は咲良お嬢様の執事です」
「王命であってもか?」
「もちろん咲良お嬢様の執事以外の選択肢はございません」
ふふん、海人の主はどうあっても私なのは動かない。
「まぁ、用件がそれだけなら忙しいからこの場を去らせてもらうわ。明日この王都を離れるからその準備をしないと。だから王様とはしばらく会えなくなるわね」
「確かに魔王討伐に向けて旅立てとは言ったが、先日のモンスターパレードを発生させた魔族のような奴が現れると正直不安でなぁ。出来れば執事のカイトだけでも王都にいて欲しいのだが」
「無理なものは無理よ。それじゃあ私達色々買わなくちゃいけない物があるから失礼するわ」
誉めてくれると思いきや王様まで海人の勧誘。
正直面白くないわ。
だからこの王都を離れる事を決意した。
城を出て、商店街で馬二頭と馬車を買い、前よりも大きい容量のアイテム袋を私と海人の分を買い、回復アイテムや野菜や肉、小麦粉、非常食用の干肉や魚の干物を買いアイテム袋に入れ、準備は整った。
王都を出るその前に王都でお世話になった人達にお礼を言わなくちゃ!
冒険者ギルドのギルドマスターガウェンや受付嬢のミーネにお礼の挨拶をし、商業ギルドのギルドマスターゼラウスと受付嬢のテレッサにもお礼の挨拶を済ませる。
これで何の憂いもなく出発できる。
先程から海人をこの王都へ残そうと必死な兵士や冒険者などが大勢いる。
一応仮にも勇者である私は空気の様。
フロムが肩を叩き、慰めてくれる。
だがはっきり言って非常に面白くない。
だから私を必要としてくれる場へと移動するのだ。
魔王や魔族がいるのはここから北の死の森を越えた魔大陸と呼ばれる場所。
死の森には非常に強大な力を持つモンスターが溢れている為、人間は近づけず、魔大陸に踏み込んだ者は今までの歴史でも数えれる程度。
この魔大陸や死の森に近い町程魔族やモンスターの被害が多く、勇者の力を必要としていると聞いた。
ならこんな勇者を評価しない王都はおさらばして私を必要としてくれる町へと出発しようじゃないか。
海人を名残惜しそうに見つめる冒険者や王都民を無視し、北の死の森を目指して馬車を走らせる。
なお馬車の操手は海人が出来るようなのでまかせる。
私とフロムは馬車の中でのんびりと過ごす。
フロムも報奨金をもらったらしく、そのお金で買った本を読んでいる。
「ねぇ、フロムその本面白い?」
「……」
集中しているようで私の声が聞こえてないみたい。
「これならどうだ!」
フロムの脇の下をコチョコチョくすぐる。
「ひゃう! 何をするサラ!」
「いやー、あんまり暇なもので話し相手が欲しくて」
その瞬間馬車内の温度が低くなる。
「そんな理由でフロムの崇高な読書タイムを邪魔したの?」
「フ、フロムさん寒いわ」
「次邪魔したら凍らす」
そう言うと読書に戻るフロム。
無表情で魔法で脅してくるフロムさん怖い!
もうフロムの読書中は邪魔するの止めよ。
しかし暇すぎるため、操手している海人の隣に座る私。
「お嬢様いかがなさいましたか?」
「暇だから話し相手になってよ」
「左様ですか。かしこまりました」
二人でこっちに来てからの事や元の世界の事を喋る私達。
そう言えば二人でゆっくり落ち着いて話すの久しぶりじゃない!?
