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ラウラとルウラ。①




〜 午後15時 金翼の若獅子 一階受付カウンター 〜



「あ、悠さん。こんにちわ」


「お疲れ様。ソロオーダーかGランクの依頼はある?」


「現在、何方の依頼もありません。…それより代理決闘の怪我は大丈夫ですか?」


心配そうにフィオーネが顔を見る。


「もう治ったよ」


「『舞獅子』…ルウラさんと戦ったとアイヴィーちゃんから聞いた時は心臓を口から吐き出しそうになりましたよ…」


「あははは」


「可笑しいですか?」


「…笑ってすみません」


フィオーネは穏やかに微笑んでるが目が全く笑ってなかった。これ怖い…。


「……はぁ。無茶をしないで、とお願いしても聞かないでしょうね」


「善処するよ」


「もう!目が泳いでますよ。…でも、無事で良かったです」


「ああ。…ルウラは滅茶苦茶、強かったよ。手加減されてあの実力だからな。普通に戦ってたら勝てる気がしない。俺の完敗さ…ん?」


「どうかされました?」


周囲に居たメンバー達が俺をひそひそ話をしている。


「周りがちょっと気になって」


「ふふ。悠さんは完敗と仰ってますが上位ランカーと決闘して勝ってますからね。注目を浴びるのは当然でしょう。…益々、有名人になっちゃって…最初に出会った頃が遠い昔のように感じます」


しみじみと呟く。


「そっか?」


「ええ。…兎に角、私が言いたいのは悠さんが無茶ばっかりすると憂虞して夜も眠れなくなるって事です。安眠妨害ですよ。…次は添い寝して貰いますからね?」


…フィオーネに添い寝…想像したらやばいな。


ナニがやばくなるのかは内緒だけど。


「と、歳上をからかうもんじゃないぞ」


「うふふ」


人で賑わってきた。これ以上、仕事の邪魔をしちゃ悪いし切り上げよう。


時計を見ると午後15時20分。


帰るにはまだ早い。


…時間もあるしラウラに会いに行こう。


昇降機で執務室に移動した。



〜八階 GM執務室〜



「失礼しまーす」


「やぁ。ちょっと座って待っててくれ。…『テオムダル』とベルカ北街道の開拓路建設の護衛承諾書にサインはしてあるから役所の建設課に届けてくれ。そっちの解体業者への手配料の計算はやり直しだ。端数が解体数と合ってない。それからーー」


数人の職員へてきぱきと指示を出すラウラ。


聖徳太子みたい。よく捌けるな…。


間が悪い時に来ちゃったみたいな。


…ギルド職員の暇人め…と言わんばかりの冷たい視線に耐えながらソファーに座り待った。


〜15分後〜


「ごめん。随分と待たせちゃったね」


「いやいや。こっちこそ仕事中にすまない。…出直した方が良いか?」


「ひと段落したし気にしないで。僕も君と話すのは良い気分転換になるからさ」


ラウラが紅茶を淹れてお菓子を用意した。


ティーカップを持ち茶を啜る……あちっ!


「怪我の具合はどうだい?」


「もう大丈夫だよ」


「そう…。闘技場でも言ったけど僕の妹が済まなかった。何度、謝っても気懸りでね…」


「だから気にすんなって。別にルウラも悪い事はしてないだろ?俺が弱かったから怪我したんだし」


「気遣いは嬉しいけどあの子は理由なくで君に絡んで怪我をさせたんだ。…昔からそうだが責任感が全くない。…それに『蝦蟇の貯金箱』がユーリニスの関係してる商人ギルドとは知ってたが…まさか自分の身内が関わるなんてね。…溜め息しかでないよ。僕に対する嫌がらせとしか思えない」


