レベルを上げよう!〜竜の巣〜 ①
〜午前8時 竜の巣 転移石碑前〜
第6区画の転移石碑から竜の巣の転移石碑へ移動した。
「ここが竜の巣…」
悠然と上空を飛ぶ飛竜と低い唸り声で鳴き巨体を揺らし練り歩く蜥蜴と恐竜に類似したモンスター。まさに竜の名を冠するに相応しい生き物が跋扈している。
遠くに見える山々の山嶺には雷雲が立ち込め荘厳な雰囲気を醸す。此処は地形の高低差もなく水源や餌場も豊富みたいだ。
他種別のモンスターもちらほら見掛ける。
「…うし。早速、戦うとしよう」
石碑から進みモンスター達へと向かって行った。
〜3時間後 竜の巣 名もなき平野〜
「……」
木陰に腰を下ろしタバコを吸う。
「うーん。…弱くはないが強くもないな」
竜種のモンスターと戦った感想はそんな感じだ。
ここまで戦闘したモンスターは…翼竜・蜥蜴竜・地竜・水竜・風竜などなど。
魔法も使うし力も強く防御力もある。
でもルウラと比べると格段に見劣りするし余力を持って倒せてしまうのだ。
経験値が可視化できないのが辛い。
「何匹倒せば良いのか分からんがレベルが上がるまで戦闘を繰り返さなきゃ」
あわよくば竜の卵も欲しいが全く見当たらない。
マップも開拓しないと。
「…アジ・ダハーカの龍峰、か。危険だってエリザベートもキャロルも言ってたが…」
龍峰っと。
マップが示す緑の矢印までかなり距離がある。…危ないなら引き返せば良いよな。折角だし行ってみよう。
出発する前に腰袋に入れたモンスターの死骸と素材に採取・採掘したアイテムを確認しておくか。
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・モンスターの死骸と素材。
ブラックワイバーンの死骸と素材×1
レッドワイバーンの死骸と素材×1
ブルーワイバーンの死骸と素材×1
蜥蜴龍イグナムの死骸と素材×1
地竜ベヘリッモの死骸と素材×1
水竜ラグリッモの死骸と素材×1
風竜セセリッモの死骸と素材×1
・採取アイテム。
竜草×6
フラムレアの花×2
爆発綿毛×3
竜丹果実×4
ドラゴ茸×2
・採掘アイテム。
竜鉄鉱石×1
竜鋼石×1
朽ちた竜骨×3
朽ちた竜牙×1
ドラゴザイトの原石×1
ドラゴルビーの原石×1
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危険区域なだけあってレア度が高そうな採取・採掘アイテムを入手した。
確認も済んだし行くか。
吸い殻を携帯灰皿に入れて出発した。
〜1時間30分後 竜の巣 ???の住処〜
暫く歩いて鬱蒼とした森の中に入る。食い荒らされた動物やモンスターの死体が散乱し骨が落ちていた。
澄んだ空気に血と獣臭が混じっている…。いや、よく見ると動物やモンスターだけじゃない。
人の頭蓋骨や服…焼け焦げ壊れた武器や防具の残額も…。
不気味だ。
「……」
それに先程から殺気を含んだ嫌な視線を感じていた。
「警戒を強めないと…」
突っ立ってても仕方ない。先へ進もう。
緑の矢印はまだ先だ。
ーー………。
〜20分後〜
歩き進むとぽっかりと広い場所に出た。
「あれは…」
お椀形の鳥の巣…いや、竜の外巣か?随分、でかい巣だな。中を覗くと…。
ーーぴーぴー!
ーーぴゅい…?
小さな翼の生えた赤い体色の可愛い竜の雛がいた。
「おぉ」
キューと似てて愛らしいじゃないか。
「卵から孵ったばかりかな。…ほれ」
試しに持ってきた猛角牛の薫製肉を与えてみる。
ーーぴゅい!
ーーぴゅいぴゅ〜。
むしゃむしゃと食べ始めた。
「……か、可愛いじゃん」
二匹の食事風景に和んでいると上空から鋭い殺気を感じ慌てて巣から飛び退く。
ーーグォォォー…!!
