異世界を学ぼう。①
〜数日後 モーガン宅 書斎〜
あれから俺はモーガンさんの家の書斎で基本的なこの世界の知識と教養を教えて貰った。
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〜人について〜
この世界の人種は大きく分けて二つ。
『人間』
・他の種族より短命で力も弱いが世界の総人口の大半を占め俗にヒュームと呼ばれている。文明の発展が著しく科学力に優れた種族。
『亜人』
・様々な特徴(動物・魔物)を持った種族。種族によって特殊な技能を持ち戦闘に優れているがヒュームより文明の発展や科学知識に劣る。俗にデミと呼ばれる。
〜その他の生物について〜
『魔物』
・通称はモンスター。幅広い種類の系統群を持つ生物。独自の生態系を保ち世界中に生息し広い活動範囲を持つ。高い知能を持ち言葉を理解するモンスターも稀に存在する。基本的に人間や亜人を敵視し攻撃してくるため危険である。
『動物』
・地球の動物と余り変わりはない。ただ環境に応じて魔物に変異する場合がある。
〜言語について〜
・共通言語の『ヘブラ語』と古代語の二種類に分類される。理屈は不明だが俺の話す日本語はヘブラ語に該当するらしい。古代語は古の時代の言語で今は使われていない。
〜世界の情勢について〜
パルキゲニアは強大な五つの代表的な国家がある。
『帝国ガルバディア』
・西にある強大な軍事国家で広大な領土を持つ大国。高度な科学文明を持ち人間が最も多い。
『ルルイエ皇国』
・東にある大国。昔から帝国との戦争が絶えないが和平条約により今は落ち着いている。王政であり奴隷制度が根強く人間と亜人が混在する。
『ミトルゥー連邦』
・南にある無数の国々の連合国家。禁域シャングラもミトルゥー連邦内にある。冒険者ギルドと呼ばれる組織が国内外問わず活躍し亜人が最も多いのが特徴。騎士団と呼ばれる治安維持組織もある。
『聖都ラフラン』
・北にある五大国家で一番小さな都市国家。ネフィリム教と呼ばれる宗教の総本山。歴史が一番古い。
『アレスタ』
・東の海を越えた先にある独特の文明を築いている国家。発達した造船技術を持ち世界有数の商人ギルドと職人ギルドがある。
〜通貨について〜
『G』
・紙幣や金貨は呼称。日本円にすると1円=1G。
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寝落ちしかけそうになったが必死に覚えた。
他にも教えて貰ったが地球との共通事項も多くその点は非常に助かった。…今は部屋で明日に備え休んでいる。
〜夜21時40分 モーガン宅 客室〜
「明日から戦闘訓練なんだよなぁ」
寝転び天井を見上げ呟く。ここまでは簡単な座学だった。
問題は戦闘の訓練…。
「…こうなるなら格闘技とか剣道を習えば良かった。愚痴っても仕方ない事だけど」
不安を感じつつも早目に就寝した。
〜翌日 午前9時15分 空き地〜
俺とモーガンさんが対峙する。家から離れた広い空き地に移動し訓練が始まろうとしていた。
「今日から戦闘訓練になります」
「…はい」
「不安ですか?」
「正直、めちゃくちゃ不安です」
「ふふふ。大丈夫ですよ。あくまで訓練なのですから」
「で、ですよね!」
「酷くても骨折する程度です」
骨折する程度!?大怪我じゃん。
「それでは始めましょう。最初に戦闘数値と能力の説明をします」
「あびりてぃ?」
「アビリティは耐性・戦闘技・魔法・奇跡・呪術・才能の各種総称です」
「ふむふむ」
「先ずは戦闘数値から。パラメーターは自身の身体を細かく分類し数値化したものです。これらの数値は戦闘において重要になります。…例えば悠さんは筋力の数値が高いですがこの数値ならば巨大な岩を砕き鉄でも素手で引き千切れるでしょう」
いつのまにかスーパーマンになってたわ俺。
「耐性はパラメーターの精神・狂気・信仰・神秘の数値に影響を受けエネルギーのダメージを軽減…もしくは吸収できます。例えば火に対する耐性が高ければ火傷を軽減し吸収しHPが回復するわ。逆にこの耐性が低いと弱点となり急所となりますが」
俺の場合だと聖属性がヤバいっつーわけね。
「次に戦闘技です。これは固有の技を使い敵を攻撃します。筋力・技術・敏捷・体力の数値が高い程、効果を発揮しますが戦闘技はHPを消費して技を繰り出す。…後先考えず多用すると瀕死状態になりその状態で攻撃を受ければ死ぬわ。HPに注意して使って下さい」
