レベルを上げよう!〜龍神の水郷〜⑤
〜龍神の水郷 稽古83日目〜
龍神の水郷で稽古を開始してから二ヶ月以上。
滞在も残り僅か一週間となった。アジ・ダハーカ達とは親密で友好な関係を築けている。
特にアジ・ダハーカは最近だと食事の時も隣に座ってひっついてきたり…一緒に寝たがったり…龍峰を支配する威厳高き煌星龍とは思えない甘えん坊っぷりだった。…まぁ、懐かれるのは嬉しいけど。
〜午後15時 ドラグマの神樹〜
ドラグマの神樹がある浮島で稽古の真っ最中。
ーーおぉ。
ーーまぁ…!
結界の外で見守るオルガとオルドが感嘆の声を挙げる。
「ーーーはぁ…はぁ…はぁっ…や、やったぁ!」
「…ふふ、成長したな」
抜刀した妖刀・金剛鞘の大太刀が龍斧ティアーマを剣戟の末、弾き飛ばしたのだ。
深々と地面に突き刺さる斧。
…百回を軽く越す稽古の日々。何度、地面に伏せぼろぼろになったのか数え切れない。
初めて俺はアジ・ダハーカに一撃を与えた。
たった一撃と思うかも知れない。
…しかし、この一撃は血の滲む自発的な稽古と練習の成果が身を結び俺が強くなった事を示す証なのだ。
そして…。
ーーーLv19→Lv20へLevel upーーー
・新たな職業『禍災の契約者』にジョブチェンジしました。
・戦闘数値・非戦闘数値が上昇しました。
・戦闘技『真月之太刀→羅刹刃・朔月』に変わりました。
・戦闘技『萬月之太刀→羅刹刃・莫月』に変わりました。
・戦闘技『一刀・煌→淵断・轟』に変わりました。
・戦闘技『月花毘刀→・百折剣』に変わりました。
・戦闘技『ギミックブレイク』が消失しました。
・戦闘技『簒奪技』を習得しました。
・戦闘技『極煌斬・断崖』を習得しました。
・呪術『蛇憑き面→禍面・蛇憑卸』に変わりました。
・奇跡『逆誄歌』を習得しました。
・従魔との親密度が上がりました。一定値に到達した為、月が没する夜に契約者側から対話する事が可能になりました。
・固有スキル『鍛治師の心』を習得しました。
・固有スキル『顕魔』のスキル効果が変わりました。
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名前:黒永悠
性別:男
種族:人間
称号:穢れを尊ぶ者 ←
職業:禍災の契約者 Lv1 ←
戦闘パラメータ
HP150000 MP18000
筋力9500 魔力2600 狂気12000
体力3950 敏捷8400 信仰-6000
技術8000 精神2600 神秘6000
非戦闘パラメーター
錬金:160 鍛冶:200
生産:140 飼育:125
耐性:狂気の極み 神秘耐性(Lv Max)
不老耐性 不死耐性(Lv5)聖奪の極み
戦闘技:獣狩りの技法・簒奪技 ←
奇跡:死者の贈り物・蛇縄絡・逆誄歌 ←
呪術:禁呪・神樂蛇・禁呪・淵嚼蛇 禁法・縛烬葬
禍面・蛇憑蛇←
加護:アザーの加護 夜刀神の加護
従魔:祟り神のミコト(親密度80%)←
固有スキル
鋼の探求心 鍛治師の心 閉心 兇劍 顕魔 魔人 ←
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職業
禍災の契約者
①祟り神と契約した者の職業。
②派生先→???(必要Lv45)
称号
穢れを尊ぶ者
①深淵を敬愛する者の称号。
戦闘技
①獣狩りの技法
深淵の獣を斬り殺した封印された女神の技。
・羅刹刃・朔月…哀れな獣を容赦なく斬り祓う絶技。
・羅刹刃・莫月…数多の悶える獣を斬り伏せる絶技。
・淵断・轟…安堵する獣に無慈悲な斬撃を見舞う絶技。
・百折剣…襲う獣の心をへし折る連続剣技。
②簒奪技
