レベルを上げよう!〜龍神の水郷〜①
〜禁域 龍神の水郷〜
大扉を抜け崖に出る。辺りを一望できる高さだ。
「……」
景観に見惚れ言葉が出ない。山脈に囲まれ滝が流れ込み遺跡が埋もれていた。
光輝く水に埋もれた水都…と言えば良いだろうか。水はどこまでも透明で澄み切っている。
沈む遺跡を優雅に泳ぐ魚の群れ。空を飛ぶ鳥達。
人が居る形跡は全くない。
大自然とはかくも心を揺さぶるが此処は単純に美しいと言った表現では足りない。…龍神の水郷、か。
正に龍の聖地と呼ぶに相応しい場所だ。
「…?…体がやけに軽く感じるが」
不思議な感覚に身を包まれる。
「んーっと、あの中央にあるのは…」
中央の浮島にクリファの神樹とよく似た樹が育っている。大きさは遥かに劣るが樹を守るように鎮座する一匹の龍も見えるぞ。
近付いてみよう。
俺は中央の浮島を目指し崖道を下った。
〜1時間後 龍神の水郷 ???の??〜
中央の浮島に到着する。遠目だと遠近感が狂い大きさが分からなかったが巨大な龍が座っていた。
煌めく竜鱗に二本の逆巻く角と美しい黒金の翼。オッドアイの双眸が俺を捉える。…美麗なる龍だ。嵐飛龍より威厳に満ちた姿に初見だが直感で理解する。
勝てない、と。
強さの次元が違うのが戦わずにして分かった。
息を飲み動向を見守る。…正しくは動けないと言った方が良いかも知れない。
ーーー…かかっ。誠に面白い。死の病を超え雹晶崫の封印を解印し水郷に至った資格者よ。其方は何者じゃ?
沈黙を破り龍が喋る。予想外に可愛い声。
風貌に似合わず吹き出しそうになるのを堪える。
「お、俺は黒永悠。…人間だ」
ゆるりと体を起こす。でっ…でかい。
ーーー人間…とな。人にしては存外に穢れを背負ってるが。其方は蛇憑きか?…ふむ。閉心とは小賢しい。
値踏みする様に細まる目。サーチ系のスキル持ちか。
しかも穢れや蛇が分かるとは。
アルマは祟り神まで看破したが…。
「あんたがアジ・ダハーカ…で間違い無さそうだな」
確認しとく。
ーーー如何にも。妾が龍峰の支配者にして水郷の守護獣…天空に煌めく明星と誉れ高き煌星龍アジ・ダハーカなり。
胸を反り威厳たっぷりに答えるアジ・ダハーカ。
気のせいかな。
どことなくアルマと似た雰囲気を感じる。
「…なるほどね。アルマが言ってたぜ。よろしくってな」
アジ・ダハーカの目が揺れた。
ーーーそ、其方…い、い、今、何と申した…?
声が震えてる。…怯えてるのか?
「アルマが会ったらよろしく伝えてくれって」
ーーーあ…あ、あの方は何百年も前に『緋の魔女』に封印された筈じゃぞ!な、何故、其方が…知っておる!?
「ああ。その通りだが今は一緒に住んでる俺の家族の一員だぞ」
ーーー…か、か、家族ぅっ!?あの暴虐大魔神に家族など居る筈がなかろうっ!!…妾を謀ろうとすると容赦せんぞ!
かなり狼狽してる。…最初から全部説明した方が良さそうだ。
威厳が消え失せた煌星龍は随分と可愛らしい。
事情を説明した。
〜30分後〜
「ーー…ってな理由だ」
ーーー……。
アルマの名前を出す度に挙動不審になるもんだから話が中々、進まず時間が掛かった。
ーーー…其方は異世界…地球からの来訪者で名を奪われし祟り神と契約し…この地へ来てアルマ様と出逢い一緒に住んでると…。
「うん」
端的に言えばそうなる。
ーーー…念を押して聞くが…封印されたままで此処には来てないんじゃな?嘘を吐いてたら赦さんぞ。
「…うん。間違いないって」
ーーーふにゅー…。驚かせおってからに。…暴虐大魔神が一緒に来たと思うと生きた心地がせんわ。
すっげぇ警戒されてんじゃん。暴虐大魔神って…。
「俺から見るとかわいいネコなんだが…」
ーーー…可愛い猫じゃと?其方は封印される前を知らぬから無理もないか…。
アジ・ダハーカは語り出した。
ーーー…かつての南の大陸の支配者。比類無き強さは最強にして極致。その魔力は万物を従え理にさえ干渉したのじゃ。…北の大陸、東の大陸、西の大陸…その気になれば世界を手中に収めたろう。魔王の称号に相応しい方だった。
あの自己紹介は本当だったのかーい!
