櫻木の月25日。
〜櫻木の月25日 金翼の若獅子 一階受付カウンター〜
時刻は午前9時。天気が怪しいが朝から金翼の若獅子は冒険者達で賑わっている。
「悠さんにアイヴィーちゃん。おはようございます」
「おはよう」
「おはよ」
ーーきゅー!
「ふふ。キューちゃんもおはよう」
フィオーネがカウンターで書類を整理していた。
「ソロオーダーかGランクの依頼は?」
「現在は承ってないですね」
「そっか。なら俺は巌窟亭とオーランド総合商社に行って来る。アイヴィーは?」
「二階で本を読む。…フィオーネ。お昼は一緒に食べよ」
「はい。喜んで」
フィオーネが微笑む。
ーーきゅう。
「キューにお菓子を食べさせ過ぎちゃ駄目だぞ」
「善処する。キューもわかった?」
ーー……きゅぷい。
不満気なキュー。
アイヴィーとキューは二階に行った。
「仕事で忙しいのに済まないな」
「いえいえ。私も一緒に過ごすのは楽しいです」
そう言って貰えると嬉しい。
「アイヴィーちゃんもキューちゃんもギルドガールの間でも可愛くて人気者ですよ。…一緒に住んでる悠さんが羨ましいです」
「ははは」
「知ってましたか?…二人の活躍振りが噂され最近は『姫と狩人』って勇名で呼ぶ人達が増えてることを」
姫と狩人って服のイメージが直結してますやん。
暫し雑談に興じる。
〜5分後〜
「あ。忘れない内に聞いとくが明日は何時ぐらいに来るんだ?」
「夕方17時迄にお邪魔しますね。…ふふふ!指折り数えて待ってましたから」
「はは。ボッツ達にも会ったら言っといてくれ」
遠征依頼から戻って来てる筈だが見掛けない。フィオーネにも前もって他の面子が来る事を伝えている。
伝えた際は残念そうな顔だったが……はて?
「はい。10時にはいらっしゃると思いますのでBランクの昇格依頼を受けられる予定ですから」
「おお!」
そりゃ凄い。
「遠征依頼での三人の功績が認められまして。昇格依頼の内容も彼等なら大丈夫だと思います」
是非、昇格して欲しい。明日は祝賀パーティーも兼ねる良い機会じゃないか。
フィオーネと別れ巌窟亭に向かった。
〜午前10時30分 第2区画 巌窟亭 受付カウンター前〜
「お疲れ」
「おー!お疲れ」
カウンターで鉱石と睨めっこをしていたモミジが愛想良く笑う。
…最初、出会った時に怒鳴られたのが嘘みたい。
「受注依頼品と鉱石だ」
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・マーライトの薙刀+2
・鉄鉱石×10
・銅鉱石×10
・銀鉱石×10
・金鉱石×10
・鋼石×10
・玉鋼×10
・魔鉱石×10
・鉛重鉱石×5
・白鉄鉱石×5
ーーーーーーーーーーーー
鉛重鉱石と白鉄鉱石は他の鉱石より希少なのか増殖した数が少なかった。
希少な鉱石や素材は増殖に時間が掛かるのかもしれない。…それを差し引いてもチートな魔導具だが。
「依頼品は問題ねぇな。ほら代金だ。…しっかしよぉー…マジで鍛治師一本に絞ってもぜんっぜん食っていけんぜ。…おっ。これは白鉄鉱石に鉛重鉱石じゃねーか。よく見つけたな」
代金の25万Gを受け取る。
「たまたまさ」
「強ぇーし鍛治や錬成もできるお前ってば不思議つーか……すげぇよ。うん」
「珍しい。モミジが素直に俺を褒めるなんて…」
「はっ。大活躍のAAAランクの冒険者様が『巌窟亭』に登録してるってんで他の職人ギルドがうるさくてよぉー。オレは冒険者ギルドは嫌いだし興味ねーが…」
ちらりと横目で俺を見る。
「…ユ、ユウのことは応援してっからよ」
鼻の頭を掻きぼそりと呟くモミジ。
「モミジから応援して貰えると俺も心強い」
「……うっ、うっせぇ」
照れた彼女はやっぱり可愛い。
いわゆるギャップ萌えってやつかな。
「それと明日は何時に来る?」
「あー…16時ちょい過ぎには行くわ」
「わかった。ご馳走を用意しとくよ」
「おう!あと酒な?」
「了解」
鬼はお酒が好きって日本の童話にもあるが鬼人族もそうなのかな……って19歳で飲酒っていいのか?…まぁ異世界だし。多分、大丈夫なんだろう。
「んぁ…ユウじゃねぇか。久々に顔だしやがってこん畜生!おめぇの活躍は聞いてんぞ」
「戦う鍛治師ってんで今じゃ職人の希望の星じゃわい…一か月ちょっとで出世してからに」
「俺らはとんでもねぇ奴と働いてんのかも知れん。ユウを『ヘパイカトス』の化身って言うドワーフも居るぐらいだしなぁ。ガハハハ!」
