初めての魔族
グラエスタ王国城内国王執務室にて。
最近王都ノワールの露天街に凄く美味しい串焼きとドリンクを売る屋台が出来たらしい。
正直行きたい。余の耳にまで届く程の噂の美味しいグルメ。
仕事は溜まりまくっているが、噂の屋台が露天街に現れて一週間。
もう我慢できん! 宰相のオルトアから後で怒られるだろうが、我慢できんもんはできん! 市場の偵察に行ってくるとオルトア宛に手紙を執務している机に置いて、王とバレない様に帽子を被り、服は民達が着ているような服を着て、度の入っていないメガネをかけ、王しか知らない隠し通路から王都ノワールの露天街までやって来た。
今まで城下町はお忍びで何度か来ていたからわかるが、今日の露天街は何かおかしい。
いつも露天街は賑わっているのだが、今日はいつも以上に賑わっている。
だが、特に賑わっている店を余から見て、一番端に見つけた。
良いに匂いがするので、この店に近づこうとしたが、長蛇の列が出来ており、今日の余はあくまでも普通の平民なので仕方なく長蛇の列の最後尾に並ぶ。
今日は日が照っており、汗だくになりながら待つこと三十分、やっと串焼き、スライムドリンクという皆が並んでまで飲食したい程の料理を食べられると店員を見ると……気のせいかの? 先日魔王討伐に向かわせたはずの勇者サラが接客して、その執事が串に刺した肉を焼いていた。しかもドリンクを冷却しているのは、未来の大賢者と期待されている王立魔法学院で全ての属性の博士号をとり、十才という若さで首席で卒業したフロムではないか!?
「いらっしゃいませ、ご注文は何にしますか?」
勇者サラに声をかけられ思わず怒声を浴びせようとしたのを堪える。
今の余は、ただの平民。とりあえず後で城に三人を呼ぶとして、スライムドリンクで人気なのは、コーラとサイダーという飲み物らしい。
ドリンクはコーラを頼み、楽しみにしておいたサーベルタイガーの串焼きは売り切れており、しょうがなくゼブララビットとコケッコーのタレ味と塩味を一つずつ頼んだ。
露天街の中央には、自由に座れるテーブルと椅子があるのでそこで飲食することにする。
まずはゼブララビットの焼き串を食べ比べる。
馴染みの塩味から食べるが旨い! 他にもゼブララビットやコケッコーの串焼きを出している店はあるが、臭みもなく、固くない。食べると肉汁が口の中に広がり、余に一時の幸福をもたらす。
塩味のゼブララビットを食べ終わると、冷えたコーラを飲む。ぷはー、このシュワシュワした甘味のあるドリンクが肉に合う。次はゼブララビットの醤油ダレ味を一口食べる。
う、旨い。塩味の方も旨かったが、この醤油ダレは塩辛さだけでなく、甘味とコクがある。それが肉汁と合う事によってさらに食欲が増す。
気付けばゼブララビットの醤油ダレの焼き串はなくなっていた。コーラを飲み、数秒余韻を楽しみ、コケッコーの焼き串に手を伸ばす。
塩味をまた先に食べるとゼブララビットと違った肉の弾力と肉汁を塩によって良く引き立たせておる。
次にコケッコーの醤油ダレを口にする。
う、旨いぞー!! この醤油ダレはゼブララビットよりもコケッコーのような鶏肉に凄く合う。
コーラを飲み、食べるの繰り返しで全ての焼き串を食べてしまった。無論コーラも一緒に飲み干した。
足らん、足らんぞー!!
