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純粋な悪意の伝染病。④


〜野営地〜


見つけた日誌を渡し報告した。部隊員が騒めく。


「……」


シーさんとダーバンさんが日誌を見る。


正視に耐えかねるといった顔だ。


「…カナムは異常者としか思えん。だが、こいつの日誌だけで全員を拘束するには理由が弱過ぎるな。老婆が言ってた話もよくある伝承やお伽話だろう」


「そうかな。…この件に関係ある気がしますが」


「……何にせよ確たる証拠が欲しい事実に変わりはありません。…ダーバン。夜は交代制で村の見張りを。それと晩餐には貴方とロドリゴが出席して下さい。用意された食事には一切手を付けないで。毒や幻覚作用を引き起こす薬を盛るかも知れません。…怪しい動きや素振りがあれば逮捕権の行使を許可するわ」


「「はっ」」


「私は日記を持って騎士団本部に戻り報告するわ。…悠さんはどうしますか?」


「俺は南の森の石碑を調べたら戻ります」


「分かりました。…ジェンキン。悠さんと一緒に南の森へ」


「はっ」


一人の方が気楽なんだが共同の依頼だしな。


騎士団本部へ戻るシーさんを見送る。


…さて。


「よろしくお願いします」


「…ああ。第壱竜騎士部隊三等騎士官のジェンキンだ。こちらこそ宜しく頼む」


二人で石碑のある南の森を目指し野営地を出発した。



〜20分後 南の森〜



「村から南に進んだ薄暗い森。…ここだな」


「……」


マップを見ても緑のマークも此処を指している。


風に揺らぐ木の枝はまるで亡者の手に見えた。…気味が悪い。森の中へ続く砂利道を歩く。


「……不気味な森だ」


ジェンキンが呟く。


「ですね」


「鳥や虫の鳴き声すらしない森なんてあるのか…」


赤いマークはない。


「どうでしょう。モンスターは居なそうですが」


「……敬語はやめてくれ。あんたの方が歳上だろう」


「分かった。そうするよ」


「俺もユウって呼ぶから。…本部では馬鹿にして悪かったな。初見でワイバーンを乗りこなし操るなんて驚いたよ。大したもんだ」


「ありがとう。…実はちょっと悔しくてな。意地でも乗ってやろうって思ってさ」


「意地で乗れるもんじゃないが……でも部隊員の奴等もあんたを見直してたよ」


他愛無い会話を続けながら森を進む。



〜南の森 石碑〜



暫くして朽ちた樹洞の中に小さな石碑を見つけた。


「あれが石碑か。…石碑ってより墓石じゃないか」


「ああ」


周囲には小さな靴と鞄が散乱している。近くで確認すると樹洞の中の石碑は破壊されているのが分かった。


「…なにか文字が刻まれているが…読めない。見たこともない文字だな」


俺は理解できた。恐らく古代文字だろう。アザーの加護がある俺なら読める。


なになに…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……山峰の麓……われた…大樹の…禍患…の…凶……我…ルビィー……決し……碑を…かす…事…禁ず……破れば…伝染し……狂…人々を絶……追い遣ろ……。封し……名は…レムレース…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


割れて読めない箇所があるが……レムレース…?


聞いた事がある名前だ。


あれは確か…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『……不覚だった。レムレースのお話があんな怖いとは思ってなかった』


「レムレース?』


『…暗闇の幽霊みたいなモンスター。普段、姿は見えないけど…見たら狂っちゃうぐらい怖い怪物…』


『ふーん。そんなモンスターもいるのか』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あの時だ!


アイヴィー言ってたモンスターの名前…レムレース。


こんな偶然があるとは…。


「 ジェンキン。レムレースってモンスターを知ってるか?」


「いや、聞いたこともないな」


…知らないか。帰ったらその本を読んでみよう。


手掛かりになるかもしれない。取り敢えず散乱していた靴と鞄を回収した。


「ユウ…日が暮れる前に野営地に戻ろう。…なんだが寒くなってきた。…体が震える」


「了解。行こう」


ジェンキンもシーさんと同様に具合が悪そうだ。


森を抜け野営地に戻る。


その後、ドローレに乗り騎士団本部へ出発。ノーマ村の調査・行方不明者捜索の一日目が終了した。



〜午後16時30分 騎士団本部 翼竜の厩舎〜



「明日もよろしくな」


ーーギャア!


ドローレを飼育場に戻しシーさんを探して厩舎の一室から出てきた彼女と鉢合わせた。


「戻って来たのですね」


「お疲れ様です。体調は大丈夫ですか?」


「はい。不思議と頭痛も治ったわ。本部に戻ってからは体調は良くなりましたね。…南の森で何か収穫はありましたか?」


「これを見つけました」


森で見つけた靴と鞄をシーさんへ渡す。


「…子供の靴と麻の鞄…」


「南の森の石碑の周りに散らばってました。…生憎、鞄の中身は空でしたが」


「…分かりました。これは捜査資料として預かります。それと上層部と相談して村の家宅調査の令状を用意しました。…明日は全員で村を調査しましょう」


「了解」


「『金翼の若獅子』にも私から報告したので直帰されて大丈夫です。…そうだわ。…『アイヴィーは先に帰ってんぞ。ユーに伝えといて!うちからだって言えばわかっからさ〜』…とギルドガールからの伝言です」


