禁域シャングラ①
〜見知らぬ部屋〜
木造りのベッドの上で目を覚ました。……変な夢も見ていた気がするが…この状況は一体?
…俺は洞窟で化け物に会って…そうだ。右腕を斬られて胸を刺されたんだ。
「右腕がある…ってどーなってんだこれ」
一気に頭が覚醒した。肘から手先まで白蛇の刺青が彫られ肌の色は真っ黒に変色しているのだ。
「うぇえ…?これってあのスキルの影響だよ、な?」
普通に指も動く。特に違和感もない。
「なんでベッドの上にいるんだ。服も違うし…」
見慣れない服を着させられていた。
誰か介抱してくれたのか?
周りを見渡すと部屋には見慣れない小物と家具で溢れている。
ドアの向こうから誰か入ってきた。
「目が醒めたようですね」
「………」
「大丈夫なのかい」
背が高く耳が尖ったお婆ちゃん。凛とした雰囲気で若い頃は大変な美人だったのが容易に想像できる顔立ちだ。翡翠の色をした髪を纏めゆったりとしたローブを羽織ってる。
その背後には背が小さく髭を蓄えたがっちりした体格の男性が厳つい顔を顰め俺を見ている。
隣には同じく背が小さいが体格の良い快活そうな女性もいた。
…自分とは明らかに人種が違う。ゲームのキャラみたいだ。
「…すいません。あなた方が俺を助けてくれたんですか?」
「はい。貴方が『クリファの祠』の前で倒れていたので私の家まで運ばせて貰いましたよ。服も着替えさせて貰ったの」
クリファの祠?
「…そうだったんですね。ありがとうございます」
「あたしゃ三日間も寝たきりで……うんともすんとも言わないし死んじまったと思ってたよ」
「み、三日間!?」
そんなに昏睡してたのか。
「申し遅れましたが私は『ハイエルフ』のモーガン・ル・フェイと申します。こちらは『ドワーフ』の夫婦でケーロンとミドです」
ハイエルフにドワーフ…。
ファンタジー映画でよく聞く単語だ。有名な指輪物語の映画にも出てくる。
「ミドだよ。んでこっちが旦那のケーロン。…ほらあんた」
「……ケーロンだ。いろいろ聞きてぇことがあるが名前は?見たとこ『人間』みてぇだが」
ヒュームってなんだろ。疑問符だらけで参っちゃう。
んー。この人達に自分をどう説明すべきだろう。悪い人達じゃなさそうだし正直に話すべきか?
地球から異世界に召喚されました……そう言って信じて貰える気がしない。頭がおかしいと思われそうだ。
「俺は黒永悠。…俺のことは皆さんにどう説明をしたら良いか…」
ぐうぅぅ。
腹から大きな音が鳴る。
「あっ」
…そういえば何も食ってなかったっけ。意識し出すとめっちゃ腹が減ってきた。
「はははは!そんだけ腹が減ってんなら元気な証拠だよ。まずは腹ごしらえだねこりゃ」
「そうですね。ご飯にしましょうか」
「ふん」
「…お気遣い頂きどうもです」
〜50分後 モーガン宅 リビング〜
食卓に並んだ沢山の見慣れぬ料理を勢い良くかっ込む。
やべぇ!美味しくてスプーンが止まらないぞ。
「よっぽどお腹空いてたんだねぇー…。結構、作ったつもりだったんだけど」
「…まるで餓鬼じゃねーか」
「んぐ…凄く美味しいです」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。それにしてもよく食うんだねぇ」
空腹は最大の調味料。正にその通りだと実感する。
ぺろりと平らげてしまった。
「…ふぅ。ご馳走さまでした」
「ふふ、ご満足頂けて何より。それでは本題に入りましょう」
真っ直ぐに俺を見詰めるモーガンさん。
「…貴方は何者ですか?黒永悠と仰られましたが随分、聞き慣れない名前よ。それに着ていた服も見慣れぬ繊維や素材で仕立てられたものでしたが」
「あー…」
言葉が詰まった。
迷っている俺を見透かすようにモーガンさんは続ける。
「正直に話して頂戴。こうして巡り会ったのも縁……私達ならば力になれるかもしれませんよ」
「言ってみなさいな。ちなみにモーガンさんにゃ嘘が通じないからね」
「……」
「…分かりました。突拍子もない話に聞こえるかもしれませんがーー」
〜10分後〜
俺はこれまでの経緯を偽ること無く伝えた。
地球の事やスキルと加護の話も洞窟みたいな場所で出会った名のない女神の事も…知り得る全てを三人に話した。
三人はとても驚いた様子だったが口を挟まず真剣な面持ちで聞いてくれた。
暫く沈黙が続く。
「……只者ではないと思っていましたが…ふふふ。悠さんはパルキゲニアの人間ではなかったのですね」
「え、信じてくれるんですか?」
「ええ。信じますよ。先程ミドも言っていましたが私には人の嘘を看破する事が出来ます」
嘘発見器かよ…。
「しっかしモーガンさん……とんでもないことになっちまったんじゃないかい?」
「おうよ。『神樹』がああなったことを手放しで喜びてぇが下手すりゃ更に厄介な事態になったかもしれん」
会話に全くついていけない。
「…悠さん」
「は、はい」
「私と一緒に来て頂けますか?…貴方には色々と説明しなければいけません」
「了解です」
モーガンさんと一緒に家を出た。
説明ってなんだろう。