結局もう一回並び直し、大量の焼き串と先程とは違う飲み物サイダーを買って余は隠し通路から城の執務室に戻る。
すると鬼の様な形相でオルトアが待っていた。
◆◆◆
朝に王様から私と海人とフロムに城に来るように言われた。
兵士に案内され、玉座の間へと向かう。
玉座の間に入ると遠くから見ても凄く怒っている様子の王様を発見。
すぐにでもこの場から去りたいけど、そういうわけにもいかず、玉座の前で三人片足を地面につけ、頭を下げる。
「よい、頭を上げよ」
頭を上げるとやはり王様は怒っていた。
「今日何故この場に呼ばれたかわかるか?」
「いいえ、わかんないわ。それよりも聞いて王様。私スライムを倒しまくったおかげでレベルが五に上がってホーリースラッシュっていうスキルを手にしたのよ」
「今はお主の話はいい!! それよりも何故まだ王都にいる!? 余は魔王とその配下のモンスターや魔族を討伐するように言った筈じゃ。今頃は魔王の元に向かいながらモンスターや魔族を倒しておると思いきや、なぜ王都で屋台で商売などしておる!?」
「それは、勇者とは言え、レベル一でこの世界を何も知らないお嬢様をいきなり旅立たせるのは危険と判断したからです。まずは冒険者ギルドに入り、王都近くの弱いモンスターを狩りながらこの世界の事を少しでも理解させる為と、旅の資金を稼ぐ為です」
「旅の資金なら三十万ゼニーを与えたであろう?」
「あれでは、装備品、回復薬や魔力回復薬、毒消し、麻痺解除薬などの必要なアイテムなどを準備したら次の町まで持つかどうか怪しかったので、スライムの価値がわかり、屋台を出し旅の資金を集めた訳です」
「余が渡した金が少なかったと申すのだな?」
「はい、私達は今は三人で行動していますし、あれでは足りません。せめて後一ヶ月は屋台を出させていただかないとこの王都を出ることはないです」
「旅の資金などモンスターを倒してその素材を売ればいいと思うが、よかろう。三百万ゼニーを渡す。これで良いのだろう?」
「ええ、これでやっと旅に出れます。ところで二回も焼き串を買いに来られてましたがお味はいかがでした?」
「よ、余は城から出ておらん。人違いじゃないか。それよりも三百万ゼニーをやったのだから早く魔王討伐に行かんか」
実は屋台は大黒字で、本来なら貰わなくてもすぐに旅に出れる程のお金は持ってたんだけど、海人のおかげで三百万ゼニーゲット!
もう王都も飽きたし、そろそろ旅に出ますかと意気こんでいたら、兵士が慌てて玉座の間に入ってきた。
「急になんだ無礼だぞ!!」
宰相が兵士を怒鳴る。
「も、申し訳ありません! しかし緊急事態の為無礼をお許し下さい!」
「緊急事態とは?」
王様が尋ねると、兵士は唾を飲み込み告げる。
「ここ王都ノワールに向かってモンスターパレードです。それも一万以上のモンスターが目測で確認されました」
「な、なんだとっ!? 至急冒険者ギルドに報告し、出来るだけ冒険者を集めよ。アステル大将軍も出来るだけ迅速に兵士を集めよ!!」
「「はっ、了解しました!」」
兵士が冒険者ギルドに向かい、軍の全権任されているアステル大将軍は軍所へと向かう。
「さぁ、お嬢様。そろそろこの王都を出ましょうか、なんか危ないみたいですし」
「待たんかっ! 今から王都に向かってモンスターパレードが起きるというのに見捨てるつもりか!?」
「出ていけと言ったり、出ていくなと言ったりワガママですね。どうしますお嬢様? 私はお嬢様に従うまでですから」
「ふん、もちろん勇者としてこの王都を守るに決まってるわ。安心して王様。私がいる限り王都は大丈夫よ!」
「おう、そうかそうか。そこの執事と違いお主は勇者の為すべき事をよくわかっておる。頼むぞ勇者サラよ!!」
「引き受けた!!」
玉座の間を出た私達はすぐに冒険者ギルドに行く。
そこにはすでに王都中の冒険者が集まっていた。その数は多く、冒険者ギルド外まで溢れていた。
私達がギルド内に入れないでいると、受付嬢のミーネが私達の所へやってきた。
「ギルドマスターがお呼びです。案内しますから付いてきて下さい」
言われるがままミーネに付いていき、冒険者ギルドの二階の扉を開けると、執務用の席に丸坊主で筋肉ムキムキのガウェンが座っているけど、応接用のソファーに知らない四人の人間が座っており、さらに左の壁にもたれている五人組、右側の壁にも五人組の知らない冒険者達が居た。
「よく来てくれたな勇者のパーティー。ここにいる人間達が気になるだろうから簡単に紹介しよう。お前達から見て左側のパーティーがAランクパーティー『ブリューネ』で、お前達から見て右側のパーティーがAランクパーティー『パワーオブパワー』、そしてソファーに座っているパーティーが今最もSランクに近い男バルムンクが率いるAランクパーティー『不滅の剣』だ。お前達三組にも紹介しよう。王家の秘宝勇者の装備を纏う者こそ勇者サラで、レベルカンストをしている執事カイトと未来の大賢者フロムを率いておる。パーティーのランクこそ低いが冒険者になってすぐにあのサーベルタイガーも倒している強者達だ」
私達の方を興味深そうに見る者も入れば、完全無視の者もいて、なんか値踏みされているみたいで気持ちが悪い。
「お前達に来てもらったのは、今ここにいるお前達が王都の最高戦力だからだ」
私達が最高戦力ってどういう事?