上空から爆音の咆哮と共に一匹の竜が現れ慌てて武器を構えた。
「な、なんだ!?」
ーー………。
赤く大きな体躯に立派な翼と尾。口には鋭い牙を生やし火が洩れている。
その姿に竜の名に恥じない貫禄を感じた。
…強そうな竜だ。
ーー…人ヨ。…私ノ住処ニ…子二…軽々シク触レ足ヲ踏ミ入レタコトヲ……業火デ焼カレ地獄デ後悔スルガイイ。
臨戦態勢ばっちりやんけ!?…でも知能が高いし話せば分かってくれるかも。
「待て!俺は此処を抜けて先に行く途中なだけだ」
ーー…言葉ガ分カルダト?…ドラグニートデモナイノ二…貴様、怪シイ奴メ。
「怪しくない。俺は…」
思わず言葉が詰まった。
レベルを上げる為にお仲間を倒してます…なーんて言えないよなぁ。…言う通り怪しい奴です。
ーー問答無用ォ!!
翼と前脚のスタンスを大きく広げ叫ぶ赤き竜。
咆哮の音圧で思わず体が萎縮した。
「(さ、サーチ…!)」
ーー対象を確認。ステータスを表示ーー
名前:飛火竜サラマンドル
種族:飛竜種Lv80
称号:紅蓮に染まりし者
戦闘パラメーター
HP450000 MP35000
筋力4000 魔力4000 神秘300
体力5000 敏捷3000
技術2500 精神3000
耐性:火耐性(Lv MAX)氷耐性(-Lv 3)
戦闘技:竜技
魔法:火魔法(Lv MAX)竜魔法
固有スキル:火の心得 空の女王 竜鱗
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竜の巣にある森を根城にする雌の飛火竜。気高く強く己の住処や子を脅かす者に容赦しない。火属性の攻撃を得意とし口から吐き出される火球の威力は凄まじいの一言。空中戦闘時にスキル効果で更に戦闘能力・戦闘数値が上昇する。
知能が高く人の言葉を理解している。名声を得る為、挑む愚かな冒険者が後を絶たないが儚い夢は火に飲まれ潰えるものだ。
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つ、強い…!今までの竜種とは強さの桁が違う。
…やるしかない、か。
逃げる為に此処に来た訳じゃないしな。
銃を撃つが鱗に弾かれ効果がない。
リッタァブレイカーで殴る為に近付くが…。
ーーグォォ!
口から吐き出された炎が行く手を遮る。
間一髪で横に避けた。背後を振り返ると地面が抉れ木が跡形も無く燃えて無くなっている。
…火傷じゃ済まない威力だな。
「九墨蛇」
右腕に黒蛇が蠢く。
ーー…面妖ナ。蛇ノ呪イ…?マスマス不気味ダ。
火球を吐き出すサラマンドル。
じぐざくに避けて距離を詰める。地面に当たると同時に轟音と火の粉が辺りに飛び散った。
ーー竜爪。
右前脚の爪による攻撃が竜巻を起こし土塵を巻き上げる。
駄目だ。正面からは迂闊に近寄れない。…ならば!
ーーム?
黒蛇を伸ばし跳躍。サラマンドルの背後に回った。
飛び乗って頭に…おわっ!?
風切り音と一緒に尻尾が眼前を横切る。
ーー背後二マワッテモ無駄ヨ。
こちらに向き直る。
「……」
…厄介だ。さっきから巣の前から微動だにしないな。
もしや飛んだりしないのは…。
ーーぴゅいぴゅい。
ーーぴゅー…?
…なるほど。あの子達の為に動かない訳だ。子を思う親の性を利用するのは最低だが仕方ない。
九墨蛇の黒蛇達を地面に潜らせる。
ーー……ナニヲ…。
地面の隆起と共に四方八方からサラマンドルを囲み飛び出す無数の黒蛇。
ーークッ!?
翼と自分の体で巣をガードするサラマンドル。
黒蛇が攻撃を繰り返した。
「…ブレイカー!」
その隙を狙い体の下に潜り込みリッタァブレイカーによる溜め爆発に戦闘技を併せた一撃を食らわせる。
ーーグォオ!?
怯んだ瞬間に金剛鞘の大太刀に持ち替え太刀を抜く。
「真月之太刀」
左前脚を狙った斬撃は竜鱗を容易く裂き鮮血が飛び散った。体勢を崩し倒れた瞬間に魔銃・ケーロンを超至近距離で構え銃口を右目に定める。
ーー…クッ…マサカ…遅レヲ取ルトハ不覚…!
この距離ならMPを消費した弾丸は頭部を貫く筈。
間違いなく致命傷となるだろう。
「悪いな」
ーー……殺セ。
M低い金属音が銃から響く。
引き金に指をかけ引こうとした時だった。
ーーぴゅーぴゅい!
