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純粋な悪意の伝染病。③



〜ノーマ村 村長宅〜



「すみませーん。誰かいますか?」


玄関のドアをノックする。


ゆっくりと扉が開き中年の男性が現れた。


「どうも」


「…私は第三騎士団『竜』所属第壱竜騎士部隊隊長のシー・パルジャミン。彼は冒険者ギルドのメンバーで黒永悠です。貴方がこの村の村長ですか?」


「はい。私が村長です。名前はダタン」


人工音声みたいに変な喋り方をする人だ。


「ダタンさん。…最近、この村近辺で行方不明者が続出しています。騎士団と冒険者ギルドで三日間の短期間ですが調査と捜索をさせて頂くわ。…随分と村の様子も変わってますね?ご自宅にお邪魔して幾つか質問をさせて頂きたいのですが」


「大丈夫。村人は元気です」


「……元気?」


「ええ。みんな休んでるだけ」


「そうですか…それで自宅にお邪魔しても?」


「今は忙しいので。夜に来てください」


「夜ですか?」


「ええ。すてきな夕食をご用意してます」


「分かりました。…ではまた夜に」


ばたん、と扉が閉まる。


終始笑顔だが受け答えの返答は人形と喋ってるみたいな違和感を抱かせた。


「…変な感じでしたね」


「ええ。…ですが嘘はついていません」


「分かるんですか?」


「私は閲覧系統に属する『看破ノーレス』のスキル保持者です。相手のステータスを閲覧し嘘を見破る事が出来るわ。村長は嘘は言ってませんでした」


前にボッツが話してたっけ…。

俺のサーチとは種類が違うっぽい。


「…私を警戒しないのですか?」


「別に。噂で聞いてましたし」


俺も持ってまーす!…っては言わないけど。


予想外の返事だったのか面を食らった様子だ。


「…噂で聞いてたって…あはは。変わってますね。悠さんは……痛っ…!」


「大丈夫ですか?」


「え、ええ…すみません。先程から頭痛が酷くて……あれは…」


村の男達が農作業をしていた。

子供が遊んでいたり婦人が井戸端会議をしている。


「村人ですね」


さっき迄、誰も居なかったのに…。


「手分けして聴取を行いましょう。一時間後に村の広場に集合で」


…シーさんの顔色が良くないな。


「…頭痛が酷いなら無理せず休んでほうが」


「心配要りません。それでは後ほど」


反対方向へ進むシーさん。


大分、辛そうに見えたが……まぁ、いい。


農作業をしている男性に声を掛けてみた。


「すみません。ちょっと良いですか?」


「はい」


「最近、この村や近辺で変わった事はありませんでしたか?」


「いいえ」


「…そうですか。些細な事でも構いませんので何かありませんか?」


「なにも」


笑顔で鍬を振る男。ざくりと土が抉られる。


同じ箇所を何度も掘っているせいか土が盛り上がりミミズや虫の死骸がぐちゃぐちゃに混ざっていた。


「…さっきから同じ場所を掘ってるんですね」


「はい。深く深く深く深く掘らないと」


明らかに言動や行動が異常な気がする。


…他を当たろう。



〜20分後〜



駄目だ。


幾ら話を聴いても実のある情報は全く得られない。


…それにノーマ村の村人達は変だ。


子供も奇声をあげ笑ったり急に屈み独り言を呟く。


他の大人達も会話が成り立たない。


…カナムって男を探してみるか?Gランク依頼でもあるし…ってあの家は…。


