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純粋な悪意の伝染病。⑥


〜20分後 ノーマ村〜


パトリの家を探し村中を走り回る。


「…はぁ…はぁ…此処はまだ見てなかったっけ」


枯れた広い野菜畑が隣接した民家。


玄関にぶら下がった表札を確認する。


ーーーーーーーーーー

ガードナー・ヨーベン

ヒルトン・ヨーベン

パトリ・ヨーベン

ーーーーーーーーーー


当たりだ!


「この家だな」


玄関には鍵が掛かっている。


…他の出入り口も同様みたいだ。


「よっと!」


玄関のドアを蹴破る。器物破損とか気にしてる場合じゃないよな。



〜ヨーベン家〜



「ひ、酷い…」


…目に沁みるような異臭。


人が住める状態じゃないゴミ屋敷じゃないか。


割れた陶器…汚れたテーブル…折れた椅子の脚…。蜘蛛の巣に蛾や羽虫の死体が重なって巣が崩れかけている。


「……」


家の中の散策を始めた。


〜15分後 ヨーベン家 パトリの部屋〜


「…この部屋が最後か」


どの部屋も酷く荒れた状態だったが有用な証拠となる物は何一つ見つからなかった。


パトリの部屋とドアには文字が彫られている。


更にきつい腐臭が鼻を突き刺す。


恐る恐るドアを開けた。


「…うぁ…」


小さなベッドで丸まって死んでいる女性。死体は傷み…これじゃミイラの出来損だ。


シーツに体液と糞尿で染み込み…言葉で表せない色合いになってる。


「……っ…」


吐気を堪え部屋を見渡す。


部屋一面に奇妙な絵が貼ってあった。


某人間の少女を囲む黒く塗り潰した黒円の絵。


精彩な絵ではなく幼稚園児が描く落書きに類似したタッチが余計に不気味に思えた。


机には絵日記が置かれてる。数ぺージ捲るが一日の様子が拙い絵と文字で記載してあった。


他の子と遊んだ内容の他に両親の喧嘩や自分に対する扱いが書いてある。……マデリンさんの言う通り家庭環境は良いとは言えなかった。


義父からパトリは叩かれる事もあったようだ。


暫く絵日誌の空欄のページが続く。


最後のページを捲る。


ーーーーーー『パトリの絵日記』ーーーーーー


しゅゆのつきふつか。


おとうさんもおかあさんもいらない。

そんちょうのダタンさんもラングーさんもエミちゃんもメイタくんもみんなみんないらない。


パトリにはれむれーすがいるからみんないらない。

パトリはいちばんえらいんだ。

パトリがいちばんすごいんだ。


みんなにもおしえてあげなきゃ。

れむれーすもさんせいしてくれた。


みんなみんなみんなみんなパトリになればいい。

そうすればみんなしあわせだよね。


あしたからたいへんだけどがんばらなきゃ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


核心のキーワードを発見した。


「…レムレースの親宿主はパトリで間違いない。日記は証拠になるし持っていこう」


腰袋に絵日記をしまう。


急いでパトリを見つけなければ。村中を片っ端から探すしかない。


玄関に戻ると外に人が立っているのが見えた。


マップを開き確認すると赤いマークが示される。


「……」


左右に武器を握り外に出る。




〜ノーマ村〜



探す手間が省けた。そこに居たのはパトリだった。



「ひひふふふふ…お兄ちゃんは…変だよ…。どおしてかなぁ。…なんでぇ…平然としているの?…パトリはわからないよ」


ーーあぁ…。


ーーうぁ…。



あの三人の大人は…。


ーー対象を確認。ステータスを表示ーー

名前:没人形デッド・ドール

戦闘パラメーター

HPー MPー

筋力300 魔力400

体力50 敏捷200

技術150 狂気700

戦闘技:振り回し

魔法:闇魔法(Lv1)

固有スキル:骸遊戯

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

レムレースが操る死体。鈍く簡単な動作しか

出来ないが倒しても一定時間で復活する。


憐れな骸はレムレースを無力化すれば土に還

り解放されるだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


服装と武器から判断するに行方不明の騎士団と冒険者ギルドの者だ。


「ひーひひ…お兄ちゃんも死んぢゃえばパトリの仲間になるよねぇ…ねぇ!」


襲い掛かるデッド・ドールを銃で撃つと足が弾けて飛んだ。


…だが這っても向かってくる。


「!」


リッタァブレイカーの一撃が這い蹲る一体の頭を潰す。そのまま突進し殴って爆発させた。


爆発に巻き込まれた二体も音も無く崩れ落ちる。


脆いな。…良い気分はしないが。


「あああ…つよいんだねぇ。躊躇しないんだねぇ…おもしろくないなぁ…でも…」


パトリが口を大きく開くと無数の小さな蟲を吐き出す。


黒い蟲は背後に集まり蠢き程無くして霧に変わる。…今度は三つの顔が霧に浮かんだ。嗤う赤ん坊の顔…啼く若い女の顔…憤る爺の顔。動物の脚や人の手も霧から現れ…もはや形容し難い怪物だ。