この雰囲気良い。まるで長年連れ添ってきた夫婦感がここに生まれてる。
この時間よ終わってくれるな。
そう思っていると終わるのが現実。
「おや、道の先でモンスターに襲われている馬車が。速度を出しますので舌を噛まないように」
そう言うと海人は馬車の速度を上げ、モンスターに襲われている馬車の元へと向かう。
騒ぎに気づいたのかフロムも馬車の奥から顔を出す。
「何事?」
「モンスターに襲われている馬車を発見したわ。助けに向かうからフロムも戦いの準備を」
「了解」
モンスター達が見える。犬の顔をした二足歩行のモンスター十匹程が冒険者らしき格好の剣を手に持つ男性一人と戦っている。
「あれはコボルド。一匹一匹は大したことないけど、仲間を呼ばれると厄介。迅速に倒すことをフロムは提案する」
そう言うとフロムは魔法を放つ。
「アイスランス」
出現した氷の槍が三匹のコボルドを撃破する。
私と海人も馬車から降り、コボルドを三匹ずつ撃破する。
最後に残ったコボルドは元々戦っていた冒険者の男性が始末し、モンスターは一掃された。
冒険者の格好をした男性はこちらを向く。
「助けに入ってくれてありがとう。正直一人で厳しかったから助かったよ。君勇者サラだろ、俺はCランク冒険者のハンクだ」
「なんで私の事を知っているの?」
「俺が護衛についてる馬車も王都から出発してるからな。勇者サラとその仲間達の活躍は知っているさ二人もありがとう」
海人とフロムにも礼を言うハンクが襲われていた馬車に呼び掛ける。
「マルダさん、もうモンスターは倒したんで出てきても大丈夫ですよ」
すると、馬車の中から一人の男性が出てきた。
「ハ、ハンクさん。本当にもう大丈夫なんですか?」
「ええ、運良く勇者様一行が助けてくれました」
「おぉ、モンスターなどあまり出ないこの街道でコボルドの群れに襲われた時は死を覚悟しましたが、天は私を見捨てなかったみたいですな。これも聖女様のお導きに違いない!」
「聖女? いやいや! どこぞの聖女に感謝するよりまずは助けた私達に礼を言いなさいよ!」
「これはこれはもしやあなた様が勇者サラ様ですかな?」
「そうだけど?」
「大変失礼致しました。確かにあなた様の言う様にまずはあなた様方に礼を言うのが筋でした。此度はモンスターの群れから助けて頂いてありがとうございました」
「どうって事ないわ。私達に出会えて幸運だったわね?」
「ええ、まさにこの出会いは幸運。これも聖女のお導きでしょうな」
「……さっきから何なの? 聖女聖女って」
「おや、気になりますかな? さすが聖なる勇者様。同じ神聖なる聖女様の事を知りたいのですな?」
何この親父? いい年した恰幅のいい中年が聖女聖女気持ち悪い。
「別に知りたくないけど」
「そうですか知りたいですか。ならば聖女様について話さなければならないですな!」
このメタボ親父全然話聞いてない。しかも長くなりそうな話を始めようとしている。
「マルダさん、急いで聖都ミルストへ向かわねばならない筈では?」
「おっとそうでしたなハンクさん。勇者様申し訳ありませんが聖女様の話は出来そうにありません」
ハンクさんナイス助け船。
「いいえ、急いでるんでしょ? 私達に構わずさっさと行ってくれていいわよ?」
最初はモンスターから助けたお礼でもあわよくば貰おうと思っていたけど、この親父面倒臭そうだから早く別れた方が良さそうね。
だが現実は思った様にはいかないものだ。
「むぅ~、しかしこのまま別れるのは。……そうだ、助けて頂いたのも聖女様が導きし縁。この街道は聖都ミルストまで一本道。ならばこのまま私の馬車の護衛をハンクさんと一緒にしてはくれませんかな? もちろん護衛料は払いますし、聖都までの食事はこちらで用意致します。いかがでしょうか?」
うーん、この親父面倒臭そうだからな~。護衛料や食事よりもこの親父から離れる方がいい気がする。
「ええ、その話お引き受け致します」
だけど私が断るよりも早く守銭奴海人が引き受けてしまった。
「おぉ、引き受けて下さるのですな。それでは夕食後にでも聖女様の話は致しますから先を急ぎましょう!」
うわぁ、絶対面倒臭い道のりになる。
海人を睨むけど、私の視線などスルーな海人。
コボルドとの戦闘後ずっと静かだったフロムは読書タイムに戻っているし。
唯一私を気にかけてくれてるのはまともな冒険者なハンクさんだけ。
私の心の安寧の為、期待しているわハンクさん!
読んで頂きありがとうございました。