目に留まったのは村から離れた坂の上の崖端に建つ小さな一軒家。煙突からは煙が登っている。


駄目元だがカナムを探す前に訪ねてみるか。



「いひ」



空気が漏れるような笑い声。


背後を振り向くと離れた位置でパトリが立っていた。


にんまりと笑みを浮かべ俺を見ている。


「……」


…なんだか気味が悪いな。


声は掛けずに一軒家に向かった。



「いひひひひひひひひひ。ひひひひひひひひひひひひ

ひひひいひひひひひひひひひひ…どうして?して?して?して?どうして?どうして?変なの…変なの変なの変なの変なの…いひひひひひひひひ」



〜5分後 ノーマ村 崖端の家〜



石造の小さな家だ。…人がいる気配はするな。


玄関の戸を叩いてみた。


「ごめんくださーい。誰かいませんかー?」


暫く待つと急に扉の隙間を開く。


此方を覗く目が見えた…び、びっくりしたぁ。


「……誰だい?」


「俺は黒永悠と言います。最近、この村近辺で行方不明者が多発してる件で騎士団と調査に来てる冒険者ギルドの者です」


「………村の奴らと会って話をしたのかい?」


「はい」


「………家の周りに村人はいないだろうね?」


辺りを見回すが俺以外には誰もいない。


「一人ですよ」


「…崖側に裏口がある。よぉーく周りを確認してから戸を開けるんだよ。…もし村人がいたら黙って引き返しな」


ばたん、と扉が閉まる。


……声の感じからしてお婆さんかな。


随分と村人を警戒していた。


注意深く辺りを見渡し裏口に周る。


…誰もいないな。


裏口の戸を叩く。戸の鍵が外れる音がした。



〜崖端の家〜



中に入ると高齢のお婆さんがマスケット銃を構えてこっちを睨んでいた。


「ちょっ…ちょっと!?お、落ち着いて…」


殺されるぅ!


「はやく戸を閉めな!鍵を忘れるんじゃないよ!」


言われた通りにする。


「あんた……ユーって言ったね。本当に冒険者ギルドのもんかい?」


「え、ええ。…ほら」


ギルドカードを取り出して見せる。銃を置いてお婆さんは大きな溜め息を吐いた。


「脅かしてすまなかったね。…こっちにきな」


リビングに移動した。



〜崖端の家 リビング〜



「名前を言ってなかったね…あたしゃマデリン。ノーマ村に住んでる老婆さ」


「早速ですがこの村のお話を聞かせて貰えますか?…明らかに普通じゃないですよね」


暗い顔でマデリンさんは語り出した。


「…二ヶ月前位からさね。最初は村の子供達…次に大人達…ガードナーが変死してからは村人全員が…感染するように気狂いになっちまってね。…あたしゃ恐ろしくて…家に引きこもった。この村で育って七十年以上経つが…こんなのは初めてだ。…きっと…村の誰かが森で石碑に悪戯して…祟られたんだよ」


体を震わせる。


「石碑?」


「…この村に昔からある言い伝えだよ。…村から南に少し進むと薄暗い森がある。…古の時代に呪霊を賢者が石碑に封印した森だって話でね。普段、森には誰も近寄りはしない。この辺りに強いモンスターがいないのも封印された呪霊を恐れてだって言われてたもんさね。…最近は迷信だと村で信じる者は少なくなっとたが…」


「ふむ」


オカルトっぽい話だ…。


「行方不明者について何か知りませんか?」


「…残念だが異変が起きてからこの家から外へは出とらん。半年分の備蓄が無くなりゃ…このまま死のうと思っとるぐらいだよ。…ユー。村人には注意しな。…その行方不明者を殺してるかもしれん」


