ラウラとルウラ。④
〜翌日 金翼の若獅子 五階フロア 13
時刻は午前10時15分。
三階でミミちゃんにカードを見せ五階に移動しルウラの部屋の前に到着した。
ミミちゃんからは…。
『また来たにゃ。暇人め。働けにゃ』
…と嫌味を言われたがお返しに撫で回してやったら喜んでた。…まぁ、その後に引っ掻かれたけどな!
強烈な照れ隠しだぜ。
「流石に起きてるよな」
13位等級居室の呼び鈴を鳴らす。しかし反応がない。
もう一度鳴らす。
「……居ないのか?」
何度か連続で鳴らしてみた。すると鍵が外れる音と共にドアが開く。
「……騒音に溢れる殺意…ルウラのもーにんぐは人より遅い。…ふぁー…だれ?」
欠伸をして目を擦るルウラ。
大きなパーカーを羽織り下は何も履いていない。部屋着に文句つける気はないが下は履けばいいのに…。
「おはよう」
「…おー。ぐっどもーにん。ゆー…遊びにきたの?」
「ルウラと話がしたくてな」
「…いぇー。思いがけない来訪者。…とりあえず…るーむにかもん」
促され部屋に入る。
「お邪魔します」
〜13位等級居室 リビング〜
「………」
「ちょっと散らかってる。退かせばのーぷろぐれむ」
「…ちょっと…だと…?」
物が散乱した部屋。…服や置物…ゴミに食器…これは…おいおい下着も放りっぱなしかよ。
ひ、ひぃ!?
…い、今!でっかいゴキブリみたいな虫が…。
「……駄目だ。話の前に掃除させてくれ」
「すいーぷ…ほわい?」
「こんな汚部屋で話ができるか!」
落ち着いて話も出来ねぇ。虫が這いずる部屋でよく寝れるな。……女の子が無頓着過ぎるだろ。
「ひどい。汚部屋は言い過ぎ」
「いいから掃除用具は?」
「えーっと…あんのん」
「………」
指を咥えてぼんやりと呟く。
「…買ってくるから整理しとけよ!」
「さー」
下の売店に雑貨品も確か売ってた筈だ。
俺は急いで一階の売店に向かった。
〜2時間後 リビング〜
「ぜぇ…ぜぇ…」
「おぉー。びゅーてぃふる」
馬車馬の如く掃除に没頭し瞬く間に時間が過ぎた。
……リビング以外も目眩がする汚さだったが何とかなるもんだな。大量のゴミ袋の山は後日……いや、持って帰って俺が捨てよう。ルウラは放置しそうだし。
「半年ぶりにふろーりんぐを見た」
「半年!?」
「いえす」
し、信じらんねぇ…。
「…今度から定期的に部屋を掃除するんだぞ」
「ぴゅーぴゅー」
あ。こいつ絶対する気ねぇな。
口笛吹いて聞いてない振りしやがって。
「…ないすあいでぃあが閃いた。ゆーにルウラのらんじぇりーあげるからまた掃除して」
「いらん」
「ほんとは欲しいくせに。すいーぷ中にルウラのらんじぇりーを手に取って凝視してたの知ってる」
「凝視してたんじゃない。洗濯か捨てるかで悩んでたんだよ」
「生がいいの?…わたしも恥ずかしいけど…なら履いてるの脱ぐ。…ゆーって…えっち」
頰を赤らめるルウラ。話を聞け。
「…取り敢えず下を着て来い」
「ほんとにいらないの?」
「いらん」
「…甲斐性なし。あ。はんぐりー…ゆー。着替えてる間にくっくして」
自由人だなぁ。…台所を掃除してる時に腐った食材しかなかったから捨てたし…ったくしょうがない。
腰袋に確か適当に食材が入ってた筈だ。
それで料理をしよう。
〜40分後〜
「でりしゃす」
「喜んで貰えて何より」
簡単にオムレツと野菜炒めを作ってやった。ルウラはぱくぱくと食べている。
普段、出来合いの品ばかり食べてるのは部屋に散乱してたゴミの容器で分かった。