ローマンさんとドワーフの皆がカウンターに来た。
笑いながら褒めてくれるのが気恥ずかしい。
…それにヘパイカトスって何だろ。
「ったくうるせぇな。…仕事はどーした仕事は!」
「なんじゃい。モミジ嬢め…カリカリしおって。ユウとワシ達もゆっくり話てぇのに」
「自分が話す時間を邪魔されたもんで面白くないんじゃろ」
「納得じゃわい。前より色気がでたもんのぉ」
「ああ。最近は頻りに髪を弄っとるし。ユウが来た時と来ない時で機嫌がーー」
鈍い音が響く。
振り返ると机が粉々に砕けていた。顔を真っ赤にして憤怒の形相をしたモミジが此方を睨んでいる。
…Gランク依頼で討伐した悪鬼に勝るとも劣らない鬼の貌。
こ、怖い…。
「ーーさ、さてまだ仕事途中だったな?」
「お、おう。こりゃ急いでやらなぁ」
「じゃ、じゃあ…またなユウ」
いそいそと鍛冶場に戻る職人達。
「あ、明日待ってるからな」
「…おう。オレは今からあの野郎共にきっついお灸を据えっから…」
鍛冶場に向かうモミジ。
数分後に哀れな悲鳴が聞こえた。
…南無三。
次はオーランド総合商社に行こう。
〜第5区画 オーランド総合商社 一階エントランス〜
第2区画の転移石碑から移動し第5区画のオーランド総合商社に到着した。
テレポーターキーはかなり便利だ。
凄い移動が楽。…どんな原理か気になるな。
社内は商人や仕事の関係者でかなり賑わっている。
受付嬢にカード提示したら良いんだっけ。
「すいません」
「はい。オーランド総合商社へようこそ。どういった御用件でしょうか?」
「これ」
ギルドカードを渡す。
確認した受付嬢が俺の顔をちらりと見る。
「あ、黒永悠様ですね。マスターより来訪されたら執務室へご案内される様に承っています。昇降機で四階の執務室へどうぞ」
各フロアに案内されるって聞いてたが…。
ぺこりと頭を下げて見送られる。
昇降機に乗り移動した。
〜四階 執務室〜
ノックして部屋に入る。
「お疲れ様です。お待ちしてましたよ」
「お待ちしてましたって…何かありました?」
「先ずは座って下さい」
ソファーに座る。
「珈琲は如何ですか?ダルタランド産の焙煎豆があります。美味いですよ」
「頂きます」
「ミルクと砂糖は?」
「ブラックで」
〜5分後〜
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップから湯気が立ち香ばしいアロマが鼻腔を擽る。
啜ると豆本来の独特の苦みや酸味が口の中いっぱいに広がった。
「美味い」
コーヒーの味に詳しい訳じゃないが安いコーヒー豆ではなさそうだ。…タバコが吸いたくなる。
コーヒーとタバコの相性の良さって不思議だよな。
「お口に合って良かったです」
「呼ばれた理由は?」
「まぁ焦らず。…冒険者ギルドで異例のランクアップをされましたね」
「はい」
「最近は八面六臂の活躍で巷では『灰獅子の懐刀』…『救いの使者』…『魔物殺し』…『姫と狩人』なんて呼ばれ有名人です」
「す、救いの使者に魔物殺し…灰獅子の懐刀って」
「知らなかったのですか?」
姫と狩人は聞いたが他はなんなんだよ。
「無償依頼を引き受け困窮した村を救い指定危殆種のモンスターも恐れない。凶悪なモンスターを屠り『金翼の若獅子』のラウラ・レオンハートが絶対の信頼を寄せる実力者…と評判が高い」
そんな格好良い感じになってんの!?依頼をこなしてるだけなんだが…。
「間接的に貴方が所属している商人ギルドとオーランド総合商社の評判も上がりましてね。御礼を一言伝えたかったのが一つ」
「はぁ」
「ここからが本題よ。現在、当社は土地の利権問題で他の商人ギルドと揉めてまして…『代理決闘』で利権を決める様に裁判所から通知がきました」
「代理決闘?」
「はい。闘技場で各商人ギルドの代理の闘技者が戦い勝利した方が土地の利権を獲得します」
「へぇー…」
「相手の商人ギルド『蝦蟇の貯金箱』はお抱えの闘技者が居ますが私共にはいません。…そこで悠さんの力をお借りしたいのです」
「うーん。正直、人前で戦うとか好きじゃないし…」
「報酬金も弾みます」
「でもなぁ」
見世物じゃないし仕事以外で戦うのはちょっと…。
「今回、利権問題になってる土地はベルカ孤児院付近の敷地です。何れ彼等は孤児院に立ち退きを迫り潰して工場を建てるでしょう。そうなれば孤児院に住む孤児達は散り散りとなり住む家を失います」
