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商人ギルドに登録しよう〜オーランド総合商社〜



〜翌日 午前10時 第2区画 巌窟亭前 〜


賑わう街路を抜け巌窟亭に到着。


「おはよう」


「よぉ」


モミジは普段のオーバーオールではなくパンツスタイルのラフな格好だ。


着飾らなくても麗人にはどんな服も似合う。…羨ましい限りだ。山吹の腕輪もよくマッチしているし。


「時間通りだな。『オーランド総合商社』は第5区画にあっから遠くねぇし行こーぜ」


「ああ。今日は宜しく頼む」


〜数分後 第6区画〜


「ギルドマスターってどんな人なんだ?」


気になったので聞いてみた。


「あー……悪い奴じゃねぇな。商売に関しちゃ目利きも効くし誠実でやり手だ。優良品の金払いも良い。……ただ、眼鏡に叶わねぇ粗悪品には一銭も払わねぇし厳しい。商売敵にも『鋼の女』って異名で恐れられてんだよ……名前は言ってなかったっけ?レイミー・オーランドって名前だ」


「…鋼の女?」


「鉄仮面で表情を一つも変えねぇからさ。それだけじゃねーぞ。…昔、レイミーから金を騙し取ろうと近づいた詐欺商人が居たが……そいつは逆にレイミーに騙されて全財産を失った挙句、自分と親戚含めた土地の利権すら奪われたって話だ。当然、一家離散して詐欺商人は一文無し。…今じゃ生きちゃいねーだろ。敵には容赦しねぇ徹底した報復をすっから『鋼の女』って呼ばれてんだ」


いや、怖ぇよ!


「…俺、大丈夫なのかな」


「ビビってんじゃねーよ。ユウのことは悪い奴じゃねーって言ってし『巌窟亭』の取引先では一番信頼できる商人ギルドだぜ。…それにユウは自分が思ってる以上に有名人だぞ。レイミーも是非、紹介してくれって興味津々だった」


