櫻木の月26日。①
〜櫻木の月26日 午後16時30分 キッチン〜
作った料理の品々を眺め頷く。
「これで準備完了だな。…ちょっと作りすぎたかも」
ーーーにゃにゃにゃあ!!…は、はやく!わ、わたしに食べさせなさい!
「もうすぐの辛抱だって言っただろ…涎すごっ!?」
赤い猛角牛を解体し魔物料理をこしらえたのだ。
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赤い猛角牛のローストビーフ。
・赤い猛角牛の腿肉を蒸焼きした肉料理。低温でじっくり焼き上げた赤身の肉に脂が溶けたグレイビーソースが決め手の一品。筋力+30(2時間)
赤い猛角牛の牛鍋。
・赤い猛角牛のロースと野菜を醤油と酒や砂糖で煮込んだ鍋料理。甘辛い味付けが特徴的で背肉の旨味が野菜にも絡みつく一品。HP+150(2時間)
赤い猛角牛の牛タン刺身。
・赤い猛角牛の舌肉を下処理して刺身にした肉料理。レモンをかけて食べるとより美味。シンプルだが食感の良い一品。技術+20(1時間)
赤い猛角牛のトマトチーズ巻き。
・赤い猛角牛のバラ肉にトマトとチーズを巻いた肉料理。トマトの酸味と肉の旨味にチーズのコクが合わさった酒の肴に適した一品。
サラダ
・オリジナルドレッシングをかけた野菜料理。旬の野菜が季節感を感じさせる一品。
アイヴィーのフルーツポンチ
・果物(ベルカオレンジ・蜂蜜林檎・七色桃・ベルカナップル)に炭酸水をかけたデザート。不揃いに切り分けた果実はアイヴィーが一生懸命に料理をした証。爽やかな甘みが清涼感を感じさせる一品。
ベルカエール
・ベルカ産の大麦麦芽を発酵させた酒。庶民に一般的で広く知られたお酒。
極純清酒・不魚住
・米と水を発酵させた酒。遥か東方の異国で製造された輸入品。アルコール度数は強いが滑らかで心地よい喉越しのお酒。
エイゴン・ミュラー
・ベルカ産の白ブドウを発酵させた酒。貴腐ワインの一種で糖度の高いブドウから造られた。環境に影響を受け易く製造が難しい高級ワイン。
オレンジジュース
・ベルカオレンジを絞った果汁飲料水。酸味が薄く子供に人気のジュース。
ベルカサイダー
・炭酸水に甘味を加えた飲料水。しゅわしゅわな喉越しのジュース。
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肉盛りだくさんの料理になった。残ったらアルマとキューが食うし…ま、いっか。
エイゴン・ミュラーは高級ワインで値段が張った。
それより極純清酒・不魚住…これ日本酒だよね?
遥か東方の異国って日本に似た国なのかな。
ーーきゅ…きゅうう…!
「まだ食べちゃダメ」
アイヴィーがキューを羽交い締めにしてる。
ーーーく、食わせなさいぃぃ゛…!!
食い意地が凄まじ過ぎるだろ。
「もう少し待てって……ん?」
玄関の呼び鈴が鳴る。
「アイヴィー。ちょっと見ててくれ」
「ん。任された」
玄関のドアを開ける。
「おう」
「……モミジか?」
「あ?寝ぼけてんのか。オレに決まってんだろ」
「…バンダナを外すと印象が随分と変わるんだな」
大人の女性の色香を漂わせる。
ナイスバディな肢体にパーカーとショートパンツ……いい。実に良い。具体的に言葉にしたら鉄拳制裁を食らいそうだから黙るけど。
「普段はこんな感じだぞ」
「思わず見惚れたよ」
「…ユウから言われっとわりぃ気はしねーな」
「素直に思ったことを言ってるだけさ。中に入ってくれ」
「おう」
リビングに案内した。
〜リビング〜
「へぇー…いい家じゃん。綺麗だし内装も悪くねぇ」
「だろ?自慢の我が家だ。…紹介が遅れたが一緒に住んでるアイヴィー。それにアルマとキュー」
ーーーふーん。生意気そうな面構えしてんじゃない。
ーーきゅきゅ。
「はじめまして。私はアイヴィー」
「お、おう。オレはモミジだ。…ユウの所属してる職人ギルドの『巌窟亭』でギルドガールをしてるぜ…」
モミジがアルマとキューを凝視してる。
「ユウ…このかわいい二匹はペットか?」
ーーー失礼ね!だーれがペットだっつーの!
「アルマは…ペットってより同居人ってゆーか…家族みたいなもんかな。キューはアイヴィーの召獣だよ」
「…抱いてみる?」
アイヴィーがモミジに聞く。
「い、いいのか?」
ーーきゅー!
