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純粋な悪意の伝染病。②



〜午前9時30分 第6区画 騎士団本部〜



剣を掲げアーチ上に並ぶ巨大な騎士の石像。


その先に厳粛で堂々たる騎士団の本部施設があった。

兜を被った騎士団員が槍を携え警備している。


「先ずはソロオーダーの件を話さないとな」



〜騎士団本部 一階 受付ロビー〜



制服を着た職員が忙しそうに働いていた。ロビーのソファーには大勢の人が座り受付の順番を待っている。


市役所や郵便局の窓口を思い出す光景だ。


「すみません。どうかされましたか?受付窓口に応じて整理番号が配布されますが……ご要件は?」


突っ立っていたら職員に声を掛けられた。


丁度良い。


「いや。俺はーー」


〜数分後〜


ソロオーダーの依頼内容を説明した。


「…少々、お待ち下さい」


職員はそう告げると行ってしまった。暫く待つと騎士を連れて戻ってきた。


「此方の方が…」


「ああ。『灰獅子』に連絡は受けている。来い」


挨拶もない命令口調。…感じが悪いなぁ。


そんな事を考えながら大人しく後ろをついていく。



〜騎士団本部 翼竜の厩舎前〜



「ここで待ってろ」


連れて来られたのは本部施設から離れた厩舎の前。


…中から生き物の鳴き声が劈くように聴こえる。


程なく厩舎から見覚えのある女性が騎士を引き連れ現れた。


「貴女は…」


「出入国管理所で貴方の入国審査を担当した者です。改めて…私は第壱竜騎士部隊隊長兼一等入国審問官のシー・パルジャミンです」


肩書きがながーい。


「お久しぶりです」


「『灰獅子』から貴方が共同捜索依頼に参加すると連絡は受けているわ。…冒険者ギルドでの活躍ぶりは騎士団でも有名ですよ」


射るような視線。

言葉とは裏腹に褒められてる気がしない。


「あー…どうも」


「現場では私が騎士部隊の陣頭指揮を執ります。悠さんはご自由にされて構いませんが『金翼の若獅子』と『竜』にも行方不明者が出ている大事件……原因究明の為にもお互い協力しましょう」


「そのつもりです」


「紹介がまだだったわね。背後の騎士団員は編成部隊のメンバーの竜騎士達です。ダーバンは知ってますよね?」


「はい。入国審査の時にお会いしてるので」


「……お噂は予々。第三騎士団『竜』所属の第壱竜騎士部隊副隊長兼補佐官のダーバン・ベンドリだ」


「よろしくお願いします」


「……」


握手しようと左手を出したが無視された…。


お互いに協力しようってシー隊長が言ってただるぉ!


「…これで共同捜索のメンバーが全員揃いました。ワイバーンでノーマ村へ移動しましょう。ついてきて下さい」


厩舎の中へ案内された。



〜翼竜の厩舎 飼育場〜



ーーギャア!ギャァ。

ーーギャギャ。

ーーギャアアア…?ギャギャ!


大きな牙と尻尾に特徴のある蛇目に翼の生えた大きな躰。…確かにキューは似てる。


決定的な違いはキューは四足歩行で翼が生えてるが翼竜ワイバーンは二足歩行で翼は膜構造。


可愛さならキューの圧勝だな。


「…これがワイバーン…」


翼竜ワイバーンを見るのは初めてですか?」


「はい」


「ここにいるワイバーンは全て第三騎士団が卵から孵化し育て管理をしています」


「人が乗るように調教テイムするんですか?」


「調教だけではありません。…第三騎士団は竜に乗る技術…『竜操術』を学び操るわ。竜騎士とは竜操術に長けた騎士を呼ぶ呼称なのです」


「へぇ」


「訓練中に振り落とされ命を落とす者やワイバーンに襲われる事もある。翼竜といえど誇り高き竜種に属するモンスターですからね。…竜騎士の祖は古の赤き飛龍ドラグーンを従えた若き騎士だったと言い伝えられています」