ーーー…妾も散々、こき使われたものじゃ。西の大陸に行って生意気な人間の国を滅ぼして来いと怒られ…東の大陸…仙境の地の桃を食べたいから見つける迄、帰って来るなと命令され……挙句、面白い事をしろと無茶振りをされた…面白く無かったら翼をへし折ると脅され…あああぁ〜…忌まわしい悪夢が甦るのじゃあぁ!!
嫌な先輩とパシられる後輩じゃねーか。
何故か申し訳ない気分になる。
「く、苦労してたんだな」
ーーーふん…。
可哀想になってきた。
「まぁ、あいつって素直じゃないから。照れ隠しの愛情表現だったと思うぞ」
ーーー………。
押し黙るアジ・ダハーカ。思い当たる節はあるようだ。
ーーーあの方の話はもういい。お腹一杯じゃ。…それより其方の話をしよう。
「俺の話?」
ーーーうむ。…黒永悠よ。目的を今一度、尋ねよう。『ドラクマの神樹』を守護する者として穢れを背負いし祟り神の契約者を野放しにする事は出来ぬ。
…やっぱりあの樹は神樹なんだな。何処と無く分かってはいたが。
「うーん…。強くなりたくて龍峰に来た。特訓とか武者修業って感じだよ」
当初の予定とは違うけどレベルも上がったし。
ーーー雹晶窟の麗しの湧き水を飲む危険を犯してまで封印を解いた理由がそれとは。
「俺には問題なかった」
ーーー…ほぅ。その様子を見るに祟り神の契約者は結晶の病すら退けるのか。…ふーむ。面白い。
暫し思案した後、アジ・ダハーカが言う。
ーーー悠。強くなりたいのだな?
「まあな」
ーーー…アルマ様の縁者でもあるしの。妾も其方に興味が湧いた。稽古をつけてやろう。
「稽古って…アジ・ダハーカが?」
ーーーうむ。
「だって経験値って倒さなきゃ貰えないだろ」
ーーー何を言っておる。倒さずとも経験値は蓄積するぞ。倒した方が手っ取り早いのに変わりは無いがな。
「ふぁっ!?」
驚愕の新事実…。
今まで倒さなきゃレベルは上がらないって思ってた。
ーーー閉心を解除しステータスを見せてみよ。
言われた通り解除する。
ーーー…これはまぁ…。レベルが低い割に戦闘数値が高い理由は夜刀神の加護…これが原因か。他に魔法は使えず呪術に…アザーの加護に従魔…祟り神のミコト…とな。ほほっー!希少で面白いスキルも有しておるのう。
閲覧し一人で盛り上がる。
「嬉しい申し出だが五日で家に帰らなきゃならない。それでも良いのか?」
ーーーん、十分じゃ。此処は外界と時間の流れが違う。
「え」
ーーードラクマの神樹と龍峰の霊脈の影響を受け龍神の水郷は時の流れが緩やかじゃ。此処に来た時に不思議な感覚に包まれたじゃろう?。三ヶ月も水郷で過ごせば外界の時間で丁度、五日じゃ。約90日は稽古を付けてやれるのう。
せ、精神と時の部屋かよ。
ーーー先に言うとくが妾の稽古は厳しいぞ。レベルは間違い無く上がるじゃろうが五体満足で帰れるかは其方次第じゃ。…どうじゃ?無理にとは言わんぞ。
願ったり叶ったりのチャンス到来。
勿論、五体満足で帰るつもりだ。厳しい訓練はモーガンさんで経験済みだしな。
「断る理由はないさ。是非お願いするよ。アジ・ダハーカ」
ーーーかかっ!成立じゃの。
アルマに感謝しなきゃな。帰ったら竜肉をたらふくご馳走してやろう。
ーーーならば早速、始めるとするか…っと。この状態では其方を殺してしまうな。…龍人変異。
そう言った瞬間、アジ・ダハーカが眩しく光を放ち縮んでいく。
「な、なんだ!?」
光が収まって現れたのは…。
「うむ。待たせたの」
…ちっさい幼女だった。
見た目はアイヴィーより幼い。黒髪に煌めく金髪が混じった長髪。ほぼ全裸に近いが手足と胸や股間は鱗が覆う。逆巻く小さな角に尻尾と翼。オッドアイの美しい瞳と顔の両頰にトライバルマークに似た模様が施された愛愛しい美幼女だった。
…これがあの巨体の龍なのか…?
「ふっふーん。妾の美しさに言葉もない様子じゃの」
自信満々にアジ・ダハーカが腰に手を当て無い胸を反らす。
俺は頭が痛くなった。




