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純粋な悪意の伝染病。①





ーーーーーーーーカナムの日誌ーーーーーーーーー


茱萸の月5日

最近、村の子供達の様子がおかしい。

空を見上げて急に奇声をあげ笑い出したり…地面にしゃがみ込んでブツブツ呟き始める。

声を掛ければ挨拶もするし普通に話すのだが…違和感を感じる。



茱萸の月8日

……ガートナーが農作業中に土を食っていた。静止したが振り解いて貪り続け…急に正気に戻ったかと思えばどっかに行っちまった。

奥さんにも伝えたが上の空…。子供も空の食器をスプーンで掬って口に運ぶ変な行動をしてた。

怖くなってガートナーの家を出た。



茱萸の月10日

畜生…ガートナーが遺体で見つかった。

土を食い続けたのか…腹が風船みたく膨らんでた。

一番恐ろしかったのは…あいつが笑って死んでた事だ…村長に相談したがまるで聞く耳を持たない。



茱萸の月16日

この村はもう駄目かもしれない…。日に日に奇行に走る村人が増えている。特に…あの笑い声を聞くと俺まで頭がおかしくなりそうだ…!糞糞糞糞ッ…!


…明日、ベルカに行って冒険者ギルドへ調査依頼を出してみよう。今日は疲れた…。



茱萸の月17日

冒険者ギルドに調査依頼を頼んだがまともに取り合って貰えない…俺が支離滅裂な事を言ってるだと…?ふざけやがって…!!

挙句の果てに騎士団に連絡されて拘留された。

今日は帰れそうにない。周りの奴らの俺を見る目が鬱陶しい。…だが、今日は安心して眠れそうだ。



茱萸の月19日

村に帰って来てから……村人達から監視されてる。

仲の良かったマードックも隣のラングー夫妻も村長のダタンも……どいつもこいつも全員が俺をずっと見てやがる…。ニヤニヤ笑いながらずっとずっとずっと…ああああああああああああ!!!


村人に対する暴言を書き綴られている。


駄目だ…限界だ…こんな村から出てっ……



茱萸の月31日

今日も良い天気だ。空が青い。こんな日は土を食いたくなるなぁ。あ、肉も食べたい。ちょうど食べ頃の肉が咲いている。包丁を持ってえい。えい。えいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいしねえいえいえいえいえいえいえいしねえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



俺は嫌悪感と戦いながらこの日誌を読んでいる。


「…やっぱり何かおかしいぞ。…この村は」


日誌を閉じ呟く。


穏やかな日常が嘘のように昔に感じるぜ…。


この状況に至った経緯を不意に思い出した。



〜数時間前 午前8時40分 金翼の若獅子 二階フロア〜



「また後でな」


「うん。悠もお仕事がんばって」


ーーきゅー!


アイヴィーとキューが空中庭園へ向かう。


今日も依頼に行くつもりはないみたいだ。


…今度、依頼を抜きにアイヴィーとキューを連れて外を散策するのも楽しいかもしれない。


「おはよ!」


「おはよう」


キャロルが元気に挨拶をしてきた。


「…あ、そーだ。フィオーネがユーを探してたぞ。早めに行ってやったほーが良いんじゃねーか?」


「分かった。一階に行ってみる」


「おー。それとフィオーネから聞いたぞ。…ユーからプレゼントもらったって喜んでたし」


「はは。今度、キャロルにもプレゼントするよ」


「え、マジで?やったー!」


はしゃぐキャロル。天真爛漫ってゆーか…子供っぽいってゆーか…この快活さがキャロルの魅力だと思う。


「そろそろ行くよ」


「プレゼントの件は約束だかんな〜。忘れたらユーは女ったらしの幼女趣味だって言い触らすぞ」


誹謗中傷も良いとこだ。


俺のどこが女ったらしで幼女趣味なんだよ。


紳士で素敵なお兄さんだろ。



〜 一階 受付カウンター 〜



「フィオーネ」


「あ、おはようございます。…悠さんに至急、ご確認して頂きたい依頼がありまして宜しいですか?」


「わかった。見せてくれ」


「こちらになります」


フィオーネが慌てた様子で依頼書を取り出す。


動きに合わせアンジュ・エルのネックレスが揺れた。


…こんな時に何だが本当に似合ってるなぁ。プレゼントした甲斐があるってもんだ。


二つの依頼書を受け取った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クエストランク:G

クエスト名:ノーマ村の調査依頼

依頼者:ピオダン村 村民 ブリトニー

報酬金:0G

内容:ノーマ村にいる親戚のカナムと連絡が取れないの。村にも行ってみたけど門前払いされたわ。変なのよ…あの村。正式に捜索依頼を出す前に調査してもらえないかしら。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クエストランク:ー

