焼き串とスライムドリンク
早朝から王都近くの草原で私とフロムちゃんはせっせっとミルクタンクの中に同じ色のスライムを入れ、核を潰しまくっていた。
一方海人はゼブララビットとコケッコーを倒しまくっていた。
最初に満たしたミルクタンク六缶と今日満たした9缶を合わせて十五種類のスライムドリンクが集まった。
いやぁ、フロムちゃんが居てくれたおかげで楽にはなったけど、やっぱり地獄だったよ。
それよりも大変な筈の海人は、コケッコー三十羽、ゼブララビット三十羽を倒して解体もして、解体でいらない部分を地面を掘ってそこに内臓や脳や目などを掘った穴の中に入れていく。
すると血の匂い誘われて、一匹の虎みたいのが猛スピードで近付いてくる。
「不思議。あれはサーベルタイガー。普通は森の中にいる筈なのに、こんな王都近くの草原に現れるなんて」
「アイツって強いのかしら?」
「うん、少なくともBランクパーティー以上じゃないと倒せない」
「それってかなりまずい状況じゃないのっ!?」
「うん、かなりまずい。逃げてもサーベルタイガーの方が足が速いから逃げられない」
先程のスライム狩りでレベル四になったけど、レベル二十五の魔法使いであるフロムちゃんが冷や汗をかいているのだ。
ここは一か八かで戦うしかないのだろうが、近くに来れば来るほど恐怖心が勝って腰が抜けて立ち上がれない。フロムちゃんも体をガタガタと震わせている。わかっているのだ。私達は助からないことを。
「確かにあれは危険ですね~。お嬢様達に接近する前に退治してきます」
軽くそう言うとサーベルタイガーに接近する海人。
勝負は一瞬で着いた。
海人のハイキックによりサーベルタイガーの首の骨がポッキリと折れて、頭の先から尻までで三メートル以上ある巨体はズシンと地面に倒れる。
「このサーベルタイガーもお金になりそうなので解体しますね」
と言って、サーベルタイガーを解体し始める海人。
「……ねぇ、サラ。カイトって何者?」
「本人言わく、ただの執事らしいわよ」
「絶対違う」
「私もそう思うんだけどいつもはぐらかされるのよねぇ」
私達が会話をしているうちに解体が終わったらしく、「それでは帰りましょうかお嬢様、フロム様」と声をかけられる。
頷いて立ち上がろうしたけど、腰が抜けて動けない。
すると海人がおんぶしてくれる。
脳汁ポイント来たぁー!! 海人に抱きつける絶好の機会を楽しんでいると、フロムちゃんがじとーってした目で私を見ている。
「サラずるい。私もおんぶされたい」
「フロムちゃんは普通に歩けるでしょ?私は腰が抜けて仕方なくおんぶしてもらっているの」
私はドヤ顔でフロムちゃんを見下ろす。
フロムちゃんは「ぐぬぬっ」と王都に着くまで羨ましそうに私を見ていた。
王都に着くと冒険者ギルドへと行き、モンスターの素材を売っていく。ゼブララビットの皮やコケッコーの羽根を売る。
「ゼブララビットの皮三十枚とコケッコーの羽根三十羽分で三万ゼニーです」
受け付けのミーネさんから三万ゼニーを受けとる。
「あのうそれとこのカウンターには乗せられないモンスターの素材があるのですがどうすればいいでしょうか?」
「ちなみに何の素材かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「サーベルタイガーの素材です」
「……えっ? サーベルタイガー? 倒したのですか三人で?」
「いえ、お二人を巻き込む前に私が倒しました」
「その話は本当ですかサラさん、フロムさん」
私とフロムちゃんは首を縦に振り肯定する。
「ええ、私達がスライムやゼブララビット、コケッコーを狩っている王都近くの草原で血の匂いに誘われたのかすごい勢いで私達の方へ。私とフロムちゃんは何もできず、私達の所に来る前に海人が倒してくれたから良かったけど」
状況を説明するとミーネさんは思案して「少々お待ちください」と言って二階に登って行く。
数分するとミーネさんと一緒に丸坊主の筋肉ムキムキのなんか怖い人がでてきたわ。
「待たせたな。俺はこの王都のギルドマスターガウェンだ。大型の魔物を解体する場所がギルドの裏にある。ついてこい」
ギルドマスターのガウェンさんについていってギルド裏の解体場所に到着。
ここならサーベルタイガーの素材を出しても大丈夫と、海人はアイテム袋からサーベルタイガーの牙や骨、しっかり処理した皮を取り出す。
「ほう、本当に倒したんだな。しかも素材の状態も完璧だ。しかし、肉はないのだな。サーベルタイガーの肉は上質だから出来れば欲しいんだが」
「すみません、今日から露天街で屋台を出すんで、肉は売れません」
「うむわかった。肉がないのが残念だが、これだけの品質のサーベルタイガーの素材なら六十万ゼニーで買おう」