無秩序な悪夢を具現化したらこうなりそう。


指定危殆種の『陰翳の蝕み虫』…『闇黒に潜む魑魅魍魎』…これがレムレース…。



ーー対象を確認。ステータスを表示ーーーーーーーー

名前:レムレース

戦闘パラメーター

HPー MPー

狂気9000

神秘4000

耐性:聖耐性(-Lv Max)

固有スキル:骸蟲・憑依・狂威・伝染病の主・骸遊戯

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

概念が実体化したモンスター。種族もなくLvもない。幼い子供に取り憑き支配し人を狂わせ死に追いやる伝染病の元凶。概念であり倒しても負の感情を糧に時間が経てばまた復活する。聖魔法や封印が非常に有効。戦場や虐殺があった土地で誕生し易い。


心せよ。かの病を根絶したくば聖なる神の御業に縋るか狂気の淵で理解を得るか。

人の業は深くそれ故に救いはないのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あひゃはははははははははははははははははははははははははははははあひ!あはははははははははははははははははははっ!!…お兄ちゃんの歓迎会をしなきゃ…」


村中を蟲が覆う。陽を隠し仄暗い闇に包まれ数え切れないデッド・ドールが現れた。


村中から劈く笑い声が聞こえる。まるで蛙の合唱だ。


「…今、解放してやるからな」


大太刀を構えた。


「解放って…?…あはははははは!!無理だよぉ。だって…みぃ〜んな死ぬんだもん。ばいば〜い!きゃは。きゃははははは」


パトリが走り去る。


追おうとするがデッド・ドールが立ち塞がった。


「真月之太刀!」


強力な横薙ぎの斬撃が敵を一掃する。土埃の粉塵と衝撃波がデッド・ドールを怯ませた。


威力は三日月斬りの時と段違い。


しかし、直ぐに再生してしまう。


()()を使ってみるか、


「禁法・縛烬葬」


左手を前に翳す。


「ぐぅっ…!?」


左手が何度も裂傷を繰り返す。


血が滴り激痛が走った。


1秒…2秒…3秒…。


「…まだかよ…!」


鈍い動きで距離を縮めるデッド・ドール。


4秒…5秒…6秒…。


袖に生暖かい感触が伝わった。裂傷が手から腕にかけ広がる。


7秒…8秒…9秒…。


眼前に迫る敵の動きが止まった。


金縛りにかかったように小刻みに震えて動かない。


「止まった…?」


次の瞬間、猩猩緋色の業火がデッド・ドールを焼き尽くし灰燼と帰す。灰が空中に舞った。


……すっげぇ。馬鹿みたいな高威力だ。


「…痛っ。兇劍のスキルで軽減されてこれか…。使い所を見極めないとやばい呪術だな」


何にせよ道は拓けた。


「走っていった方向はあっち…村長宅の方か」


ーーああああ゛…。


ーー…うぁ…ああ。


背後で呻き声と共にデッド・ドールが復活する。


「もう蘇るのかよ。…キリがないぞ」


武器を構えるが…。



「ーーー絶鳴剣ぜつめいけん!」



二筋の剣閃がデッド・ドールを斬り伏せる。


「シーさん!?」


「…ご無事でしたか」


現れたのは双剣を携えたシーさんだった。


魔菌の影響で血色悪く体調は芳しくない様子。いつ発症してもおかしくない。


「なんで村に…」


「増援部隊が到着したので…私も来ましたが…入った矢先、謎の蟲が村中を覆いました…。中から外に出ようとすると襲ってくるみたいです。…悠さん…この状況は?」


「…元凶を見つけましたが行方不明者は既に死んでました」


時間もないので簡潔に言う。


「そう、ですか…残念です」


「…シーさん。詳しい説明は後でします。俺が何とかしますから隠れて休んでて下さい」


「……」


ーー…うああ。

ーーおぉぉ…。


「ちっ!…また蘇りやがった」


「……行って下さい。この場は私が食い止めます」


「えっ!?そんな状態じゃ」


「見縊らないで。私は仮にも隊長です。部下が苦しんでいる中…一人隠れて吉報を待つほどやわな鍛え方はしていない」


瞳に強い意志を感じる。


この精神力が魔菌の影響に対抗しているのか…?


「…わかりました。無理はしないで」


どっちみち押し問答をしている暇はない。


振り返らず村長宅へ走る。



〜数分後〜



ーーああああ…。


ーーうぉ…あ…


ーー…ぉおぉ…。


騎士団の鎧に身を包んだデッド・ドールを見てシーは静かに呟く。


「…騎士団の同胞として…この剣技を持って黄泉への手向けとしましょう」


双剣を構える。


「第三騎士団『竜』所属第壱騎士部隊隊長…『霹靂』のシー・パルジャミン……参ります」


烈風の如き剣撃がデッドドールを斬り刻んだ。




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