「そ、そっか」


有名人…。全然、そんな気がしない。


「…先に言っとくとレイミーは美人だ。鼻の下をだらしなく伸ばしてやがったら承知しねぇかんな」


ぎろっと俺を睨むモミジ。


今の話を聞いてそんな余裕はどこにも無い。


「全然そんなつもりはないし。美人はモミジで見慣れてるから大丈夫だよ」


「…ま。また真顔で…平然と言いやがって…」


「事実だろ」


俺の周りには美男美女が多くて困る。顔面偏差値が高過ぎなんだよなぁ。…僻んでるわけじゃないけど。


「…オ、オレも…ユウは…カッコいいって…思…だああああ!!何言わせんだよバカ野郎!?ブッ飛ばすぞ!?」


「何故!?」


楽しく会話をしながら第5区画のオーランド総合商社に向かった。



〜10分後 第5区画 オーランド総合商社前〜



第5区画は市場や商店に群衆が蟻のように群がり活気ある賑わいに溢れた区画だ。


「着いたぜ。ここが商人ギルド『オーランド総合商社』だ」


「へぇ…」


四階建ての立派なオフィスビル。看板にはオーランド総合商社と書かれている。


…どちらかと言えば馴染み深い雰囲気だな。働いてた会社もこんな感じだったし。


扉を開き中に入る。



〜オーランド総合商社 一階エントランス〜



エントランスホールにはカフェがあり中央には受付嬢がカウンターに座っている。店内は満席で盛況具合が見て伺えた。


印象はニューヨークのお洒落なカフェ。俺も映画や雑誌でしか見てないけどな。


「いらっしゃいませモミジ様。何時も大変お世話になっております」


カウンターに行くと受付嬢が丁寧に頭を下げる。


「レイミーと約束してんだけど」


「はい。GMからお話は伺っております。執務室でお待ちしていますので」


「おう」


昇降機で移動する。


淀みない足取りで進むモミジの背中が頼もしい。


〜オーランド総合商社 4階 執務室〜


「モミジだ。入るぞ」


「失礼します」


モミジがノックして一緒に執務室に入る。


大量の書類棚にファイルが整頓され清掃が行き届いた部屋の中に亜人の女性が仕事をしていた。


孔雀青の髪を襟足でお団子風に纏め尖った耳に付けた二本のロングピアスが特徴的な端麗な美女。


「初めまして。私はレイミー・オーランド。『オーランド総合商社』のGMをしている者です。彼女から話は聞きましたが商人ギルドに登録したいとの事でしたね?」


アナウンサーみたく滑舌が良い人だ。


「はい。黒永悠です。今日は宜しくお願いします」


「では其方のソファーに座って下さい」


ソファーに座る。


「冒険者ギルドや職人ギルド『巌窟亭』でのご活躍の御噂は予々、聞いています。『オーランド総合商社』の代表として是非、当ギルドにも登録して頂きたい」


「俺もそのつもりです。ただ商人ギルドのシステムについて説明して頂いても良いですか?」


「分かりました。…先ず商人ギルドは職人ギルドと同じで各ギルドが独立しています。ギルド会費はなく登録料は各商人ギルドにより違いますが『オーランド総合商社』の場合、所属登録する際は登録料50万Gをお支払い頂くわ」


50万…かなり高額な登録料だ。ギルド会費が無い分、高いのだろうか。


「次に『オーランド総合商社』では種々雑多な事業を展開しています。融資・店舗の貸出・物件販売・日用品販売・食品店経営・武器防具屋・道具雑貨店・服屋・飲食店等…ですね。店舗経営にご興味は?」


「ないですね」


「…成る程。冒険者ギルド登録者の悠さんは買取がメインになりますね。注意して頂きたいのは個人とのモンスターの死骸と素材・一部を除いた鉱物及び採取系アイテム・武器・防具・装飾品の買取は商人ギルドでは出来ません。これは冒険者ギルドと職人ギルドとの兼ね合いもありギルド法で厳しく規制されてます」


結構、規制が多いよなぁ。


「買取可能な物は?」


「買取可能な物品は衣服・加工品・錬成品・魔導具・農産物・海産品・宝石・原石等になります。その他にも魔導書に魔物料理のレシピや調合書等も買取致しますよ。専属の鑑定士がいますので『オーランド総合商社』の買取基準を満たさない物は一切、買いませんがね。私も鑑定士のスキル保有者でシビアに見ます。優良品なら高額で買取致しますし交渉も受付ますが」


