邂逅の夢跡
〜夜22時 マイハウス 寝室〜
ベッドに横になってぼんやりしているとノックが鳴った。
「…アイヴィー?」
「うん」
ーーきゅー。
ドアを開けて入ってきたのはパジャマ姿のアイヴィーだ。キューを頭に乗せ不安そうな顔をしている。
「どうした?」
「今日は寒いから悠と一緒に寝てあげようと思って」
「寒いって風邪でも引いたのか」
おでこに手を当てるが別に熱はない。春みたいな陽気で寝るには最適な気温に感じるが…。
「風邪は引いてない」
…なーんか引っ掛かる。
「正直に話しなさい」
「…アイヴィーはべつに怖い本を読んで一人で寝れなくなったわけじゃないから」
……なるほど。怖くなっちゃった訳だな。
「…わかったよ。ほら布団に入れ」
「うん!」
ーーきゅきゅう。
アイヴィーとキューが布団に入る。俺も横に並んだ。
「本が好きなのは良いけど一人で寝れなくなるなら怖い本は読んじゃ駄目だぞ」
「……不覚だった。レムレースのお話があんな怖いとは思ってなかったから」
「レムレース?」
「…暗闇の幽霊みたいなモンスター。普段、姿は見えないけど…見たら狂っちゃうぐらい怖い怪物…」
「ふーん。そんなモンスターもいるのか」
「………悠のせいでまた思い出した。ぎゅってしてくれないと眠れない」
「ほら」
背中に手を回し優しく抱き寄せる。
安心したのか身を寄せて目を瞑るアイヴィー。
「……悠の匂いがする…」
そりゃ俺がいつも寝てるベッドだからな。
「…落ち着く…」
暫くするとアイヴィーとキューの寝息が聞こえてきた。
「可愛い寝顔だな」
ーーー…あら。今日はその子たちも一緒に寝てるの?
アルマが布団の上に飛び乗る。
…やっぱり、最初の時より重くなったよなこいつ。
「怖い本を読んで一人で寝れなくなったってさ」
ーーーまだまだお子ちゃまね。
「アルマだって俺の布団の上でいつも寝るだろ」
ーーーバカ。わたしは魔王アルマ様よ。怖いものなんてある訳ないじゃない。あんたを敷布団代わりにしてんのよ。
「明日から布団の上で寝るの禁止な」
ーーーにゃー…にゃ?にゃーん。
「…その手口にも慣れてきたよ」
ーーーうっさい。ふぁー…おやすみー…。
アルマも寝てしまった。
「ったく」
ふと思った。俺は今、幸せだと。地球に居た時より充実した生活をしている。
…家族、か…俺も寝よう。
目を瞑り意識が沈んでいった。
〜邂逅の夢跡〜
薄暮に沈む太陽。黒い花が咲き乱れた地。並べられた地蔵に似た石像を夕陽が照らす。
目を開けたら見知らぬ場所でした。
「…俺は寝室で寝て…たよな?…ここは一体…」
空気や匂い…踏み出すと確かに感じる草の感触…。
夢にしてはリアル過ぎる。
ーーー…此方へ…来い。
鳥居の奥から声が聞こえる。
聞き覚えのある声…いや、この光景にも既視感があるぞ。クリファの祠で祟り神と出逢った場所に似ているのだ。
鳥居を潜り奥へと進む。
奥へ行くほど夕陽の光が遠去かり暗くなった。
燭台に火が灯る。
最奥地に辿り着くと…。
ーーー…この刻を待ち侘びたぞ。妾の主…。
「…お前は…」
忘れる訳がない。俺を殺そうとした禍の夜刀神。
今は俺の従魔なのだから。
ーーー呆けた顔をするな。妾に見惚れたか?