竜ってゲームや映画でも特別な存在で描かれるイメージが強い。…異世界パルキゲニアでも同じなのかな。


「飼育場の裏庭にある飛行場から飛びます。悠さんは私かダーバンの背に乗って頂きましょう」


「…隊長。お言葉ですが我ら竜騎士の背にそいつを乗せるのは納得いきません」


一人の若い騎士が反対する。


「そうです。冒険者ギルドの何処の馬の骨かも知れん男を背に隊長と副隊長が飛ぶなど……」


「そいつは別行動でノーマ村に出向けば良いのでは?…その頃には我らは帰路に着いてるでしょうが」


笑い声をあげる騎士団員。


「………」


ダーバンさんも諌めはしない。


…なるほどね。確かに仲はよろしくないみたいだ。


「副隊長」


シーさんがダーバンさんに目配せをする。



「ーーー貴様ら黙らんかッ!隊長に許可無く進言するなど何様のつもりだ!?……兜に隠れた薄汚い口に焼き鏝を咥えたい者だけもう一度発言しろっ!」



こ、怖っ…!


一気に静まり返ったぞ。


「…全隊員は直ちにワイバーンと共に飛行場で待機。副隊長の指示に従い迅速に行動せよ」


「「「「「はっ!」」」」」


敬礼しワイバーンを連れ扉を出る五人の騎士。


「……隊長。正直に申し上げると私もそいつを信用出来ません」


俺に侮蔑の視線と明確な拒否発言を残してダーバンさんも裏庭に移動した。


残ったのは俺とシーさんだけ。


うっわぁ……空気が最悪だ。


「すみません。お気を悪くされたでしょう」


「……仲が悪いっては聞いてましたが」


「否定はしません。冒険者ギルドには犯罪者が多く検挙率も高い。…ですがミトゥルー連邦内での発言力・影響力は騎士団を遥かに凌ぎます。治安維持に日夜務めている自分達より評価されているのが気に喰わないのも事実よ」


はっきりと言う人だな。


「…かと言って騎士団にも問題がない訳ではないわ。兎に角、貴方には申し訳ない事をしました。移動の際は私の背後に乗って下さい」


お互い信念が違うし仕方がない事かも知れない。


「気にしてないから大丈夫。…実はお願いがあります。折角の機会なのでワイバーンに乗ってみたいんですが……駄目ですか?」


呆れ顔で俺を見るシーさん。


「…馬とは勝手が違いますよ。初めてワイバーンを見た人が背に乗るなんて不可能よ。噛み付かれ大怪我でもしたら…」


「物は試しにって事で。駄目だったら大人しく引き下がります。…他の部隊の方もワイバーンに乗れたらちょっとは俺を見直すと思うし」


「見直すって……竜操術を習得していない貴方には無理です」


「一度だけ!一度だけお願いします!」


拝み倒した結果、シーさんは許可してくれた。


翼竜に乗れる機会なんて滅多にないし逃す手は無い。


…それに他の騎士団員を見返したいからな。


俺は案外、根に持つタイプなんだ。



〜数分後〜



ワイバーンの特性について簡単にレクチャーを受ける。


「近付いて瞳孔が細くなったら威嚇し警戒している証拠です。頭を高く上げたら攻撃してきます。…頭を上げる素振りが見えたら急いで離れて下さい」


「うん」


「逆に頭を下げ小さく唸れば落ち着いてる証拠。背に乗る絶好の機会よ。…乗っても指示は聞かないと思いますが」


「了解です」


厩舎の飼育場にいる翼竜を物色して見て回る。


奥にいた一匹が目に留まった。


引き締まった躰と黝い体色。頑丈な鎖で繋がれた鋭い眼付きの翼竜だ。


ーーギャァ…!


