決意の夜。〜強く在りたい〜
〜夜20時 マイハウス リビング〜
夕飯後、リビングで皆と和やかな時間を過ごす。
ーーー…あんたがこの子に全部、喋った日からずっとこの調子よ。
「アルマ。私の言ってることわかる?わかるなら尻尾を二回振って」
ーーー……。
アルマが面倒臭そうに尻尾を二回振る。
「…ふむふむ。アルマはお魚よりお肉が好き…」
ーーきゅー。
「ははは」
ーーー笑ってんじゃないわよ。…ったく。この子ったら書斎から辞典まで持ち出して古代語の練習をしてるのよ。…会得するまで何年かかるやら。
口ではそう言いつつもアルマは嬉しそうだ。
「悠。アルマはなんて言ってる?」
「一生懸命に話しかけてくれて嬉しいってさ」
ーーーちょ!
「よかった。アイヴィーは頑張って古代語を話せるようになるから」
ーーー…ま、まぁ。下僕が増えるのは満更でもないわ。見てる限り才能もあるしね。
闘技場の医務室で真実を伝えてからアルマと会話しようとアイヴィーは古代語の勉強に励んでいる。
贔屓目無しで見てもアイヴィーは非常に頭が良い。10才とは思えない程、博学で知識の飲み込みも早い。
加護で読み聴きできる俺には分からないが古代語の会得はとても難しいのだ。アルマ曰く単純な理解力や知識量だけでなく素質が必要らしいがアイヴィーには何方も備わってるそうだ。
幼い身でAランクに一人で上り詰めた実力を考慮すれば納得だな。
自分が褒められるより嬉しく誇らしかった。
「……」
…俺も変わらなくちゃいけない。そう思う。
「ちょっと聞いてくれ」
「なに?」
ーーー夜食なら今日は甘い物が良いわ。
ーーきゅー。
夜食って夕飯を食べたばっかだろ。
…気を取り直して、と。
「明後日から五日間…いや、一週間だな。俺は家を留守にしようと思ってる」
「クエスト?」
ーーーはぁ!?ふざけんじゃないわよ。ご飯は?わたしのご飯はどーすんのよ!
「アルマはちょっと落ち着け。依頼じゃないよ。特訓や修行って感じだな」
「修行?」
「ああ。…ルウラとの代理決闘で痛感した。今のままじゃ駄目だってな」
ーーー……。
「…悠は強いよ」
「違う。違うんだ。…俺が戦えるのはミコトの恩恵のお陰で…自分で努力して強くなったわけじゃない」
ーー…きゅー。
「強くならなくちゃ駄目なんだ。この力を十二分に扱い誰かのために奮うには。…ミコトの契約者である俺にはその責任や義務がある」
「……」
「自分の確固たる意志でそう思ったんだ」
ーーーふぅーん…。
右手を強く握り締める。
与えられた力に胡座をかいてたら宝の持ち腐れだ。
「あはは。柄になく語ったけど一週間程度だし単純に言えばレベルを上げたいって話だよ」
「なら私も行く」
ーーきゅう!
「いや、今回は一人で行くよ」
「……」
アイヴィーが頰を膨らます。
「拗ねるなよ」
「…拗ねてない」
ぷいっと顔を背ける。
「ほら。こっち来いって…よいしょっと」
「……」
抱きかかえ膝の上に座らせる。
「…なぁ。アイヴィーには俺が居ない間、家を守って欲しい。家族にしか頼めないことだ」
「でも」
「大丈夫。無理はしないさ。危なくなったら直ぐ帰ってくるよ。…だから、な?」
不安そうなアイヴィーの頭を笑って撫でる。
「……むう。わかった。悠が頼むならアイヴィーはしっかりお留守番するから」
「偉いぞ」
…と言っても流石に一週間も一人で過ごさせる訳にはいかない。アルマがいるし問題ないと思うが…。
面倒を見て貰えないか明日、誰かに聞いてみよう。
お金も多目に渡しておけば事足りる筈だ。
食事も料理箱に保存しておくし。
ーーー…仕方ないわね〜。ちゃんとご飯は作って行きなさい。わたしの魔法もあるし心配は無用よ。この子達の面倒は見ておくから。
顔を舐めながらアルマが言う。
「ありがとな」
ーーー…ふん。帰ってきたら超豪華スペシャルディナーだかんね。妥協は一切許さないわよ。
「アルマはなんて言ってる?」
「帰ってきたら豪華なご飯にしようってさ」
「それは楽しみ!」
ーーきゅきゅ!
「…ああ。そうだな」
そう。俺が守りたいのはこれなんだ。
ただ、普通に暮らしたい。最初はそれだけだった。
一人なら強くなる必要もない。
家族がいる今が俺の普通で当たり前なんだ。
この安らぎと平穏の幸せを脅かされたくない。
誰にも壊されたくない。
だから強くなりたい。
不安なんて感じなくなる程、強く在りたい。
団欒を満喫しながらそんな事を考えたのだった。