うわっ、サーベルタイガーってそんなに高いんだぁ。さすがBランクパーティーで挑むだけあるモンスターだわ。
「是非六十万ゼニーでお願いします」
海人とガウェンさんはにこやかに握手をした。
「金は冒険者ギルドの受け付けで渡す」
私達は受け付けに行き、もはや私達担当になっているミーネから六十万ゼニーを受け取る。
六十万ゼニーは三人均等に渡すことにした海人。
だけど、私とフロムちゃんは震えているだけで何も出来なかった為、受け取り拒否したのだけれど、今は同じパーティー仲間だからと言って無理矢理二十万ゼニーを渡された。
「これならカイトと同じ十万ゼニーのアイテム袋を買ってもお釣りが出る」と喜ぶ私と、既に海人のアイテム袋よりも容量が大きいアイテム袋を持っているフロムちゃんは、「これで新しい魔導書を買える」と大喜びしていた。
「モンスターの換金も終わった事だし、露天街に向かいましょうか」
私達は冒険者ギルドを出て露天街へと向かう。
なお私と海人は今回のクエストプラスサーベルタイガーの討伐でFランク冒険者からEランク冒険者に昇格した。
――フロム視点
フロムは周囲の者にとって魔法の天才らしい。
通常の者は一属性しか魔法を使えないらしいし、優秀な者でも二、三属性しか使えないみたいだけど、フロムは、火、水、風、土、雷、光、闇の七属性を持って生まれた。さらに魔力量もグラエスタの宮廷魔導師長のタルミール様よりも多いらしい。
そんなフロムは八才になる年に王立魔法学院に入学し、三年間で七属性すべての博士号を取得し、首席で卒業した。
宮廷魔導師にならないかと誘いを受けたけど、宮廷魔導師になれば貴族位を貰うことになるので、面倒臭くて断り、自由のきく冒険者になった。
つるむのは苦手だったから基本一人でだらだらと冒険者活動をしていた。
たまにパーティーに入る事もあったけど、人間関係が面倒臭いし、フロムの名声が目的のパーティーもいたので
、もうパーティーに入るのは止めた。
十三才になったフロムは今日も楽なクエストを受けに来たはいいが、四人程の男性パーティーがギルドボードに行くのを遮る。
「お前、十才で魔法学院を卒業して、すべての属性魔法を使えるCランクのフロムだよな?」
「……そうだけど何?」
「俺たちはな灰色の牙っていうBランククランなんだが特別にお前をクランに入れてやる!」
「嫌、フロムはソロプレイが好きだから他をあたって」
「……クランマスターグラル様直々の勧誘を断ろうってのか?」
「元々からパーティーやクランに入るつもりはないけどその高圧的な態度が気に入らないから絶対にあなたのクランには入らない!」
その言葉で頭にきたのか、四人でフロムを取り囲む。
「少し痛い目にあってもらうぜ! 自分からクランに入りたいと言うまでな!!」
だが受付嬢達は特に何もしなかったし、ギルド内にいる冒険者達も助けようとはしなかった。フロムの実力を知っているから。
唯一助けようとしたのは、冒険者ギルドの扉わ開けた男女の二人組。
でもその前に無詠唱で攻撃しようとしてきた四人の冒険者達を氷づけにする。
その光景を見た二人組は、フロムに近づいてきてこうなった経緯を聞いてくる。
勇者の様な格好をした女性と執事の格好をした男性に一通り説明すると、女性の方からやり過ぎと言われた為、氷づけを解除する。すると、慌ててギルドから逃げる四人の冒険者。
もう二人組に用はないし、クエストを受ける為にギルドボードを見ると、変わった依頼があった。
『冷たい飲み物を提供したい為、冷却魔法が使える魔法使い一人募集。日当八千ゼニー』と、書いてあった。
飲み物を冷やすだけで八千ゼニーはありがたい。
フロムは基本楽にお金を稼ぎたいからこれはありがたいと、受付嬢にこの依頼を引き受けようとするとさっきの二人組から目をつけた依頼についての会話が聞こえてくる。
たぶん依頼主だろう。声をかける。
受付嬢のミーネの後押しもあって、依頼を引き受ける事が出来た。
この二人組は助太刀しようとしてくれていたし、優しい対応をしてくれている。
それに彼女達の会話が面白そうだった為、彼女達と一緒に行動する事にし、宿屋も一緒にした。
サラとカイトと食事を食べていると昼間のゴロツキ冒険者が人数を三倍にしてやって来た。
これを招いたのはフロムだから席を立とうとするけど、カイトがフロムを手で制し、ゴロツキ冒険者達と共に外に出て戦い、いや一方的な蹂躙が行われた。
涼しげな表情で相手を倒しまくるカイトはカッコ良かった。
ゴロツキ冒険者達は警備隊に連行されていった。
夕食を食べ、お湯で体をを拭き、寝ることになり、サラとじゃんけんをしてベッドの真ん中を占領し、見事カイトの横で寝られてなおかつサラはカイトの横で寝られないベストポジションを月間した。