ガウェンの言葉に不思議がっているとバルムンクって呼ばれていた人が皆の代わりに声を出す。
「私達が最高戦力という事はSランクパーティーや他のAランクパーティーは今の王都にはいないという事ですね?」
「ああ、そういうことだ。一応各冒険者ギルドに応援を頼んであるが、その前にモンスターパレードとぶつかる事になるだろう。そこで特にバルムンクに頼むが、他のAランク以下の冒険者達をまとめてモンスターパレードが王都に到達する前に戦って欲しい。王都には、グラエスタ王国軍が守りを固め、冒険者達が倒し損ねたモンスターを倒してくれる手筈になっている」
「つまり僕達冒険者達が犠牲になれという事ですね。僕達冒険者はあくまで自由。戦うにしても戦わないにしても勝手に決められます。僕達が命をかけてまで戦う理由が必要です」
「わかっている。今回の戦いで倒したモンスターの倒した証になる証明素材を見せればいつもの三倍の討伐報酬を与えるし、素材もいつもの三倍で買い取る。更にこのモンスターパレードで活躍した者には陛下から報奨がもらえる手筈になっている」
「なるほど、それなら冒険者達をまとめやすいですね」
「ああ、頼むぞお前達。この国の未来は冒険者であるお前達にかかっている!」
ガウェンの言葉を聞き終わると皆ギルドマスター室を出ていこうとする。
私は他の冒険者達に挨拶しようとするけど、女性五人組Aランクパーティー『ブリューネ』には無視され、男性五人組の『パワーオブパワー』には「お前達の出番はねぇぞヒヨコ勇者様?」とバカにされる。
唯一まともに対応してくれたのは銀色の長髪イケメンのバルムンク率いる男性二人、女性二人で構成されている『不滅の剣』だけだった。
「あのう、私はまだ未熟な勇者だけど国の皆を助ける為に頑張るからよろしく!」
「ああ勇者サラさん。こちらの方こそよろしく。やっぱり勇者が居るのと居ないのじゃ皆の士気に関わるからね正直居て助かるよ」
バルムンクはそう言ってくれて、他の『不滅の剣』の皆も暖かい言葉をくれた。
下に降りると早速バルムンクがギルドマスターから聞いた事すべてを伝える。
冒険者の皆はこの作戦に参加するか迷っている。
するとバルムンクが私を見て声をあげる。
「確かに一万以上のモンスターパレードは脅威だ。だけど僕達冒険者にとってこれは名を上げるまたとない大チャンスだ。ギルドは討伐証明部位を持ってきたなら三倍の討伐報酬と素材を持ってきたなら三倍の値段で買い取ると言ってきた。更に活躍した者には国王陛下から報奨がもらえる。何よりも僕らには、勇者サラがいる。過去の勇者の偉業は皆知っているだろう。大丈夫、僕らには勇者サラという勝利の女神がいるのだから」
皆私の方を見て覚悟を決めたらしく、「そうだ、これはチャンスだ!」「勇者がこっちにはついてるんだ! 勝てるに決まってる!」「勇者がいるなら安心だ」「頼むぞ勇者サラ!」と私にプレッシャーをかけてくる。助けを求めバルムンクの方を見るとウインクされた。謀られたぁ!! 勇者といってもスライムしか相手したことがないレベル五の勇者に何が出来るというのか。
余りのプレッシャーにガタガタ震えていると、「大丈夫ですよお嬢様。あなたには執事である私がついているのですから」と海人が声をかけてくれる。
「カイトだけじゃない。フロムもついてる。サポートするから大丈夫」
海人だけでなくフロムもこえをかけてくれる。いつの間にか震えは止まっていた。
そうよ、私には頼りになる仲間が二人もいるし、わたしは勇者なんだ! よし、行くぞぉぉぉお!!