キューがモミジに飛びつき顔を舐める。
「…っと!あはは。お前かわいいなぁ」
モミジがぎゅっと抱きしめる。豊満なバストに埋もれたキュー。
…もしかしてモミジは動物好きなのか?職人ギルドでは見られない一面を見た気がする。
ーーきゅきゅう。
「キューもモミジを気に入ったみたい」
「ほ、ほんとか!?…キューが気に入ったぜ。家に連れて帰りてぇ…」
「それはダメ」
心底残念そうなモミジ。キューを離してアイヴィーに向き合う。
「ユウから聞いてたが不死族の『吸血鬼』なんだって?」
「…ん」
「種族なんざ関係ねぇ。オレもアイヴィーと仲良くなりてーな。モミジって呼んでくれよ」
アイヴィーの頭を撫でて笑う。
「うん!」
…良い光景だ。これだけで家に誘った甲斐がある。
姉御肌のモミジはフィオーネやキャロルとはまた違った形でアイヴィーと仲良くなれそうだ。
ーーー悪い奴じゃなさそうね。わたしをペットって言ったのも許しにゃああああ!!
「ふぁ〜…もふもふ…」
アルマも抱きしめられる。
ーーーい、息が…この爆乳女め!わたしを殺す気よ…は、離しにゃー!!
〜10分後 マイハウス 地下 工房〜
アルマとキューを思う存分堪能したモミジから工房を見たいと言われ鍛冶場に案内した。
「……ほぉー」
一つ一つの鍛治道具を見て触れる。
「手入れも行き届いてっしこの設備があるなら『巌窟亭』の鍛冶場を使わなくても問題ねぇな。…上達が早くて技術があんのも納得だわ」
「まだまだ使いこなせてない道具もあるけどね」
「…ん?これは…」
モミジが工具のキットを手に取る。さっき言った使用方法が分からず一度も使った事がない道具の一つ。
「仕掛け武器の『中期型作製ツール』じゃん!」
宝物を見つけた少年のように目を輝かせる。
「中期型作製ツール?」
「おー。仕掛け武器の仕掛けの良し悪しはこの作製ツールで決まるってもんだぜ。…初期型を改良した中期型は可動変域や魔法動力の基盤作製に特化してんだよ。世に出回ってる高期型は安定性が売りの作製ツールだが…中期型は言ってみりゃブッ飛んだスペックの仕掛け作りに特化してんだ」
「へぇ」
ランダは仕掛け武器も作ってのか。
多才だったんだなぁ。
「扱い辛ぇし持ち主を選ぶ玄人好みの武器だもんで人気はねーが鍛治師はその機能美と仕掛けに一度は心を踊らせるもんさ」
「モミジは作れたりするのか?」
「あー…たぶん作れねーことはねぇけど使い手がいねぇ武器なんざ武器が不憫だから作んねーよ」
ケーロンさんも似たようなこと言ってたっけ。
「そういえばユウの武器ってどんなだ?いい機会だし見せてくれ」
「ああ。実は俺の武器も仕掛け武器なんだ」
武器を作業台に乗せる。
「…おまっ…これ…」
金剛鞘の大太刀とリッタァブレイカーを見て顔色が変わり瞠目する。
「どうかしたか?」
「重金剛石の鞘と墨鋼の刀身…鍛治師ケーロンの鍛えた武器だと?…間違いねぇ。『獄門踏鞴の十二工』の一本…金剛鞘の大太刀じゃねぇか!?…こっちの槌と銃は……ウソだろ…十二工の武器が三つも…ははは。夢じゃねーよな…」
興奮でモミジの体が震えた。
「すまん。獄門踏鞴の十二工って?」
「…お前は価値も知らねーで使ってたのかよ。『獄門踏鞴』は『ルルイエ皇国』で活躍してたドワーフの鍛治師ケーロン・ララクラフトの異名だよ。五十年前に忽然と姿を消した伝説の鍛治師さ」
で、伝説の鍛治師!?
ケーロンさんは凄い人だったんじゃん!全然、教えてくれなかったな…。
「獄門踏鞴の十二工ってのは鍛治師ケーロンが製作した武器の代表作十二本だ。…行方知らずの七本のうち三本を…まさかよぉー…ユウが所持してっとは。鍛治師にとっちゃ国宝レベルの値打ちもんだぞ」
「こ、国宝かぁ」
日本にも人間国宝って呼ばれる職人がいたがケーロンさんも正にそれだ。
「何処でこれを……あー、やっぱいいわ。困ったって情けねー顔しやがって。話したくねぇんだろ?」
「そ、そんなことないぞ!」
「…ったく。オレはどんな事情があれ…ユウを嫌いになったり態度を変えたりしねぇ。…覚えとけや」
軽く拳で俺の胸を叩く。
「自分から話してくれるまで待つからよ」
…俺が女なら抱き着いちゃうぐらい男前な台詞。
胸がキュンってするな。
「……わかった」
地下の扉が開く。
「みんなきたよ。リビングで待ってる」
「ああ。今行くよ」
アイヴィーが目を細めて俺とモミジを見る。
「どうした?」
「モミジは悠の胸に手を置いてなにしてるの?」
「なっ、なんでもねぇーよ…ご、ゴミが…そう!ゴミがついてから取ってたんだ!あ、アハハハ…」
む、胸ぐら掴んで引っ張らないでぇ!
く、首が閉ま…って…ぐるじい!