ーーぴゅぴゅーい!
サラマンドルの子供…ニ匹の赤ちゃんが鳴いた。
ーー…ドウシタ?
「……」
…お母さんを殺さないで…と訴えるに大声で鳴く。
駄目だ。甘い考えは捨てろ。
今までだって数多くのモンスターを殺してきた。そのモンスター達にも子供は居たかも知れない。
自然界は弱肉強食だ。
どんな理由があろうと本気で戦わなかったこの竜が悪い。…殺すんだ。殺せば経験値も手に入る。
ーーぴゅいぴゅいぴゅ!
ーーぴゅぴゅーい…。
親を亡くしたこの子達もどうせ直ぐに死ぬ。
…躊躇うな。
自分に言い聞かせ引き金を引いた。銃音が鳴り静寂が訪れ硝煙が銃口から立ち登る。
「……」
ーー…キ、貴様…何ノツモリダ…?
サラマンドルの頭部横の地面に銃弾の穴が空く。
……やっぱり子供の目の前で親を殺すのは無理だ。
自分勝手なエゴだけど残酷過ぎる。
もう勝負は着いたし終わりにしよう。
「じゃあな」
ーーマ、待テ…何ノツモリダト聞イテイルノダ!殺サズ二立去ルトハ…。
「…子供が可哀想だろ」
ーー…ハ…?
「……」
ーーぴゅいぴゅい。
ーーぴゅー。
ニ匹がサラマンドルに甘える様に寄り添う。
他にも経験値代わりになるモンスターならいる。
俺は振り返らずに先へ歩みを進める。
〜竜の巣 結晶の崖道〜
サラマンドルが居た森を抜けると翼の形をした崖道に到着した。緑の矢印はこの先を示しているが…。
「…危なっかしい道だなぁ」
上空には無数の大きな翼竜と飛竜が絶賛旋回中。
道は紫の結晶で形成され心許ない硬さみたいだ。風で削れた結晶の欠片が崖下に落ちていく。
「この足場で戦闘は無理。…かといって上空の竜が都合良く無視してくれ……る訳がないか」
隠れて進むしかない。意を決して進もうとすると突風と共に竜が現れた。
「っ!」
慌てて距離を取り武器を構える。
ーー待テ。争ウツモリハナイ。
サラマンドルだった。
「…だったら何の用だ?」
敵意は無いみたいだが警戒を解く訳にはいかない。
ーー……貴様二ハサッキノ戦イノ借リガアル。ソノ借リヲ今返ソウ。
返事を待たずサラマンドルが飛翔する。
上空の竜の群れに向かって凄烈な速度で突進し一匹の飛竜の首を噛み切った。もう一匹には炎のブレスを吐き黒焦げとなった死体が崖下に落ちる。
次々と竜の数が減っていく。
地上で戦った時とは別格の戦闘力だ…。
程なくして竜の群れは殲滅されサラマンドルは再び俺の前に舞い降りた。
ーー上空ノ竜共ハ消シタ。コレデ問題ナク先ヘ進メル。
「仲間を殺してまでどうして…?」
ーー…大翼竜ヤ知能モ乏シイ飛竜ナド仲間デハナイ。敵ダ。……ソレニ不本意ダガ貴様ノ情ケデ私ハアノ子達ト一緒二イラレル。……コレハ礼ダ。
その為にわざわざ来てくれたのか。
「ありがとう」
ーー借リハ返シタゾ。
「あ、ちょっと待てよ」
飛び立とうとするサラマンドルを制止する。
「これやるよ」
ーー…ナンダコレハ?
助けて貰ったお礼に余ってる猛角牛の薫製肉を渡す。
「あの子達に食べさせろよ。美味いから」
ーー………。
訝しげに薫製肉を見ている。
「毒なんて入ってない。ちゃんと調理してあるから美味しいぞ」
肉を前脚で掴む。
ーー…………龍峰ヲ目指シテイルノナラ『大牙竜』ヲ倒サネバサキへハ進メン。空ハ飛ベンガ強イ竜ダ。戦ウナラ恐レズ牙ヲ狙エ。
「え」
思い寄らぬ情報の提供に驚く。
ーーフン。
鼻を鳴らしてサラマンドルは飛び立ち消えた。
「………」
話が通じるモンスターと出会ったのは初めてだ。律儀で義理堅い竜なんだな。
結晶の崖道を慎重に渡り更に竜の巣の奥へと進んだ。