「こいつは?」


「その子は飛行訓練中に四人の騎士を振り落として襲い再起不能の重傷にしました。…名前はドローレ。厩舎内で一番、気性が荒く危険なワイバーンよ」


ーーギャアァ!!


瞳孔が細く伸びる。…おぉ警戒してるな。


気に入ったぜ。


「…こいつに決めた」


「…本気ですか…?」


「本気です」


ーーギャアアアア!!


ドローレと対峙する。吠えて頭を上げた。


心臓が高鳴り自分でも興奮しているのが分かる。


じっと目を逸らさず凝視める。


ーー……ギャッ!?


「よーしよし。いい子だから…ほーら。落ち着け〜」


宥めるように声を掛けた。


「!?」


ーー…クルルル…。


…頭を下げて急に大人しくなったぞ。


距離を縮め頭を撫でてみた。


ざらざらした感触で爬虫類の皮膚を触ってる気分。


ーークルル。


目を細めるドローレ。顎の下も撫でてやる。


ーークルルルルル…。


気持ち良さそうじゃん。


「よし。俺を乗せてくれるよな…?」


恐る恐る背に跨ってみた。暴れる様子もない。


ーーギャア。


乗れた!…なんだ簡単じゃんか。


「どうですか?問題ないですよね」


「…貴方の背後に…一瞬、何かが…あれは…?」


ぶつぶつ呟いているシーさん。


「…シーさん?」


「…いえ、何でもありません。…ですが…驚いたわ。竜人族ドラグニートでもないのに初見で背に乗れるヒュームがまさか居るとは…。鞍と手綱を装着してみましょう」


ドローレは大人しく鞍と手綱を付けさせてくれた。


ーークルル。


「くすぐったいぞ」


構って欲しいのか嘴で手を優しく突いてくる。


だんだん可愛く思えてきた。…振り落とされた騎士団員の腕がかなり悪かったんじゃないか?


「裏庭の飛行場に連れて行きましょう」


鎖を取り手綱を引く。裏庭の飛行場に移動した。



〜20分後 裏庭 飛行場〜



ーーギャア。


「うおー!…すげぇ…空を飛んでる!」


竜操術の基本を教えて貰いドローレと飛ぶ。


手綱を引いて操作すればしっかり滑空し前に体を倒すと速度を上げ飛翔した。


翼を羽ばたかせ着陸。


面白いぐらい指示通りに動いてくれる。


…これ楽しいなぁ!俺も家で翼竜を飼いたい。あ、でもアルマが怒るかも…。


「…心配は杞憂でしたね」


全員が目を疑う様に仰天した顔でこっちを見ていた。


「初心者がワイバーンを自由自在に操るなんて…」


「…しかもドローレだぞ。あんな悠揚な顔付きで人を乗せてる…」


「副隊長。奴は竜操術を学んでないのですよね。あれは一体…?」


「…私にも分からん」


「悠さん。本当にワイバーンに乗るのは初めてで…竜操術を学んでないのですか?」


「初めてですよ。竜操術って言葉も今日、初めて知りました。意外と乗り心地も悪くないですね。この子も素直だし」


ーーギャア!


「…白昼夢を見ている気分よ。貴方は何者なの?」



「田舎者です」



…ふっふっふっ!レイミーさんの時は不発に終わったが今回はばっちし決まったぜ。



〜午前10時30分 翼竜の厩舎 飛行場 〜



シーさんから臨時の飛行許可を貰った。


本来は手続きが必要らしい。


荷物の最終確認も終わりいよいよ出発だ。


「第壱竜騎士部隊員の諸君。これより我が部隊は行方不明者の捜索及び原因究明の調査の為にモルト山脈麓にあるノーマ村に向かう。冒険者ギルド所属の協力者…黒永悠との共同任務になる事を忘れるな。行方不明者の中には巡回中に行方不明となった騎士もいる。下らない確執で目的を見失わない様に。…分かったか?」


