第三話 商売の準備
海人がそういうとオレンジ色スライムを掴み、先程のミルクタンクとは違うミルクタンクの中に入れ液状化した。
さぁ、お嬢様試飲してみてください」
オレンジ色の液体を飲むのには抵抗があったけど、勇気を出してコップにオレンジ色の液体を入れ、数十秒思案しオレンジ色の液体を飲む。
「オレンジジュースじゃん!? なんで!?」
「理論は分かりかねますが、昨日お嬢様がスライムを倒した地面から甘い匂いがしましたので、地面を舐めて確認した所、色の違うスライムによって味が違いました。なので今日は六つのミルクタンクがいっぱいになるまで六種類のスライムを倒して頂きます」
「六種類って何色のスライムを倒せばいいの?」
「高品質の水を生み出す水色のスライム、オレンジジュースを生み出すオレンジスライム、ブドウジュースを生み出す紫色のスライム、ピーチジュースを生み出すピンク色のスライム、リンゴジュースを生み出す赤色のスライム、そして黒色のスライムの六種類を先程のやり方で退治してもらいます」
「他の五種類は納得したけどなんで黒色のスライムだけ味を教えてくれないの?」
「倒して舐めてみればわかりますよ。今一番お嬢様が欲している味ですよ」
そう言われればすごく気になる。周辺から黒色のスライムを発見し、捕まえて空いているミルクタンクの中に入れてスライムの核を砕く。するとミルクタンクの中に真っ黒い液体が溜まっていた。
匂いでその液体が何味なのか分かったけど、舐めてみる。
…………醤油だ!! 確かに塩味しかしないこの世界の料理に飽きていた私にとってとても嬉しいものだ!
笑顔で醤油を舐めていると、「私は薬草採取やゼブララビットや鳥系モンスターを狩るのでミルクタンクを満杯にするのはお嬢様にお任せしますね」と海人は薬草採取や鳥系モンスターやゼブララビットの狩りを始めた。
いやいや、六つのミルクタンクをいっぱいにするのって一匹のスライムからとれる量から考えて大変じゃね?
海人は早速ゼブララビット三羽を倒し、解体を始めていた。
文句の一つも言ってやりたかったが海人は自分のやるべき事はやってるし、しょうがないからスライム狩りを始めますか!
ミルクタンクをいっぱいに満たすまでまさか夕方になるとは思わなかった。しかも昨日よりもスライムを倍以上倒したのにレベルは一つ上がってレベル三。
それに比べて海人は十羽のゼブララビットと鶏みたいなコケッコーという鳥型モンスターを十羽解体しており、さらに昨日に引き続き薬草を十束昨日と同じやり方で採取している。
ゼブララビット、コケッコー、薬草の入ったリュックをからい、満杯になったミルクタンク六つを乗せた荷車を引っ張りながら余裕の笑顔で「さぁ、帰りましょうか」と海人は言う。
その細い体からは考えられないほどの怪力である。
まぁ、そこを突っ込んでも「執事ですから」と言うのは決まっているのでそこは無視して王都の冒険者ギルドに戻る事にする。
冒険者ギルドに戻り、海人はゼブララビットの皮やコケッコーの羽根などの素材と薬草は売ったけど、今回は肉は売らなかった。
肉を売らなかったのには理由があり、その理由に必要な値段によって貯蔵量が違う収納袋、屋台、そして氷魔法を得意とする魔法使いに手伝ってもらう必要があるようだ。
早速海人は冒険者ギルドに氷魔法を得意とする魔法使いを雇うクエストを発注してもらい、受付嬢のミーネから商売を始めるのなら商業ギルドに認可を貰わなければと教えてもらい、私達は商業ギルドに向かい、着いたはいいが、商業ギルドの受付嬢テレッサは売るものを見て、受付の自分では判断が出来ないと言い、二階へと向かっていく。
二、三分程一階の受付カウンターで待っていると、六十才ぐらいの優しそうなおじいさんが先程の受付嬢のテレッサと共に一階に降りてきた。
「ようこそ商業ギルドへ。商業ギルドマスターのゼラウスじゃ。なんでも奇妙な物を売りたいらしいが拝見させてもらってもよろしいかな?」
へぇ、この優しそうなおじいさんが商業ギルドのマスターなんだ。気難しい人じゃなくて良かった。
ミルクタンクに入っているスライムの体液を確認してもらう為、商業ギルドの入り口近くに置いてある荷車の所まで来てもらい、早速中身を確認してもらう。
、
