レベルを上げよう!〜出発前日〜
〜翌日 午前9時 金翼の若獅子 一階フロア〜
翌朝、俺は金翼の若獅子の一階に来た。目的は依頼ではなくフィオーネとキャロルとメアリー。
アイヴィーは今日も家でアルマを相手に古代語の勉強をしている。勉強熱心なのは良い事だ。
碌に勉強もせず生きてきた俺は頭が上がらない。
…まあ、いいさ。とりあえずフィオーネから…お!あの受付カウンター前にいる三人は…。
〜 一階 受付カウンター前 〜
「おはよう」
「ユーじゃん」
「おはようございます」
「おはよー」
何て都合の良い展開なんだ。フィオーネもキャロルもメアリーも…三人とも一緒に居るじゃないか。
作為的な気もするがこれは好都合。
「代理決闘の話は聞いたぜ。無茶しすぎだっつーの」
「…まぁ成り行きで、な」
「しっかし『舞獅子』に勝つとはね〜。ユーが上級等級になるのも時間の問題かもな」
「勝ってないよ。ルウラは本気じゃなかったしルールのお陰で決着が着いただけさ」
…何回も言ってると悲しくなる。
「謙遜すんなって!うちも観に行きたかったな〜」
「はは。…それはそうと三人が集まってるって珍しいな。何かあったのか?」
「偶然、鉢合わせたんですよ」
「そーそー。わたしは昨日のクエストの報告に来たんだ。ボッツとラッシュも疲れちゃって家で眠りっぱなし。全然、起きないから一人で来たの」
「ブーリガンの討伐は骨が折れっからね。三人ともBランクになったばっかで頑張ってんだぜ」
「えへへ。ユウさんとアイヴィーちゃんに負けてられないからね!」
「…メアリーちゃん。無茶をしたら駄目ですよ。焦らずに自分達のペースで良いんです。…ねぇ悠さん?」
俺を一瞥するフィオーネ。含み増し増しの呼びかけだな…。
「そ、そうだぞ。無茶は駄目だからな」
「ユウさんが言っても説得力ないよ〜」
メアリーが笑う。釣られて二人も笑った。
む、むぅ〜。話の流れを変えよう。
「…あ、あー!実はな三人に頼みたいことがあるんだけど」
「私達に頼み?」
フィオーネが首を傾げる。
〜数分後〜
「ーーってなわけで俺が留守の間だがアイヴィーとアルマとキューの面倒を見て欲しいんだ。…仕事や依頼で忙しい中、申し訳ないが頼めるか?」
「いいよ!泊まってもいい?」
メアリーが嬉しそうに快諾してくれた。
「その方が助かるよ。家にある物は好きに使ってくれていいしお金もアイヴィーに渡しておく。ボッツとラッシュにも伝えてくれ」
入って欲しくない部屋はアルマに頼んで隠して貰えば良いしね。
「勿論、私も大丈夫です。家事全般は任せて下さい。…将来の予行練習の良い機会ですし」
途中、小声でよく聞こえなかったが…?
