仕事をしてお金を稼ごう!⑥
〜30分後 金翼の若獅子 八階 GM執務室〜
「美味しそうに食べるね。見てて飽きないよ」
依頼も達成し今は執務室でラウラが用意したミルクティーとお菓子で優雅にティーブレイクを満喫中。
運動をこなした後の糖分は体に染み入るぜ。
「審査は楽勝だったかな」
「ふぁっふぇあふぃつ」
「ふふふ。わからないよ」
「ーーんぐ…悪い。…うーん…弱かったし俺が教えて貰ったランカーの理想像とは懸け離れてたな。アルバートの方が強かった」
「ユーリニスの権力で手に入れたランカーだったからね。紹介状で実力が伴わない高位ランクのメンバーが急増してるのも悩みの種の一つさ。…現状は冒険者ギルド法の改定も難しい」
「大変だなぁ」
ボッツもそんな話をしてた。
「うん。逆に実力があるのに下位のフリーメンバーに留まってる人も目の前にいるけど」
「……た、大変だなぁ」
「…ふふ。悠が『金翼の若獅子』に所属してくれると僕も嬉しいよ。『勇猛会』と『リリムキッス』のGMは君を狙ってるみたいだし」
「悪いが何処にも所属するつもりはないんだ」
「残念…」
ラウラが俺を暫し見詰める。
…食べ残しでもついてるかな。
「どうかしたか?」
「…不思議だ。君を見てると…少し息苦しいけど…心地良い気持ちになる。……あの時、俺を信じろって言われた時も…何故か…胸の鼓動が激しくなった」
「仕事のし過ぎじゃないかな」
若いのに苦労人っぽいし。
「…違うと思うけど…」
さっきと違い顔が赤い。熱っぽくも見える。
「……熱でもあるんじゃないか?」
おでこに手を当てる。
「……っ…」
「熱はないな。……ってさっきより顔赤いぞ」
「い、いや…大丈夫だよ。…手を離してくれるかな」
おでこから手を離す。
「…ふー。…まだ報酬金の話をしてなかったね」
「任せるよ」
「分かった。受け取ってくれ」
17万Gをラウラから渡される。
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所持金:82万7500G
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「…この金額で本当に良いのか?」
一回の依頼で17万Gは破格やん。
「構わない。ソロオーダーは通常の依頼より難易度も高いからね。GPも高く設定してあるんだ」
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冒険者ギルド
ランク:F
ギルド:なし
ランカー:なし
GP:3180
クエスト達成数:24
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「3180GP…」
500GPも貰えた。
「4000GPでBランクの昇格依頼も受けれる。悠には是非、受けて欲しいな」
「まぁ、そのうちな。…っともうこんな時間だ。そろそろ帰るよ。忙しいのに邪魔したな」
「…もう行くのかい?」
「ちょっと用事もあってね」
家に帰って鍛治しなきゃ。
ボッツ達の六日後の出発に間に合わせたい。
「…悠、良かったら依頼以外でも……偶にでいいんだ。…話し相手になってくれないかな。君みたく僕と喋ってくれて……気を許せる相手って余りいないから」
副GMでランカー。ギルド職員や所属メンバーはその立場に気を遣う筈だ。
遠慮のない相手なんてそう居ないのだろう。
「偶になんて言うなよ。友達なんだから頼まなくてたってお安い御用さ」
拳を胸にとん、と当てる。
……ん?なんか違和感が…。
一瞬、目を見開き微笑んだ。
「ありがとう」
ラウラに見送られ執務室から二階へ移動した。
〜数分後 GM執務室〜
「………」
「…この胸の高鳴りは一体…?君は…僕に何をしたんだ。…良く分からないよ…」
ぼそっと呟く。頰は紅潮し瞳が潤む。
「ーー失礼致します。確認して頂きたい書類が……どうかされましたか?」
ギルド職員が扉を開け入室する。
「…いや何でもない。書類を見せてくれ」
書類を受け取り確認を始めた。
…この原因をラウラが自覚し理解するのはまだ少し先のお話。
〜午後14時 二階フロア〜
「ユ〜ウゥ〜殿ぉ!!」
二階に移動しアルバートと遭遇した。
喜色満面の笑顔で手を振りながら近付いてくる。
…陽の光が頭皮に反射して眩しい。
「お、おう」
「ユウ殿の此度に渡るご活躍を愚生も聞及び致しましたぞ!…是非、直接お話を伺いたい!!」
「また今度な」
「即答!?…そんなぁ〜。前にお話をして下さると約束してくれたではないですかぁ〜」
あー…確かに言ったっけなぁ。仕方ない…。
「昇格依頼に付き添ってダンジョンを攻略した」
「内容を端折り過ぎぃ!?…で、ではバルバリンに圧勝した今日のお話を!」
「…アルバートが何でそれ知ってるんだ?」
「愚生の知り合いのランカーが審査試験の立会いに参加してましてな。…鬼の如き強さで終始圧倒し…容赦ない鬼畜振りには心から震えたと敬服してましたぞ」
それ敬服じゃなくて畏怖だろ。
…しかも鬼畜って。
「…なるほど。アルバートの方が全然、強かったよ」
「…ゆ、ユウ殿。…愚生は褒めていただき…感激…」
…最初の尖ってた君が懐かしいよ。
「イージィとドゥーガルは?」
「存じませぬ。……だがユウ殿と愚生が此処でお会い出来たのはきっと運命…!」
周りを見渡す。
「ユウ殿ってば聞いてる?」
「…あれは…」
空中庭園でベンチに座るアイヴィーとキューを囲む大多数のメンバー達。
…まさか…虐められてるんじゃ…!?
