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純粋な悪意の伝染病。終




〜午後15時 金翼の若獅子 八階 GM執務室〜


「…予想以上の事態だったね。お疲れ様」


「ん。まぁ、一応、解決できたから良かった」


ラウラに共同捜索依頼の顛末を報告した。


「一応?…これ以上ない成果じゃないか。指定危殆種の封印なんてSランク依頼に匹敵する難度の高さだ。悠の活躍がなければ全滅だったと騎士団から報告を受けてるよ」


「そうかな」


「そうさ」


「悠のお陰で今後は騎士団との連携が取りやすくなるし少なからず冒険者ギルドに対する印象も変わっただろう。…『霹靂』のシー・パルジャミンが君を高く評価してたよ。是非、騎士団に欲しい人材だと」


「褒められて悪い気はしないが買い被り過ぎだ」


「…自己評価が低いのは君の悪い癖だね」


やれやれと首を振るラウラ。


ドアをノックする音がした。


「どうぞ」


「失礼致しますラウラ様。…報酬金のご用意出来ましたが如何されますか?」


「ありがとう。悠に渡してくれ」


ギルド職員から分厚い札束を渡される。


……何これ。


「ソロオーダー達成の報酬金1000万Gです。確かにお渡ししました」


「ふあっ!?」


いやいやいやいやいやいやいや!!


あり得ないだろがい!


「では私はこれで」


ギルド職員が退室する。


「…おいおい。どんな奇跡が起きたら報酬金が1000万Gになるんだ」


「指定危殆種の封印と被害拡大を防いだのだから当然だよ。本来、指定危殆種の討伐依頼はSランク以上しか受注出来ないしSランク以下なら複数PTの共闘が義務だ。…レムレースは単純な戦闘能力だけで封印できる相手じゃない。それを無力化した君には相応しい報酬額さ」


「だからって1000万Gは」


「受取拒否は絶対に認めないよ」


温和な表情だが譲らないと言わんばかりの姿勢。


,…金回りが良すぎて怖い。日本で暮らしてた時より確実に裕福な暮らしをしてるなぁ…。


1000万だぞ1000万。体が震えるぜ。


「わかったよ…ありがとう」


腰袋に現金を入れる。財布には入らないし。


ーーーーーーーーー

所持金:2270万G

ーーーーーーーーー


「それと持ってるギルドカードと甲級の転移石碑使用許可証を一旦、僕に預けてくれるかな」


「良いけど何で?」


「カードの内容を更新したいだけさ」


言われるままギルドカードと転移石碑使用許可証をラウラに渡す。


「そうだ。食事の約束だったけど……明日19時に第5区画の『ジ・ドレ』って店を予約してある。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」


「わかった。待ち合わせ場所は?」


「ここで。カードと許可証もその時に返すから」


「了解。それじゃ帰るよ。また明日な」


「ああ。また明日ね」


執務室を出る。


一階に行くとフィオーネとキャロルにアイヴィーとキュー…他の大勢のメンバーも集まっていた。


共同捜索依頼の内容について聞かれ同じ話を繰り返し説明して疲れた。


一時間後、漸く解放され懐事情も非常に暖かいので帰りに商店街で大量の食材を買い込む。アルマに封印石のお礼も兼ねて豪華な夕食をご馳走しなきゃな。



〜夜21時 マイハウス リビング〜



ーーーあぁー…満足だわ。…お腹いっぱいで幸せ。


「…喜んで貰えて嬉しいよ」


夕食を食べ終えのんびりした時間を過ごす。…しかし、アルマの食欲の凄まじさは知ってたが質量の法則を無視した食いっぷり。…キューも負けじと餓鬼みたいだった。


俺とアイヴィーは目を丸くしてそれを眺めていた。


ーーー毎日、こんぐらい用意しなさいよ。


「ふざけんな。我が家が破綻するわ」


エンゲル係数がとんでもない事になる。


ーーー…そーだ。レムレースに取り憑かれた女の子は結局、どーなったか詳しく聞いてなかったわね。


「アルマの言う通り正気には戻らなかった。一週間後、聖都ラフランにある聖マルタナ救護施設に移送されるってさ」


ーーーふーん。仕方ないわよ。


「…仕方ないってばっさり言うんだな」


ーーー言ったでしょ。戦争や虐殺…人が互いに争いをやめなきゃ消えやしないって。時間が経てばまた世界の何処かでレムレースは生まれる。それを根絶するなんて神様にも無理よ。


「…まぁ…それはそうだけど」


ーーー…もう忘れなさいな。あんたはできる限りのことはしたわよ。


「…そうだな」


口ではそう言っても忘れられそうにもない。


気掛かりもある。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーー…我゛等は…ま…た…復活する…概念…故に…!人が生きる世界に我等は生まれる゛のだ…!!