「そして魔法。これは五大元素をMPを使いエネルギーに変え超自然現象を引き起こす手段です。魔力の数値が高ければより強力な様々な現象が起きるでしょう。基本的な五大元素は火・水・氷・土・風。…例えば海は水の元素が豊富なので水魔法の威力が上がりますが火の元素は少ない為、火魔法の威力は下がります。全ての人が五大属性の魔法を使える訳ではありません。適性があり自身に適した属性が魔法にも反映される……悠さんは闇でしたね?」
「そうでした」
「五大元素以外の属性を使える者は少ないです。特に闇属性は威力が高い分、扱いが難しい魔法になります」
…マジか。
「説明を続けます。奇跡は魔力・信仰・精神・神秘が影響する魔法とは違ったアビリティです。MPを消費して神々の御業をこの世に顕現させる事ができるわ。呪術は…文字通り呪いを操ります。威力が高く広範囲に影響を与えたり自身を強化するアビリティが無数にありますが…術者は代償を払い力を執行する。悠さんが呪術のアビリティを無数に習得しているのは恐らく契約した女神の力が顕著に影響しているのでしょう」
「……」
「但し使い方を間違わなければ大きな力になる。暫くの間は戦闘技と奇跡以外のアビリティを使い練習をして貰います。悠さんの奇跡は今使える奇跡ではありませんしね。戦闘技は後日、ケーロンに相談してからにしましょう」
「ぜ、全部ですか?」
「当然です。どんな威力で…どんな効果があるか…ご自分で理解していないと意味がない」
「どうやったら使えるか分からないですし…」
「スキルを使う時と同じく感覚だから簡単ですよ。全てのアビリティに通じますが覚えるまでが一番大変なの。…では標的を作りますので試してみましょう」
モーガンさんが左手を地面に添える。
「出でよ」
ーー……。
土が盛り上がり巨大な土人形が出現した。
「す、すっげぇ!」
「幾ら壊しても問題ないですよ」
「…じゃあ早速、いきます」
〜1時間後 空き地〜
「…はぁ…はぁ…はぁ」
「…大した威力でしたね。初心者には有り得ない事です」
結果から言えば闇魔法と呪術は威力が高い。呪炎とフィアーは効果を発揮出来なかったけど。
…特に呪術はやばい。
黒蛇纏いは右腕から無数の黒蛇が纏わりつき意のままに操れた。巨大な拳にしたり伸ばして捕まえたり…触手っぽい。
某国民的映画の主人公みたいじゃん。
這い寄る白蛇はでかい大蛇を召喚した。最初は怪獣かと思ったが一瞬でゴーレムを飲み込んでしまった。
凄い威力だけど燃費は悪い。一回使っただけでMPが切れ左手から突如、裂傷し出血した。
血を代償にするとはこういう事らしい。
闇魔法もMPの消費も激しいし多用は出来なさそうだ。
…それにさっきから怠さが酷い。頭もガンガンするし貧血みたいな辛さ…。
「…はぁ、はぁ…なんだこれ?」
「MPを使い果たすと『魔素欠乏症』と呼ばれる症状が発症します。悠さんが正に陥っている状態ですね。戦闘でこの状態になれば致命的なのでMPの使い過ぎにも注意しましょう」
「了、解…です」
「暫し休憩後、次は魔法耐性の効力をを経験しましょうか」
「ふぇ!?」
「大丈夫です。威力はかなり下げますので」
上品に微笑むモーガンさん。
やっぱつれぇわ……異世界。
「他にも戦闘に関する知識・技術・応用法は星の数ほどありますが……それは置いておきましょう。詰め込み過ぎても仕方ないので」
「あ、あい…」
この夜は全身が筋肉痛で眠れなかった。それから約一ヶ月間はこの拷も…じゃなく訓練を繰り返した。
魔法と呪術を使って休憩後、わざとモーガンさんの魔法を食らう。
お陰で訓練後は火傷や青痣だらけ。何回か骨折もしたが耐性の効果もあり大概は一日で治った。…スキルすげぇ。
モーガンさん曰くこの訓練の意味は能力の便利性と脅威を知ること。
知らずに魔法・呪術・奇跡を使えば簡単に人を殺してしまうし殺されてしまう。
…確かにそうだ。モーガンさんに魔法の威力を下げて貰ってなかったら俺は死んでる。
もし契約してない状態の初期パラメーターで魔法を食らってたら……考えただけでも恐ろしいぜ。
そう考えると祟り神と契約できたのはラッキーだったのかも。
デメリットを上回る恩恵を受けている。
体も軽く信じられないぐらい速く動くし岩も軽く殴れば本当に簡単に砕けた。
アメコミのヒーローみたいだ。
「…ありがとな。祟り神様」
明日はミドさんとケーロンさんの家に行く。
疲れたしもう寝よう…。
その夜、白と黒の大蛇にひたすら巻きつかれる変な夢を見た。