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錫の魔女 ①

8月17日 午後14時29分更新




〜午後17時10分 巌窟亭 GM執務室〜


誤謬は解け騒動も一件落着したが、帰る素振りを見せない二人をモミジは執務室へ通した。グローア……さんは王宮の要人でファーマンさんとも知己の間柄のようだ。


対応に気を遣ってるのが、ソファーの隣に座る俺にも伝わってくる。


「ほほ〜!『巌窟亭』のGMが変わったと噂で聞いてたけど貴女なのえ?」


「そうっすね」


「ファーマンはスーパースケベジジイだけど最高の鍛治職人だからえ〜……うんうん、後釜は大変だけど頑張るえ」


「どうも」


スーパーサ○ヤ人ならぬスーパースケベジジイか。


「何を隠そう私の『錫鉄漿六角すずかねろっかく玉兎たまうさぎ』もファーマンが鍛えた逸品だえ。紀章文字を彫ったのは()()()()


「なの!」


魔女の武器にしては随分とゴツい武器だ。


トトを自分の膝に乗せ明朗快活と話すグローアさんは、外見に反し天真爛漫な人だった。


さっきは面食らったが次第に慣れる。


「あら?どうしたえ」


モミジの怪訝そうな様子を察し彼女は問う。


「や、失礼だけどアンタ……コホン!魔女様はオレの考えてた魔女のイメージと違げぇっつーか…あー…」


グローアさんは微笑み答えた。


「絵本に登場するような気難しい鷲鼻のお婆ちゃんを想像してたかしら?……もしくは偉そうで傲慢ちきな意地の悪い魔法使いとか」


図星を突かれたのかモミジは言葉を濁す。


「うっ…まぁ」


「ふふふ!モミジちゃんは正直ななのえ」


トトの頭を撫で穏やかに喋る。


「…まぁそう思われても仕方ないえ。魔女は世界の()()()で異才と啓蒙を必要とする常識で測れぬ者……傲慢で品のない輩も多いからえ〜」


世界の観察者……異才と啓蒙?


「えっへん!トトも世界の観察者なの」


グローアさんは自分の頰をトトの頰に擦り合わせた。


「そのとーり!また8歳なのにトトは立派な魔女で私の自慢え〜。うりうりぃ」


「きゃはは!くすぐったいの〜」


本当、めちゃくちゃ溺愛してんだなぁ。


「……オレには理解できねーってことがわかったわ」


肩を竦めモミジは言う。


「その世界の観察者ってどーゆー意味ですか?」


黙って傾聴していたが、そのワードが無性に引っ掛かり質問してみた。


「む…貴方は」


あ、いけね!まだちゃんと自己紹介してなかったっけ。


「挨拶が遅れたけど俺は」


「黒永悠でしょう?」


「……はい」


知ってたんかーーーい!


「さっきはトトの事で頭が一杯で気が付かなかったけど……ほむほむ」


グローアさんは一人で頷き何か納得している。


「どうして俺の名前を?」


堪らず聞くと愉快そうに答えた。


「アハハ!有名だし知らない方が可笑しいえ?」


「はぁ」


「リョーマを超える破天荒な契約者だと王宮でも噂で持ち切りだもの」


「破天荒……」


せめて心が荒む的外れな噂じゃない事を祈ろう。


「ゴウラが認めるのもよ〜〜く分かるえ」


「へ?」


「あれも常識外れの怪物だけど貴方はそれ以上え」


…褒められてる気がしないし含みを感じる言い方だな。


「俺は契約者ってだけのヒュームですよ」


「ヒューム、ねぇ」


「それはもう善良で平和主義の健全なヒュームです」


()()()()?ほほ〜」


「………」


余計な事を言うと墓穴を掘って秘密が暴露るぞ……と警戒を促すようにモミジがコソッと肘で小突いた。


「そ、それよりさっきの質問の答えを教えて下さい」


「ん〜残念だけどそれは秘密」


「秘密ですか」


「魔女には魔女のルールがあるからえ」


……決め事が存在するのか?


「悠ちゃんが最強國家戦力になった暁には、教えてあげてもいいえ」


「悠ちゃんって……っつーかアルティメット・ワンに俺がなれる訳ないでしょう」


「あら?でもゴウラは貴方を」


そこまで言って彼女は口を閉じ笑った。


「どうかしました?」


「……むふふ〜何でもないえ」


非常に気になる口調と態度だが……まぁいいや。


「じゃあ古代魔法の習得が魔女にどう関わって」


「それも秘密え〜」


「……」


魔女の文献の少なさは秘密主義にあるって事だけは分かったのだった。


〜数分後〜


「そーいえばトト」


「はいなの」


「そのブレスレットはどうしたえ?」


「おじさんにもらったの!カッコイイでしょ?」


トトはグローアさんにエキドナの腕輪を見せた。


「おじさん?」


「俺です」


正しくはお兄さんだけどな!


「……お金はどうしたえ?」


「プレゼントだってくれたの」


屈託なく答えるトトに苦笑しつつ、グローアさんは懐に手を伸ばす。


「気にしないで下さい」


すかさず俺は静止した。彼女は金を払おうとしたのだ。


「…でも」


「製作者がいいって言ってるし問題ないよなモミジ?」


「ま、仮に言ってもユウは頑固だから聞かねぇから」


グローアさんは優しい眼差しを俺に向けた。


「……悠ちゃんは底抜けの子供好きだって噂を聞いたけど真実だったのね」


え、そんな噂も流れてるの!?


「別に普通ですよ」


老人を労り子供に親切にする事は特別でも何でもない。


「……ぶっちゃけ普通ではねーぞ」

 

デデーーン!言った傍からモミジが即否定!


「兎に角、この恩は決して忘れないえ」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟ではないえ。トトは私の全てだもの」


……親子には見えないが師弟関係を凌駕した何か特別な絆を感じる。


「俺にも娘がいるので気持ちは分かりますよ」


「名前は……アイヴィーちゃんだったえ?その娘は昔から有名だもの。最近の()()も悲惨な()()も言わずもがな……王宮は連邦中のあらゆる情報が集結する()()()。貴方が想像する何倍も私は事情通え」


「………」


「…悠ちゃんに一つ聞いていい?」


「どうぞ」


グローアさんの左目に奇妙な模様が浮かび、場の空気が突如重くなる。


「確か内容は…『俺の刃は有象無象の区別なく、例え超弩級の賞金首でも、大国の王でも、神でも斬り伏せる……俺がお前達の死神だ』…だったかしら」


「あ、十日前のベルカ新聞に載ったユウの…」


「その通りよモミジちゃん」


俺がホークさんに取材で語った内容だ。


「それが何か?」


「察するに場合に寄って貴方は、国王の……私の敵にもなり得る……そう解釈して構わないえ?」


重くなった空気に緊張感がプラスされる。


「ええ」


即答した。


「お、おいユウ…」


暫く嫌な沈黙が続くも、やがて彼女の左目の奇妙な模様が消え再び笑う。


「……ふふ、変な空気にしてごめんえ?あの記事が気になって試しに聞いてみただけえ」


「だけ?」


「ええ」


……言葉通り受け取るには殺伐としてた気がするけどな。


「お師匠さまどーしたの?」


「……ん〜!なんでもないえ」


「あう〜くすぐったいの」


戯れる二人にモミジは安堵の溜め息を漏らした。


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