キャロルだな。声真似が上手すぎだろ。


律儀に再現しなくても…全然、キャラに合ってねぇ。


「……何か?」


シーさんが俺を睨む。


「い、いえ…」


ちょっと笑いそうになったのは内緒。


「明日は10時に厩舎に来て下さい。今日はお疲れ様でした」


踵を返して去っていく。


…午前中に会った時より警戒心は和らいだと思う。


「俺も家に帰るか。レムレースについて調べなきゃ」


騎士団本部を出て帰路についた。



〜夜20時30分 マイハウス キッチン〜



夕食を食べ終え食器を片付ける。洗い終わった食器を踏み台を使ってキッチンタオルで拭くアイヴィー。


「今日はどうだった?」


「暇だったしキューとベイカー達と一緒にクエストに行った」


「…大丈夫だったか?」


「私もキューも無傷。…キューは大活躍だった。倒したモンスターを嬉しそうに食べてたよ」


なら良かった。


ーーきゅきゅきゅう!


誇らし気にキューが鳴く。


「ははは、凄いぞ。今度は俺もキューの活躍が見たいな」


「悠はどうだったの?」


「俺は……まだまだって感じだ。それとアイヴィーに聞きたい事がある」


「聞きたいこと?」


「レムレースが書かれた本は書斎か?」


「………」


食器を拭いていた手が止まり膨れっ面で見上げた。


「…アイヴィーはせっかく忘れてたのに…思い出させた悠を恨むから…」


「ごめんごめん。怖いなら今日も一緒に寝てやるぞ」


「…ん。ならいい。本は書斎の机に置いてある。『指定危殆種の魔物 〜由来と起源〜 C(クリストファー)・ヴァンダレイ/著』って本」


「わかった。ありがとな」


「うん」


ーーきゅう。


「食器も拭き終わった。お風呂に入ってくるから」


「ああ」


書斎に行こう。指定危殆種の魔物、か。


…レムレースが何なのか調べなきゃいけない。



〜マイハウス 書斎〜



「この本だな。…どれどれ」


椅子に座り本を開く。


〜10分後〜


…何ページか読んで分かったのは指定危殆種に分類されるモンスターは他生物に甚大な被害を与え生命を脅かす…超危険生物だって事だ。


更にページを捲りレムレースの項目を探す。


レムレース…レムレース…あった!


ーーーーーーーー『レムレース』ーーーーーーーーー

『概要』

レムレースは姿形を持たない。正常な人には殆ど知覚できない存在である。諸説は様々あり暗闇の精霊又は悪霊説。人体錬成の副産物で生まれた魔導生命体説。土着神や土地神説…など多岐に渡る。情報の詳細は不明だが知覚・視認した者は発狂するらしい。


事実ならば対抗するに狂気耐性・神秘耐性・闇耐性・聖耐性の高Lv保持が必須。『陰翳の蝕み虫』や『闇黒に潜む魑魅魍魎』と恐れられている。


『特筆すべき能力』

人に取り憑き親宿主を中心に意識障害を発症させる『魔菌』を感染させる能力を保つ。


魔菌は対象者に頭痛・吐き気・腹痛を発患させる。


以下、段階毎に分類。


①第一段階では感染者は奇行・奇声・異食など狂人の行動や言動を行う。


②第二段階では第一段階に加え感染者は自傷行為・攻撃的行動をする。


③第三段階まで到達した感染者は子宿主として新たな魔菌の感染源となる。第三段階まで到達する感染者は稀で発症には時間を必要とし大抵の感染者は第一段階か第二段階で死亡する。親宿主を討伐・殺害すれば感染は止まり発症期間が短い者は助かる可能性が高い。


『推察』

実例被害としてルルイエ皇国ヨエル街の事件が記憶に新しい。経緯は不明だが惨劇の発端は一人の少年だった。昔の文献を読み漁っても親宿主は子供が多い。子供に取り憑く理由は不明。討伐方法は親宿主の殺害が確実で次点で封印等の方法が有効。攻撃手段として感染者を操る等の報告があるが確証は得られてない。


上記の点を踏まえ魔物よりもレムレースは病気…ウィルスに近いと著者は考える。理由なく人を死に至らせる病…純粋な悪意の伝染病と。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「純粋な悪意の伝染病…」


…仮にノーマ村がレムレースの餌食になってるなら……二ヶ月前からか?。


シーさんの頭痛も魔菌の影響なのか?…思い当たる節は沢山ある。


本の挿絵には子供を襲う鼠の悪魔が描かれていた。


「事実なら親宿主を探さないと」


…でも親宿主が子供なら…俺は…。


ーーーあら。書斎に居るなんて珍しいじゃない…って難しい顔してんわね〜。どうしたのよ。


悩んでいると書斎にアルマが入ってきた。


机に飛び乗り俺の顔を覗く。


「…実はなーー」


経緯を説明して相談した。




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― 新着の感想 ―
[一言] いきなりクトゥルフ神話的な恐怖話が来て震えてる 静かなんだけど決定的な狂気ってやっぱ怖い
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