「目で見ても価値があるかわからんから飲んでみてもいいかのう」
「もちろん構いませんよ」
海人は帰りに昨日と同じ金物屋でミルクタンクからスライムドリンクをすくう為の柄杓二つと、木で出来たコップをとりあえず百個買っていた。
その買った柄杓で高品質の水からコップに注ぎゼラウスさんに渡す。
少し躊躇ったもののチビチビと飲み始めたかと思ったら急に一気飲みした。
「う、旨い! この高品質な水がスライムの体液だと!? とても信じられん!」
ゼラウスさんは次のスライムドリンクが気になるらしく、次はオレンジジュースを注ぐ。
「こ、これも旨い!! 柑橘類の味に似ておるが、それよりも適度な酸味と甘さが良いバランスをとっている。儂が今まで飲んだ柑橘類の飲み物よりも数段こちらの方がクオリティーが高い」
興奮しながらも次のスライムドリンクを所望し、黒い体液の入ったミルクタンク以外のスライムドリンクをえらく褒めてくれた。
「最後のミルクタンクは試飲出来ないのか?」
ゼラウスさんはすっかりスライムドリンクの虜になっており、どうしても最後のミルクタンクの中身が飲みたいみたい。
「これは飲み物ではなく、調味料なんです」
それでも中身が気になるらしく、懇願された為、コップに少しだけ垂らす。
ゼラウスさんはそれを目をキラキラさせながら飲む。
「…………旨い。塩辛いだけでなく甘味とコクもある。これで料理を作ればとてつもなく料理の幅が広がるぞ!」
「それでどうでしょうか? 露店で売りたいのですが許可はもらえますか?」
「このクオリティーならぜひ露店で売って欲しい。場所代だが君たち屋台を持っていないだろう? 通常なら場所代は売り上げの二割を商業ギルドに納める決まりがあるんだが、屋台を貸す代わりに売り上げの三割を商業ギルドに納めてもらうのは如何かな?」
「そうですねー、露店街の一番端にしてくださるならその条件でのみますよ」
「……お主商売というものをわかっておるなぁ。最初に目がつく端の露店は得に目に止まりやすい。よし、お主らの屋台は一番端にしよう。これで契約成立でよいかな?」
出てきた時は好好爺な人柄だったのに、商売になるとゼラウスさんは人が変わったように契約を進めておく。
そんなゼラウスさんに一歩も引かない海人も凄い。
「それとこのスライムドリンクは私達が考えたので、他に真似する人には著作権料金として私達に二割寄越すようにできますか?」
「ああ、真似する奴にはきっちり二割お主らに渡すように商人達に言い聞かせる」
「あとアイテム袋と飲み物を冷やすアイテムが欲しいのですが、そちらで用意できますか?」
「アイテム袋と言ってもピンからキリまでじゃぞ。予算はどのくらいじゃ?」
「アイテム袋に出せる予算は十万ゼニーです」
「それならそのミルクタンクが三十個が入る位のアイテム袋になるが大丈夫かのう?」
「それで十分です、ありがとうございます」
早速受け取ったアイテム袋に荷車ごとミルクタンク六つを入れ、ゼブララビットの肉とコケッコーの肉も入れてしまう海人。
「ち、ちよっと肉やスライムドリンクはそこの中に入れて良いの腐ったりしないの?」
「大丈夫ですよお嬢様。このアイテム袋の中は時空魔法によって時間が止まっているので食品に限らず、道具などの劣化も入れてる限りしないんですよ」
「私と一緒にこの世界に来た海人がなんでそんなに詳しく知っているのよ!?」
「執事ですから」
またこの言葉で有耶無耶にしてしまった。
でも海人なら何を知っていてもおかしくないと思ってしまう。
元いた世界では生まれた時から海人に世話をしてもらっている為、海人が異世界の知識を知っていてもおかしくないと思っている自分もいる。
なんせ祖父の物心ついた頃から既に執事として働いており、それなのに容姿はその頃から変わらないイケメン執事。
驚きはするけど知っていていても納得してしまう。
それが私専属の執事海人である。
なので海人のおかしさは横に置いておいて、ゼラウスさんの話を聞く。
「じゃが飲み物を冷やすアイテムは非常に高くてな。それよりも氷魔法を使える魔法使いに冷却魔法をかけてもらった方が安く済むぞ」
「そうですか、それならばすでに氷魔法の魔法使いの募集クエストを冒険者ギルドにかけてもらっている所なので一度冒険者ギルドに行ってみます」