出来合いの品が悪い訳ではない。ただ、毎日だと偏りも出るし飽きもくる。体に良くないしね。
「くっくが上手。毎日食べてるがーるが羨ましい」
「自分で作らないのか?」
「えいよー。ばとるの腕は神並み。けど料理の腕は猿並み。神が与えた二物。…作る料理は汚物。あいぇー」
「なるほど」
料理は下手らしい。
「ふぅ。お腹いっぱい。さんきゅー」
「ああ。…なら早速だが話を聞いて欲しいんだ」
「おっけー」
〜5分後〜
ルウラの謹慎処分を解く為にもラウラと仲直りして欲しい事を説明した。それに金翼の若獅子の腐敗撤廃と体制改善の為にラウラとエリザベートに協力して欲しい事も。
話を聞き終えたルウラは不満げな顔をする。
「…わたしが謝罪ってのは…どぅー…らいくのっと。ラウラが謝るなら謹慎処分を解かれてやってもいい」
すっごい上から目線だな。
「関係ない一般人を怪我をさせたのは事実だろ?それに疑わしきは罰せよって言ってたが……疑わしいのはGMと数人の幹部だけって事前に情報はあったらしいじゃないか」
「……いえす」
少しばつが悪そうに頭を掻く。
「勘違いするなよ。別に俺はルウラを責めてる訳じゃない。実際にその現場を見てないし居なかった。…ただ、家族が仲違いしたままじゃ嫌じゃないか?…それに謹慎処分が続くのも詰まらないだろ」
「ふぁみりーはルウラに無関心。ふぁざーもぶらざーも…ラウラも…誰もわかっちゃくれないルウラの本心。謹慎処分が続いても誰も気にしてない」
「俺は気にしてる」
「…ゆーが?」
驚いた顔をして首を傾げる。
「ああ。ルウラは強い。…窮屈に感じるかも知れないが正しくその強さを活かして欲しいんだ」
「…ただしく?」
眠たげな双眸が俺を真っ直ぐに捉えた。
「ああ。…ルウラより弱い俺が言っても説得力がないが強さってのは一種の特別な権利と同じだと思う。他者をねじ伏せて自分の意思や意見を通す事が出来る」
「……」
「強者たる所以の特権って言えばそれまでだがな。…じゃあ戦闘が出来ない弱い人達はどうなるって話だ。誰もがルウラの様になれるか?」
「のー」
「そう。なれない。…だから特別なんだ。力を自分の為に行使するのは悪い事じゃない。でも…ほんの少しでも…誰かの為にルウラが力を使えばそれを喜ぶ人がいる」
「喜ぶ、人」
「少なくとも俺は嬉しい。きっとラウラだってな」
「……」
「ちゃんと謝れば許してくれるさ。一人で謝るのが嫌なら俺も付き合う。…それで駄目でも俺は無関心になったりしない」
「関係ないのにどーしてそこまでするの?」
「ただのお節介だ。…それに俺達は仲間じゃないか」
「あ」
ルウラの頭に手を置き優しく撫でる。
「……」
気持ち良さそうに目を細めた。
「…わかった。納得したわけじゃないけど…ゆー…が喜ぶなら………謝る」
ルウラは変わってるが悪い子じゃない。個性的過ぎて敬遠されるのだろう。親の地位や立場も関係しているかもしれない。
ちゃんと向き合って話せば分かってくれるってどこか予感はしてたんだ。
「ありがとな」
「…ルウラが協力したら…ゆーもはっぴー?」
「もちろん。でもルウラが嫌な事を無理にしなくていい。出来る範囲内で協力して欲しいだけだ」
「おっけー。いいよ」
よし!説得できたな。慣れない事を言った甲斐があった。…やっぱり兄妹は仲良くすべきだよな。
「いい子だ」
「むぅ。子供扱いはのーさんきゅー」
「悪い。気安く撫でてごめんな」
「……それは…もっとしていい」
「そっか?」
「うん…」
体を寄せ甘える。その後、ルウラと一緒に八階の執務室へ一緒に向かった。