「なるほど…」


「それでも宜しければ同意書にサインを」


鉄仮面って聞いてたが本当に無表情な人だ。話が早くて助かるけど。


「わかんねーことは相談に乗るし心配すんな」


モミジが耳元で囁く。


「ありがとう。…登録させて頂きます」


50万Gを支払い同意書に記入し血判を押した。


登録完了の文字が浮かび上がる。


ーーーーーーーーーー

所持金:45万G

ーーーーーーーーーー


「確かに…書類を確認しました。これで悠さんは『オーランド総合商社』の所属登録者ギルドメンバーですね。商人ギルドのギルドカードはこちらです」


黄色のカードを貰う。


ーーーーーーーーーーーーー

商人ギルド

所属:オーランド総合商社

ーーーーーーーーーーーーー


「カードを受付で提示して頂ければ要件に応じて各フロアの担当者に受付嬢が案内するわ。…それと彼女の話では宝石の買取をご希望されてるとか」


「はい。他に錬成品も買取して貰いたいです」


「承知しました。先に宝石から買取審査を致しましょう。…折角ですし私が鑑定するわ」


うぇぇー…そんなサービス要らない…。


「…レイミーよぉ。ユウは宝石の適正価格がわかんねぇー。オレも値段交渉に同席すんぜ。いいよな?」


「勿論」


腰袋から宝石を取り出し渡す。レイミーさんは腰袋を凝視していた。


「…そのアイテムパックのマギアイテムは極めて貴重な品とお見受けしますが何方で入手されたのですか?」


分かる人には分かるんだ。


「恩人から譲って貰ったものです」


「成る程。…宝石をお預かりしますね」


白手袋を装着し査収が始まった。その表情は峻厳だ。


見てるこっちまで緊張する…。



〜15分後〜



「……成る程」


そう呟き慎重に宝石を敷き布の上に置く。


レイミーさんは立ち上がり事務机から一枚の紙を取り出すと万年筆で数字を記入して俺に渡した。


「お待たせ致しました。宝石四種の買取額はこの金額を提示させて頂きます」


ーーーーーーーーーーーーーーー

買取伝票

ベルカルビー(小)×2…400万G

ベルカファイア(小)×1…80万G

ベルカモンド(極小)×1…500万G

買取合計額…980万G

ーーーーーーーーーーーーーーー


「…きゅ…9、980万G……!!?」



声と紙を持つ手が震える。


アルカラグモとブードゥラットを売っ払った時を超える衝撃……超大金やん!!


「こ、こ、こんな大金になるんですか?」


「御満足頂けたご様子ですね。ベルカルビーは内包物が少なく加工済みでレッドカラーの色彩も鮮やかです。ベルカファイアも同様よ。…ベルカモンドに至っては加熱処理による樹脂の合侵もありませんしこの金額が妥当かと。では買取同意書にサインを……」


「待てよ」


モミジが目を細め厳しい表情でレイミーさんを見る。


「ベルカルビーとベルカファイアの値段は妥当だ。…でもベルカモンドが500万Gってのは納得できねぇな」


…え、マジで?


「理由は?」


「そのサイズのベルカモンドの加工は並の細工師にゃ無理だ。傷が入るリスクが高けぇ。切創と研磨が済んだ加工状態ならよぉ……700万Gはするぜ」


「700万Gは吹っ掛け過ぎです。…そう仰られるのであればサイズに見合った加工代の代金を考慮して…そうですね。580万Gに値段を改定します」


「ふざけんな。原石のままなら職人ギルドに加工処理を依頼すんだろ。その手間を省いてやってんだ。……700万Gが無理なら650万Gは出せよ」


二人の間で火花が散り合う。俺は黙って二人のやり取りを眺める置物になっていた。


「……成る程。ですが600万Gが限界です。これ以上、値段を吊り上げるなら買取は致しかねます」


レイミーさんの表情は変わらないが…もう値段交渉は受け付けない…と雰囲気で伝わってくる。


再びモミジが囁く。


「……ここらが限界だ。もうちょっと値段を上げたかったがわりぃ」


「謝るなよ。100万も値段上がってるんだぞ?…本当に頼りになった。…ありがとう」


照れたのを誤魔化す様に鼻の頭を掻く。


「分かりました。600万Gで買取をお願い出来ますか?」


「畏まりました。改定金額はベルカモンドが600万Gで…計1080万Gですね。買取同意書にサインをお願いします。……はい。これで買取は完了です。帰り際に二階の換金所で此方の買取伝票と書類をお渡し下さい」


このサインした書類一枚と伝票一枚が1080万G…。


腰袋に入れとこう。


「ケッ。…500万って低く見積り過ぎだっつーの。どーせ1000万Gで売りに出すんだろ?ケチんなよ」


「相場に合わせた適正価格です。買取同意書にサイン済みなので文句を言っても無駄ですよ。…悠さん。錬成品の買取の件で確認したい事があります。ベルカ孤児院に希少なポーションをお譲りしたと聞きましたが……そのポーションは今もお持ちで?」


「ええ、ありますよ。…どうして知ってるんですか?冒険者ギルドの依頼で納品しただけなのに」


「商人は金の匂いがする噂話には目敏いですので」


すげーな商人。


「これがそのポーションと他の錬成品です」


種二つと魔物寄せのお香は外した。


買い取って貰えるか微妙だし。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

錬成品

・特製ポーション×10

・マジックドリンク×6

・ハイマジックドリンク×2

・魔物避けのお香×3

・鉛色の変化液×1

・発光する変化液×1

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


レイミーさんが錬成品を手に取り検品を始める。


「……成る程。この特製ポーションは病や異常状態を治癒する効果があるのですね。万能ポーションより回復量は劣りますがとても良い品よ。魔物避けのお香に変化液……マジックドリンクとハイマジックドリンクも申し分ない出来です。悠さんは錬成師の資格をお持ちなんですか?」