「「「「「「はっ!」」」」」」


着替えて鎧姿に身を包んだシーさんの掛け声に副隊長を含めた六人の隊員が敬礼する。


…俺の周りには仕事が出来る有能で美人な女性が多いのは何故だろう…。


不謹慎だが女性の鎧は男性の鎧より露出度が高い。


シーさんの鎧姿は煽情的だった。


「では全員騎乗」


ドローレに跨る。


「…征くぞ。飛翔!」


一斉に飛行場からワイバーンに乗った騎士が飛び立ち空中でV時編成に隊列し遠くまで飛んでいく。


見事なもんだ。


「…よし。俺達も行こう」


ーーギャア!


ドローレが地面から飛び立ち加速する。


みるみる内にベルカが遠去かり空中撮影したパノラマ写真のような絶景が眼下に広がった。


「マップを見てみるか」


ウィンドウに表示された緑の矢印を確認する。


ふむ。この調子で飛べば30分もかからないな。


一気に部隊まで追い付いた。


「…安定した飛行ね」


「ええ!」


「これなら時間は掛かりません。一気に進みましょう」


ワイバーンの手綱を握り速度を上げた。



〜午前11時 モルト山脈麓 ノーマ村〜



30分後、目的地のノーマ村に到着した。


低地に挟まれた細長く伸びた山地。

山麓に並び建つ家々が見え門を構えた大きな村だ。


「到着しましたね。では…ダーバンと他五名は野営地を設置。設置後はダーバンの指揮下のもと付近の調査及び探索を始めて下さい。私は村の調査をします。…悠さんはどうされますか?」


「俺も一緒に村の調査をしますよ」


「分かりました。村へ行きましょう」


門を潜り村の中に入る。


〜ノーマ村〜


「野営地を設置するってことは泊まるんですか?」


「ええ。私は報告の為に騎士団本部へ戻りますが他部隊員は夜通し交代で調査と捜索をします。悠さんもベルカに戻るのでは?」


「はい。同居してる家族がいますので」


「家族、ね。…噂で聞きましたがノスフェラトゥのヴァンパイア…アイヴィー・デュクセンヘイグね」


「……アイヴィーをご存知で?」


「ええ。二年前に第三騎士団団長が『金翼の若獅子』に身柄を預けた際に私も一緒でした」


衝撃の新事実。


「そう、だったんですか」


「ええ。…それにしても閑散とした村ですね。日中なのに誰も仕事をしていない。畑も放置してる…」


家の玄関や窓は閉め切られ中の様子は窺えない。農作物は枯れて鍬や農具も置きっ放しだ。


昼間で晴れているのにどこか薄暗い雰囲気を感じる。


……ん。これは…。


土が削られてる。手で掘り返したのか?


奇妙な削り跡だ。


「…カナムという男の村人がノーマ村に居た筈です。騎士団にも拘留された記録がある」


「通報して連行したって聞いてますね」


「ええ。私は実際に会ってはいませんが精神的な()()を抱えていると調書にありました。先ず村の責任者である村長宅へ行きましょう」



「どちらさま?」



振り向くと三つ編みの小さな女の子がいつの間にか背後に立っていた。


「…やぁ。俺は悠。彼女はシー。君の名前は?」


「パトリ」


「パトリ。この村の村長さんとお話がしたいんだけどお家を教えてくれるかな?」


「あっち」


大きな家を指で指す。


「あの家か。ありがとう」


「…貴女のご両親は?」


「おとうさんとおかあさんは家にいる」


パトリが空を見上げる。


「あは、あはははははははは。お家お家…あははお家にいるよ」


そう笑って言い残し去っていった。


「……何か様子がおかしいですね。…痛っ…」


シーさんが顔を顰める。


「どうしました?」


「…いえ。先程から頭痛が…。兎に角、村長の自宅へ行きましょう」


俺とシーさんは村長宅へ向かう。


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