レベルを上げよう!〜アジ・ダハーカの龍峰〜①
〜2日目 早朝 竜の巣 帰らずの穴〜
「ゴミも片付けたし火も消した。忘れ物もなしっと」
ゆっくりは休めなかったが体力は回復した。装備もしっかり手入れをしたし気力も十分。
階段の先から冷たい空気が流れ込む。
「この先がアジ・ダハーカの龍峰…」
飛龍や古竜の住処、か。
エリザベートやキャロルの忠告を無視する形になるが…無理をしなきゃ大丈夫だろ。
危なくなったら引き返せば良いし。
そう言い聞かせ階段を登った。
〜アジ・ダハーカの龍峰 龍の散歩道〜
「……」
荘厳たる光景に思わず溜息が出た。連なる山峰には雪が残り雲海が広がる。
遠くに見えるのは竜…いや龍か?
荒れた崖際に辛うじて先へ進めそうな道幅があるが踏み間違えば崖の下へ真っ逆さまだ。
「危ない所は九墨蛇で移動しよう」
右腕に黒蛇を纏い足場に注意しながら進んだ。
〜1時間後 アジ・ダハーカの龍峰 龍の散歩道〜
「ふぅ…ふぅ…」
危険な道を注意深く集中して進む分、疲労が溜まる。崖伝いに登っていくと幅が広がり広い場所に出た。
ここなら見晴らしも良いし休憩するには持ってこい……。
ーー……。
……じゃなかった!!
めっちゃ強そうな龍が上空から睨んでるじゃねぇか!?
ーー……人か。久方振りに見たぞ。
喋れるみたいだ。
陽の光を反射する鋼色に輝く鱗が翼まで覆い三本の立派な角がそそり立つ。巨体の躰を悠然と揺らし現れた龍から放たれる威圧感は半端じゃない。
ーーふむ。不思議な力を感じるが…まさか契約者か?
一目で看板された。
「…契約者だって分かるのか…?」
ーー…ほぉ。竜語も理解するとは。名を名乗れ。
「黒永悠」
モンスターが地面に降り立つ。
ーー我の名はフカナヅチ。龍峰に住む嵐飛龍よ。…この地に何用だ。
「武者修行」
ーー……武者修行だと?クハハハッ!嗤わせる。
「何がおかしい」
ーー此処に集う飛竜や龍はアジ・ダハーカ様の眷属であり百鬼夜行の魔すら恐れる強者ばかり。我らが聖地で人が武者修行だと…?欺瞞に満ちた驕りだ。戯言も大概にしろ。
「…戯言かどうか確かめてみるか?」
ーー……。
フカナヅチが目を細める。
ーー…我を前に恐れず睨むとは…面白い。
翼を広げ戦闘態勢に移行する。
ーー……ならば古のしきたりに従い相応しい資格があるかどうか…試させて貰おうか。
「古のしきたりだと…くっ…!」
凄まじい風圧が襲う。
願っても無い強敵との一戦。…全力で挑むしかない。
ーー征くぞ!
荒れ狂う暴風がフカナヅチの角に集まる。
ーー嵐風の息吹。
巨大な竜巻が空気を裂き地面を抉り迫ってくる。
「!」
九墨蛇を発動した。
黒蛇を伸ばして跳躍し間一髪で攻撃を躱す。竜巻の跡に残るは削られ破片となった石の欠片のみだった。
ーー凶々しい黒蛇を操りおって…益々、興味が湧いた。
嫌な予感がしてダッシュで移動する。
大気が震え次の瞬間、岩が真っ二つになった。
「ちっ…!?」
まるで見えない斬撃だ。
ーーどうした。逃げ回るだけか?
「…舐めんなよ」
こっちだってレベルが上がってんだ。
「一刀・煌!」
金剛鞘から太刀を抜き負けじと飛ぶ斬撃を放つ。
ーー…おぉ!?
離れているフカナヅチの鱗を斬り裂いた。怯んだ隙に近付いて脚と翼を斬る。
血を浴びた大太刀の刀身が怪しく光る。二撃三撃と攻撃をする度により鋭さが増す。
フカナヅチが後退し俺から距離を取った。
ーー鋼より硬い我が龍鱗を斬るとは…。褒めておこう。
「そりゃどうも」
ーー…だが、まだ足りぬ。契約者の力を見せてみよ!!
