縁は繋がる①
〜午後16時26分 第2区画 ファーマン邸〜
ファーマン邸に戻ると三人はリビングで寛いでいた。
丁度、三十分前にレッスンを終えたらしい。
ナターシャさんにアイヴィーの腕前がどうだったか聞くと、現段階で並の錬金術師を、軽く凌駕しているとお墨付きを貰った。モミジにも絶賛され、アイヴィーは平静を装うも鼻高々で誇らし気だ。
ま、俺は驚かないさ。何故ならば約束の禮薬を、調合した時に才能の片鱗をアルマと目撃している。
〜ファーマン邸 リビング〜
「ーーーーでさ、でさ!」
「うん、うん」
アイヴィーとダーニャが会話を楽しんでるのを、ソファーに座って眺めていた。
心の清涼剤とは、正にこれ。子供の笑顔は宝である。
個人的に俺は、子供を蔑ろにしたり、老人を虐げる国に、未来はなく、発展もないと思う。一部の金持ちや強者が過ごし易い国より、弱者が安心して暮らせる国こそ、色んな意味を含め、強い国なのだ。
……その点、エイヴンはどうだろう?
俺みたいな、鈍い奴が政治をどうこう言っても、仕方ないのだろうが。
「あ、ちょっとジジイに用があっから席外すわ」
モミジは立ち上がり、リビングを出て行く。
「ふふふ!和みますわ〜」
「その通りですね」
ナターシャさんは、ティーカップを、口元に運び微笑んだ。
「……ユウさん」
「はい?」
「さっきも言ったけど、アイヴィーちゃんは、私が今まで見た中で随一の才能の持ち主よ。錬金術は、よく想像を創造する学問だと言われるの。素材を組み合わせ、新しい価値を産み出す……あの年齢でこうまで、出来るのは脱帽です」
実に誇らしい限りだ。
「俺もアイヴィーの成長には、日々驚かされてます」
「ええ。まさか魔女の製法術も使えるとは、本当に驚きました」
「え」
「あの子は魔女に縁があるのかしら?」
……あっ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『この子が錬成術を覚えたいって言うから、ランダに聞いた調合と合成の手順を教えたらこのとーりよ』
『…よく聞いただけで、手順を指導できるな。調合や合成は難しいって言われたのに』
『この程度の技術なら教えるのなんて簡単じゃない。わたしを人の尺度で計るんじゃないわよ』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
アルマが教えたのは、ランダの調合技術。つまり緋の魔女の、それこそ魔女の製法術なのだろう。
「それとも、ユウさんが……と言った方が正しい?」
こちらの考えを先読みするように、ナターシャさんは表情を崩さず、問い掛ける。
「え、えーと」
……最近は秘密を抱え過ぎて、誤魔化すのも一苦労ってか?俺の嘘が、ナターシャさんに通じるとも思えない。
「困らせちゃったかしら」
ティーカップをコースターに置く。
「実は私と旦那は、ある魔女と深い縁が……いえ、あったと言った方が適切ね。とにかく、昔お世話になって、色々教わったの。アイヴィーちゃんの魔女の製法術を見抜けたのも、そーゆーこと」
「… なるほど」
門外不出の技術を知る所以、疑問を懐く。それは納得の理由だ。
「ふふ!聞き出そうとは思わないから、安心して頂戴。でも、何時か話してくれると嬉しいわ」
恐らくナターシャさんは自身の推察に、確信を持っているが敢えて、口にしていないだけだ。彼女は十二分、信用に足る人物だと思うが、これを機に打ち明けるか?
「えい」
どう返事をするか悩んでいると彼女にコツン、と軽く頭を小突かれた。