「いえ。持ってないですよ」


モンスターの死骸と素材を錬成炉にぶち込むだけのお手軽錬成だからね。


「…独学でこれらの品を錬成された、と?」


「ちょっと教わりましたけど」


恩人のモーガンさん。…元気にしてるかなぁ。


「ちょっと、ですか。うちの専属錬成師が聞いたら驚くわね。噂通り不思議な人……何者か気になります」



「田舎者です」



渾身の決め台詞をかました。


「そうですか」


渾身の決め台詞に眉一つ動かさないレイミーさん。


し、塩対応過ぎぃ!?


もっとこう新鮮な反応が欲しい…。


「ユウ…お前…」


モミジが呆れ顔で俺を見ていた。


〜数分後〜


検品も終わり買取伝票に数字を記入して渡された。


ーーーーーーーーーーーーーーー

買取伝票

・特製ポーション×10…20万G

・マジックドリンク×6…6000G

・ハイマジックドリンク×2…5万G

・魔物避けのお香×3…1万4千G

・鉛色の変化液×1…2万G

・発光する変化液×1…4万G

買取合計額…33万G

ーーーーーーーーーーーーーーー


「優良品ですし色をつけて査定額は33万Gです。特製ポーションは今後も融通して頂けると助かります」


……一気に所持金が増えるな。


錬成品がこんなに良い値段になるとは。


「この額で問題ありません」


書類にサインし伝票と書類を受けとる。


「換金して帰ろーぜ」


「ああ。…レイミーさん。これからも宜しくお願いします」


「こちらこそ」


握手して執務室を出る。二階換金所に向かい換金を行った。買取伝票と書類を渡しお金を受け取った。


ーーーーーーーーーー

所持金:1280万G

ーーーーーーーーーー


所持金1280万。や、やべぇ…!!


…でもモミジの加工のお陰だし宝石の買取額はきっちり折半しよう。


お金を腰袋に閉まってオーランド総合商社を出た。


〜10分後 第5区画 公園ベンチ〜


「…なぁ、本当に宝石の買取額はいらないのか?大金だぞ」


「いらねぇーよ。べつに金に困ってるわけじゃねーし」


モミジは頑なに宝石の買取額は要らないと言う。


「加工したのはモミジなのに」


「気にすんなって。今日はいい暇つぶしになったしよぉ……ユウが鉱石持ってくんじゃんか。あれでチャラだよチャラ」


チャラに出来る金額じゃないんだけどなぁ。


…あ、そうだ。


「櫻木の月26日ってモミジは暇か?」


「そんな先の予定は決まってねーよ」


「なら俺の家に遊びに来ないか?他にも遊びに来る人はいるし今日のお礼にとびっきりのご馳走を用意するよ」


「ユ、ユウの家に…?」


ぴくん、と肩が震える。


「ああ。一緒に住んでる子も紹介したいしさ」


「ふ、ふーん。…だけど他に来る奴って冒険者ギルドの関係者だろ。オレが行っても大丈夫かよ?」


「もちろん大丈夫さ。…それとも嫌か?」


「まぁ、ユウがそう言うなら…わーったよ。いく」


「ありがとう!」


モミジの手を握る。


「……お、おまっ!だ、だからっ…急に…手ぇ握ったり……すんのはずりーって!?」


「あ、ごめん。嫌だったよな」


つい勢い余って握ってしまった。いかんいかん…セクハラって言われたら言い訳出来ない。手を離した。


「…嫌じゃねぇよ。バカ」


「え?」


「………チッ。なんでもねー」


公園を出てモミジと一緒に店で少し早い昼飯を食べた。勿論、俺の奢りだ。


その後は別れて冒険者ギルドで依頼をこなし買い物をして家に帰る。大金を手に入れたので奮発し豪華な夕食を用意した。


アイヴィーもアルマもキューも喜んでたし良い一日になったぜ。




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