「……」
「彼処は水源が近く交通の便が良い。『オーランド総合商社』は地域貢献の意味合いもありますが孤児達も働ける農場を作るつもりでした」
「………」
「『蝦蟇の貯金箱』は非合法すれすれの商売を生業にしてる商人ギルド…私が言えた義理ではありませんが金の亡者の悪党よ」
…この人は俺の性格が分かった上で言ってる。
孤児院の危機。寄付金を寄付する俺には見過ごせない内容だ。
こうなると断れないな…。
「…分かりました。理由が理由なので引き受けますよ」
「助かります」
「まぁ孤児達も働ける農場ってのは素敵な考えですから」
「誤解しないで下さい。地域貢献目的だけで農場建設する訳ではないわ」
「…えーっと?」
「誰も目を付けなかったのが不思議な位、彼処は肥沃な土地です。作物や家畜も良く育つでしょう。私の計画では農業従事者をスカウトし家宅も建て…『オーランド総合商社』が出資し発足した町興し事業のモデルケースにしたい。流通から販売まで自社で賄えればコストも安く済みます」
「……」
「これは商人ギルドの先進国『アレスタ』で有名な事業ですよ。ミトゥルー連邦の商人ギルドで当社が先駆けとなればこれから先、コンサルタント代・特許申請等で多額の利益を生み出す筈」
上品に口元に手を添える。
「それに孤児院への地域貢献と名目した農場建設は世間の心象も良くなるわ」
義侠心じゃなく下心があるわけね。
「上手くいけばの話ですよね。失敗したら大損でしょ?」
「リスクは承知の上。…成功も失敗も計算し金を稼ぐのが商人。0から利益を生み出すのは得意分野です」
「俺は孤児院の子達が安寧平穏に暮らせるなら何でもいいですよ」
「成る程。…先代から『他者の幸福を利益にするのが商人。不幸にする金稼ぎは長く続かない』と私は教えられました。私の商売の根本にはこの教えが根付いている。今回の一件も孤児院を搾取し食い物にするつもりはない。…利害が一致してるだけ」
それを聞いてちょっと安心した。悪事の片棒を担がされたら嫌だし。
「安心しましたか?先程から疑惑の眼差しで私を見てたから」
「ん、んー?」
…やべ。疑ってたのバレたかな。
「目は口より物を言います。覚えておいて下さい」
表情筋を動かさせず淡々とレイミーさんは告げた。
〜10分後〜
「櫻木の月30日の午後13時に第8区画の『闘技場』に集合…了解」
「はい。闘技場受付前で待ち合わせで。事前の顔合わせには参加しませんか?」
「戦えば良いだけならそれ以外はパスで」
「成る程。分かりました。…それと悠さんは買取希望の来訪したのでしたね。私が鑑定しますよ。品物を見せて頂けますか?」
腰袋から錬成品を出して机に並べる。
「よろしくお願いします」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
錬成品
・特製ポーション×30
・特製ハイポーション×15
・劣化エリクサー×5
・複製エリクサー×1
・ハイマジックドリンク×9
・魔物避けのお香×5
・鋼色の変化液×1
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
白手袋を嵌めて審査するレイミーさん。
一つ一つの品を手に取り確かめていた。
〜15分後〜
「査定額はこちらになります」
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買取伝票
・特製ポーション×30…70万G
・特製ハイポーション×15…50万G
・ハイマジックドリンク×9…22万5千G
・劣化エリクサー×5…83万G
・複製エリクサー×1…30万G
・魔物避けのお香×5…2万G
・鋼色の変化液×1…5万G
買取合計額…262万5千G
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「…262万5千G…」
金銭感覚が麻痺してきたぞおい。
「ポーション類の質が非常に良い。劣化・複製とはいえエリクサーも錬成するとは素晴らしいわ。…お抱えの錬金術師と錬成師が目を剥いてレシピを知りたがるでしょう。調合レシピがあるなら言い値で買いますよ」
「錬成炉で作った品でレシピは分かんないです」
お手軽な錬成術ばんざーい!
