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咲き乱れる空華乱墜。①



〜午後12時30分 金翼の若獅子 広場〜



爽やかな風が吹く。外で飯を食べるのに適した気候。


昨夜の残り物で作った赤い猛角牛のローストビーフサンドイッチを頬張る。


…うん。冷めても美味い。


分厚い肉をパンの耳までぎっしりと甘酢に味付けしたマヨネーズソースが良く合う。



「……」



「…うわっ!…誰だ!?」


「はろー」


…全く気付かなかったがいつの間にか隣に女の子が座って至近距離で見られていた。


メアリーと同い歳ぐらい金髪ツインテールの美少女。


口元を襟で隠すタイプのフェイスシェードのサイズが不釣合いなコートを着ていた。袖口に隠れ手は見えない。萌え袖ってやつかな。


獣耳とショートパンツから見える尻尾が揺ら揺らと動く。眠たげな瞳に整った顔立ちは誰かに似てる気がするが……はて?


「び、びっくりしたぁ」


「……」


反応がない。彼女はサンドイッチを凝視していた。試しに持った手を動かすと目で追い顔を動かす。


アイヴィーと初めて出会った時を思い出すなぁ。あの時は要らないって言われたっけ。


「…食べたいのか?」


「いえす」


不思議な金髪ちゃんはこくん、と首を縦に振った。



〜15分後〜



「でりしゃす」


美味しそうに平らげ満足した表情で一言呟く。


変わった喋り方だな…。


「そ、そっか。喜んで貰えて嬉しいが…君は誰かな」


「まいねーむいずルウラ。…知らない?」


「知らない」


「…しょーっく。わたしはおじさんを知ってるのに」


微塵もショックを受けてない顔だ。


おじさんって言われたこっちがショックだっつーの。


「俺はまだ30歳。お兄さんだ」


「あいしー。お兄さん」


するとルウラは突如、ゆったりとした独特な動きをし始めた。…け、痙攣してるんじゃないよな?


「…へいよー。活躍ちゅーのお兄さん。名前はくろながゆー。わたしはかなしー謹慎ちゅー。()()を見て興味津々。広場で見かけて意気揚々。サンドイッチが美味しそう。食べたいのが理想。叶うほーぷに食らうびーふ。いぇー」


「……」



韻を踏みながらラップ調で喋る。お世話にも上手く韻が踏めてない気がする。


…それより異世界パルキゲニアにヒップホップの文化がある事に驚いた。地球との共通事項が如何程あるのか想像もつかない。


「おーでぃえんすのノリが悪いのがばっと」


「…いえーい」


「ふぅー」


不思議ちゃんだなぁ。初めて会うタイプだ。


それに広告ってなんだろう。


「ちょっと待って。…広告って俺が載ってるのか?」


「ていくあるっく」


ルウラがポケットからくしゃくしゃの紙を取り出す。


どれどれ…。


ーーーーーー『代理決闘開催』ーーーーーー


・創世4550年 櫻木の月30日


第8区画 闘技場にて午後14:00より代理決闘開催。


オーランド総合商社 代表 『黒永悠』。

蝦蟇の貯金箱 代表 『未定』。


噂のAAAランク冒険者の戦いが見れる!

『魔物殺し』『灰獅子の懐刀』『救いの使者』

『姫と狩人』…短期間で知れ渡る数々の勇名。

違わぬその実力に刮目せよ!