強者との死闘を通じ相手の技を盗み覚える戦闘技。
・極煌斬・断崖…HPとMPを消費し魔力を込め無慈悲なる一撃を放つ煌黒龍の絶技。
奇跡
①逆誄歌
・自分の命を削って他の生物に命を与える禁断の蘇生術。
呪術
①禍面・蛇憑卸
・契約した祟り神の力。HP・MP・血・痛覚を代償に12秒間だけ戦闘数値及び能力の効果が大幅に上昇。超過して使用した場合、殺戮衝動に支配され暴走する。
従魔
『祟り神のミコト』
①黒永悠が契約した禍の夜刀神。月没の夜に契約者側から対話する事が可能。邂逅を通じ心を通わせる。
②祟り神の影響を顕著に受け易くなった。
固有スキル
『顕魔』
①自身の感情の昂りに呼応し従魔の幻影が濃く現れる。窮地の際にのみ顕現し祟り神の厄災を齎す。
『鍛治師の心』
①鍛治・貴金属細工・宝石加工を難なく熟し良質な品を鍛え易くなる。
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過去最多の通知が流れ新たなジョブへチェンジした。
…ギミックブレイクが消失かぁ。簒奪技を習得しアジ・ダハーカの技を覚えたが練度を上げてのでちょっとショック…。獣狩りの技法は全般的に強くなってるな。…称号は…ま、いいや。
それに禍面・蛇憑卸。リスクが上がった分、強力になったっぽい。…気が進まないが一度、確認しとこう。
従魔と顕魔も以前と違う。月が没する夜に俺から対話できる、か。…窮地に陥ったら祟り神の厄災を齎すってのが気になる。
鍛治師の心は単純に嬉しいぜ。仕事の幅が広がる!
一番、気になったのは奇跡の逆誄歌だ。
命を削って他の生物に命を与える事ができるならオルガの孵らない卵を何とかしてやれるかも知れん。
不老耐性持ちだし大丈夫だろ。
…大丈夫だと信じたい。
ステータスを確認し武器を仕舞うとアジ・ダハーカが勢い良く抱き着いてきた。
「ぐぇ!?」
な、内臓が悲鳴を…!
「…かかかっ!まさか本当に一撃を与えられる日が来るとはのう」
金色の結界が溶けオルドとオルガも駆け寄る。
ーー本当に成長したわね。素晴らしい攻防だったわ。
ーー…稽古を重ね怠らず努力した結果だ。大したものだぞ。
「アジ・ダハーカにオルガやオルド。皆の協力のお陰だよ。本当に感謝してる…ありがとう」
「妾も師匠として誇らしいぞ。愛い奴め〜」
頰を擦り寄せ喜ぶアジ・ダハーカは本当に子供にしか見えない。…強さは天井知らずの化け物だが。
ーーふふふ。アジ・ダハーカ様ったら。
オルガに説明しなきゃ。卵を孵せるかも知れないって。
「…実は折り入って聞いて貰いたい話があるんだ」
ーーどうした?
新たに習得した奇跡について説明した。
〜数分後〜
ーー…卵が孵る…かもしれない…。
「生を与える奇跡なんだ。駄目元で試してみようぜ」
オルガは戸惑い躊躇している。
ーー…主よ。悠が言っている奇跡をどう思いますか?
「う〜む。…恐らく干渉と事象に関わる特殊な奇跡じゃの。効力は確かじゃろう。…祟り神とは言え流石は神じゃ。理の領域に介入するとは」
ーー…気持ちだけで充分です。貴方の尊い命を犠牲にはできないわ。
ーー人は短命だ。その命を簡単に削るな。
「不老耐性もあるし大丈夫だろ。…そうだよな?」
アジ・ダハーカに同意を求める。
頼むから肯定してくれよ。
「…不老耐性は寿命が延びるが人の生はオルドが言うように亜人よりも短い。どれ程の命を削るか想像も尽かん。逆誄歌の御業が未知であり危険を孕むのに変わりはないぞ」
「寿命が延びてるなら問題ないな。俺は百歳まで生きるつもりだし死ぬつもりもない」
ーーだが…。
「大丈夫だって」
ーー…人である貴方が何故、そうまでして…?
