ダーニャとオーランド総合商社 ②
9月21日 午後23時08分更新
9月22日 午後14時13分更新
9月22日 午後16時06分更新
「こーゆー突然沸くモンスターは、特殊なスキル持ちの珍しいのが多いからよ〜」
「…ふむ」
「エ、エイルの勘はよく当たるっスもんね」
「まぁこれでもSランクの冒険者だかんな」
得意気に鼻を擦る。流石、経験豊富な冒険者だ。
「そ、それ勘とあまり関係ないっス」
「シャーリィちゃんってば一言余計だっつーの」
「ほ、頰を引っ張らにゃいで〜」
「……さて冗談抜きに社長はどーしたいん?」
気を取り直すようにエイルは腕を組み問う。
「ソルソルトは、倭国で人気の輸出品ですので、早急に採掘地の脅威を排除して頂きたいわ」
「…早急に、ね」
「勿論、必要な経費も報酬金も用意します」
「ん〜そーなると…むむ」
彼女は綺麗な顔を、曇らせ唸った。
「何か問題でも?」
「実は討伐依頼がウチも殺到しちまっててね、社長は良くしてくれっし都合をつけてーけど」
「……成る程、人手が足りないと」
「当たり」
「な、夏はモンスターの熱いシーズンだから」
キャロルが言ってた通りだな。
「他の信頼できる冒険者ギルドに回す手もあっけど、ちなみに依頼日数は?」
「正直に言うと一日でも早い方が助かるわ」
「そうだよな〜!っつー訳でシャーリィちゃんよぉ」
「…い、嫌な予感がするっス」
「明日以降の依頼はわたし抜きでも」
「む、無理っスよ!?討伐難度がAAA級のモンスター三体の依頼だもん!あたしが死ぬっス!」
「気合いと根性でやれ」
「エイルじゃないし無理なもんは無理!」
「……それどーゆー意味よ?あーん」
蚊帳の外だった俺はわざとらしく咳払いした。
「どうしたのユー?風邪?」
「違う違う。エイルもシャーリィも水臭いと思ってな」
ダーニャに答え腕を組む。
「み、水臭いってどーゆー意味……あ!」
「俺がいるじゃないか」
こーゆー時こそ俺の出番なのだ!
「まぁユウなら間違いねーわな」
「そ、そーっスね!問題解決っス」
「……私も真っ先に悠さんへ依頼する案は考えたわ」
「え」
「しかし、ギルド開設に向け仕事が山積みでしょう」
「やる事は沢山あるけど大丈夫ですよ」
「何を根拠に大丈夫なのですか?」
「えっと……とにかく大丈夫!」
「全く理由になってません」
ピシャリと一刀両断された。
「貴方の最優先事項は『反逆の黒』の準備です。些末な事に気を取られてる場合じゃないわ」
「レイミーさんが困ってるならそれが最優先事項だよ」
「!」
眼鏡の奥で目を丸くして瞬きする。
「一言、俺に頼みますって言ってくれればいいさ」
似合わないウィンクをすると、彼女は頰を赤く染めた。
「……私が最優先事項、ですか?」
きっと私=オーランド総合商社の問題って意味だろう。
「ええ」
珍しく無表情ではなく、口角を上げ微笑む。
「ではお言葉に甘えて……採掘地の件、頼みますね」
「合点承知です」
「………」
「エ、エイル」
「…あ?」
「な、なんでもないっス…」
あれ、エイルが随分と不機嫌そうだぞ。
「どうした?」
「……べっつにぃ〜〜」
「何か問題があるなら力になるぞ」
「はっ!わたしなんかの頼みでも?」
拗ねて不貞腐れた子供のように、唇を尖らせる。そんな顔も可愛く見えるのは、単に綺麗なお陰だろう。
「勿論、エイルの頼みもだ」
ピクンと狐耳が動いた。
「……ふ、ふーん」
「君に力を貸すのに特別な理由は要らないよ」
自分が思う以上に多くの仲間に支えられてる。……活躍と噂が広まるにつれ、怖がり敬遠する人が大勢いる中、変わらず接してくれる皆がいて安心できる。
孤独に耐えれる程、俺は強くない。
「……ま、まぁユウがそう言うならいいや」
「?」
よく分からんが機嫌は治ったようだ。
「………」
あ、あれぇ!?