「むむ。なにやら人が集まってますな。…ユウ殿…どうされ…っ!?」
「……」
空中庭園に向かって歩を進める。
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あの時…あの瞬間…足がすくんだ。
ユウ殿の顔を見て…あれは…種族やモンスターの類じゃない……正に修羅の化身。
愚生は前にユウ殿に決闘を挑んだが…。
二度とそんな愚行はしないと固く誓ったよ。
…なに?もっとユウ殿について教えろ…?
よし!あと二時間は語らぬばならないな!!
先ずは愚生とユウ殿の出会いからーー。
金翼の若獅子 三又矛 アルバート・ダンブルビー
クロナガ・ユウの情報収集記録 百合木の月20日
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〜二階 空中庭園〜
「アイヴィー」
俺の呼び声に振り向いたメンバー達が悲鳴を挙げた。
「うおっ!?」
「…きゃっ!?」
「……あ、ぁ…!?」
「あ、悠」
ーーきゅう。
近くにいた男に詰め寄り間近で睨む。
「…アイヴィーとキューを囲んで何してた?」
「お、俺たちはただ…」
「ただ?」
「い、いや、だから」
「言葉は慎重に選べ。……返答次第では二度と喋れなくしてやるからな」
「……ひぃいいいい!!?」
「あれ。ユウっちじゃん」
「どうしたんじゃ?」
「……イージィにドゥーガル?」
「ちょっと待ってくれ。誤解だ。俺達はアイヴィーとキューに何もしちゃいない」
…この獣耳のおっさんは見覚えがある。昇格依頼の報告の時に下らない質問をしてきた人だ。
「…どうしかしたの?」
ーーきゅう〜。
「…大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
ーーきゅきゅ?
「いや、だから…囲まれてたからてっきり…」
「待って待って!うちが説明すっから」
キャロルもいるじゃないか。あ、あれぇ……?
〜数分後〜
「…皆でアイヴィーに謝ってた…」
事情を聞いた。
「そ!…実はアイヴィーにちゃんと謝罪したいってベイガーから相談を受けてさ〜」
「あんたから怒鳴られ今までの言動や態度を省みた。…そして謝りたいと思ったんだよ。俺以外のあの場にいた全員もそうだ。……だから仲の良いキャロルに相談して皆で謝罪してたのさ」
ベイガーが答え他のメンバーも頷いた。
「あーしとドゥーガルは偶然にもこの場に居合わせたってわけぇ。聞けばアイヴィーは悠と一緒に住んでるって言うしね〜」
「心配するようなことは起きとらんよ」
「急に謝られてびっくりしたけど大丈夫だから」
…怒鳴られたから謝罪するっておかしいよな。最初から考えが及ばなかったのか問い質したいが……。
「…みんなが私の目を見て綺麗だって…キューを見て…かわいいって言ってくれたの。一緒に依頼に行こうってベイガーも誘ってくれた」
ーーきゅー!