フカナヅチが吼え信じられない事が起きた。
雷雲が頭上に立ち込め雷鳴が響く。
…う、嘘だろ。天候を操ってるのか?
ーー暗雲に籠る雷よ。穿ち轟かせるがいい…嶽御雷。
辺り一面に無作為に落雷が起きる。
雷光の衝撃と爆音で動く事もままならない。
…流石に雷を避けるのは無理がある。幾ら身体能力が強化されてるとはいえ回避は難しい。
眩い雷光が頭上で光った。こうなったら一か八か…!
ーーククッ。…面白い避け方をする。
「あ、あっぶねぇ…!」
金剛鞘の大太刀を地面に突き刺し屈んだのだ。雷は避雷針代わりとなった大太刀に落ちた。
落雷を受けても傷一つない頑丈な造りに感謝しかない。立ち上がり柄を握る。
…フカナヅチはまだまだ余裕そうだ。まごまごしてたら殺される。出し惜しみしてる場合じゃないな。
「…蛇憑き面…」
ミコトの幻影と共に翳す手に白面が現れる。
被ろうとしたその瞬間だった。
ーー……!
フカナヅチが攻撃を止め暗雲が晴れてゆく。
「…え?」
ーー…その幻影…まさか。いや、間違いでは無い。…確かに神の威光を感じた。…しかし…あれはまるで…深淵の…。
酷く狼狽した様子だ。余りの変わり身に此方が驚く。
「急にどうしたんだよ」
蛇憑き面が不発に終わり幻影も消えた。
ーー…もう良い。貴様の力は十二分に解った。資格を持つ者よ。さすれば問い質したい事柄が幾つかある。
最早、戦闘を継続する意思は感じられない。
俺も武器を仕舞う。
「…よく分からないけど聞きたい事って?」
ーーうむ。
フカナヅチが俺に質問をする。
〜数分後〜
「ーーってな訳で俺は祟り神のミコトと契約した契約者ってわけ」
ーー…呪われし禁断の地に…神樹…クリファの祠と名を奪われた女神…。
俺の答えに神妙な面持ちでフカナヅチは傾聴していた。暫く思案した後、大声で笑いだす。
じょ、情緒不安定なのか?
ーー古き神話の御伽噺だが…事実、我は畏れし祟り神の幻をこの目で見ている。…クク…クーッハハ!!かくも奇跡に巡り会うとは…運命とは奇妙なり…。
「…と、とりあえずお眼鏡にかなったって事で先に進んで良いんだよな」
ーーああ。だが…ふむ。貴様…いや、悠よ。連れて行きたい場所がある。
「連れて行きたい場所?」
ーーアジ・ダハーカ様がおられる龍峰の秘境…『龍神の水郷』に繋がる道。『雹晶崫』だ。
「龍神の水郷…雹晶崫…」
ーー人が雹晶崫に足を踏み入れた事は僅かに数える程度だろう。其処に至るには様々な苦難を乗り越えなければならん。龍神の水郷は我ら龍でさえ簡単には行けぬ。…だが神と契約した者ならば道も拓けよう。
「何でそこまでして…まさか騙そうとしてるんじゃ」
ーー下らぬ。わざわざ欺くぐらいなら喰い殺すわ。お前が興味深いだけに過ぎん。
嘘を言ってる感じはしない。
直感だが信じても良さそうだ。アルマにも会ったら宜しく伝えてくれって言われてるし行ってみよう。
ちょっと興味も湧いて来たしな。
「わかった。あんたを信じるよ。連れてってくれ」
ーーならば我が背に乗るがいい。
言われるがままフカナヅチの背に乗る。
すっごい硬い鱗だな。まるで鉱石だ。
ーー征くぞ。
「え、あ、…うぉぉぉ!?」
一気に空へ飛翔した。思わず振り落とされそうになり必死に掴まる。
みるみる遠去かる地上。高所恐怖症になりそうだ…。