殺すって穏やかじゃないな。


「……最後にカナムって男の村人は知ってますか?」


「カナムなら若い農夫さ。村に一軒しかない赤い屋根の家に住んどる。…あの子がどうかしたのかい?」


「実はーー」


〜数分後〜


マデリンさんに経緯を説明した。


「…そうかい。優しい青年じゃったが…」


「マデリンさん。調査は三日間に渡り行います。…解決に全力を尽くしますので」


「期待しないで待っておくよ。久しぶりにまともに人と話せた。…ありがとね」


皺くちゃの手が俺の手を握る。


マデリンさんにお礼を言って裏口から家を出た。


…一度、村の広場に戻ろう。



〜ノーマ村 広場〜



「シーさん。お待たせしました」


「…いえ…」


顔を歪めるシーさん。やっぱり体調が悪いみたいだ…。


「…村人に聞かれたくない話があります。一度、外へ出ましょう」


「…分かりました」


先程、マデリンさんの話を聞いたからだろうか。


村人達の視線を背中に感じた。



〜野営地〜



野営地に戻ると部隊員の一人が留守番と見張りをしていた。テントでコーヒーを飲んで一息入れる。


「…頭痛は大丈夫ですか?」


「ええ…。村から離れたら幾分か楽になりました。…あの村はおかしい…。村人と話しても要領を得ない返答しかしない。行動も奇妙だわ」


「その件で報告があってーー」


〜数分後〜


マデリンさんから聞いた話をシーさんに伝えた。


「……信じ難い話ですね。村人のステータスは確認してますが戦闘アビリティは皆無よ。騎士やギルドメンバーをどうにか出来るとは思わない。…ただ、腑に落ちない点があるのも事実ですが」


「ですね」


「隊長。副隊長が戻って来られました」


ダーバンさんと騎士達が戻ってきた。


「収穫は?」


「この周辺を探索しましたがめぼしい発見はなかったですね。隊長は顔色が優れませんが…どうされました?」


「…何でもないわ」


…無理してるなぁ。村には俺一人で戻るか。


「シーさん。俺はカナムの自宅を訪ねてみます。部隊の方と情報を整理されてはどうでしょう」


「…そうですね。分かりました」


「ではまた」


野営地を出て村に戻った。



〜ノーマ村〜



「…村人がいない…」


大人も子供も老人もいない。


…皆、居なくなっていた。


「…考えても仕方ない。カナムの家は……たしか赤い屋根の家だったな」



〜10分後 カナムの家〜



隣家から離れた赤い屋根の家を見つけた。


扉をノックするが反応はない。


「…あれ。鍵をかけてないのか」


鍵は外れてるみたいだ。周りに人は…いないな。


不法侵入になるが扉を開け家の中に入る。


「……」


人の気配はない。


気になったのは洗われず置かれた食器と残飯だ。他にも放置され腐った食材の饐えた匂いが鼻を刺激した。


…とても人が住んでるとは思えない。内側から窓に木の板を釘で打ち付け外からは見えなくなってる。


奥にある部屋の扉を開いた。


〜カナムの家 寝室〜


「これは…」


朱殷に汚れたベッドシーツ。壊された家具に引っ掻き傷が付いた壁…壁の下には剥がれた爪が落ちている。


異常。それ以外の言葉が思い浮かばない。


木の机の上に日誌が置いてある。


…この汚れは血だ。躊躇したが読んでみる事にした。


〜15分後〜


「…嘘だろ」


日誌を読み進めると村の異常さとカナムの精神が壊れていく様が記されていた。


茱萸の月31日以降のページは塗り潰されて読めない。


日記の裏表紙には血文字で…。



ーーこれで俺は自由だーー



…と書き殴られている。


自由という言葉の意味が何を示しているかは分からないが……彼は生きてない可能性が高いかも。


……野営地でシーさんに報告しよう。


日記も持っていくか。腰袋に日記を仕舞い家を出た。


〜ノーマ村 広場〜


「こんにちわ」


村長のダタンとパトリが広場に居た。


「…どうも」


正直、関わり合いたくない。足早に門へ向かう。


「なにしてたの?」


パトリが背後から呼び止めた。


「……村を見て周ってたんだよ」


何故か動悸が激しくなる。


「ふうん」


不自然な笑みを浮かべ俺を見上げる。


「今日は皆さんのためにご馳走を用意してます。夜はお楽しみだなぁ」


ダタンが俺に手を伸ばす。…だが触れるか否かで弾かれる様に手を引っ込めた。


「…なんですか?」


「いえ。なんでもありません。村の外にいる皆さんにもお伝えください」


「……わかりました。伝えておきます」


振り返えらずに村を出た。



「おかしいなぁおかしいなぁ…。あれはなんだろう。きになるねぇ…きになるなぁ…あひ、あひひひひあひひひひひひひ」




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