「…そりゃ呆けもするよ。初めて会った時から随分と時間が経ったしな。最初に会った時に比べたら元気そうじゃん。姿もちょっと違うし」
ーーー……ふん。
白髪にメッシュのような黒髪が混じり般若の面は所々に罅割れしている。
少し禍々しさが薄らいだ気がした。
「…もしかしてこれが対話か?」
ーーー左様。此処は心象の世界。…謂わば妾と御主が出逢う為の『邂逅の夢跡』よ。
「邂逅の夢……まぁ、いいや。だったらもっと早く対話してくれれば良かったのに」
ーーー…簡単に言うでない。妾と御主の契約は理の外…。尋常一様とはいかん。然らば対話の刻も短い。
…多分、暴蝕のスキルのせいだよなぁ。
「なら早速だけど契名を名付けても良いか?」
ーーー…………。
押し黙っちゃった。
ーーー…御主は知りたくないのか?…自身に宿った妾について…忌まわしき過去と背負った業を…。
「んー…知りたいけど…時間もないし気が向いたら聞かせてくれればいいかな」
ーーー…不安はないのか?…妾は祟り神…穢れた畏怖の象徴と蔑まれた神ぞ。
「関係ないよ。…つーか…まぁ、正直に言うと殺されかけたし怖いって思ってた時期もあった。でもお前のお陰で強くなれた。生活できるのはそのお陰さ。今は感謝してる。…そうだ。ちゃんと言っとかないとな」
「いつも力を貸してくれてありがとう」
ーーー…あ、りがとう……?
「どっちみち一心同体なんだ。過去よりもこれからの方が大事だろ。相棒みたいなもんだしな」
ーーー…ふふ、ふ。あははは!…相棒、か。…御主は本当に…本当に変わり者だな。
変わり者って酷い。
「…話を戻すぞ。契名の件だがどんな名前が良い?」
ーーー妾に選べるのは御主の付ける名を受け入れるか否か…それだけ故。相応しい名を授けるがよい。
「んー…ヘビ美ってのはどうかな。ヘビ子でもいいけど」
ーーー…………本気でその名を妾が受け入れると…?
白髪が騒めく。…やべぇ。怒らせた。
「…あー!ちょっと待て。今のは冗談だよ冗談」
ーーー…仮にも妾は昔、錦上添花にして千朶万朶と名を轟かせた夜刀神ぞ。
少しアルマと似た雰囲気を感じる。
…名前かぁー。いざ考えると難しいな。
…蛇…巳…み、み……命……これだ!
「決めたぞ。お前の契名はミコト。…命って書いてミコトだ!」
ーーー…ミコト…。
「ああ。ミコトだ」
ーーー…命と書いて…ミコト。…ミコト…か…嗚呼…妾の名は命。…契約者…黒永悠の従魔で祟り神の……ミコト。
何度も復唱している。気に入ったみたいで何よりだ。
ーーー……悠よ。妾の面に手を添えろ。そして今一度名を呼べ。
ミコトが屈む。豊満な胸の谷間がすげぇ…って何考えてんだ俺は。
言われた通りに面に手を添え名を呼ぶ。
「ミコト」
すると罅割れた面の一部が欠けて消えていく。
慈しむ様にミコトが語り掛けた。
ーーー…異世界の異邦人故…この世界の生まれなれば従魔となった妾の力をより引き出せた筈。…それが…妾にはもどかしい…。
「…どういう意味だ?」
ーーー其方は『世界記録』の概念…因果律から外れておるのだ。…運命から逸脱した稀有な存在…故に与えられる力が抑制され…枷と楔が課せられた……。
「よく分からないな。充分過ぎると思うけど…」
ーーー…ふふ。…其方は妾に名をくれた…万劫に続く封印の苦痛から妾を解放してくれた。御主の為なら…この身が朽ちようと…力を出し惜しみたくない。…ミコト…この名を呼べば妾は全霊を持って御主に応えたいのだ…。
「……そっか」
ーーー…今、出来るのはこの程度だが…。
「!?」
体中の血液が沸騰した様に熱く滾るのを感じる。
ーーー…もう、時間か……。
景色が歪み崩れていく。
「ミ、ミコト。これは…!?」
ーーー案ずるな。妾は如何なる時も…供におる…ま、た……を…ミコト……と…。
全て遠去かり燦然な光に包まれた。
〜早朝 マイハウス 寝室〜
「…はっ!?」
目を覚ますと寝室のベッドの上。
アルマもアイヴィーもキューも穏かに寝ていた。
皆を起こさないようにベッドから抜け出す…っと…あ、足攣りそう。
「…ふぅ。顔でも洗ってこよ」
洗面所で顔を洗い庭先に出てタバコに火を付ける。
朝から気持ちの良い天気だ。
