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ダーニャとオーランド総合商社 ③

9月25日 午後12時10分更新

9月25日 午後14時20分更新

9月25日 午後17時30分更新



「欲がない訳じゃないけど」


「……金銭欲が乏しい悠さんには、銭勘定の長けた女性が傍に居ないと駄目でしょうね」


「そーですか?」


「そうですよ」


やけに熱のこもった口調だ。


「姉貴が宝石を掘り当てるのは、熟練の炭鉱夫でも難しいって言ってたのに……」


まじまじと宝石を眺め、ダーニャが呟く。


「見つけるのが得意な探索のスキルがあるからな」


「スキルかぁ」


「ダーニャもスキルは持ってるだろ?」


「ま、鍛治のスキルはあっけどね」


「その年齢で職人のスキルを保有してるのは大したものよ」


レイミーさんはダーニャを見詰め答える。


「モミジが褒めるだけあります」


「……姉貴がおれを?」


「自分より才能も根性もあると言っていたもの」


「えー!?」


「…そんなに驚くことかしら」


「だっていつも怒られてばっかだし…」


「面と向かって褒めるのが照れ臭いだけよ」


付き合いが長いだけあってよく理解してる。


「モミジなりの愛情表現だろうな」


「私もそう思います」


「……」


照れ臭くなったのか顔を真っ赤にして俯く。


……ダーニャが住んでいた集落は帝国の魔導兵によって滅ぼされた。両親は()()()()()()らしく現在、他国へ出稼ぎ中で年に一、二回しか帰省しない。留守の間、同種で友人のモミジが面倒を頼まれてる訳だな。


さて粗方、用事は済んだし本題である会合の話をしようか。


〜数分後〜


「…成る程」


ギルド開設に関わる全員で、具体的な話し合いがしたい旨を伝えた。


「急な話で恐縮です」


「いいえ、寧ろ望んでいた事案よ」


彼女はそう言うと一瞬、間を置き答えた。


「明後日にしましょう」


「……また随分、近い日付ですが大丈夫ですか?」


「スケジュールは詰まってますが時間を作ります」


「忙しいなら別の日でも構いませんよ」


「心配ご無用。具体的な資料も既に準備万端ですので」


「…頼もしいなぁ」


「当然の責務よ」


有能過ぎて草も生えないぜ!


「では向日葵の月24日の午前11時に御自宅へ伺います」


「それでお願いします……っとそうだ」


アイヴィーとダーニャも約束してたっけな。


「ダーニャも家に遊びに来るか?」


気を回し誘ってみた。


「ぜってー行く!アイヴィーと遊びたいもん」


「そっかそっか。仲良くしてくれて嬉しいよ」


「へへ〜ん」


ニッコニコな少女の笑顔に俺もニッコリ。


「……本当に子供好きですね」


その様子を黙って眺めていたレイミーさんが呟く。


「え?」


「楽しそうに笑ってるもの」


自分でも意識せず無自覚に笑ってるに違いない。


「きっと妻に愛される父親になれるでしょうね」


「妻、ねぇ……まず相手を探さなきゃですよ」


「運命の相手は身近にいるものよ」


そう言うと彼女は、有無を言わせぬ口調で答えた。


「身近に?」


「ええ、()()()()()でとても近い距離にいると思うわ」


「うーん」


幸せの青い鳥の童話を思い出す口振りだな。


「……ユーはマジで鈍すぎ」


「いいえ…期待した私が馬鹿だったの」


呆れ顔でダーニャが喋り、レイミーさんが不服そうに答える。


「…二人して急にどうかしたのか?」


「そんな風だといつか背中をグサッて刺されっからな」


「あはは!刺されるのは嫌だなぁ」


気に留めず笑うと、溜め息を吐き少女は肩を竦める。


「ハァ〜……一回、刺された方がいんじゃね?」


「酷いこと言うなって」


少し癖っ毛の触り心地の良い赤い髪を撫でる。


「あ、頭を触んなよ〜〜!」


「……確かにナイフで刺してみたくなる衝動に駆られました」


彼女は小声で何か呟いたようだ。


「何か言いました?」


「言ってません」


聞き返すもはぐらかされた気がする。


取り敢えず無事、買取も日程の調整も済んだので、レイミーさんにお礼を言って執務室を後にする。


ーーーーーーーーーー

所持金:1億4542万G

ーーーーーーーーーー


……小腹も空いたし、ファーマン邸に戻る前にどっかで何か甘い物でも食べてくか。



〜午後15時45分 第5区画 市街〜



オーランド総合商社を出て、店でファレフレを購入し外のベンチに座る。ファレフレとは、薄焼きのパンケーキでクレープに似てるが原材料は、小麦粉ではなく甘味草という草を干した粉末粉に、塩とミルクを混ぜて生地を作り、鉄板で焼いて具材を乗せる。甘味草の粉末粉は、控え目の程良い甘さが特徴で、ベルカでもポピュラーな食材の一つだ。ダーニャは、クリームとツリーメロンのファレフレを頬張る。


「美味いか?」


「うん!」


俺には甘過ぎたが、子供には堪らない甘さだろう。


「クリームついてるぞ」


「んぐ」


指で生クリームを拭う。


行き交う通行人を眺めると、戦闘から離れ平穏な日常を満喫している自分が、不思議と凄く幸せに思えた。


「……ユーってさいい奴だよね」


「む」


「今日一緒にいてよーくわかったわ」


「それは光栄だ」


「ま、最初はスゲー嫌いだったけどな!」


正直過ぎて笑いそうになる。


「ダーニャの過去を考えれば仕方ないさ」


故郷を滅ぼされた恨みを忘れるのは土台、無理な話だ。


「今もヒュームは嫌いだけどユーは好き」


口にしたのは、大人の男に対する信頼の好意だろう。


「俺もダーニャが好きだよ」


「え、そうなの?」


「ああ」


ダーニャはニカッと笑い答える。


「んじゃ……おれが大人になった時、ユーが誰ともケッコンできなかったらお嫁さんになってやんよ」


お、恐ろしい未来予想図だな……現実的に実現しそうなので、信憑性があるのも困った話だ。この可愛い少女が魅力ある美人に成長する姿も、容易に想像できる。


「……えーと、ありがとう」


「お〜〜!」


得意気な顔で、食い途中だったファレフレをまた食べ始めるダーニャだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  久々に読もうと思い、一週間くらいかけて一周しました やっぱりいいですね、大きなストレスもなく読めましたし、悠の心情の変化や悠に対する周りの人の評価の変化、ヒロインたちの純粋な好意、誰も心…
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