プレゼントを贈ろう!②
〜20分後 金翼の若獅子 広場〜
到着後、受付カウンターにいたフィオーネを広場に誘った。
「私に個人的なお話があるって仰ってましたが…ふふふ。どんな内容か期待しちゃいますね」
…流石にあの場でプレゼントを渡すのは気が引ける。あらぬ誤解を受けたらフィオーネが可哀想だしね。
「えーっとな…話ってのは…」
「はい」
やべっ……なんだか緊張してきた。
「冒険者ギルドに登録してからフィオーネにはずっと世話になってる。俺のことを詮索しないで気遣ってくれていつも心配をしてくれた。…本当にありがとう。ボッツ達にも渡したが感謝の気持ちを形にしてプレゼントしようって思ってさ。……これを貰ってくれるか?」
「…え……」
懐からネックレスを取り出す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンジュ・エル
・銀鉱石と魔鉱石をチェーン状に細工し丁寧に磨いた小さな羽がモチーフの首飾り。装備者の魔力に呼応し羽が美しい光を放つ。黒永悠がフィオーネへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ネックレスって好みが別れるし気に入らなければ引き出しの奥にでも仕舞ってくれて構わないから」
「…………」
ネックレスを両手で握り締め顔を伏せる。
…ネックレスはやり過ぎたか?沈黙が辛い。
「悠さん」
「お、おう」
「私にネックレスをつけてくれますか?」
「俺が?」
「はい」
変なお願いだな。
ネックレスを受け取り背後を向いたフィオーネの首筋にチェーンを回す。
優艶なうなじ…。何で女の人の髪ってこんな良い匂いがするんだ。心が揺さぶられまくりなんだけど。
「…よし。オッケーだ」
くるり、とフィオーネがこちらを向く。
「どうですか?」
昔、テレビで女性の魅力が三割増しって謳い文句のアクセサリーショップのCMを見た事がある。そんなわけねーだろって馬鹿にしてたが……あれはマジだ。
ネックレスの羽が放つ光はフィオーネの婉容さを引き出し魅力を際立たせる。
「似合うよ。月並みな言葉ですまないが綺麗だ」
「……うふふ。綺麗って言われて心臓がどきどきしてます。素敵なプレゼントを有難うございました」
「俺も気に入って貰えるか不安だったが喜んでくれたし万々歳だ」
急に手を握って意を決した表情で俺を見上げた。
「お願いがあります。目を瞑ってくれませんか」
「…?…ああ」
言われた通りに目を瞑る。
一瞬、頰に柔らかい温かな感触を感じた。
「…目を開けても大丈夫ですよ」
「今、何かした……って顔が真っ赤だぞ。どうしたんだ?」
狐耳が忙しなく動いている。
「ひ、秘密です」
「秘密って一体…」
「秘密は秘密なんです!」
「そ、そっか」
これ以上聞くと怒られそう。
「さ、先に中に戻りますね」
「わかった。俺は巌窟亭に行くよ」
「で、ではまた…」
フィオーネは走ってギルド施設に行ってしまった。
…なーんか様子がおかしかったが…ま、いっか。
最後はモミジだ。依頼品も併せて渡しに行こう。
〜午前9時 第2区画 巌窟亭〜
早い時間に巌窟亭に来るのは初めてだ。
既に活気で溢れ施設の中は職人達でいっぱいだ。
「ん…?ユウじゃねぇか!」
この人は……初めて巌窟亭に来た時に居たごわごわ髭のドワーフさん。
「モミジ嬢から聞いたぜ!おめぇが質の良い鉱石を皆で使えって巌窟亭に寄付してるらしいじゃねぇか。お陰でワシの細工も捗るってもんだ……あんがとよ!」
ばしっと背中を叩かれる。
「あ、あはは。喜んで頂けて光栄です」
「まだ名前言ってなかったよな?ワシは金細工職人のローマンじゃ」
握手を交わしローマンさんは鍛冶場へ向かう。
俺も受付カウンターに行くか。
〜受付カウンター前〜
「よう。今日は早いじゃん」
モミジが書類から顔を上げる。
「依頼品が出来たんだ。見てくれるか?」
「お。もう出来たのかよ。はえーな」
依頼品を渡した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・強堅のロングソード+1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を細め剣を吟味する。
暫くしてモミジが感嘆した様子で息を吐いた。
「…申し分ねぇ品だ。依頼通り…それ以上だぜ。玉鋼と鋼石で鍛えてっから扱いは難しいだろーが無駄に装飾をしてねーのも実用性重視って感じで悪くない。…良い仕事するじゃねぇか!もし依頼主が文句言ったらオレがぶん殴ってやるぜ。成功報酬金は25万だったな。ほらよ」
成功報酬金の25万Gを受け取る。ちょいちょいお金は使ってたがもう少しで100万Gだ…!
