第二話 スライムの可能性。
魔王を倒す前にまずは旅の資金とレベルを上げなくちゃならない。
私達はレベル上げとギルドからのクエストを達成するべく、王都近くの草原に来ている。
クエストは三つ受けた。薬草三十束とゼブララビットの
毛皮十枚、それから毒消し草二十束の採集。
報酬は五千ゼニーと高いのか安いのかわからなかったけど、冒険者ランク最低のFランクではこのクエストしか受けられなかった、
薬草と毒消し草の絵をギルドから借り、この二つは、なんとかなりそうなんだけど、海人はわざわざ薬草と毒消し草を根ごと採集し、王様にもらった資金で買った布に水を含ませ、その布で薬草と毒消し草の根を包んでいる。
なんでもこの方が鮮度を保てるとか。
私は、適当に抜いて渡せばいいと思うんだけど、海人がそうするのだからそれが正しいのだろう。
それよりもゼブララビットだ。逃げ足が早く中々倒せない。
その点、海人は異世界に来る前から、執事服の中に忍ばせていたナイフをゼブララビットの首を狙って投げ、百発百中。
既にゼブララビット十匹を倒しており、その場で血抜きと毛皮を剥ぎ、いらない内臓は土の中に埋め、肉は草原に生えている大きな葉でくるみ、布と一緒に買ったリュックサックの中に入れ、毛皮は、防虫対策の為にと火を縄文時代みたいなやり方で起こし、煙で燻している。
なのでもう何もやることは無いのだけれど、せめて勇者の身としては、一匹ぐらいゼブララビットを倒したいのだ。
だけどさっきから現れるのはスライムばかり!
ポヨンポヨンうるさいんだよ、何の役にもたたない最弱のモンスター!!
ギルド嬢が言うにはスライムは無害で攻撃してきたとしても、痛くも痒くもないらしい。倒すにはゼリー状の体の中心部の核を砕けば倒せるらしいんだけど、そうすると体が液状になって地面には、濡れた跡しか残らず、素材にもならないんだとか。
あまりにポヨンポヨンうるさいので、そこら中のスライムの核を王様からもらった勇者の剣で滅多刺し。
海人が毛皮を燻す最中に、様々な色のスライムを三十匹は倒しただろうか。
おかげでレベル2に上がったけど、腑に落ちない。
海人は先程から私がスライムを倒すのを見て、それからスライムがいた跡の濡れた地面を舐める。
「何やっているのよ海人! 汚いわよ!」
そんな主の言葉を無視して、次から次からと別のスライムの跡の地面を舐めていく。
私は引きながらその光景を見つめていると、海人は舐めるのを止めこちらを向く。
「お嬢様これは売れるかもしれませんよ!」
はっきり言って何を言ってるのかさっぱりだけど、海人が言うのなら何かあるのだろう。
暗くなってきたので今日の所は帰る事にして、ギルドに戻り、クエストの採集物をギルドの買い取りカウンターに広げる。
それを見て受付嬢ミーネは驚いている。何かいけない事でもしたのだろうか?
「この薬草や毒消し草の採集とゼブララビットの解体をしたのは?」
「私ですが何か至らない点でもありましたでしょうか?」
海人の言葉に首を横に振り、海人を尊敬した目で見つめるミーネ。
「いいえ、その逆です! こんな完璧な処理ができるなんて本当に異世界から来たばかりですか!?」
「えっ、そんなに驚く事?」
「もちろんですよ。だいたいの冒険者の人達は薬草や毒消し草などを根ごとは持ってきたくれませんし、何より濡れた布を根に巻いてるおかげで鮮度も保たれてます。そしてゼブララビットの解体の綺麗さ実にお見事です。毛皮も火の煙で燻してくれたおかげでこちらの手間が省けました。肉の方も綺麗に血抜きされているお陰で鮮度もバッチリだし、クエストにはしていませんでしたが、この肉も売ってくれますか? もちろん、これだけの完璧な処理ですから報酬の方も通常より多めにさせて二万五千ゼニーで買わせて頂きます! どうでしょうか?」
「それで構いませんよねお嬢様」
「通常の五倍程の値段だけど大丈夫なの?」
「ええ、普通の冒険者は血抜きもしないゼブララビットや毛皮が傷だらけだったりします。その点海人さんの処理は完璧で、こちらの手間が省けました。なのでその分の上乗せです。遠慮せずに受け取って下さい」
「そこまで言われたら受け取らないわけにはいかないわ」
報酬の二万五千ゼニーを受けとり、礼を言ってギルドをあとにする。