……嬉しそうに笑って話すアイヴィーの姿を見ればそれを言うのは野暮だってのは分かる。
「…そっか。良かったな」
「うん!」
「俺は勘違いしてました。…申し訳ありません」
皆に頭を下げて謝る。
「ははは。…アイヴィーがあんたの事を教えてくれてな。新しい家族で自慢のお父さんだって言ってたぞ」
ベイガーが笑って答えた。
「…俺が…お父さん…」
感無量って言葉がある。今の俺にぴったりな言葉だ。
「…ベイガー。…恥ずかしいから悠には言わないで欲しかったから」
「お!照れてんなぁ〜。パパって呼んでみー」
キャロルがアイヴィーの頬をつんつんする。
「…キャロル。やめて」
「…それにさっきの形相と剣幕を見て確信したよ。怒らせたら相当やばいってな」
「あ、ああ…!俺はさっき睨まれってマジで殺されると思ったぞ」
…すみませんでした。
「ちゃんと自己紹介しておく。俺はベイガー・クリドリフ。BBBランクで『金翼の若獅子』の所属登録者だ。活躍は聞いてたが…ユー。改めて宜しく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
握手をする。他のメンバーとも挨拶を交わし数名を残して中に戻っていった。
「ユウ殿〜」
入れ替わりにアルバートの登場だ。
「アルバートじゃん」
「貴殿達もいたのか」
「したらぁー…あーしらも依頼いこっかねー。アイヴィっちにキューもまたね!」
「今度は一緒に依頼に行こうのぉ」
「うん」
ーーきゅー。
「その少女はAAランクの…アイヴィー・デュクセンヘイグではないか」
「ああ。俺と一緒に住んでるんだ」
「……えぇそうなの!?ちょ、ちょっと経緯を詳しく愚生にも教えぐぇっ!」
「…面倒だし。依頼行きながらぁ〜…あーしらが説明っすから。ほら行くよ」
イージィがアルバートの頭を思いっきり叩いた。
「愚生はユウ殿から聞きたい!」
「またのぉ」
「は、離せ!…ユウ〜どぉ〜のぉ〜!!」
二人に引き摺られ去っていく。
「…『三又矛』のアルバート。悠と決闘したってイージィが言ってた」
「色々あってな」
「髪がなかった」
「…ヘアスタイルは人それぞれさ」
「うちも休憩が終わるし戻るわ。…アイヴィーもパパに甘えたいだろーし。いひひ!」
「……キャロル」
「そんな睨むなって。じゃあなー」
残ったのは俺達だけだ。
「俺は買い物を済ませて家に帰るつもりだがアイヴィーはどうする?」
「ん。一緒に帰る」
ーーきゅきゅー。
〜2時間後 第6区画〜
買い物を済ませ帰路に着く。
「いっぱい買ったね」
「おう」
「布生地も買ってたけど何に使うの?」
「…ふっふっふ!秘密だ。楽しみにしとけ」
「分かった。楽しみにしとく」
歩いているとアイヴィーがコートを引っ張った。
「………」
「どうした?」
「…ん」
左手を突き出す。
「手が痛いのか?」
「ん」
ぐいっと更に突き出す。
「…ふむ。結婚線と生命線が長いんだな」
「違う。だれも手相を見てなんて言ってない」
むっとして頰を膨らます。可愛い。
「な、なんだ?」
「……アイヴィーはべつに悠と手を繋ぎたい…なんて子どもっぽいこと思ってないから…」
あー…そういう事ね。
「そりゃ残念だ。俺は繋ぎたいんだが」
「…悠が繋ぎたいなら…アイヴィーはいいよ」
ぎゅっと左手を握る。
「はは、素直じゃないな」
「…鈍感。女心がわかってない。こーゆーのは男が察してリードしなくちゃダメってキャロルとイージィが言ってた」
あいつらめ……。どんな話をしたんだよ。
「悠って好きな女の人はいるの?」
「んー。好きの定義にもよるが守りたいって思う人はいっぱい居るよ。…その中でもアイヴィーは特別だ」
娘同然だからな。
「…アイヴィーが特別…」
「ああ」
「……なら」
とびっきりの笑顔でが答える。
「大人になったら悠のお嫁さんになってあげる」
……ああ…全国のお父さん。娘を嫁に出したくないって気持ちが痛いほど理解できました。アイヴィーに彼氏が出来たら俺はそいつを殺すかも知れない。
「…そっか。楽しみにしてるよ」
ーーきゅきゅ!
キューが自分も忘れるなと言わんばかりに鳴く。
「はは。もちろんキューも特別さ」
「キュー。頭の上でバタバタしちゃ……めっ」
等間隔で揃えられた並木道を仲良く手を繋ぎ歩いた。