・闘技場チケット前売り券は本日、櫻木の月27日からオーランド総合商社本社及び各支店にて販売開始。

・A席5000G B席3000G C席1500G。

・投影魔導具を使用し迫力ある戦闘シーンを離れた席からも視聴できます。

・結界魔法・魔導具により安全安心に視聴できます。


〜未来をクリエイトするオーランド総合商社〜


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おうふ!?」


思わず吹き出してしまった。何だよこの広告チラシは…。


「代理決闘。みんなの注目をげっと。なのに浮かない顔でしっと。…ほわーい?」


「宣伝されるなんて聞いてなかった。参ったな…」


「嫌ならすけーぷしたらいい」


「逃げれないよ」


もう約束してるんだ。逃げるわけにはいかない。


対戦相手の未定ってとこが聞いてた話と違って気になるけど。


「ふーん。…どんな強敵が相手でもれっつぱーりぃ?」


「自分で決めた事は貫く。誰が相手だろうと関係ない」


「そーくーる」


感心したようにルウラが手を叩く。


取り敢えずオーランド総合商社に行ってレイミーさんと話してみるか…ったくもー。


「お兄さん」


俺に指を指す。


勘違いでなければその表情は楽しそうに見えた。


「心意気はぐっと。ならばルウラがおーでぃーるをゆーにぷれぜん」


「…試練?」


「真価は窮地にこそ問われる。ゆーのびーいんぐが暴かれる裁判。ルウラが審判。楽しみにしとけよその瞬間。いぇー」


……ラップ調で喋るので内容がよく伝わってこない。


「い、いぇー…」


とりあえず拍手しておいた。


「ぐっとな反応。しーゆあげん」


ルウラはそう言って去って行った。


「…はは。ちょっと変わってるけど可愛いし面白い子だったな」


俺もオーランド総合商社に行こう。


転移石碑に移動した。



〜第5区画 オーランド総合商社 エントランスホール〜



午後13時30分。到着して中に入る。


商社の中は大勢の人で賑わっていた。


「代理決闘販売チケットブースの最後尾はこちらになりまーす」


「A席を二枚くれ」


「畏まりました。A席二枚ですね。1万Gになります」


「ねぇおかーさん。チケット買える〜?」


「大丈夫よ。いい子にして並びましょうね」


行列が出来ていた。ポスターも貼って宣伝してるよ…。


こそこそとエントランスホールの受付カウンターに向かうと受付嬢の女性が俺に気付く。


「…あら悠様。お疲れ様です。代理決闘のチケット販売は盛況ですよ」


「そ、そうですね。レイミーさんはいます?」


「マスターなら執務室に居ますが」


「ありがとう」


足早に昇降機に乗り執務室へ行った。



〜四階 執務室〜



執務室に入る。


レイミーさんはデスクで書類仕事をしていた。


「どうも悠さん。代理決闘のチケット販売は大好評ですよ。広告紙は御覧になりました?」


しらっとした顔しやがってからに。


「…ええ。ですが宣伝するとは聞いてないですよ。無許可でこんな風に扱われるのは」


「代理決闘の宣伝許可は悠さんに戴いてますわ」


「……はい?」


そんなの許可した覚えがない。


「こちらです」


この書類は…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『成る程。気が向いたらご相談下さい…それと此方の書類にもサインを。代理決闘の同意書です』


『はいはい、と』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


二日前にサインした書類じゃないか。


読み進めていく。


「あ!」


…尚、オーランド総合商社に宣伝及び広告を一任し肖像権の一部権利を許可するものとする…。


ちゃんと書いてんじゃん。よく読まずに記入してた…。


「書類の説明は求められませんでしたよね?」


「…はい」


「ご安心下さい。代理決闘に関する事項のみですから」


今度からは書類はよく読んでサインしよう…。


自分の確認不足なのでぐうの音もでない。


「…でも代理決闘って裁判所からの通達でしたよね。商売目的でチケット販売したりしていいの?」


「はい。当日は裁判所から代理決闘の見届け人として執行官も来ます。要は決着をつけて白黒はっきりさせれば裁判所側は何でも構わないのですよ」


「へぇー…」


「元々、娯楽として代理決闘は人気がありますが…ここまで反響があるとは予想を超えてました。悠さんのネームバリューのお陰です。後日、チケット代金売上分を上乗せして報酬金をお渡しします」


「それはどうも。…あ、対戦相手が未定になってましたけど」


「ええ。『蝦蟇の貯金箱』の闘技者は悠さんの名前を聞いて棄権しました。元『金翼の若獅子』のランカーで豪腕のバルバリンと名乗っていましたが知ってますか?」


豪腕…バルバリン…あぁ。


最初のソロオーダーで戦ったあいつだ。


ランカーの地位を失ったんだな。


「ええ。ちょっと関わりがあって」


「成る程。昨日の顔合わせで会ったのですが悠さんの名前を言った途端、震えて蹲ってしまって…『蝦蟇の貯金箱』のGMは慌ててましたよ。当日までに代理の闘技者を見付けてくるとは思いますけどね」


「だから未定ね」


「はい。…そうだわ。折角ですので差し上げます」


チケット用紙を六枚渡された。


「A席のチケット予備分です。ご家族や友人を誘ってみては?…御用件は済みましたね。では当日、宜しくお願い致します」


これ以上、話す事はないらしい。


仕事を再開するレイミーさん。


…はぁ。愚痴っても自分の所為だし仕方ない。


オーランド総合商社を出て金翼の若獅子に戻った。




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