エリザベートと暇潰し。
〜翌日 午前9時 金翼の若獅子 二階 空中庭園〜
「ふぁ〜」
思わず欠伸が出る。
遅くまで起きていたが朝の6時に目が覚めてしまった。早起きが習慣になってる。
誰も起きる気配もなかったので全員分の朝食を作り書き置きを残して家を出た。…キャロルも夜勤明けで帰ってるし高位ランクの依頼もない。
「……」
ベンチに座ってぼんやりする。
〜20分後〜
「くっくっく……貴公。暇そうじゃあないか」
濡鴉の長髪を靡かせ現れたのはエリザベート。
「久しぶりだな。依頼もなくてぼっーとしてたんだ」
「ならば退屈しのぎに吾が話相手を務めよう。談話に興じるのも悪くない」
隣に座る。
「まぁ良いけど。最近、何してたんだ?ギルドに居なかったよな」
「吾は西の都の冒険者ギルド『白蘭竜の息吹』に出向してたのさ。…ミトゥルー連邦を代表する冒険者ギルドの一つだが……代替わりで混迷しててね」
「大変だったな」
事情は分からないけど。
「SSランクともなると依頼が殆どなく日々、詰まらない雑務しかない。仕方ない事だが…」
エリザベートが溜息混じりに呟く。
依頼がなくてつまらない…か。強者故の悩みだ。
「それより貴公の話を聞かせてくれ。吾が居ない間に名を上げたと聞き及んでる。…指定危殆種の封印にAAAランクまで昇格し数々の高位ランク依頼を達成したそうだね」
「…ラウラにしてやられた感もあるけどな」
「是非、話してくれ給へ。時間はたっぷりある」
雑談に興じる。
〜10分後〜
「…面白い。実に面白いな貴公は。聞いてて飽きないよ」
「面白い話だったか?普通だろ」
「短い期間でこれだけ話題がある者は中々居ない。ラウラが貴公を寵愛する理由がよく分かる。…ふむ…きっかけは吾なのに除け者のようで気に食わないが」
「だって居なかったし」
オッドアイの瞳が輝く。
「そうだ。トラブルや悩みの一つや二つ抱えてるだろう?吾に相談してくれて構わんぞ」
喜々とした様子で詰め寄る。
「トラブルや悩み、ねぇ…」
「くくく。恋愛相談も望むところだ。女性の機微について教えても良いぞ」
んなもん14歳に教われるか。…あ、竜人族は成長が早いから20代なんだっけ。ややこしい。
「…そうだな」
封印と竜の卵について相談してみるか。
SSランク程の猛者なら詳しいかも知れない。
「なら二つ相談したい事がある。一つは封印の解除方法についてだ」
「封印だと?…くくっ!興味をそそられる話題じゃあないか。封印の解除…俗に言う『解呪』には魔法を使用する治癒魔法に魔導具を用いた方法が知られているが封印の種類は?」
アルマの封印は…。
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『ーーーあの悪魔…『緋の魔女ランダ』のせいよ。あいつが…封印のスキル持ちじゃなかったら……むにゃあああ!!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「固有スキルによる封印だ」
「ふむ…。封印の固有スキルは代償を捧げ永続的に縛り付ける呪いにも似た術理だ。対象の力が強大であれば代償も高くなり縛りも強くなる。…解呪するには捧げた代償を上回る何かを祀り捧げるしか方法はないであろう」
「そっか。ありがとう」
ベルカの土地に封印されたアルマ。
つまり代償は土地。土地を上回る何か…厄介だ。
でも一歩前進したのは間違いない。
「構わんよ。封印の固有スキル保持者など滅多に居る者ではないが…くくくっ。貴公は困難な悩みを抱えているな」
エリザベートが笑う。美人だが癖の強い人だ。
「…色々あるのさ。二つ目は竜の卵についてだ」
「ほぉ…竜の卵についてとは。『竜人族』の吾には御誂え向きの相談ではないか」
「騎士団との共同捜索依頼でワイバーンに乗る機会があってさ。便利だし自宅で飼えないかなって思って」
「ワイバーンに乗れるという事は竜操術の覚えがあるのだろうが卵を孵化させるのは難しいぞ」
「マジか」
「くっくっ…マジさ。翼竜程度なら孵化も幾分か楽だが飛竜になると一流のテイマーでも失敗する。…何より卵の入手が非常に困難でな。怒り狂う母親の飛竜の追撃は凄まじいの一言に尽きるのだ」
「…あー。自分の子供を奪われたらそうなるよな」
「竜人族は竜と心を通わせる特別な対話スキル『竜語』を生まれ持つ種族故に人や他の亜人より意思疎通を図る事が可能だ。それに竜種のモンスターは知性もプライドも高く強い。…従えるにはそれ相応の実力が必須となる。吾も何匹か召獣しているが骨が折れたよ」
何匹も召獣をしているって凄い。…竜語、か。
アザーの加護があるし俺も問題ない筈。
…しかし、竜からしたら卵泥棒だよな。
綺麗事だけでまかり通る世の中じゃないが…。あっちもモンスターだし…うーん。
「ラウラから乙級の転移石碑許可証を貰ったと聞いてる。卵が欲しいのならば『竜の巣』へ行ってみるといい。彼処は様々な竜種のモンスターが生息している。…ただ、奥へ進むと特級危険区域『アジ・ダハーカの龍峰』に繋がってるがね。くくくっ…飛龍や古竜種の相手は幾ら貴公でも無茶だ。気を付け給へよ」
知性があるなら戦闘せずに済むかも知れない。
「今度、行ってみるよ。流石はSSランクだな。有益な情報をありがとう」
「なぁーに構わんさ。もし卵を入手したら吾の所へ持って来るがいい。飼育方法や孵化について詳しく教えよう」
「了解」
「…ふぅ。有意義な時間であった。話が合う相手との談話は楽しいものだ。貴公もそう思わんかね?」
「ああ。…少し気になってたんだが軍帽に軍服って珍しい服装だよな」
「これは吾の趣味だ。くくっ…この薔薇十字の刺繍は仕立屋に無理を言って頼んだのさ。美麗だろう?」
個人的には華美な気がするが話を合わせとく。
「うん。…カッコいいと思う」
エリザベートが目を輝かせた。
「……話が分かるじゃあないか!ラウラや他の者は吾の趣味に理解がなく子供っぽいと言うのだ。…くくくっ!やはり貴公とは馬が合うな」
「そ、そうか?」
「吾は『金翼の若獅子』のギルドガールの制服も…もっと攻めるべきだと考えている。例えば骸骨を主に黒や赤色を強調したアヴァンギャルドなデザインにするとか…」
「……」
「その点、アイヴィー・デュクセンヘイグ嬢のゴシックドレスは良い。あれはセンスがある…闇の中に一輪と咲く銀花。…くくく。吾ながら良い詩的センスだ」
…エリザベートは中ニ病な美的感覚の持ち主なのかも。
その後も延々と趣味の話を聞かされた。
昼近くになり漸く解放してくれたが…また話をする約束をしてしまう。
…嬉しそうに頼まれたら断り辛い。
取り敢えず腹が減った。広場で昼飯を食べよう。




