ラウラとルウラ。②
〜金翼の若獅子 三階フロア〜
二階から続く螺旋階段を昇ると獅子のレリーフが飾られた扉があった。
「はー…」
扉を開き思わず感嘆の声が洩れる。
天上で光を放つ水晶のシャンデリアが並びフロア一帯にはワインレッドの優良で触り心地の分厚い絨毯が敷かれている。
極め付けは壁一面に広がる巨大なアクアテラリウム。
見た事がない魚や生き物が優雅に泳ぐ。
二階を軽く上回る鮮麗さだった。
「すげー…」
反面、殆ど人が居ない。
豪華なだけに寂しくも感じる。
受付カウンターに行ってみよう。
〜 三階 受付カウンター 〜
「すみません」
「……」
撫子色でゆるふわパーマの短いツインテールに揺れる猫耳。大きなつり目が特徴的な可愛らしい少女が尻尾を逆立て俺を睨んだ。
「…子供?」
ギルドガールの制服を着てるがアイヴィーと同い年位に見える小さな女の子。
「だれが子供にゃ!…こほん。受付嬢兼『金翼の若獅子』所属のSランクメンバー…ランカー序列第31位『エルセロの闘猫』ことミミ・ブリティッシュヘアを知らにゃいとはとんだ田舎者にゃ」
「大人をからかっちゃ駄目だぞ。ミミちゃんはギルドガールの見習いか?」
「からかってないにゃ。だいたいミミは29歳の大人のレディにゃ」
「…にぃじゅうきゅうさい〜?…俺の一つ下には見えないぞ。うりうり」
「にゃふぅ。にゃにゃにゃー…あ!こ、こら。気安く耳を掻くにゃ!」
右耳を優しく掻くと手を叩かれた。
…気持ち良さそうにしてたのに。アルマと同じで素直じゃないな。
「だいたいお前は何者にゃ!三階はSランク以上のメンバーしか来ちゃダメにゃんだぞ」
「おっと自己紹介がまだだったな。俺は黒永悠。ルウラを探しに来たんだがミミちゃんはルウラが何処にいるか知らないか?」
「ユー…?…にゃふ!…お前が有名な…あの…。この間の代理決闘でルウラさまに勝ったって噂の無所属登録者かにゃ!?」
耳がぴーんっと立つ。大きな瞳が更に見開いた。
「勝ってないよ。…いや、勝ったけど実力じゃ遠く及ばなかったし」
「ふーん。へぇ。こーして見るとにゃかにゃかの…」
値踏みする様な眼差しで俺を見るミミちゃん。
なんだよ。中々のいい男ってか。男を見る目が…。
「変態面にゃ」
…全くない。節穴も良いとこだ。
どこをどう見て変態面なんだよ。
「初対面の人に変態面は失礼だぞ」
「初対面の人の耳を触る奴のほーが失礼にゃ」
「スキンシップだよ。ほら」
「にゃんにゃー…にゃふ!?頭を撫でるにゃ!」
かわいいな。じたばたする姿も愛くるしい。
「ご機嫌よう」
背後から声がして振り向く。
全貌を隠す兜と青い薔薇が彫られ美しく磨かれた銀の鎧。兜の襟から流れる白金の髪と白の外套のマントを翻す謎の人物。
同じ薔薇の鎧を装着した従者を従えている。
「ベアトリクスさま」
「ベアトリクス?」
「…知らにゃいとかマジかにゃ。ベアトリクスさまは『金翼の若獅子』所属でSSランクの序列第6位で上位級の一人にゃ。『荊の剣聖』にゃ」
「ふふふ……私の名はベアトリクス・メリドー。お逢いするのは初めてね」
作法がしっかり身に付いた立ち振舞い。
上位ランカーの一人と邂逅した。
「どうも。黒永悠です」
「活躍は予々、噂で聞いてますわ。…それに先々日の『舞獅子』との決闘も直で観戦したの。御強いのね」
「ルールに助けられただけです。実際は完敗ですよ」
「それでも勝利は勝利。…そうね。此処でお会いしたのも何かの縁。一緒にお茶でもどうかしら」
「…あー。用事があるのでまたの機会に」
「にゃ!?」
背後の部下から不穏な殺気を感じる。
…なんでぇ?
「残念ね。…悠ならSランクへ昇格するまで時間も掛からないでしょう。その時に改めて御誘いするわ。ではご機嫌よう」
部下と共に去っていくベアトリクスさん。
「お前は度胸があるにゃ〜」
「度胸?」
「ベアトリクスさまは気に入った見込みのある奴をお茶に誘って勧誘するにゃ。初対面で誘われるなんて目を掛けられてる証拠にゃ。それを即答で断るなんて…怖いもの知らずもいいとこにゃ」
「そんなの知らなかったし」
「あの後ろに控えてたのも全員A〜Sランクの所属登録者にゃ。ベアトリクスさまを信奉してる直属の部下達……その名も『鉄騎隊』。実力は折り紙付きにゃ。主の誘いを断るなんて万死に値するとか思ってる連中にゃ。せいぜい夜道で襲われにゃいよーに気をつけるにゃん」
誘いを断っただけで襲うとか通り魔より酷い。
「……まぁいいや。話を戻すがルウラを知らないか?」
「五階の自室にいると思うけど通せにゃいよ。五階は上位ランカーの居住フロアにゃ。行きたいなら紹介カードを出せにゃ」
「紹介カード?」
「上位ランカーが信頼する友人や知人に恋人……もしくは家族に渡す五階への通行許可証にゃ」
通行許可証なんて持ってな…あ!
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『吾はSSランクだ。このカードを渡しておこう。気が変わったら何時でも三階受付カウンターにこれを見せ給へ。…吾の部屋に案内してくれる』
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「これか?」
腰袋からエリザベートから貰ったカードをミミちゃんに渡す。
「…うん。間違いなくエリザベートさまの紹介カードにゃ。変態面のくせに顔が広いにゃんね」
変態面のくせには余計だ。関係ないだろ。
「五階への通行を許可するにゃ。あっちにある昇降機から行けるにゃ。エリザベートさまの部屋は11号室でルウラさまは13号室にゃん」
エリザベートに感謝しなきゃ。
ルウラの部屋に行く前に挨拶しとこ。
「案内をありがとな。ほら、ご褒美の飴ちゃんだ」
「わーい!甘いの大好き〜…って子供扱いすんにゃ!どーせならもっと良いもん寄こせにゃ」
ミミちゃんに飴を渡して昇降機で五階に向かった。
〜五階 居住フロア〜
だだっ広いフロアは人の気配がしない。
「1号室…」
扉に部屋の番号が割り振られてるが…次の部屋まで距離が長過ぎる。何LDKあんだっつーの。
〜10分後〜
「11号室。ここだな」
扉の横についてる呼び鈴を鳴らす。
少し間をおいて扉が開いた。
「誰だ…おっと。くくくっ。悠じゃあないか。珍しいお客様の来訪だ」
「急に来てすまないって…その格好…」
「部屋着ですまないね。…似合ってるだろう?」
ナイトキャップにふりふりのゴシック調のパジャマ。
子供っぽいとゆーか…年齢にあってないとゆーか…。
違和感が半端ない。
サイズも無理して着てるからかぴっちりしてる。
「あ、ああ…うん。かわいいと思う…」
「やはり悠はセンスが良い。吾の見込に間違いは無かった。立ち話もなんだ。部屋に入り給へよ」
喜色満面で嬉しそうなエリザベートを前に似合ってないとは言えなかった。