「……レイミーさん」
「何でしょう」
「えと、怒ってます?」
「怒ってません」
眉間に皺を寄せ、凄い睨まれてる気がするが…。
「うわぁ」
「シャーリィ?」
「あ、ある意味、凄いっス…尊敬するっスわ」
「……この場に姉貴がいなくてよかったねユー」
シャーリィとダーニャの呆れて憐れむような眼差しに、困惑した。
〜数分後〜
「依頼は『リリムキッス』から、悠さんへ引き継ぐという認識で、宜しいかしら?」
「だな……前金で貰った報酬金の幾らかは返金っすっか?」
「いえ、今後の付き合いもあるし懐に収めて頂戴」
「さっすが大手の商人ギルド様は気前がいいわ」
「て、『鉄仮面』は金勘定に厳しいって聞いてたけど太っ腹っスね」
「……シャーリィちゃんよぉ〜依頼者の前だしお口チャックしてくんね?」
「し、しゅいふぁへん!」
シャーリィの頰を左右に引っ張るエイルだった。
「見合う働きには、然るべき対価を払うのは義務よ」
足を組み直し淡々と喋る。
「この商売で食っていく以上、無論、不必要な出費は控えるべきで、1Gの損もしたくない。値切れるものは、限界まで値切る……しかし、時と場合に寄りますが、金銭を出し惜しむと破滅を招く事があります。それを踏まえ相手が仕事上、信頼に値するか吟味するの」
「その考えだと…?」
「当然、『リリムキッス』は優良株の冒険者ギルドとなりますね」
エイルとシャーリィは、適切に評価され満更でもない顔を浮かべた。
「ダーニャが働く『巌窟亭』もそうよ」
「姉貴が仕切ってっからな!」
見習い職人ダーニャは自信満々に頷く。
ま、同類を惹き寄せるってことだな。
話し合いの結果、今回は無報酬でボス討伐を引き受ける事にした。リリムキッスの皆の後釜だし、良いとこだけ掻っ攫うみたいで嫌なので、固辞を貫いたのだ。
暫く談笑した後、エイルとシャーリィは帰り、俺も本来の用事を済ませるべく執務室へ移動する。
〜午後14時55分 四階 執務室〜
「……成る程」
買取査定に出した宝石を検分する彼女の返事を待つ。
「また珍しい地域継承素材の宝石類ですね」
「採掘した場所がダンジョンと沼地ですから」
「その地域の特性が色濃く反映する素材は、価値が様々ですが……これは非常に状態も良く、錬成士か錬金術師に高値で売れるでしょう。宝石類のアイテムは、難しい錬金術の成功率を底上げする貴重な素材アイテムの他、魔導具錬成の核になりますから」
ファンタジーな異世界らしい用途だ。
流れるような手付きで、紙に査定額を書き込む。
「買取額230万Gでどうでしょう?」
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買取伝票
・ボーンサファイアの宝石×1…50万G
・ボーンサンドの宝石×1…50万G
・毒瑪瑙 ×1…50万G
・泥涙石×3…80万G
買取合計額…230万G
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「に、230万G……!」
隣に座るダーニャが驚き息を飲む。
「もちろんオッケーです」
大金だし普通はそーゆー反応になるよなぁ。……驚かなくなった自分の金銭感覚の麻痺が怖い。
「悠さんとの価格交渉はスムーズで有り難いわ」
「この金額でごねる要素があります?」
「……一回で提示された金額を受諾する冒険者は滅多にいませんよ」
買取伝票と書類を準備するレイミーさんが答える。
「だって鑑定のスキルもない冒険者が、専門家の商人を納得させるのは難しいでしょ」
「命懸けの手間賃を高く見積もりたいのは性では?」
「……命懸けか」
「私は非戦闘従事者ですので、偉そうに言えませんが……他の冒険者と貴方の尺度はまるで違う。物の価値の捉え方も、考え方もね」