取り敢えずフィオーネも問題なし、と。
「はいはーい!うちも泊まる〜!なんなら今からでも」
「キャロル」
「……仕事が終わったらいきまーす」
キャロルもオッケーだ。
「俺の我儘に付き合わせてすまない。本当に助かるよ。このお礼は必ずする」
「お礼なんて要りません。気持ちだけで充分ですよ。それに…ふふ」
フィオーネが心穏やかに微笑む。
「悠さんは何でも一人で抱え込みますよね?…こうして私達を頼ってくれるのは信頼してくれた証です。嬉しく思います」
「えへへ〜。だね!」
「高位ランクの依頼でも弱音や愚痴も吐かねーしな。…つーか友達なんだからさ。気軽に頼れよ」
「…三人ともありがとう」
ちょっとうるっときた。
…最近、涙脆くなった気がする。
「ちなみに明日から一週間も何方へ?」
「竜の巣だよ」
「…竜種のモンスターが生息する危険区域に単身で一週間も…。理由がお有りで行くのでしょうが無理は絶対に駄目ですからね」
「分かってる。危なかったら引き返すさ」
「ユー。竜の巣から行けるアジ・ダハーカの龍峰には行っちゃダメだかんな。古竜と飛龍がわんさかいて超あぶねーから」
エリザベートにも言われたっけ。
「飛竜級の竜種になると竜鱗が硬すぎて並大抵の攻撃は通じないよね。…力も強くて魔法も使うし頭も良いから仲間と連携もするんだ」
…ふむ。やっぱり竜って凄いんだな。
まぁ、強い相手じゃなきゃ意味が無い。修業相手には最適だ。
「もう一度、念を押しますが無茶はしないで下さいね?」
「うん」
…多少、無茶しなきゃ特訓にならないと思うが口には出さないでおこう。
「あ。ソロオーダーの件もあるしラウラにも居ないって言っておいた方が良いよな?」
「ラウラ様は今朝から『白蘭竜の息吹』の冒険者ギルドに出張されてます。良ければ私から伝えましょうか?」
ルウラの謹慎を解く件もあるし忙しそうだ。
フィオーネに頼もう。
「悪い。頼むよ」
「はい。承りました。私からも言伝を…アイヴィーちゃんに明日の18時頃にお家に行くと伝えて貰えますか?」
「うちもなー」
「わたしも!」
「ああ。忘れず伝えておくよ」
次は巌窟亭だ。モミジにも頼んでおこう。三人に再度、礼を言って巌窟亭に向かった。
〜午前9時40分 第2区画 巌窟亭〜
施設の扉を開けるとローマンさんとドワーフ数人にモミジが新聞紙と睨めっこしていた。
「こんちわー」
皆に声を掛ける。ぱっと顔を上げ此方を見ると騒ぎが起きた。
「おめぇこんちくしょう!…すげぇじゃねぇか!」
両腕をローマンさんに掴まれる。
「ほんにたいしたもんじゃ。ワシらも鼻が高いわい」
「ガハハ。俺らの英雄じゃわい」
「あん時に言っただろぉが!ユウは『ヘパイカトス』の化身じゃって」
わやわやと集まり騒ぐドワーフ達。
「い、一体なんの騒ぎ?」
「騒ぎの理由はこれだよ。…ったく無茶しやがって」
モミジが新聞を俺に渡す。
新聞紙には金剛鞘の大太刀を構えルウラと対峙している俺の写真が鮮明に載せられていた。
文章を読む。なになに…。
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櫻木の月の30日に闘技場で執り行われた代理決闘。『金翼の若獅子』所属のランカー序列第13位のルウラ・レオンハートと無所属の黒永悠の対決は観客の予想を覆し黒永悠の勝利となった。
あわや敗北寸前の状況からの奇跡の逆転劇。ドラマティックな決着に観客が湧いたのは言うまでもない。
黒永悠の経歴は不明だが調べたところ冒険者ギルドの他に職人ギルド『巌窟亭』や商人ギルド『オーランド総合商社』にもメンバーとして登録している。
決闘の内容については獅子族の血を引くルウラ・レオンハートが終始圧倒していたが…
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「……蛇を模した術を使用し反撃の口火を切ったのだった。著者も今後の彼の活躍に期待している…へぇ」
好意的に記事を書いてくれてるので安心した。
実況からサド野郎とか言われてたからな。
「ルウラ・レオンハート…『舞獅子』はベルカで知らねー奴はいねぇ有名人だ。あれと戦うなんて無事だったからいーけどよ…あんま心配かけんなよ…」
