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純粋な悪意の伝染病。⑧



〜数日後 騎士団本部〜



共同捜索依頼のクエストを達成し二日が経過した。


結果を言えば……悪いモンスターを退治してハッピーエンドとはならなかった。レムレースは壊滅的な被害をノーマ村に齎らしたのだから。


感染して正気に戻った村人は僅か四名。大半の村人は精神に重大な心的外傷を患い医療施設での長期療養が必要となった。


第壱竜騎士部隊の騎士隊員の三名は村の家畜小屋で遺体で見つかる。


第壱竜騎士部隊四等騎士官エルゾォ・ウーロンド。

第壱竜騎士部隊下級騎士官ガルボ・G・モルテ。

第壱竜騎士部隊上級騎士官ターペ・マルマイン。


…以上の三名は遺体の損傷が激しく死亡原因の詳細は錯乱による自傷行為と断定。


騎士団員による家宅捜査でも村人の自宅からも次々と遺体が発見され現場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


存命した村人達は事情聴取で口を揃え…。


『ここ数ヶ月の記憶がない』


…と答えた。


ダーバンさんやロドリゴも…。


『あの晩から記憶が途切れている。気付けばベッドで寝ていた』


…と証言している。


四名の村人は近隣の村や町に移住する事になりノーマ村は事実上、廃村となったがマデリンさんは…。


『…老い先短い身…この村で育ったんだ。死ぬ時も此処で死にたい』


…と頑なに移住を拒否。説得する事は出来ず自己責任のもと残留を許可された。



〜午後14時 隊長室〜



俺は今、隊長室で事件の経過報告と詳細についての尋問をシーさんから受けていた。大体の内容は既に知っているが形式上の必要措置だろう。


「ーー…分かりました。聴き取りは以上になります」


ペンを置き顔を上げる。


「はい」


「…今回の共同捜索任務で貴方が居なければ解決は出来なかった。騎士団を代表して礼を言います」


「死傷者も出てるし解決と言っていいのか…」


「騎士団員である以上は任務で命を落とす危険は常に隣合わせ…残念ですが仕方有りません。貴方はあの怪物に一矢報いてくれた。…きっと彼等の魂も浮かばれます」


自分の部下を亡くしているのに気丈に振舞う。


冷徹に見えるが隊長としての責務なのだろう。


「…そうですね」


「しかし…C・ヴァンダレイの古書をこの手で読む事が出来るとは…。生前は著名な魔物学者で現存する本は『グリンベイ国立図書館』に保管されてます。これは指定危殆種を記載した大変貴重な学術本の一つよ」


「へぇ」


さすがは魔女の家。…封印石や人形…もしかして他にも宝の山が眠ってるのかも。


本を返して貰う。シーさんが真っ直ぐ俺を見詰める。


「…実は悠さんに謝りたい事があります。入国審査でお会いしてから貴方の動向を騎士団で監視していた時期がありました」


「え、なんで?」


「正直に申し上げて怪しかったからです」


…正直すぎてショックなんですけどぉ!


「…けど一緒に行動を共にして分かりました。それは杞憂だったと」


「よ、よかった」


「ふふ。…でも隠し事も多いわね。聴聞をして直ぐ分かりました」


「…別に」


「嘘が下手ね。目が泳いでますよ」


綺麗な女性の含笑いって良いよなぁ。


ドキッとさせられるぜ。


「根掘り葉堀り追求して問い詰めたいですが今日は止めておきますね」


お願いです。今後もやめて下さい。


「あ、ははは」


乾いた笑いしかでねぇ。


「…真面目な話で騎士団に興味はありませんか?悠さんなら即戦力です。私から推薦しますよ」


「いやー…今の生活が気に入ってますので」


「では別の機会に勧誘します」


諦める気ないやん。


「それとレムレースを封印した結晶石ですが騎士団の地下にある呪物保管庫で厳重に保管されてます。二度と誰かの手に触れる事はないでしょう」


「なら安心ですね。…あ。パトリは…あの子はどうなるんですか?」


「…彼女の処遇については一週間後、聖都ラフランにある聖マルタナ救護施設へ移送される予定です。其処はモンスターの被害に遭った幼い子供達を手厚く保護し看護する治療施設なので」


「……」


そう。パトリは元には戻らなかった。


無機質な人形の様に喋る事も感情を表す事も無い。


ただ、生きてるだけだった。


…正気には戻れない。


分かっていた。


…分かってはいたが俺は正しかったのか?この先、ずっと死ぬまであの状態なら…いっそ殺した方が幸せだったかもしれない。


自分が決断した事だが俺は…。


「……悠さん。悩むのも分かります。貴方の優しさは残酷な仕打ちかもしれません。でも、あの少女を止めなければ更に被害は拡大してた筈…。私なら殺す以外の選択肢は有りませんでした」


シーさんが諭すように話し掛ける。


「貴方の選んだ封印の選択は綺麗事や偽善かもしれない。…でも、少女を助けたいと願った貴方を間違ってるとは私は思わないわ」


「……ありがとう」


その言葉に救われた気がした。


「いいえ。思ってる事を伝えただけですから」


「…ふぅ。それじゃ用事も済んだし俺は行きますね。また共同依頼があればギルドへ言って下さい」


「ええ。是非。指名するわ。…その時は隠し事や過去の経歴も暴いて差し上げます」


「それは勘弁して欲しいなぁ」


割とガチで。


「…それと私の事はシーと呼び捨てで構いません。私も悠って呼びますから」


「分かりました」


女性から呼び捨てをお願いされるって変な感じだ。


最近、機会が多いから余計に思う。


「またお会いしましょう」


素敵な微笑みを浮かべる。


「……」


「何か?」


「シーの微笑む顔って素敵だなぁって思って」


「……」


くるりとシーが踵を返す。


「…?…お邪魔しました」


部屋を退室した。



〜数分後〜



隊長室をノックする音。


「どうぞ」


「失礼致します。ワイバーンの補充飼育の件で確認して頂きたい書類が…どうかされたのですか?」


騎士がシーの顔を見て聞く。


「何が?」


「頰が真っ赤ですので体調が優れないのかと」


「…何でもありません。書類の続きを」


シーは取り繕う様に騎士へ告げた。


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