「成る程。…残念です。買取額はプラス査定していますが値段交渉は如何しますか?」
「大丈夫です」
書類にサインを書いた。
「良い取引でした。…個人的な助言ですが道具屋の店舗経営をしてみる気は?上納金を差し引いても今より儲かりますよ。不安なら私が経営アドバイザーを務めても良い。当社から経験豊富な店員の人材も派遣します」
無理だ。経営者なんてストレスで禿げる。
「今で満足してるので大丈夫です」
「気が向いたらご相談下さい。…それと此方の書類にもサインを。代理決闘の同意書です」
「はいはい、と」
レイミーさんがサインを記入する様子を見詰める。
…なーんか気になるな。
「……確かに。では櫻木の月30日に闘技場で」
二階換金所で換金してオーランド総合商社を出る。
酒や食材を買って金翼の若獅子に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーー
職人ギルド
ギルド:巌窟亭
創作依頼達成数:5
受注依頼達成数:1
納品達成数:2
CP:550
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
所持金:2787万5千G
ーーーーーーーーーー
こうして見ると順調に巌窟亭の依頼もこなしてCPも上がってる。
…所持金が増えたなぁ。
なんか良い使い道はないだろうか。
〜午後13時30分 金翼の若獅子 広場〜
ベンチに腰掛け談笑するアイヴィー達を見つけた。
「ユーじゃん。おつかれ〜」
「お疲れ様です」
「おふはれ」
ーーきゅふ。
お菓子を頬張ってるアイヴィーとキュー。
「お疲れ…あ!キュー…口にいっぱいチョコつけて…まーた貰って食べたな」
ーーきゅ、きゅい!
さっとアイヴィーの背後に隠れる。
「言っただろ。キューにお菓子を食べさせ過ぎたら駄目だって」
「ごくっ。…アイヴィーは善処するって言っただけだから」
弁の立つお子ちゃまめ。
「いいじゃん。キューってばうれしそーに食べっからみんなお菓子をあげたくなるんだって。知ってっか?チョコミントが一番好きなんだぞ」
「へぇー。初知り…って違うわ。虫歯にでもなったら大変だろ」
ーーきゅきゅー!
今度はフィオーネとキャロルの背後に隠れて鳴く。
「まあまあ…悠さん。キューちゃんだって次は我慢できますよね?」
ーーきゅい。
フィオーネに擦り寄り甘える。
「いや、ちゃんとしないと後々…痛ぁ!?」
ーーきゅぅぅぅー…。
がぶりとキューが手に噛み付く。
お前…生みの親に攻撃って…反抗期?反抗期か?
俺は屈しないぞ……いたたたたたぁ!!マジで痛い!
「ゆ、悠さん」
「あはははー!噛みつかれてやんの!」
「こら。キューめっ」
アイヴィーが引き剝がす。
ーー…きゅぷい。
…プイってすんなプイって。
「悠にごめんなさいは?」
ーー……。
ぺろぺろと噛んだ手を舐めるキュー。
ーーきゅう…。
ごめんなさいと言わんばかりに潤んだ瞳で俺を見上げるキュー。
…駄目だ。心を鬼にして躾てやらないと。
「良いか?食べ過ぎちゃうと病気になった…」
ーーきゅー……。
きらきら輝く双眸がじぃっと見詰める。
「…ま、まぁ…まだちっちゃいしな。仕方ないな。うん…キューだって食べ盛りだろうから」
「うっわ。ちょろ」
「ふふふ」
ーーきゅきゅう!
