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咲き乱れる空華乱墜。④



〜午後14時 闘技場 リング〜



小っ恥ずかしい実況と共にレイミーさんと入場。


リングサイド付近の席にアイヴィー達を見つけた。ナタリアさんやベルカ孤児院の子供達もいる。


会場の響めきで声援は聴こえないがラッシュとメアリーが手を振っている。手を振り返し応えた。


…あ、上段の席で物凄い形相で叫んでるのはアルバートだ。イージィに殴られてるじゃん。


見知った顔が結構多い。中には堅気に見えない一般人とは明らかに違う雰囲気を醸し出してる奴等もいる。


吟味するかの如く直視されていた。


向こう側の席にユーリニスが座っていた。数十人の同じ服を着た配下っぽい面子が囲んでいる。


「…観客の入りは上々ですね。今更ですが怪我はしないで下さいね」


「心配してくれるんですか?」


「ええ。怪我をされて戦闘労働災害保険…戦労災の申請は手間ですので。代理決闘のチケット収入で元手は回収しましたし綺麗に決着をつけて終わりましょう」


「…やる気の漲るお言葉をありがとう」


「いえいえ。それ程でも」


嫌味が通じない。本当に無表情な人だ。


折角の美人が勿体無いぜ。


もう少し可愛げが欲しいところだね。


『ーーさあ、次は蝦蟇の貯金箱の入場だが…誰が決闘するかは未定のままだったぜ。うーん…こりゃ早くも暗雲が………ん?…はぁ!?…これ、え?…本当ですか。…はい』


「…?。様子が変ね」


『…す、すまねぇ。思わず素が出ちまった。……だが!これはやべぇ…ガチでやべぇぞおい。チケット買って闘技場に来た皆は運が良い!すっげぇカードになったぜ…こりゃあ』


実況のセイブスの声が震える。興奮してる様子が伝わってきた。


『喜べてめぇら!()()()()()()()()()()()()()の戦闘を生で見れるんだからなっ!!』


俺が入場した時を軽く上回る大歓声が沸き起こる。


「…なんですって?」


「聞き間違いじゃない…よな」


『霜の巨人ヨンツと恐獣ウシュムガルの単独討伐に…ミトゥルー連邦の加盟国グニパヘリルを脅かした過激派テロ組織の殲滅…他にも……ああもう!多過ぎて言い切れねぇーよ!と、とにかく…若くして数々の武功を打ち立てるのは()()()()()()()()たる所以なのか!?』


身長の低い蛙に似たおっさんと共に入場したのは…。


『…17歳にしてSSランクの英雄。そして金翼の若獅子所属のランカー序列第13位…』


「え」


『咲き乱れる空華乱墜の舞獅子!!』


「……嘘だろ」


『ルウゥゥラ・レオンハァァァート!』


「はろー」


広場で昼飯をあげた不思議な女の子。


…現れたのはルウラだった。


大歓声が続き思考が追い付かないまま俺達はリングの中央で相対する。


「ゲロッロ。…おやおやぁ…『鋼の女』が焦ってるよーに見えるのは見間違いかねぇ」


「…ガマローネ」


「ワシが本気で人脈を漁ればこんなもんよ。ゲッゲッゲ。…どうするかね?棄権しても構わんのだよ。んー?」


「……」


レイミーさんは無表情だが悔しさを噛み堪える様に拳を握り締めていた。


「…対戦相手が君とは思わなかったよ。ルウラ」


「のー。言ったでしょ。ゆーにおーでぃーるをルウラがぷれぜんって」


…試練、か。確かにこの状況は試練だ。それもかなり厳しい内容の。


「質問したい事だらけだが二つ答えてくれるか?」


「いえす」


「ルウラが代理決闘する事になった経緯や理由を教えてくれ」


「…よーよー。経緯は明解。勝てない相手でも戦うのが流儀?ならば気になる本音と真意。ルウラの好奇心を刺激。言っただろ?これは裁判。れーべるはユーリニアス。紹介された蝦蟇の貯金箱。開けてびっくり玉手箱。審判はMCルウラ。かえせよゆーのあんさー。へい」