カイトの背中をみていると安心する。
気付けば朝でサラに起こされ、一階の食堂で朝食を食べながら今日する事の確認をする。
まず王都ノワール近くの草原で、昨日買っていた九缶のミルクタンクへスライムを入れその中でスライムの核を壊すと色に応じたドリンクになるらしく、それをサラとフロムで行い、カイトは串焼きの為のお肉の調達がてらゼブララビットやコケッコーの素材集めをするらしい。
スライムドリンクの確保はなかなか大変だったけど、サラと二人で九缶のミルクタンクをなんとか満杯にした。
カイトのナイフの扱いは素晴らしく、投げてはモンスターの急所に百発百中。解体も無駄な動きがなく、ゼブララビットとコケッコー合わせて六十羽があっという間に捌かれた。
いらない内臓などを地面を掘ってそこに捨て土をかぶせていると、サラがヤバいモンスターに気づく。
サーベルタイガーだ! もうこの距離では逃げる事は出来ない。
遠くからでもわかるあまりの迫力にサラは腰を抜かし、フロムも体が震えて戦える状態じゃない。
命を諦めかけたけど、カイトが前に出てサーベルタイガーと交戦し、数秒でサーベルタイガーが倒れた。
呆然とするフロム達をよそにサーベルタイガーを解体し始めるカイト。
カイトは命の恩人だ。それも二回も救われた。
一回目は昨日の夕食の時、二回目は今。
今までソロが良かったけど、今はカイトやサラと共にパーティーを組んでみたい。今日の露天での仕事が終わってから夕食の時にでもパーティーに入れてもらえるか聞いてみよう。
◆◆◆
現在朝の九時半。
露天街の一番端を約束通り商業ギルドのギルドマスターのゼラウスさんは屋台付きで用意してくれていた。
海人には屋台の動作確認、調整と三種類の肉の下ごしらえをしてもらい、私とフロムちゃんは二人で他露天へ挨拶回りをしている。
愛想よく返事を返してくれる商人も入れば、無視する感じの悪い商人もいた。
一通り挨拶を済ませ、自分達の屋台に戻ると、ゼラウスさんが来ていた。
「おはようございますゼラウスさん」
「おう、おはようサラちゃん、それと?」
「フロムはフロム。おはようゼラウスさん」
「ああ君がドリンクの冷却担当のフロムちゃんなんだね?よろしく」
「うん、よろしく」
「準備も整いましたし、屋台をオープンしましょう」
スライムドリンクは調味料を除いて十二種類。
高品質な水、オレンジジュース、アップルジュース、ピーチジュース、ブドウジュース、緑茶、紅茶、コーヒー、コーラ、サイダー、ミルク、レモネード。
柄杓の一すくいでコップ一杯分百ゼニー。
大量の木のコップは海人がいつの間にか作っていた。
調味料は、醤油と砂糖(実際は砂糖水)と塩(実際は塩水)。
この調味料で醤油に砂糖を入れたタレ味の焼き串とシンプルに塩味の焼き串を販売する。
ゼブララビットとコケッコーの焼き串はタレも塩味もどちらも一本二百ゼニーで、サーベルタイガーの焼き串は素材がレアな為一本五百ゼニーで販売する事にした。
海人が肉を焼いている間、ゼラウスさんは焼けるのを待っていた。
「なに私が最初の客になろうと思ってな」
私と話している間に六種類の焼き串は完成しており、ドリンクはオススメと言われたのでコーラにする事にした。
「全部で千九百ゼニーになります」
ゼラウスさんは代金を払い、商品を受け取るとその場で焼き串を食べ、コーラを飲む。
ゼラウスさんが一口ゼブララビットの焼き串を食べると、コーラを飲みながら夢中になってすぐにペロリと食べた。
ゼラウスさんは私達の店を絶賛し去っていった。
ゼラウスがいなくなると、客が集まり長蛇の列ができてしまった。
ゼラウスさんが大きい声で焼き串三種類の違いの旨さと、スライムドリンクのコーラをグビグビと飲み終わり「アルコールのビールではないが、炭酸が効いているキンキンに冷えたコーラの美味しさと串焼き肉は抜群に合う」と、商業ギルドのギルドマスターが太鼓判を押したのだ。
長蛇の列がどんどん長くなっていく。
スライムドリンクは百ゼニーで手頃な価格なので、コーラやサイダーを筆頭にしバランス良く売れている。
焼き串はサーベルタイガーの五百ゼニーはやはり買いづらいのか、ゼブララビットやコケッコーの焼き串程売れていない。
だけど、他の商人やルーキー以上の冒険者はサーベルタイガーの味を知りたいらしく、塩味とタレ味を両方買って食べてくれる。
結果は初日だからだろうが、場所代3割払っても大黒字である。
店を閉めた後、フロムから正式にパーティーに加入させて欲しいと言われたので、宿屋の食堂で酒は飲めないけど屋台の成功とフロムのパーティー加入を祝して豪華な食事を食べた。
読んで頂きありがとうございました。