冒険者ギルドに戻り、ドアをを開けると一人の少女が複数の冒険者達に囲まれている。
助太刀をしようとしたが、彼女は一人でも余裕の顔ですべての相手を凍らせた。
あまりの容赦なさに冒険者ギルド内がシーンと静かになる。
話しかけたくなかったけど私達が一番近くに居たので話しかける。
「どうして彼らを凍らせたのよ。ギルド内での戦闘は禁止でしょ?」
私が氷魔法を使った少女に声をかける。
「パーティーへの勧誘があまりに強引だった為つい凍らせてしまった。反省はしていない。」
ついと言う割にはやりすぎだろう。
幸いこの状態でも氷づけにされた人達は生きているらしく、彼女が魔法を解除したため、元に戻った冒険者達はその場から慌てて去っていく。
凍らせた彼女は何事もなかったかの様に依頼が貼ってあるギルドボードへと向かう。
私達も出しておいた依頼に応じてくれる冒険者は見つかったのか受付嬢のミーネに確認しにいく。
「ごきげんよう、ミーネ。私達の依頼を引き受けてくれる氷魔法の使い手は見つかった?」
「いらっしゃいませサラ様に海人様。それが飲み物を冷たくするための魔法使い募集というのが戦いを好む冒険者達には興味がないらしく、まだ依頼に応じてくれる方は見つかっていません」
「そっかー。なら一日八千ゼニーの報酬をもっと上げなきゃいけないのかなぁ?」
思案していると後ろから声がかかる。
「あなた達が飲み物を冷たくするための魔法使いを募集している人達?」
振り返ると先程冒険者達を氷づけにしていた紺色のショートヘアの少女が立っていた。
「ええ、そうですが?」
「ならその依頼フロムが引き受ける」
海人の肯定にフロムという私よりも年齢が若そうな少女が引き受けると言っている。
「フロムちゃんでいいのかしら。まずは自己紹介をしない? 私はFランク冒険者で勇者のサラ十四才よ。そして隣に居るのが私の執事海人、冒険者ランクFで年齢は謎よ」
「フロムはフロム。Cランク冒険者で魔法使い。年齢は十三才」
さっきの冒険者氷づけを見ているせいか、フロムちゃんに依頼するのをつい躊躇ってしまう。
そんな中受付嬢のミーネから後押し入る。
「フロムさんが受けてくれるなら安心ですよ。なんせ王立魔法学院をわずか十才で卒業して、三年間でFランクからCランク冒険者になった天才児です。普段あまり依頼をお受けしてくれないのですが、依頼達成率は百パーセントなので安心ですよ。それにさっきの氷づけは明らかにあの四人の冒険者の方が悪かったんです。しつこくまとわりついて無理矢理フロムさんをパーティーに入れようとしていましたから」
そういうことならフロムちゃんに引き受けてもらおうかと海人を見ると海人も肯定の意味で頷く。
「じゃあフロムちゃんよろしくね」
「うん、よろしく」
私とフロムちゃんは握手する。
「依頼に応じてくれるフロム様も来た事ですし、金物屋に行ってミルクタンクを九つ買いに行った後、明日の早朝に九つのミルクタンクを満杯にする為にスライムを狩るのと、コケッコーやゼブララビットの串焼きを作る為に肉も大量にゲットしましょう」
うぅ~、また地獄のスライム狩りかぁ。
「それってフロムも参加していい?」
「もちろんですとも。なら宿は別の所でしょうから早朝に冒険者ギルド前で待ち合わせしましょうか?」
「出来れば宿もサラやカイトと同じ所に泊まりたい。……ダメ?」
こんな可愛い娘に目をウルウルされたら断れない。
金物屋で九つミルクタンクを買いアイテム袋にしまった後、癒しの羽根の女将に他の部屋は空いてるか聞くと案の定空いてなかった為、三人でダブルの部屋を使う事をお願いしたら快く了承してくれた。
夕食を癒しの羽根の食堂で三人で食べていると、昼間フロムちゃんに氷づけにされた四人の冒険者を筆頭にガラの悪い八名合わせて十二名が私達のテーブルに近付いてくる。
「おい、フロム。昼間はよくも氷づけにしてくれたな。このBランククラン灰色の牙の五人目にしてやろうとしたのに!!」
灰色の牙のリーダーであろう二メートルはあろう巨体でフロムちゃんに手を伸ばそうとする。
だけどフロムちゃんの隣に座っていた海人が大男の手を払う。
「食事中にしかもレディに対して失礼ではありませんか?」
「なんだぁテメェ、お前には関係ないだろうがっ!」