この報酬で何か上手い物でも食べるかと悩んでいると海人が行きたい店があると言うので仕方なくついていくとそこは金物屋だった。
「ここで何を買うつもりなの?」
「それは中を見てからですね」
「いらっしゃい、何をお探しですか?」
見るからに職人なご主人が声をかけてくる。
「そうですねぇ、牛乳をたくさん入れるようなミルクタンクはありますか?」
「あるよ、いくつ必要なんだい?」
「六つ程頂きたいのですが」
「六つなら一万二千ゼニーだな」
「一万二千ゼニーですね、どうぞ」
「ああ、確かに受け取った。だが、六つのミルクタンクとなるとかなりの大きさだぞ。うちには大荷物を運ぶ為の荷車もあるが買っていくかい?」
「そちらはいくらですか?」
「余ってるミルクタンクを六つも買ってもらったし、こっちは三千ゼニーでいいよ」
「三千ゼニーですね、どうぞ」
「確かに、毎度あり!」
ミルクタンクと荷車? 何の為に買ったのかわからない。
だが今はそれよりもお腹空いた。
「ねぇ、私お腹空いたわ。宿屋も見つけてないし、どうするのよ」
「宿屋ならミーネさんに安くて良い宿屋を紹介して頂きました。一階が食堂になっているらしいので、宿屋で食事も済ませましょう」
早速ミーネさんのお勧めの宿屋――癒しの羽根へと向かう。
「すみませんが、シングルの部屋二部屋空いていますか?」
海人は癒しの羽根の女将に部屋が空いてるか確認する。
「ごめんなさいねぇ、今空いてる部屋はダブルの一部屋しか空いてないの」
何ですとぉぉおっ!?
ということは海人と一緒のベッドで寝るってこと!?
女将ナイス過ぎる!
「お嬢様、どうなさいますか?別の宿屋を探しますか?」
せっかくのイベントを無くされてなるものか!
「もう外は暗くなってるし、お腹も減っているし、しょうがないけどここにしましょ」
このしょうがなさを出すのがポイント。これで海人に内心喜んでいるなんて伝わらないだろう。
「お嬢様がそう言うのであらば、ダブルの部屋をお願い出来ますか?」
「わかったよ、ダブルの一部屋で一泊二千ゼニーになるよ。食事の方は別料金の一食一人につき五百ゼニーになるけどどうする?」
「こちらの料理は美味しいとギルド嬢のミーネさんから聞いたので、部屋に荷物を置いた後、食堂の方に降りて来ます。何かお勧めを」
「じゃあ、野菜のトマト煮と、じゃがいもと卵を焼いたものと、鳥肉の香草焼きにパンの定食を用意させてもらうよ」
私達は部屋に荷物を置いた後食堂の席に座り、用意された料理を食べる。
しかし、調味料が塩だけの為か何か物足りない。
「この国の文化水準を見てあまり期待してなかったけど、うーん元の世界の料理がいかに恵まれていたか分かるわね。海人の料理と比べるとどうしても味気なく感じてしまうわ」
「台所をお借り出来れば私がお作りするのですが、自分の仕事場を他人に貸すのはあまり良くない印象を与えますのでしばらくはこの宿屋の料理で我慢致しましょう」
他の客や宿屋の人間に聴こえないように話ながら食事を終え、風呂はないので二人分の六百ゼニーでお湯の入ったタライとタオルを借りて部屋に入り、お互いに背を向けながらお湯に浸けたタオルで体を拭いていく。
海人は最初は私が体を拭いている間は部屋の外で待機すると言っていたのだが、私が一緒に体を拭いた方が時間を無駄に済むと言い、今部屋の中お互いに背を向けているとはいえ海人と二人っきりで裸になっているこの状況最高です!
後ろから海人が服を脱いでタオルで体を拭く音が聴こえる。
なんか逆にエロくない?
「絶対こっちを見ないでよね! 絶対、絶対よ!!」
「もちろん分かっておりますが、つい最近まで一緒にお風呂に入っていたではありませんか?」
「つい最近って一緒にお風呂に入っていたのは八歳まででしょ! 私は今十四歳よ。だから絶対に見ちゃダメよ!」
ここまで煽れば普通の男なら見るに決まっている! 自分で言うのもなんだが、黒髪美少女の成長し始めた体は魅力的と言える。さぁ、見るがいい! そして理性を失いオオカミに成るがいい!
後ろを振り返ると熱心に自分をタオルで拭いている海人の後ろ姿があった。
な、なんて美しい細マッチョ!! じゃねぇ! 何でこんな近距離に中学生にしてCカップは胸がある美少女がいるのに微塵も振り返る素振りを見せない!