俺の頭に飛び乗りご機嫌な様子で尻尾を振る。
「悠。キューは喜んでるよ」
「…そうだね」
アイヴィーとキューには敵う気がしない。
そう痛感した一幕だった。
〜10分後〜
アイヴィーとキューとフィオーネが広場で遊ぶのをベンチに座り眺める。
平和だなぁ。
「そーいえばホームパーティーすんだって?アイヴィーから聞いたけどうち誘われてねーぞ!」
隣に座ってたキャロルが思い出したように言った。
「気付いたら結構、呼んでたんだ。キャロルも遊びに来てくれよ」
「…あー…まてよ。どっちみち夜勤当番の日だから無理だわ」
「そっか。残念だよ」
「でも次はぜってー行くから忘れず誘えよな。忘れたら鼻噛むぞ」
八重歯を見せて朗らかに笑う。向日葵が咲く様な素敵な笑顔だ。
「もちろんだ。…鼻は噛まれたくないしね」
二人とキューが戻ってくる。
「そろそろ休憩時間も終わりですね」
「フィオーネもキャロルもアイヴィーに付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ。好きで一緒に居ますから。ね?アイヴィーちゃん」
「…ん」
「お〜照れてんなぁー。うりうり」
ーーきゅー。
「…悠。お家帰る?」
「無視すんなよー」
「そうだなぁ」
まだ帰るには早いが依頼をする気にはならない。
お金があるうちにマージョリーさんの所に行って家賃の前払い……待てよ。
この先、ずっとあの家に住むんだ。金銭的にも余裕がある内に買ってしまおう。
相場がどれ位か分からないが先ずは聞いてみよう。
「ちょっと寄る所が出来た。一緒に来るか?」
「うん」
フィオーネ達と別れ第マージョリー不動産へ向かった。
〜第6区画 マージョリー不動産〜
「あら、いらっしゃい。久しぶりだねぇ」
ドアベルが鳴ると同時にマージョリーさんが出迎えてくれた。
「ご無沙汰してます」
「噂は聞いてるよ。冒険者ギルドで大活躍してるんだってねぇ!あたしも鼻が高いってもんさ」
ばんばんと背中を叩かれた。地味に痛い。
「あ、あはは…」
「ん。こっちの小さな女の子と…頭に乗ってんのはあらまぁ……竜の赤ちゃんかい?」
「俺と一緒に住んでる家族で名前は…ほら」
「私はアイヴィー。こっちは召獣のキュー」
ーーきゅー。
「まぁまぁ、かわいい子たちねぇ。お茶を淹れてあげるから座りなさいな。お菓子もあるわよ」
「うん」
ーーきゅ!
「すみません。お気遣いありがとうございます」
「どーせ暇してたんだし大丈夫さ」
ソファーに座りお茶とお菓子を頂く。
「それで今日はどうしたんだい?家賃は前払いで貰ってるし」
「実は彼処の家と土地を俺に売って頂きたくて…ご相談の来訪でした」
目を丸くするマージョリーさん。
「買い取るって土地も全部?」
「ええ」
「そりゃあ…また…えらく気に入ったんだね。売却は出来るけどさ。一帯の土地も買うってなると結構な額だよ」
「幾らですか?」
「そうだねぇ…」
ファイルを取り出し資料を閲覧する。
〜10分後〜
「あそこは曰く付きだし事情があるから他の第6区画の土地や物件と見比べても安いわ。…でも2200万Gも掛かっちまうよ?」
2200万…よし!問題ない。払っても所持金は十分余るし生活は余裕だ。
「大丈夫です。払います」
「2200万Gも出すなんて…あたしゃ儲かるし良いけど支払い方法は分割かい?」
「いえ。一括で」
「いっ、一括ぅ!?」
腰袋からお金を取り出し机に札束を並べる。
「おぉー」
アイヴィーが驚嘆の声をあげた。
〜1時間後〜
「…うん。確かに全部で2200万Gあるね。こんだけの大金をポンっと払えるなんて…流石、活躍してる冒険者なだけあるわねぇ」
「いえいえ」
「役所への手続きはこっちでやっとくよ。大金だから必要経費が高くなっちまうけど前払いした家賃から貰うね。後は家と土地売買承諾書にサインして貰えればユーさんの物だよ」
書類にサインを記入する。
「……はいよ。こっちが控えさ。利権証明書を持ってくるから待ってておくれ」
異世界の手続きは簡単で良い。
マージョリーさんが店の奥へ消えた。
「お家買ったの?」
「ああ。借りるのは辞めたんだ。これであの家は俺達の家だ。誰の物でもなく…俺やアルマ。アイヴィーにキュー…皆が帰る我が家だぞ」
「私たちのお家。…嬉しい」
ーーきゅうきゅきゅ!
「だろ?」
…遂に名実共にマイホームを購入したぞ!
三十歳で一国一城の主になるなんて勝ち組確定だ。
日本に居た時の狭いアパート生活にはもう戻れない。
「待たせちまったね」
マージョリーさんから利権証明書を貰う。
土地の説明を受け書類の最終確認を行い店を出た。
ーーーーーーーー
所持金:567万G
ーーーーーーーー
高価な酒や食材も買ったからトータルで2300万近く使ったが…まだ567万Gもある。
アルマにも教えてやらなきゃ。
意気揚々と帰宅した。