ーー狂気は…消えぬ…!…封印し゛…ても…心に根付いた残滓は゛…!!


ーー…卵が割れ孵化…する…ようあああああああぎぃいい、いいいいああああああああああ!!!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



レムレースの最後の言葉。あれは…断末魔の捨て台詞だったのか…?それとも…。


ーーー…それに推測だけどその子は…。


「悠。パジャマどこ?…ない」


ーーきゅきゅう〜。


アイヴィーが裸でリビングに来た。


「ほら。ここに忘れてるぞ。それと女の子が裸でうろうろしちゃ駄目だ」


「興奮する?」


どこで覚えたんだよそんな台詞。


「…バカなこと言ってないで風邪引く前にお風呂入りなさい」


「悠も一緒にお風呂に入ろ」


ーーきゅ。


「なんでまた急に」


「キャロルが言ってた。好きな女の子の裸を見たくない男はいないって」


「……」


「『アイヴィーの裸を見せてやったらユーも喜ぶかもなー。うしし!』っても言ってた」


アイヴィーになに教えてんだよ。


「……それとも悠はアイヴィーが好きじゃないから一緒にお風呂には入れない?」


上目遣いは卑怯だぞちくしょう。


「…わかった。わかったって。俺も一緒に入るから」


「うん!」


ーーきゅー!


パジャマを持って走って風呂場に行くアイヴィーと追い掛けるキュー。


「ったく…キャロルめ。覚えてろよ」


服を取りに部屋に向かった。



ーーー………。


ーーー……ま、知らない方が幸せよね。ふぁー…わたしもベッドで寝ようっと。




〜同時刻 騎士団本部 拘留施設〜



「……」


「本当に薄気味悪いガキだ。…表情一つ変えないぞ」


「少しの辛抱だ。一週間後には聖都に行く。一生を其処で終えるんだぞ。可哀想じゃないか」


鉄格子に囲まれた質素なベッドに座るパトリを見て見張り番の騎士がぼやく。


「……村を壊滅させて第壱竜騎士部隊の隊員を殺したんだぞ。同情できないに決まってる」


「……」


「不気味な奴だよ…ちっ。早く交代の時間になって欲しいぜ」


「イライラするなよ。仕事なんだぞ。…ちょっとトイレ行ってくる」


「はやく戻って来いよ」


一人残された騎士が牢から目を離す。



……ぃ…ひ……。



直後、微かな声が耳に届いた。


慌てて牢の中にいるパトリに視線を向ける。


「…今、こいつ笑って…いや、気のせい、か?」


ベッドに腰掛けたままだった。


「……」


無表情で天井を見上げている。


「…ったくビビらせるなよ」


騎士は気付いていない。


「………」


口を吊り上げ暗く濁った瞳が細まる。

狂気に愉悦する笑みに気付く事は無かった。





「いひ」




……数年後、聖都ラフランの聖マルタナ救護施設で患者による大規模な暴動と火災事故が発生する。


武装神衛隊『ユダ』による患者への鎮圧が為された。死傷者164名。重傷者31名。行方不明者15名。


大惨事であった。


行方不明者の一人にある少女の名前が記録される。


その少女の名前はパトリ・ヨーベン。


出身はミトゥルー連邦の国……モルト山脈麓のノーマ村。


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― 新着の感想 ―
[一言] 結局は殺すしか無かったってことだな...30のおじさんは今を見すぎて、将来を考えず、手を汚す覚悟が足りなかったんだなぁ
[一言] ハンターハンターの五大厄災で『殺意を伝染させる魔物 双頭の蛇ヘルベル』に似てる。
[一言] ば、バットエンド(?)だこれぇ。(面白く読ませてもらってます)
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