「お嬢様こちらは拭き終わりましたが、そちらは?」
しまった、海人の裸に見惚れて自分の体を拭くのを忘れていた。
「あと少しで拭き終わるから待ってて」
さすがにする事がなければ見ようとするだろう。
「では私は下の食堂で冒険者や旅人からこの世界の情報を聞き出してきますね」
と言って、海人はこの部屋から出ていった。
嘘でしょ!? 動揺すらせずに海人は出ていった。
くっくっくっ、だが甘い! まだダブルベッドという一つのベッドに一緒寝るというイベントが残っている。
さぁ、かかってこい。
海人が戻ってきて、冒険者や旅人から聞き出した情報を私に伝える。
なんでもこの世界エデンは一つの大きな大陸で出来ている事。
異世界転移して最初に会ったのがこの大陸アースドに住む人間達すべての王様であること。国の名はアルタイル王国。この国以外に人間の国はないらしく、そのアルタイル王国はアースド大陸の最南端に位置しており、魔王の城はアースド大陸の最北端にあるらしい。
その魔王城から悪魔やモンスターが大量に産み出されており、最初は、大陸の半分ずつを陣地にしていたが、今や大陸の三分の二が悪魔やモンスターに支配されてる状況らしいとの事。
事情は分かった。だが今一番大事なのは海人と一晩同じベッドで過ごす事。
「ふぁー、なんだか眠くなってきたわね。明日もモンスターと戦うのだしそろそろ寝ましょうか」
「そうですね、では寝ましょうか」
部屋の灯りを消し、海人は壁に背中を預けてベッドから離れた位置で寝始めた。
「何でベッドに入らないのよっ!?」
「さすがに一緒に寝るのはどうかと一応男女ですし」
「十歳までは時々一緒に寝てくれたじゃない!!」
「それはお嬢様が恐いもの苦手なのにホラー映画を見てしまって一人じゃ寝れないというから寝てたんですよ。でもお嬢様も十四歳になられてさすがに主と執事が一緒に寝るのはどうかと思いますが」
「でもそんな所で寝てしまったら体を痛めてしまうわ。いいからベッドで寝なさい。主の命令よ!」
「かしこまりました。それでは一緒に寝させて頂きますね」
海人がベッドに入ってきたぁ!! やっふー!!
これであとは海人が襲ってくるのを待つだけ。
…………三十分経っても何も起きない。横の海人を見ると爆睡中。
なんでじゃぁぁあっ!? こんな美少女を前にして何故手を出さない? こっちはいつでもウェルカムなのに。
もう襲ってくるのは諦めてこっちから襲うか?
いや私は竜宮家の娘。襲うのはプライドが許さない。
いいさ、やってやろうじゃないか! 我慢比べってやつをな!
…………結果、海人はぐっすりと気持ち良さそうに寝ていたが、私は今か今かと待ち続けて徹夜してしまった。
「おはようございます、お嬢様。体調が悪そうですが大丈夫ですか?」
「ベッドがいつもと違って寝れなかっただけだから大丈夫よ。それよりも朝食を食べてからまたモンスターの討伐をするんでしょ。さっさと食堂に行くわよ」
「かしこまりました、ですが無理をなさらないように気を付けて参りましょう」
心配してくれる海人にお前に襲われるのを待ってて寝れなかったなどとは言えない。
本調子ではないがさっさと朝食を食べに食堂へと行き、朝食分の代金を支払って、固いパンと野菜くずの入ったスープとスクランブルエッグを黙々と食べ終わり、海人の料理を食べたいと思いながら昨日と同じモンスターが居た場所へと向かうつもりだけど、海人は昨日買った六つのミルクタンクを荷車に乗せて、ガラガラと荷車を引きながら黙々とも歩く。
「ねぇ、何故ミルクタンクと荷車を買ったのか教えてくれてもいいんじゃない?」
「それは見てからのお楽しみしてください。そろそろ昨日と同じ場所に着きます」
海人が言うように昨日と同じ場所に着いた。
すると生い茂る草葉からスライムかわ数引き現れる。
「さぁ、始めましょう。スライムの価値観が変わる仕事を!」
すると海人は近くにいる青色スライムを掴み、一つのミルクタンクの中に入れその中でスライムのコアを破壊する。
そのミルクタンクを覗きこむと透明な液体が入っていた。
「お嬢様舐めてみてください。きっと驚きますよ」
正直スライムの残した体液など舐めたくはないが、海人を信じて舐めてみる。
…………これは水か? それも高水準の。
水不足状態の世界エデンでは綺麗な水はすごい価値がある。
だが、このスライム達を捕まえて先程のやり方で水を増やせれば国は潤い、私達は大金を手にする事が出来る。
「すごいぞ、海人。これなら大金持ちになれるわ!」
「いいえ、スライムの価値はまだまだ奥が深いですよ。それを今からお見せ致します」
読んで頂きありがとうございました。