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錫の魔女 ②

8月19日 午後14時33分更新

8月19日 午後21時45分更新

8月20日 午後13時39分更新




「はぁ……ったくマジで怖い者知らずだな」


顔を寄せ小声で耳打ちする。


「ユウが強ぇのは分かってっけど『錫の魔女』は王宮の……ユウ?」


「あ、うん」


「考えごとか?」


「別に大したことじゃないさ」


……どうも俺は神の他、魔女とも縁があるようだ。一先ず、これが互いにとって悪縁じゃないことを願う。


「二人は仲が良いのえ」


「…ん?」


「私やトトもいるのに顔と体を密着させちゃってまぁ」


「!」


モミジが反応し耳が赤くなる。


「仲良しさんなの〜」


「お、おうよ!と、当然じゃん……なぁ?」


「その通りだ」


モミジは尊敬できる仲間で俺の大事な友達だしね……む?


「急に外が騒がしくなったな」


「誰か来たみてーだ」


執務室の扉の向こう側が異様に騒がしい。


「トト」


「ん!」


グローアさんはトトを膝から下ろし立ち上がる。


「私とトトのお迎えが来たみたいね」


彼女は頷き申し訳なさそうに頰を人差し指で掻いた。


「も〜〜魔法でパパッと帰るのに……きっとヘンリー大臣が王宮衛兵隊を派遣したに決まってるえ」


俺達は執務室を出て受付ロビーに移動した。



〜午後17時40分 巌窟亭〜



カウンターの前では、巌窟亭でも一、ニを競う細工職人のダデさんを筆頭に他数名の職人達が仏頂面で対峙する男を睨んでいた。


黒髪で立ち姿が絵になる美丈夫の犬人族の亜人だ。男は太陽を背負う大鴉が刺繍された臙脂色のマントの下に、軽鎧を装着している。


ふむ…気になって鑑定したが剛鉄鉱石・玉鋼・魔鉱石で精錬された鎧だな。


高い防御力と機動性を両立させ、製作した鍛治職人の高い技巧を物語っている。背後には、同じ格好の鴉を模した半面の兜を冠る男女数人が控えていた。


「わ〜い!お兄ちゃんなの」


「!…御無事でしたか」


元気なトトの声を聴き男は胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべる。


駆け寄る少女の前に屈み、肩に優しく手を置く。


「御怪我はありませんか?…何か酷い目には遭ってないですか?」


「ううん!楽しかったの」


「全く…御転婆が過ぎます。魔法で護衛を昏倒させ撒くとは……どれほど私が心配したか」


「う〜ごめんなの」


俯き謝るトトに男は微笑む。


「謝らずとも結構……兎に角、安心しました」


「んもぉ〜サイファーも大袈裟え」


俺は堪らずグローアさんを二度見した。


「グローア様」


サイファーと呼ばれた男は恭しく頭を下げ部下もそれに習う。


「ヘンリーの心配性は今に始まったことじゃないえ」


「御言葉ですが、心配性の原因の殆どはグローア様のトト様騒ぎだと思われます」


「ひ、ひゅーひゅー」


口笛吹けてねー…ってかトト様騒ぎってことは日常茶飯事なの?


彼は小さく息を吐き次の瞬間、想像もしてなかった言葉を吐いた。


「いい加減、()()()()()()()()のは終わりにして王宮へご帰還下さい」


……なに?


「特にここも煤と油に塗れ、空気が汚い。御二人にも我々にも()()()()()()()()場所だ」


慇懃無礼ではない。


敵意も悪意もなく、純粋にそう思ってるから口にした……そんな口調と態度だった。ダデさんは眉間に皺を寄せ、他の職人もサイファーを睨んでいる。


「……サイファー」


「はい」


()()()言ってるけど差別は駄目え」


子供を諭すようにグローアさんは注意する。


「何故です?事実を述べたまでですが」


本気で分からないのか平然と彼は聞き返す。


「身分は人の価値を決めるものではない。……下賤などと卑下するのは感心しないえ」


「お気に障ったならば申し訳御座いません」


彼女から視線を外し、サイファーが振り向く。


「『巌窟亭』二代目GMのモミジ・アザクラはお前か?」


「……オレがそうっすけど何か?」


「巷では『紅兜』と呼ばれている凄腕の女鍛治師……容姿は悪くないが気品の欠片もない」


頭からつま先まで睨め付け、吐き捨てるように言った。


「……」


モミジはあくまで無表情だ。


「所詮、野蛮で粗暴な鬼人族(オーガ)か」


これにはダデと職人達の顔が強張り、真っ赤に染まる。


「こ、この青二歳が黙って聞いてりゃあ……モミジ嬢!?」


「……気にすんな」


しかし、モミジは片手で静止する。


「ほう、ドワーフの調教は上手のようだ」


必死に怒りを我慢しているのが伝わってくる。


「その顔……王の剣たる我々に文句でもあるのか?」


「〜〜ッ……」


「まあいい。礼金を受け取れ」


「礼、金……?」


震える声が口から漏れた。


「トト様を匿った礼だ。光栄に思うがいい」


部下がモミジの足元にケースをぞんざいに投げ捨てた。


「這い蹲って拾え」


大量の札束が床に散らばる。


「どうした?我々には端金でもお前達には大金だろう」


余りに酷く横柄な態度に遂に堪忍袋が限界を迎えた。



「……いい加減にしろよ」



こんな嫌な気持ちになったのは久々だぜ糞野朗。



「ユ、ユウ」


モミジの前に立ち、サイファーと視線が交錯する。


「……今、何と言った?」


「耳が遠いのか?いい加減にしろって言ったんだよ」


怯まず睨み続けるとは、肝は座っているようだ。


「お、お師匠さま」


「……私の背後にいるえ」


二人には申し訳ないが、発端はサイファー(こいつ)だ。巌窟亭の職人メンバーを……何より友達を目の前で侮辱され見過ごす?


絶対に無理だ!


「…隊長」


「待て」


武器を抜いた部下を諌め目を細める。


「狩人装束…『巌窟亭』の職人…ヒューム…成る程」


独り言を呟き勝手に納得し頷く。


「この男は『阿修羅』の黒永悠だ」


「「!」」


部下は動揺を隠せないのか、戸惑っていた。


「身体的特徴、種族、人物像が情報と一致する……それに『金獅子』殿が言った通りの男だな」


「……そんなのどうだっていい」


俺は苛立ちを募らせ、顔を顰める。


「皆に謝れ」


「謝罪するつもりはない」


「……何?」


「お前は平等を謳い条理に逆らう異端の契約者だ」


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