ソロオーダー名:共同捜索依頼。

依頼者:ラウラ・レオンハート

報酬金:要相談

内容:西モルト山脈の麓にあるノーマ村付近で行方不明者が続出している。詳しい依頼の詳細はギルドマスター室で話そう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この二つの依頼のノーマ村って同じ村だよな」


「…ええ。山間地域にある村です。実は二ヶ月程前にカナムさんは『金翼の若獅子』に依頼の手続きにいらしたのですが…その…異常な言動と行動が目立って…狂乱されてたと言いますか……怖かったのを覚えています」


「…そのカナムって人は?」


「騎士団に連絡したので拘留された後に村へ帰ったと聞きました。…今回、Gランク依頼と内容が重なりましたが…ラウラさんから聞いた話では今回のソロオーダーは騎士団も関わっているらしく只事ではないみたいですね」


「…わかった。受けるよ」


放って置けないしな。


「畏まりました。…悠さん。無理しちゃ駄目ですよ」


「ああ」


昇降機を使用し八階の執務室に行く。



〜八階 GM執務室〜



「おはよう」


「やぁ悠。…ソロオーダーを受けてくれたんだね。依頼内容を説明するから座ってくれ」


ソファーに腰掛ける。


「フィオーネから話は聞いたが大変みたいだな。行方不明者だって?」


「…ああ。行方不明者の中には『金翼の若獅子』のギルドメンバーも含まれてる。他に第三騎士団『ドラッヘ』の騎士団員も数名が行方知れずなんだ」


ギルドメンバーに騎士団も…。


「モルト山脈の麓にあるノーマ村付近は首都ベルカと近隣の街や村からも離れた場所にあるが害のないモンスターしか生息していない。…仮に戦闘を生業にするギルドメンバーや騎士団員が短期間で行方不明になる危険地帯ではないんだよ」


「Gランク依頼の依頼内容に村の様子が変だって書いてたっけ…。関係があるのかもな」


「…その点を懸念すると闇ギルドが潜伏している可能性もある。村人が幻術系統の魔法や違法魔導具アビスアイテムで操作されてるかもしれない。…そこで騎士団『竜』と『金翼の若獅子』で協力してノーマ村の調査・行方不明者の捜索をする事になったんだが…」


「なったんだが?」


「昔から騎士団と冒険者ギルドは対立が絶えない。お互い掲げてる信念が違うし……()()がある。…でも、悠なら騎士団とも上手くやれそうだし実力もあるから頼みたいんだ。厄介な依頼で済まないが…」


ラウラが俺を正視する。


「何とかなるさ。頑張ってみるよ」


「ありがとう。…助かるよ」


「気にすんなって」


「僕から連絡しておくから悠は第6区画の騎士団本部に行ってくれ。調査・探索期間は今日を含めて三日間だ。竜騎士のワイバーンで移動するからノーマ村まで時間はかからない。夕方までにはこっちに戻れる筈だよ」


空飛ぶ生き物に乗るなんて浪漫に溢れとるやん!


子供の頃の妄想が現実になるとはなぁ…。


最悪、乗れなくても白蛇を召喚するし問題はない。


「了解。じゃあ行ってくる」


ソファーから立ち上がる。


「……ゆ、悠」


少し逡巡した後、ラウラが呼び止めた。


「呼び止めてすまない。…急な誘いですまないが…あの、君が良ければ…この依頼が終わったら一緒に…食事でもどうかな?」


食事のお誘いか。特に断る理由はない。


「ああ。楽しみにしてるよ。美味い店を頼むぜ」


「…良かった。店は予約しておくね。僕も楽しみにしてるよ」


「お、おう」


男でも心拍数が上がる素敵な笑顔はやめて欲しい。自分がノーマルな性癖か自信がなくなってくる。


執務室を出て第6区画にある騎士団本部へ向かった。



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