脱出しよう。〜出逢い〜④
「あああっ……?ああああぁっ!!?!?」
目の奥がちかちかする。冷や汗も止まらない。
蛇口を捻った水のように血が地面を濡らし泣いて転げ回りたい衝動に駆られる。
「ごふ!?」
左胸に刀の切っ尖が突き刺さった。
口の中に鉄の味が広がり上手く呼吸できない。
意識が遠のいていく。
……ああ、俺は死ぬんだ。
自分の死を確信したその時、ウィンドウが現れた。
ーー暴蝕のスキルが発動可能ーー
発動…条件………瀕死だっけ…?
ーー代償に右腕を捧げ対象にスキルを行使ーー
頭が回らない。ぼんやりする。…どうせ死ぬなら代償なんてどうでもいい。
不思議な文字と図形を描いた魔法陣が何重も重なり強く光って俺と女神を包んでいく。
ーー…………鎖が……消え……た…こ、れは…契約の……!…馬鹿な……神を………隷属させる……など…出来ぬ……筈…嗚呼ぁ…苦痛が消え…てゆ……く。
体の中で弾ける音と強い衝撃が駆け巡る。一際、強く光が爛々と輝くと魔法陣は収束し女神は消えた。
残ったのは俺一人だけだった。
「………た、すかっ…た…?」
ーー暴蝕→浸食に降格。契約によりステータスに多数の変動及び項目の追加有ーー。
ウィンドウが消える。
酷い怠さと眠気が襲い抗うことなく目を閉じて倒れる。
そのまま意識を失った。
〜夢現〜
虚ろな空間で悠と対峙する禍の夜刀神。
ーーー妾を従え何を成す?
その問いに悠が答える術はまだない。
宙に浮き目を閉じているだけ。
……。
ーーー…其方は…この世界の生まれではないな?
それでも夜刀神は問い続けた。
……。
ーーー…成る程、面白い。此処まで数奇な運命を歩む者もそうおるまい。
ーーー……それは妾も同類か。名を奪われた神なのだから。
ーーーふん…忌々しい苦痛から解放した礼に妾が力を貸してやるというのに…。
ーーー…まだ夢現でしか…話す事も叶わん…。
ーーー覚えておけ。其方の全ては妾の全て。然り妾の全ては御主の全てでもある。
ーーーもう時間じゃ…黒永悠…妾の主よ。また相見えようぞ。
遠去かる影と消え行く空間。
覚醒の時間を迎えた。