「関係ありますよ、彼女は仕事仲間で何よりこの宿で暴れられたら宿泊客や食事中の客、ここの従業員の方達に迷惑がかかります。なので暴れたいのであれば外に出て下さい。私がお相手させて頂きますので」
「テメェカッコつけやがって! すぐに泣かしてやるからな!」
そう言いながらリーダーを筆頭にして外に出ていったわ。
「……カイト大丈夫?」
「ご心配なさらずにすぐに終わらせますので」
そう言って海人は出ていった奴らを追いかけて外に出ていった。
心配なのでフロムちゃんと一緒に海人を追いかけて外に出る。
早速戦いを始めたようで前後左右から攻撃をされる海人だが、スウェイだけで足はその場から動かずに避けながら相手の鳩尾に掌打を放ちいきなり四人が地面へと沈む。
相手に三人魔法使いがいたらしく、魔法攻撃の援護を受けながら相手の近接型の冒険者四人が向かってくるが、魔法使いに見えない速度でナイフを三本投げた後、魔法使い達のお腹に刺さったみたいで、援護がなくなった近接型の四人は簡単にいなされて、鳩尾に掌打を打たれ戦闘不能になり、最後に残ったのは灰色の牙のリーダーみたいだが、先程から体を震わせる。
「う、嘘だろ? こっちはCランク以上を集めたのに俺以外瞬殺だと!?」
「安心してください、皆死なないように手加減しましたので。それよりも大きいのは体だけで心の方は小さいみたいですね。先程から震えていますよリーダーさん」
そう言われたリーダーらしき巨漢は顔を赤くして彼の愛用であろうバトルアックスを構え突撃する。
「俺は灰色の牙のリーダーで冒険者Bランクのグラル様だぞ! こんな執事みたいな格好したふざけた奴なんかに負けるわけがねぇ! 渾身の一撃をおみまいしてやるよ。くらえ、チャージインパクト!!」
斧に凄まじい魔力が集まり、その斧が海人に向かって振り下ろされようとしたが、その斧を親指と人差し指で挟んで凄まじい斧の攻撃を海人は無効化してしまった。
「お、お前なんなんだよっ!? ふざけんなこの化け物やろう!
本当にお前なんなんだよっ!?」
「ただの執事ですが?」
「ふ、ふざけんなよ! ただの執事はこんなに強くねぇ!」
相手のグラルはあまりの力の差を感じて受け止められた斧から手を放し、逃亡を図るが、逃げる背中に海人の掌打を受けあまりの痛さに意識を失う。
冒険者ギルドがいつの間にか王都の警備隊を呼んでいてくれたみたいで、海人やフロムちゃん、私は軽い質問をされただけで正直に答えてすぐに解放された。
灰色の牙は、元々黒に近い灰色レベルの手口で警備隊も困っていたらしいのだけれど、今日の戦いのおかげで逮捕できたとお礼を言われた。その宿に泊まっている人や食堂の従業員や女将、食堂で食事をしていた人達が私達の方には非はなく、むしろ被害者だと主張してくれたおかげもあって警備隊のご厄介にならずに済んだ。
それにしても海人カッコ良かった。さすが私の専属執事なだけある。
しかし、少し気がかりがあってあの戦いを見た後からフロムちゃんが海人を恋した目で見ているのだ。
冷めた夕食を食べ、タライのお湯で体を拭いた後、ベッドが大きい事もあり、三人で寝ることになったのだけれど、ジャンケンに負けてフロムちゃんが真ん中に寝る事になり、私はフロムちゃんという壁があることで海人がよく見えない。
そのおかげなのかゆっくり熟睡できて早朝五時に起きれた。
ベッドの横を見ると海人はすでに起きており部屋にはいない。
フロムちゃんはまだ寝ていたので起こす。
「朝だよ起きて、フロムちゃん。今日は新たなスライムドリンクと肉の調達をするんでしょ?」
「おはようサラ」
ほらさっさと着替えて顔を洗ってきて。一階で海人が待っているはずだから」
「んっ、了解」
着替えて顔を洗ったフロムちゃんと一緒に一階に降りるとやっぱり食堂に海人はいた。
「おはようございます、サラ様、フロム様。もう少ししたら起こしに行くつもりだったのですが、自分達で起きれてなによりです。さぁ、朝食を食べて、スライムとゼブララビット、コケッコーを倒しに行って、商売を始めますよ」
またスライム地獄が待っているのかぁ。
でもフロムちゃんもいるし、早く狩りが終わればいいなぁと、味気ない食事を食べながら私は考えていた。
読んで頂きありがとうございました。