私達冒険者はモンスターパレードを出来るだけ王都から離すために急いでモンスターパレードの元へと向かった。
モンスターパレードがみえたのは夕方になる頃。
王都からはだいぶ離れた場所で会敵となったけど、いざ一万のモンスターを見ると、やはり怖い。対する冒険者は約二千人。
でももう逃げられない。なら戦うしかない。私は勇者の剣――聖剣アスカロンを抜く。剣だというのに重さを全く感じない。
向かってくるモンスターに向かって最近覚えたスキルを放つ。
「ホーリースラッシュ!!」
アスカロンから放たれた聖なる一撃は十体程を葬る。
出来る。私にもスライムだけじゃなく他のモンスターも倒すことが!
十体倒せた事による慢心がモンスターを近づける隙となり、モンスターの攻撃を受けるけど痛くない。
そうかこれが勇者の鎧の力か!
これならモンスターなんて怖くない。
ホーリースラッシュを敵に向けて放ちまくる。
皆も私の勇姿を見てモンスターを倒しまくる。
数十分たっただろうか。モンスターを倒しまくっている筈なのに数が減らない。
不思議に思っていると、空から声がする。
「無駄無駄無駄ですよ~。四天魔王が一人――絶火のバルバドス様の配下七つの魔剣の一人であるモンスターを生み出す能力をもった魔笛ハーメルンを所持するこのヒルビッダーがいる限り」
空を見ると、ピエロのような格好をしたヒルビッダーなる魔族が魔笛ハーメルンを吹き出した。それと同時に新たなモンスターが増える。
「「ならお前を倒せばいいだけだろうが!!」」
冒険者達が一斉に空中にいるヒルビッダーに向けて攻撃するけどバリアを張り攻撃を無効化する。
「あなた達下級冒険者の攻撃が幹部クラスの魔族であるヒルビッダー様に効くわけないでしょう~」
なら私のホーリースラッシュならどうだ!!
しかし、ヒラリとかわされる。
「おっとっと、さすがに勇者の攻撃は怖いので奥に引っ込まさせて頂きますよ~」
ヒルビッダーが奥に引っ込んだ事で冒険者達に絶望の色が見え始める。
バルムンク達は必死に士気を上げようとしているけど、こんな数のモンスターの奥にいるヒルビッダーに辿り着けるわけがない。
周囲に諦めムードが流れる中海人が一言。
「要はヒルビッダーをお嬢様の目の前に連れて来ればいいのですよね?」
「「出来るならそうしている!!」」
冒険者達が叫ぶ中、海人は悠然とした態度で「では行って参ります」と言い、モンスター達を吹っ飛ばしながらモンスター達の奥の方へと消えてゆく。
数分後、モンスター達を吹っ飛ばしながら戻って来た海人の左手にはボロボロになって引きずられてきたヒルビッダーと右手には真っ二つに折られた魔笛ハーメルンがあった。
「魔笛ハーメルンは破壊出来たのですが、さすが幹部クラスの魔族。私では倒せませんでしたのでお嬢様に任せます」
(((絶対嘘だー!!)))
ボロボロになったヒルビッダーを見てわざと倒してないのは皆わかっていた。
「ホーリースラッシュ」
「ぎゃぁぁあっ!!」
私はなんとも言えないモヤモヤを抱えながらヒルビッダーを倒した。
「さすがお嬢様! 後はモンスターを倒すだけですね」
そのお世辞になんとも言えず無言でモンスターを倒す私とフロム。
皆も私になんとも言えない生暖かい目を向けながらモンスターを倒す。
皆の気も知らず私達の先でモンスターをバタバタと倒していく海人。
一時間後、すっかり暗くなった頃モンスターは一掃された。
主に海人の手によって。そのおかげで怪我人はいても死人は出なかった。
あまりの凄さに思わずバルムンクが海人に聞いてしまう。
「カイト、君は何者だ?」
「ただのサラお嬢様の執事ですけど?」
「「「絶対嘘だっ!!」」」
皆思わずツッコンでしまった。
読んで頂きありがとうございました。