「あれは夢だったのかな。…ミコト…」
ーーー従魔に契名を授けました。従魔の影響によりステータスに大幅な変更有ーーー
呟いた瞬間にメッセージが表示された。口に咥えていたタバコが地面に落ちる。
「……は、はは。やっぱり夢じゃなかったんだ…って変更?」
ステータスを確認してみよう。
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名前:黒永悠
性別:男
種族:人間
称号:穢れと供に生きる者←
職業:禍の契約者 Lv1
戦闘パラメーター
HP12500 MP4500
筋力1790魔力300狂気3500
体力850 敏捷1100信仰-1200
技術1100 精神300神秘1200
非戦闘パラメーター
錬金:55 鍛冶:75
生産:65 飼育:40
耐性:狂気耐性(Lv Max)神秘耐性(Lv Max)
不老耐性 不死耐性(Lv4)聖耐性(-Lv Max)
戦闘技:獣狩りの技法・ギミックブレイク
奇跡:死者の贈り物
呪術:禁呪・白墨蛇・禁呪・九墨蛇
禁法・縛烬葬 蛇憑き面←
加護:アザーの加護 夜刀神の加護
従魔:祟り神のミコト(親密度47%)←
固有スキル:鋼の探求心 閉心 兇劍 顕魔←
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称号
穢れと供に生きる者
①深淵に寄添って生きる者に与えられる称号。
呪術
①禁法・縛烬葬
契約した祟り神の力。血を代償に複数の敵を数秒間、束縛し業火で焼き尽くす。狂気の数値が高い程、威力が増し最大火力を出すには溜め時間が必要。
②蛇憑き面
契約した祟り神の力。HPとMPを代償に10秒間だけ戦闘数値・各種能力を上昇させる。超過して使用した場合、暴走する危険がある。
従魔
『祟り神のミコト』
①黒永悠が契約した禍の夜刀神。対話により契名『ミコト』を授けた。現在の親密度では契約者側からの対話は不可。ミコトからの対話は邂逅の夢跡で応じる事は可能。祟り神の影響を受け易くなった。
固有スキル
『兇劍』
①浸食・冒涜者・呪魔を複合させた超希少スキル。自身よりLvが高い強敵・難敵を撃破した際に全ての装備武器の性能が上昇及び進化する。武器の耐久度は敵を倒す程、回復する。
②神々を含め凡ゆる生命体に攻撃が可能。敵対象にダメージを与えた際、HPやMPが回復する(攻撃成功時のみ)。反面、全属性の補助魔法の付与が不可。また属性問わず回復魔法が大ダメージに変わる。
③魔法が使用不可になる代わりに呪術の威力が上昇し発動時の代償・MPを軽減する。
『顕魔』
①自身の感情の昂りに応じミコトの幻影が現れる。現世に顕現させる事は現在の親密度では不可。
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…大分、変わったじゃないか。
「魔法が使用不可…。病を呼ぶ霧と呪炎が消えて…兇劍と顕魔のスキルが増えた……ってかパラメーターも上昇してるな」
余り使用してない魔法・奇跡・呪術が消えて戦闘に特化した能力に変わったのか…?
死者の贈り物は消えなかったけど。
「そういえば…」
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『ーーー…ふふ。…其方は妾に名をくれた…万劫に続く封印の苦痛から妾を解放してくれた。御主の為なら…この身が朽ちようと…力を出し惜しみたくない。…ミコト…この名を呼べば妾は全霊を持って御主に応えたいのだ…』
『……そっか』
『ーーー…今、出来るのはこの程度だが…』
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「………」
ミコトが俺に貸してくれた力の恩恵、か。
「…一心同体の…相棒だもんな」
別に英雄や勇者になりたい訳じゃない。
俺は普通に暮らしたいだけだ。
…けど、必要になればこの力を存分に発揮しよう。
それは自分の為に…誰かの為に…きっと役立つ筈だ。
「さーて!朝飯作ろっと」
ミコトとの新たな絆を強く感じ清々しい気持ちを胸に秘め中に戻った。




