FランクからAAAランクへ。
〜翌日 金翼の若獅子 広場〜
ラウラとの約束の日。
予定通り金翼の若獅子に到着した。
友達との外食ってかなり久しぶりな気がする。
…地球では仕事が急がしく年々、友達付き合いも薄れ疎遠になる事が多かった。
今日は楽しみだなぁ。
待ち合わせ場所の執務室へ急いだ。
〜八階 午後18時20分 GM執務室〜
「時間通りだね」
何時もより少しお洒落なラウラ。
……美男子は何を着ても似合うから羨ましい。
俺も服屋で購入した服を着ている。
普段のヘクサの装束衣装とは違いどっからどう見ても一般市民にしか見えないだろう。
「待たせちゃ悪いしな」
「店に行く前に…はい。預かってたカードだよ」
ギルドカードと転移石碑使用許可証を貰う。
ん…色が違うぞ。ギルドカードが銀色に輝いていた。
「ウィンドウを開いて確認してみてくれ」
確認っと…。
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冒険者ギルド
ランク:AAA
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:5800
クエスト達成数:29
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目が腐ったかな。
ランクの項目にAが三つ並んでる気がするんだけど。
「……」
目を擦ってもう一度見る。
……やっぱり幻覚じゃねえ!GRが滅茶苦茶上がってるぅぅ!?
「…ラウラさん。FランクからAAAランクに大幅にランクアップしてる理由を教えて下さい」
「ふふふ、理由は簡単さ。冒険者ギルドの秩序を保つ為だよ」
「秩序?」
「そもそもGRとはランクに見合った依頼を選別する為にあるシステムだ。順当にクエストを達成していけば自然とGRは上がっていく。…でも悠の場合は全く逆で以前からFランクで留まらせるのに疑問の声はあったんだ。今回の一件が後押しになって会議の結果、GRを再訂させて貰った」
「えぇー…」
「そんな風に僕を見ても駄目だよ。この特別処置は独断で決めた事じゃないし誰も文句はない」
「…うーん…」
煮え切らない態度の俺を見てラウラが諭す。
「…君は言っていたね?…『不正を正すとか大勢の人を救う事なんて出来ない。……でも目の前で困窮する人を見捨てるほど薄情でもありません。自分ができる精一杯を全うする…。それだけです』と」
「…言ったな」
「GRが上がった位でその信念は左右されるのかい?」
「…いや」
「なら問題ないよね」
「まぁ…そうなる、かな?」
言いくるめられてる気がしないでもない。
「僕は強い者には本人の望みと関係無く責務が付き纏うと思ってる。…君なら僕の父や兄妹と違って責務を果たしてくれると信じてるよ」
…そこまで言われたら反故には出来ないな。
「…なんで昨日、説明してくれなかったんだ?」
「騙して悪かったが事前に説明したら絶対に嫌がるだろ?」
「……」
…この詐欺師ぃ!!
次からはギルドカードは絶対に渡さない。
「さいですか……あ、確か冒険者報償金だっけ?高位ランクには報奨金があるよな?」
「あるよ」
「俺も貰えるのか?」
「勿論。申請手続きは済んでるから来月から毎月100万Gが冒険者ギルドから支給される」
…ならばこうさせて貰おう。
「……そのランクボーナスはベルカ孤児院に寄付してくれ。俺は金に困ってないし寧ろ増え過ぎてちょっと怖い。それは頼めるか?」
「お金が増えて怖いって……けど100万Gを毎月寄付するつもりかい?」
「ああ。頼む」
庶民的な金銭感覚の俺には何もしないで100万Gなんて受け取れない。
前にベルカ孤児院の依頼をこなしたがお金に困ってるみたいだし……施設育ちの俺には思う所がある。
「分かった。悠が望むならそうしよう」
「ありがとう」
「友達の頼みを無下にはできないよ」
「その友達を騙したくせに」
「…あ。転移許可証の説明がまだだったね」
顔色一つ変えないラウラ。
無視?ねぇ無視ですか?
「これは乙級の『転移石碑使用許可証』だ。乙級の許可証を所持した状態でテレポーターを使用すると任意で転移先を選び往き来ができるんだ。例えば…
・金翼の若獅子→西ベルカ街道→東ベルカ街道→第6区画→金翼の若獅子。
…といった具合にね。一度でも行った転移先はカードに記憶される。それに新たな転移先として…『ビガルダの毒沼』・『竜の巣』・『巨獣骨の塩湖』・『亡国フェミアム』を選べるよ。この四つのエリアは『二級危険区域』だから行く時は充分、注意してくれ」
「二級危険区域?」
「危険度が高いモンスターが生息していたり人が適応するには耐え難い過酷な環境を示す総称だ。更に危険な区域は一級…特級…禁域と区分されている」
ん?…禁域って確か…。
「ただ、希少な鉱物や採取素材に宝物が見つかる事もある。ダンジョンも無数にあるから一攫千金を狙って危険区域を探索する冒険達者は後を絶たないが…大半は死んで戻って来ない。それを忘れないでくれ」
…まぁ、いいや。便利なカードみたいだしこれは嬉しい。その四つのエリアにも今度、行ってみよう。
「AAAランク以上のメンバーに支給される特別なカードだから失くさないでね」
「わかったよ。大事に使わせて貰う」
「そろそろ店に行こうか。僕の奢りだから好きなだけ食べて飲んでくれて構わないよ」
ウィンクするラウラ。……俺が女なら目にハートマークが飛んでるぞ。
「ゴチになります」
ラウラと第5区画のジ・ドレへ向かった。
〜夜19時15分 第5区画 創作料亭 ジ・ドレ〜
「乾杯」
「お疲れ」
落ち着いた大人の雰囲気が漂う店内は木を強調したナチュラル系のインテリアで統一されている。
個室は広くゆったりとしたスペースで居心地が良い。
ジ・ドレはお洒落な洋風居酒屋って感じ。
ラウラがグラスを傾け一息に酒を飲む。
「ふぅ…飲まないのかい?美味しいよ」
「おう」
酒は嫌いじゃないが日本に居た時も嗜む程度だった。潰れない程度に抑えとこう。
…あ、パルキゲニアに来てから初の飲酒だな。
琥珀色のウィスキーに似た酒を一口飲む。
………あれ?もう一口飲む。
「……」
一気に呷ってみる。
「良い呑みっぷりじゃないか」
「…ああ」
林檎と蜂蜜の味わい深いまろやかな舌触り。
…だが酒の風味がしない。飲酒した時の体が熱くなる独特の感覚が全くないのだ。
ただの美味しいりんごジュース…?