モミジが不安そうな面持ちで呟く。
「ごめんな」
「怪我は?」
「大丈夫だよ。治った」
「おう。…オレは決闘の結果なんざぁどーでもいい。無事だっただけで安心したよ」
「…甘酸っぱいねぇ。心無しか空気も甘ぇな」
「青春じゃの〜」
「モミジ嬢もあんな乙女みたいな顔してからに。妬けるじゃねぇか」
「俺もカカァに会いたくなっちまう…ってなもんだ。わははは!」
「ここ数日のモミジ嬢ときたらユウが心配で仕事も手がつかねぇんだもんな。…様子を見に行けっつっても頑固だから此処で来るのを待つって言って聞かねぇし」
…そうだったのか。
やれやれ。本当に心配ばっか掛けて申し訳なくなる。
「バルゴス。その口を溶接してやっからジッとしてろ。他の連中も同罪だ。仕事もしねぇーでくっちゃべりやがって…。両腕を逆方向に捻じ曲げて金槌を握れなくしてやんよ」
モミジが真顔で淡々と皆を脅す。
バルゴスと呼ばれたドワーフが明後日の方向を向く。
「ーーーさ、さてと。休憩も終わりだな。俺ぁ一足先に鍛冶場に戻らぁ」
「…ワシも今日までデカさなきゃならん品があったわい」
「仕事、仕事っと…」
モミジの脅し文句を聞いて退散するドワーフ達。
…前にも見たぞ。こんな光景。
「チッ。…ったくよぉ」
「あはは」
「んで今日は依頼か?…すまねーけど鉱石をユウが補充してくれっから依頼の受注が早くてよ。…まだ、あたっかな…」
カウンターの受注書を漁る。
「いや、大丈夫だ。皆の仕事がスムーズに進むのは良い事だしな。それに今日はモミジに頼み事があって来たんだよ」
「オレに頼み?」
モミジに説明した。
〜数分後〜
「…一週間、危険区域で修行って。お前、これ以上強くなってどーすんだよ。今でも十分じゃん」
「決闘の内容を振り返ると色々と思うことがあってな。…たった一週間だが今より強くなりたいんだ」
「向上心があるのは悪くねぇーが…どーせ言っても聞かねぇんだろ。いいぜ。アイヴィー達の面倒はしっかり見てやる」
「忙しいのに悪い」
「気にすんな。オレとユウの仲だしよ」
姉御肌。モミジにぴったりな言葉だ。
「家にある物は好きに使ってくれて良い。お金もアイヴィーに渡しておくからさ」
「おう。キューとアルマもいるし泊まって良いんだろ?」
「ああ、助かるよ。でも良いのか?フィオーネ達も泊まるって言ってたが」
「関係ねぇーよ……それに将来は…その…住む…つもりだし…」
頰を赤らめてそっぽを向く。小声過ぎて後半なんて言ったか聴こえない。
…聞こえない様に話すのが流行ってるのだろうか?
「このお礼は必ずする。それと良い鉱石が見つかったら『巌窟亭』に持って来るよ」
「気にすんな。無事に帰ってきたらそれでいいさ。…あと帰ってきたら渡すもんがあっから楽しみにしとけ」
渡す物ってなんだろう。
「オレも仕事が終わったら行くからよ。アイヴィーに夕方までには行くって言っといてくれ」
「分かった」
暫しモミジと雑談に興じた後、巌窟亭を出た。
あとは家に帰って明日の準備をしよう。
料理も一週間分も作るとなれば時間が掛かるしな。
アルマとキューは大食らいだし。
食材や生活用品を買って家に帰った。
〜夜21時30分 マイハウス リビング〜
「……流石に一週間分の朝昼晩の食事を半日で用意するのは堪えた…」
ソファーに座り呟く。
帰宅後、直ぐに準備を始めたが大変だった。
料理箱に付箋を貼って料理を日にち毎に分けて…洗濯や家事をして…漸く一息ついてのんびりしている。
「そもそも自分の都合で家を空けるんだ。当然か」
必要になるか分からないが各種調味料と大量の食材を買い込み貪欲な魔女の腰袋に入れてある。
ーーーなーにぶつぶつ言ってんの。
そう言ってアルマが俺の膝上に登った。
「ただの独り言さ」
ーーーボケた?まだ30歳でかわいそうに…。
「ひでぇ」
家主に対して敬意が全くない。…そもそも誰の為に大量の飯を作ったと思ってるんだか。
ーーー…それにしても一週間ねぇ。強くなりたいってのは悪いことじゃないし頑張りなさいな。
「ああ。アルマも家のこと頼む。…もし必要なら」
ーーーわかってるわよ。見られちゃ困るものは魔法で隠すから安心しなさい。
「助かるよ」
ーーーちなみに何処に行くつもり?
