報酬を貰おう!〜オーランド総合商社〜
〜2日後 オーランド総合商社 四階 執務室〜
代理決闘から二日が経過した。
時刻は午後14時。俺はオーランド総合商社の執務室に来ている。要件は代理決闘の報酬金についてだ。
レイミーさんが淹れてくれた珈琲を飲む。
…うむ、美味い。
「怪我の具合は?」
「お陰様で問題ないです。大抵の傷は休めば自然に治る体質なんで」
「成る程。あの力を見れば貴方が只の人じゃないのが非戦闘従事者の私にも分かります。特異なスキルや耐性をお持ちなのですね」
「…ちょっと色々あるので」
言葉を濁す。
「前々日、医務室で冒険者ギルドの方々とのやり取りを見て察したから深くは聞きません」
「すいません」
「謝る事じゃないわ。悠さんの正体に非常に興味がありますが……当社はチケット販売で利益も得ましたし事業展開予定の土地も手に入れました。それだけで充分です」
「頑張った甲斐がありましたよ」
「ええ。…それと報酬金をお渡しします。チケット代金分を上乗せして500万Gです。受け取って下さい」
…500万Gね。札束を五つ渡された。
「相手が『金翼の若獅子』の上位ランカーだった事も考慮した金額よ。…正直に言えばあの時、劣勢の悠さんを見て棄権を申し立てするつもりでした。『舞獅子』に止められましたけど」
「……」
一つ手に取り札束を四つレイミーさんに返す。
「レイミーさん。報酬金は100万Gで充分です。残りの400万Gはベルカ孤児院に寄付して下さい」
「…一体、何故ですか。折角の報酬金をどうして?」
理解できないって顔だ。
「俺は勝ってない。実質、負けてます」
「過程はどうあれ勝利に変わりは無い。正当なルールの下で悠さんがもたらした結果よ」
「…その過程が伴ってないのが嫌なんです。結果は大事ですが過程を大切にする性質なので。あの内容で500万Gも受け取る訳にはいかないですよ」
「……」
「それに子供達の声援が無ければ心が折れ諦めてたかも知れない。…元々、決闘を受けた理由もお金の為じゃなくあの子達の為だ」
「やけに孤児院に肩入れしますね」
「んー。まぁ、俺自身が施設育ちですから。個人的に感情移入してるってのは否定出来ないかな」
「成る程。ならば400万Gは孤児院に寄付します」
「ありがとうございます」
「いいえ。報酬金の使い方は悠さんの自由です。…ただ、一つ忠告します。貴方の優しさは危うい。…誰かの為に何かをするのは賞賛される行為よ。でも、その純真さを利用する輩も必ず居る。…騙され無いように気を付け下さい」
目を細め諭すような口調で話すレイミーさん。
「肝に銘じます」
そう返事をして報酬金を腰袋に入れた。
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所持金:660万G
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「ナタリアさんからお礼を伝えて欲しいと言われましたが……一度、ベルカ孤児院に直接行ってみては如何ですか?子供達も喜ぶでしょう」
「そうですね。孤児院も見てみたいし」
「丁度、私も視察で百合木の月14日に孤児院へ行きますのでご一緒しますよ。待ち合わせは第30区画の転移石碑前に午前9時でお願いします」
「了解です。…っともう、こんな時間か。そろそろ行きますね。珈琲をご馳走さまでした」
「そういえば」
執務室に出ようとして呼び止められた。
「…あの時、私に笑った方が良いと仰ってましたが…あれは冗談ですか?」
代理決闘の始まる前のやり取りの事か。
「本心ですよ。レイミーさんは普段も綺麗だけど笑った顔はもっと綺麗でしたから」
「…………そう、ですか」
「ええ。それじゃまた」
執務室を出て昇降機に乗る。
…最後のあれは何だったんだろ?
ま、いっか。金翼の若獅子に行こう。
〜10分後 執務室〜
「……」
鏡の前で指で口の端を吊り上げるレイミー。
「これじゃ変顔ね」
悠が退室した後、鏡とにらめっこをしていた。
引き攣った笑顔は余りにも不自然極まりない。
「…はぁ、馬鹿馬鹿しい。私は何をやってるのよ」
溜息をついて仕事に戻った。
暫く仕事を続けたが不意に悠から言われた言葉を思い出しペンが止まる。
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『本心ですよ。レイミーさんは普段も綺麗だけど笑った顔はもっと綺麗でしたから』
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「……ふふ。変な人ね」
本人は気付いていない。
そう呟いた顔には自然と笑みを浮かべていた事を。