「蒸留酒でも僕はこれが一番好きでね。蜂蜜林檎を漬け込んでるから甘い芳香が口いっぱいに広がるんだ。ミエルウィスキーってお酒さ」
「ほら」
「ありがとう」
グラスに酒を注がれる。
……うん。やっぱり酒の味がしない。何度飲んでもりんごジュースだ。…もしかして狂気耐性で異常状態に極めて強いからか?
酔うのも異常状態に該当するのかなぁ。
「ここは料理も美味しいから。特に肉料理が絶品だよ」
ラウラと他愛もない話を楽しみながら酒を酌み交わした。
〜2時間後〜
「…お酒には強いって自負してたけど…悠も大概だ」
頰が朱に染まったラウラがぼやく。
「ま、まぁな」
あれから他の酒も飲んでみたが全く酔わない。
「……ひっく。ねぇ。悠はさ…僕のこと…どう思う?」
いつもの凛とした口調や態度とは違う。…酔っ払ってるよなこれ。
「どう思うって?」
「…仕事とか…ギルドのこと」
指でグラスの氷を弄る。
「…若いのにギルドの運営も頑張ってるし大したもんさ。俺が同じ立場なら無理だ」
「……頑張ってるか…。頑張ってもさ…結果が悪ければ駄目だよね…正直ギルドをまとめれる自信が…ないんだ。父や兄は…唯我独尊でわがままなのに……みんな惹かれてる。…妹は論外だけど」
初めて聞く心情の吐露。
「…『金翼の若獅子』は冒険者ギルドの総本部なのに…どんどん評判が悪くなってる。…汚職や不正が多過ぎて対処しても対処しても…切りがない。これじゃ駄目なのに…僕の力がないせいだ」
「違う。よくやってるさ」
「……」
「悪いのは不正を働く輩でラウラじゃない。焦らず一つずつ解決していけば必ず良くなる。俺に手伝える事があれば遠慮せず言ってくれ」
「………」
「一人で重荷を抱えたら辛いだろ。…俺も一緒に背負ってやるよ」
役に立たないかも知れないけど。
「…………」
熱っぽい眼差し。
「…ありがとう。愚痴ったら気が楽になったよ」
「このぐらいお安い御用だ」
頬杖をついて口元を綻ばせるラウラ。
「……ねぇ、悠は…どんな女の子がタイプ?」
「…おっと唐突に話題が変わったな」
「別に良いじゃないか。教えてよ」
「うーん。…まぁ、巨乳の子は嫌いじゃない」
「へぇ…」
「服越しの盛り上がった凹凸は見てて飽きないしおっぱいは男の夢と浪漫が詰まってる」
「ちょっとおじさんっぽい…ね」
おじさんじゃねーし。
「あくまで一つの要因だぞ。…大事なのは守りたいって思える人だ」
「守りたい…?」
「ああ。どんな辛い時も傍で支えてあげたい…あらゆる受難と苦痛から守ってあげたいって思える…そんな女性が俺は好きだな」
「……あ…」
「どうした?」
「…真顔で…僕を見て言うから…なんだろう…ごめん。上手く言葉にできない」
…そんな変な事を言ったつもりはないが。
「例えば…例えばだけど…」
「うん」
「ぼ、僕みたいな…女の子が悠を好きって言ったら…守りたいって思うかい…?」
変な質問だなぁ。
「…ラウラに似てるってことは美人だろうし…好きって言われたら嬉しいし守りたいって思う…かな?」
「…そ、そっか…!…うん。わ、わかったよ…ふふ」
頰が一気に紅潮し落ち着かない様子で指や髪を弄ぶ。
……うーん。ラウラって本当に男だろうか。
仕草や表情が女の子にしか見えない。
声もいつもより高いし…。
「……なぁ。ラウラって」
「…!」
「…あぁ!もう、こんな時間だね。…ちょっと飲み過ぎたみたいだ…先に会計をしてくるから待っててくれ」
「お、おう」
席を立ち個室を出るラウラ。
「俺の気のせいか…?」
〜ジ・ドレ 店内〜
「あ、危なかった…何を考えてるんだ僕は…?」
席から離れたラウラが呟く。
「…酔った勢いで僕は何を…でも…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『ああ。どんな辛い時も傍で支えてあげたい…あらゆる受難と苦痛から守ってあげたいって思える…そんな女性が俺は好きだな』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…ふふ…」
思い出すとつい口元がにやけるラウラであった。
〜10分後〜
ラウラは酔いが醒めた様子で戻ってきた。ちょっと恥ずかしそうにも見える。
食事のお礼を言って店先で別れた。
AAAランクに昇格したし明日からまた仕事がある。
巌窟亭の依頼も受けて…オーランド総合商社に錬成品も卸したい。ただ、素材や死骸もないし…冒険者ギルドで依頼をこなさないと。
明日からの予定を考えながら帰宅した。