「竜の巣って場所だ。竜種のモンスターが多い危険な区域らしい」
ーーー…竜の巣…ふぅーん。龍峰に繋がるとこじゃない。
「え、知ってるのか?」
ーーー昔、アジ・ダハーカって有名な『煌星龍』が居座ってた場所だからね〜。龍峰はあいつの寝ぐらだったけど…あの馬鹿もまだ彼処にいるのかしら。
アジ・ダハーカ…煌星龍…?
「竜の巣の更に奥がアジ・ダハーカの龍峰って呼ばれてるって聞いたが」
ーーーへぇー。だったら行って居るか見てきてよ。アジ・ダハーカならわたしの名前を言えば喜んで力を貸してくれるわよ。
「仲が良かったんだな」
ーーーええ。最初は生意気に喧嘩を吹っ掛けてきてね〜…その度にけちょんけちょんに返り討ちにしたわ……ぷぷ!あいつってば山を消し飛ばして泣きながら鼻水垂らして逃げたのよ?
「……」
ーーーそれからは敵わないって分かって大人しくなったの。面倒も見てやったし謂わば先輩と後輩みたいな関係ね。
…あかんやつだ。絶対に嫌われてんじゃん。しかも山を消し飛ばすモンスターを泣かせるって。
…アルマはマジで凶悪だったんだな。
「……お前が封印された理由を垣間見た気がする」
ーーーにゃによ失礼しちゃうわ。それと昔と同じなら龍峰に居る竜や龍は知能も高いし喋れる個体もいると思うわ。…あんたの加護があれば意思疎通も図れるし頭に入れときなさい。
「ふむふむ」
ーーー…ふぁ〜。今日はさっさと寝て休みなさいよ。明日から野宿なんだし。
膝から飛び降りてリビングを出るアルマ。…もしかして気を遣って様子を見にきてくれたのかな。
アルマの言う通り風呂に入って寝よう。
〜夜22時 寝室〜
寝室に行くとアイヴィーとキューが俺のベッドで寝息を立て天使のような寝顔で寝ていた。
「すー…すー…」
ーーきゅるる…。
銀色の髪を撫でる。指の隙間から流れる髪はとても触り心地が良い。…ここで寝てるのは俺が家を空けて離れる事が寂しいからだろうか。
「信頼されるってのは嬉しいもんだ」
「ん…」
寝返りを打つアイヴィー。
はだけた毛布を掛け直した。
「……」
起こさない様、隣で横になる。
アイヴィーの体温を感じながら眠りについた。
〜翌朝 マイハウス 玄関〜
朝日が昇り爽やかな空気。出発日和だな。
玄関で見送られる。
「行ってくるよ。遅くても七日目の昼迄に帰ってくる。朝昼晩の料理には付箋を貼ってるから…アルマとキューに食べさせ過ぎちゃ駄目だぞ?」
「うん。アイヴィーに任せて。悠が居ない一週間の間は私がアルマとキューの保護者で…家主だから」
アイヴィーが気合いたっぷりに返事をする。
ーーーふぁーあ…にゃむ…ふん。保護者はわたしだっつーの。…ま、不死耐性持ちなんだから少しぐらい無理しても大丈夫よ。
ーーきゅ!きゅー!
眠そうなアルマと元気なキュー。
「皆は夕方には来るから仲良くするんだぞ」
「うん。悠も頑張って」
ーーーいってらっしゃ〜い。
ーーきゅ。
「ああ。行ってきます」
竜の巣…果たしてどんな場所だろう。期待と不安に胸を膨らませ家を出て第6区画の転移石碑に向かった。