目を伏せ疲れた様に息を吐く。


…やっぱり仲は良くなさそうだ。


言葉の端々に棘を感じる。


「実はあの時は黙ってたがラウラ達が来る前にルウラも医務室に来てたんだ」


顔を上げるラウラ。

その瞳は驚愕し怒りで揺れている。


「…何かされたんじゃ……まさか決闘の続きを要求されたのか!?…だったら僕か引導を渡す。二度と近付かないよう責任を持って躾けるよ」


「違う違う!怪我をさせたのを気にして見舞いに来てくれたんだ。話してみたらいい子だったよ」


盗み聴きはされたけどな。これはラウラに言えない。


…それにしても実の妹に引導を渡すって。


「…ルウラがいい子って…本気で言ってるのかい?」


「まぁ…独特な口調でちょっと…悪い。結構、変わってる子だけど俺は嫌いじゃない」


「悠はルウラを知らないんだ。…あの子は問題行動ばかり起こす。冒険者ギルドの規約も無視するし只の戦闘狂だ。上位ランカーになってからもずっと変わらない。…それまでは我慢してた。五ヶ月前に違法薬物を扱った商人ギルドを騎士団と取り締まる共同依頼で蛮行を働くまではね」


ルウラからも聞いた話だ。


「…違法薬物に関わったのはGMと数人の幹部のみなのにあの子は関係ない一般市民や職員まで全員に攻撃した。幸い死傷者は居なかったのが救いだよ。…当然、罪もない人達に怪我をさせたんだ。『金翼の若獅子』に非難が殺到して緊急会議でルウラを無期限の謹慎処分にしたのさ。……騎士団に突き出して逮捕して貰えば良かったと今は後悔してるけど」


「ふむ。ルウラの言い分は聞いたか?」


「疑わしきは罰する…とか言ってたけど常識的に考えて全員を攻撃する理由にはならないよ」


ラウラの話を聞くとまたルウラの話も変わってくる。


「怪我をした一般市民や職員が可哀想だし…まぁ…確かに蛮行だな」


「だろう?」


直ぐに仲直りって訳にはいかなそう。


…何故、ルウラに拘るのか?


それには理由がある。


俺はラウラとルウラが組めば金翼の若獅子の体制改善に大きく前進すると考えたからだ。


兄妹が意気投合した姿を見れば他のメンバーも付いていく気になるのでは…と。


それにラウラ・ルウラ・エリザベートの三人が一丸となれば派閥としても大きな力を持つ筈。


ユーリニスや他の上位陣に負けない程の。


それ以前に家族の仲違いは悲しいしな。仲直りの手助けが出来ればと老婆心ながら思っていた。


「…ルウラが反省して謝ったら謹慎処分を解くつもりはあるか?」


「謝る?そんなの絶対にないと思うよ。小さい頃から謝られた事は一度もない」


「仮の話で」


暫く悩んで答えた。


「…謝罪して許される事じゃないが…反省してるなら謹慎は解いても良い…とは思う。僕の一存だけで決めれないが」


良し。言質は取ったぞ。


「そっか。わかったよ」


「ルウラの話は止めにしよう。…それより悠の話が聞きたいな。決闘で見せた力について…とか」


「医務室でも言ったが機会を見て話すよ」


「…つれないなぁ。残念だ」


ラウラはルウラの兄より姉って感じがする。


「なぁラウラ。ちょっと頼みがあるんだが」


「悠が頼み事なんて珍しいね。何だい?」


「結んでる髪を解いてみてくれ」


「…?…良いけど」


襟足で結んでいた髪を解く。腰まである艶やかな灰色の長髪が揺れる。


髪を下ろしたラウラは…。


「おぉ…」


「さっきから変だよ。じっと見詰めて」


「…女性にしか見えない。男とは思えん…」


…並の女性では太刀打ち出来ない程、綺麗だ。


「……」


無言で髪を結び直すラウラ。


「兄妹ってよりまるで姉妹みたいだな」


「そ、そうかな?」


「ああ。髪を下ろしたラウラと街中で会ったら普通に気付かないでナンパしちゃうかも…なんてな。ははは」


「……」


え、なんで真顔なん。


「ラウラ?」


「……あ、うん」


暫く雑談して執務室を出た。


ルウラとも改めて話さないと……確かSランク以上は三階のフロアだっけ?


行ってみるか。



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