へい、じゃねーよ。


「あー…要約すると言葉の真意を知りたいから代理決闘の代表になって俺と戦うのにユーリニスから蝦蟇の貯金箱を紹介して貰った…で合ってる?」


「いぐざくとりー」


配下を従え悠然と座っているユーリニス。


あの野郎…今、俺を見て笑ったぞ。


悪意ある確信犯だろ。


「…それとレオンハートって名前はラウラの妹ってことか?」


「いえす」


あの時の違和感はこれだ。誰かに似てると思ったがラウラだったんだ。


…前に問題のある性格で手に余るってラウラとエリザベートが言ってたっけ。


「ラウラはわたしの()()……おぅ。しっと」


ルウラが背後の観客席を指さす。振り返ると観客席からリングに乗り込もうとしているラウラを抑えるエリザベートが見えた。


……かなりキレてるな。あんな恐ろしい形相のラウラを見た事がない。


ボッツは何故か放心状態だしメアリーとラッシュは酷く狼狽している。


「この際、ラウラはのーぷろぐれむ」


問題あるだろ。


「…それよりもここが最後のたーにんぐぽいんと。わたしとぱーりするか…すけーぷするかの瀬戸際」


ルウラの容姿や若さから想像もつかなかったが仮にも上位ランカーだ。


格上の相手と見て間違いないだろう。…だが勝機は零じゃない筈。観客に見られてる状況でミコトの力はあまり使いたくないが…。


ちらっと孤児院の子供達とナタリアさんを見る。

不安で胸が押し潰されそうな悲哀に満ちた表情だ。


…孤児院の為に勝つしか道はない。


アイヴィーと目が合う。真っ直ぐ俺を見ていた。ただ、真っ直ぐに。その紅い瞳は…俺に信じてる…と訴えかける様に思えた。


「言ったはずだ。…自分で決めた事は貫く。誰が相手だろうと関係ない…ってな」


「……」


「俺は君に勝つ」


「…おっけー。ブレない精神。揺れない決意。応えようかその心意気」


返事に満足した表情のルウラ。


好奇心で横槍を入れられ予想外の事態だが上位ランカーの強さにちょっと興味もあるし……良い機会だ。


「ゲッゲロロ!馬鹿かお前は。ルウラお嬢に勝てるわきゃねーだろうが!…お前からも言ってやれよレイミー。あの土地はワシの物だってな!」


「うるせぇぞガマガエル。口を閉じて黙ってろ」


「だ、だれがガマガエルじゃい!!ワシを誰だと」


「しゃっとふぁっくあっぷ」


「へ、へい…」


『…両者出揃ったし代理決闘のルールを説明すんぜ!


①時間無制限。リングアウト10カウント制。若しくはギブアップ宣言か審査員と見届け人が戦闘不可と判断したら決闘終了。


②携帯アイテム使用禁止。それ以外の制限なし。


…ってな具合だ。審査員は闘技場一等審査員ワルオ。宜しく頼むぜ!勝利した方に土地の利権が手に入る。証人は観客と俺たちさ…正直、オーランド総合商社に勝ち目は零だと思うが……見届け人のレイミー・オーランドはどうかな。棄権するかい?…ワルオ、確認してくれ』


「この代理決闘の審査員ワルオです。両見届け人に確認します。代理決闘を執り行いますか?」


「もちろんじゃ!」


「……」


レイミーさんは苦慮しているようだ。


「…レイミーさん」


俺は訴えかけるように彼女を見た。


「……分かったわ」


『おぉー!!了承したみたいだ。…レイミー・オーランドの判断は吉となるか凶となるのか!?…さぁ決闘開始まで間もなくだ。結界を展開すっから今のうちにトイレに行っとけよ』


「それでは結界をリングを中心に展開します。代表者を残して見届け人は指定位置まで下がって」


「……悠さん 。先程はああ言いましたが勝ち目はないわ。大怪我をする…いいえ下手したら死ぬかも知れません。彼女は…」


「心配してくれるんですか?」


「茶化さないで真面目に聞いて下さい」


むっとした感じだ。


「もう後には引けません」


「私が言うのもおかしいですが何故そこまで?」


「……レイミーさんが話した子供達も働ける農場…町興し事業か。例え貴女にとっては金儲けの為だとしても孤児院の子供達には希望なんだ…『オーランド総合商社』は未来をクリエイトするギルドなんでしょ?…子供が苦しむ未来なんて誰が望むんだよ。俺達で良い未来を描こうじゃないですか」


「……ふふ、あはは」


鉄仮面が崩れ笑う。


「成る程……本当に変な人だわ。分かりました。もうこれ以上は無粋ですね。貴方に託します」


「はい。初めて見たけど笑った方が可愛いですよ」


「……」


何も言わず無表情に戻りレイミーさんは踵を返して指定位置に移動した。


「…さて、と」


半透明の結界がリングを覆い歓声がぴたりと止む。


静寂に包まれた中、ルウラと向き合う。


「ゆー。わたしのびーとは激しい。瞬き厳禁。じゃないと一瞬でえんど」


「そうかい。了解」


「ふぅー。ないすあんさー」


嬉しそうだな。今のはただの駄洒落だぞ。


「では、両者位置について」


武器を握り構える。


対してルウラは構えずに突っ立ったまま。


…余裕そうじゃないか。


「これより代理決闘を開始する。…始め!」


開始の合図と共にルウラが視界から消えた。



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