ーーーーーーーーーー
所持金:95万G
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー
職人ギルド
ギルド:巌窟亭
創作依頼達成数:3
受注依頼達成数:0
納品達成数:1
CP:250
ーーーーーーーーーーーーーー
「あ、それとよぉー。明日行く商人ギルド『オーランド総合商社』のマスターとには話つけてっから。10時まで巌窟亭に来いよ」
「了解。…それとこれも見てくれないか?」
モミジにプレゼントを渡した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
山吹の腕輪
・金鉱石と魔鉱石を鎖に加工し丁寧に研磨したシンプルで上品なブレスレット。装備者の魔力に呼応し筋力が上昇する。黒永悠がモミジへ日頃の感謝の気持ちを込めて製作した特別な贈り物。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…ほー…金鉱石と魔鉱石の比分も正確でデザインも悪くねぇ。…お前…マジで器用だな。貴金属細工師になっても食っていけんぞ。納品すんのか?」
「いや違う。モミジへのプレゼントだからな」
ぴたっとモミジの動きが止まる。
「……え?…」
「日頃、世話になってる人達へ感謝のプレゼントを渡しててさ。そのブレスレットも寿命だって言ってたろ?『巌窟亭』に登録してからずっと良くして貰ってるし」
「…男からプレゼントを貰うなんて…」
「モミジは美人だしそのブレスレットも似合うよ」
「び、び、美人!?…ば、バカにしてっとブッ飛ばすぞ!?」
「いや、本心だよ。普通に美人じゃんか」
照れて顔が真っ赤になる。体は大きいがスタイルは抜群だし可愛いし美人以外の何者でもない。
「……あう。……ず、ずりーぞ…真顔で…そんなん……言われたら…オレ…悠のこと……」
「良かったら着けてくれないか?」
「…あぁ…わかった」
古いブレスレットを外し山吹の腕輪を左手はめる。
…うん。やっぱり良く似合ってるな。
「……ありがとな。これ…大事にすっから…」
愛おしく撫でながら呟く。
「嬉しいよ。あとは鉱石だ。また皆で使ってくれ」
鍛治師の宝箱で増やした鉱石を渡す。
受け取ったモミジが不安そうに潤んだ瞳で俺を見る。
「…ちょっと気になったつーか…知りてーんだけど……悠って…か、彼女とかいんの…?」
「残念ながら寂しい独り身だよ。一緒に住んでる可愛い小さい女の子はいるけど」
「へ、へぇ…そっか。なら良いんだけどよ!」
一転、明るくなった。…良いってどーゆー意味だ。
「とりあえずプレゼントも渡せたし俺は帰るよ」
「……もう帰っちまうのか。依頼は?」
「いや……最近、鍛治のし過ぎで寝不足でな。今日は家で休むよ」
皆に無事、渡せて安心したのか眠気がやばい。
「それなら仕方ねぇー。…ゆっくり休めよ」
「うん。明日は宜しくな」
「おう!待ってっから遅れんなよ」
巌窟亭を出て第2区画から第6区画へ向かう。
…プレゼントは大成功だった。また誰かにプレゼントを贈るのも悪くない。
眠気が襲う中、そんな事を考えながら家に帰った。