「……」
何故って言われても答えは決まってる。
「種族なんて関係ない。アジ・ダハーカもオルドもオルガも俺の大切な友人だ。友人の家族を救える可能性があるんだぞ。理由はそれだけで十分さ」
ーー…悠。
ーー……。
…不思議と不安はない。きっとこうまでしたいって思うのはオルガの卵だからだ。うん…そうに違いない。
アジ・ダハーカが嬉しそうに微笑む。
「…オルガよ。悠に任せてみんか?此奴の覚悟は固いようじゃ。了承するまで頑なじゃぞ」
その通りだ。よく分かってらっしゃる
ーー…分かりました。…悠、ありがとう。けど無理はしないで頂戴。
ーー……礼を言うぞ。友よ。
「ああ。気にすんなって」
「かかか!…ほれ。オルガ達の住処はあっちじゃ。妾が案内してやるぞ」
アジ・ダハーカが背中に飛び乗る。
「おっふ!?…わ、わかった。頼む」
全員で南の自然豊かな浮島へ移動した。
〜15分後 龍神の水郷 双竜の浮島〜
南の浮島にある木の根っこが生えた神秘的な遺跡の頂上にある巣に到着した。
金色の竜の赤ちゃんが出迎えてくれる。
ーーピュイ?
「おぉ!」
愛らしい可愛い竜だ。好奇心旺盛なのか警戒する事も無く俺に近寄る。
ーー…オルカだ。
「可愛いなぁ」
撫でようと手を伸ばすと噛まれた。
ーーピュイ!ピュイ!
面白がって齧り啄む。
戯れるのは良いが結構な力だ。
さすが竜の赤ちゃん。
「いてて」
「かかか。懐かれとるのう」
ーーこら。駄目よ。こっちに来なさい。
ーー…ピュ〜。
コートをよじ登ろうとする我が子をオルガは口で優しく咥えた。
ーー悠。これがその卵だ。
巣の中央に鎮座する燻んだ色の卵。隣にある割れた殻は金塊よりも眩い黄金の輝きを放っていた。
「隣の殻はオルカの卵の殻か?」
ーー…ええ。私の魔力を注ぎ無事に孵化したオルカの殻よ。母親の魔力が通うと卵は両親のどちらかの体色を受け継ぎ色を変えるの。オルカは女の子よ。…私の大切な卵……例え結果が報われなくても悠の優しさを忘れないわ。…お願い。
「任せてくれ。試すぞ」
ーー……。
緊張した面持ちで見守るオルガとオルド。
「これ。大人しくせんか」
ーーピュ〜。
アジ・ダハーカがオルカを抱き抱える。
「逆誄歌」
発動した瞬間、心臓が激しく鼓動した。
俺と卵を中心に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。
「おぉ!!」
ーーこれは…!?
ーー…祟り、神か…?
ーーピ、ピュー…。
ミコトが以前より鮮明な姿で現れた。背後から両手を伸ばし卵を優しく撫でる。
ーーー……渦まく淵に眠りし死者よ。この者に我が祝福を奏でよ…輪廻を廻り回帰せり…命を授けん。
そう唱えると俺の体から卵へ光が流れ込む。ミコトが消えると同時に今度は魔法陣が集束していく。
燻んでいた卵がみるみる内に白く輝きを放つ白銀の卵へと変わった。
ーーあ、あなた…!
ーー…卵が…。
不規則に揺れ動き殻が徐々に割れる。
そして…。
ーー…ピャ〜…ピャア!ピャア!
白銀の竜の赤ちゃんが生まれた。一生懸命に鳴いている。
ーー…ああ…あああ……!!…私のっ…私の…可愛い赤ちゃん!
オルガが生まれた赤ちゃんを優しく舐める。
ーーピャア。
赤ちゃんは甘える様にオルガに身を寄せた。
オルドも近寄り潤んだ瞳で赤ちゃんを見詰めている。
ーー…銀の体色…俺の息子だ…。
ーーほら。あなた…。
赤ちゃんがオルドへおぼつかない足取りで擦り寄る。
ーーうおおぉぉぉっ…!!!
普段は感情を表に出さないオルドが大声で鳴いた。
その瞳から涙が落ちる。
「ほれ。お主も」
アジ・ダハーカがオルカを家族の元へ促す。
ーーピュイ!ピュイィィ!
両親が喜んでるのがオルカも分かるのだろう。
嬉しそうに鳴いていた。
必死に涙を堪える俺に突如、心臓が爆発したような衝撃が全身を駆け巡った。
「!」
…徐々に鼓動は落ち着く。今のは逆誄歌の影響か?
「悠」
アジ・ダハーカが心配そうに俺を見ている。
「…いや。何でもない。大丈夫さ」
そう言って笑う。
「…其方がそう言うなら追求はせん」
察したアジ・ダハーカもそれ以上は言わない。
俺の寿命は縮み短くなったのだろう。
しかし、後悔はない。この愛に溢れた美しい家族の光景はそう思わせるには十分だった。




