見習い魔女と鍛治師 ③
8月12日 午後14時40分更新
8月13日 午前9時5分更新
8月16日 午前11時10分更新
「とりあえずジジイが馴染みの王宮の役人に連絡しにダーニャを連れて市役所に行ったぜ」
「市役所?」
「あーユウは知らねぇもんな。王宮は……どうした?」
気付けばトトが傍に来ていた。
「それ石?」
カウンターテーブルに無造作に転がる鉱石を、興味津々に眺める。
「石じゃねぇよ。鉱石だ」
「鉱石…」
「叩いて溶かせば武器・鎧・装飾品に変わる便利な……魔法の石だぜ?」
「魔法の石!?すごいの!」
「まぁ魔法ってのは言葉の綾だけどな」
「うー…やっぱりブレスレットが欲しいの」
唇を尖らせ呟く。
「どうしてブレスレットが欲しいんだ?」
「お師匠さまもブレスレットを着けてて……シャラーンでキラキラでカッコイイの!」
俺が聞くと胸を張り答える。
「トトもキラキラになりたいの」
これまた応援したくなる理由だ。
「そうかそうか」
「ユウってばニコニコだな」
あ、そーだ!
「良ければ俺が作ったブレスレットを貰ってくれるか?」
「おじさんが作ったブレスレット?」
俺はお兄……訂正はもう諦めよう。
「どーゆーことよ」
「納品用に色々と製作してきたんだが、ブレスレットもその内の一つなんだ」
貪欲な魔女の腰袋を漁り、エキドナの腕輪を取り出す。
「わぁ…!」
「…ほぉ…」
複数の鉱石を溶かし混ぜ合わせたエキドナの腕輪は、妖しくも魅惑的な灰桜色の輝きを放ち、効果もさることながら自慢の逸品に仕上がっている。
「瑠璃毒石、純銀鉱石、重魔鉱石、鋼石の四種類を素材に使った腕輪か……鉱石は混ぜ合わせると加工が難しくなるし削るのも一苦労だったろ?」
「まあな」
トトは魅入るように腕輪を見詰めている。
「手を出してみろ」
「あ…」
おずおずと差し出した左手の手首に装着してあげた。
サイズは調整可能だし……うん、問題ないな。
「よしよし!似合ってるぞ」
「…ほ、本当に貰っていいの?お金は?」
「お金は要らないよ。プレゼントだ」
売れるまで店先に並ぶより、腕輪もきっと幸せだ。
「わーーいなの!おじさんありがとっ!!」
「おっと」
大喜びのトトが腰に抱き着いてきた。
「毎度毎度、ユウは気前が良すぎだっつーの……それ卸せば超高値で売れたぞ?」
頬杖を突き若干、呆れたようにモミジは言う。
「喜んでくれる笑顔が何よりの代金さ」
「………」
「職人冥利に尽きるってやつだぜ」
そう答えるとモミジは頰を染め目を逸らした。
「……そーゆー風に言われっと何も言えねーじゃん」
「ははは」
「ま、まぁ…オレもそんなユウがす、す、好きっ……」
「スススキ?」
「スススキってなあに?」
小声で口籠もっているので、上手く聴き取れない。
「〜〜〜っ!!…ハァ…なんでもねー」
彼女は落胆したように肩を落とし、溜め息を吐いた。
「「?」」
俺はトトと目を合わせ首を傾げた。
他の武器・防具・装飾品もモミジの検品を済ませ納品する。今回は扱いが難しい武具が多いので、専門店に卸すそうだ。
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納品
・武器
ポイズンブレード+3
ブラインスピア+3
サイレンスアックス+3
ペインロッド+3
バイオニックボウ+3
フラッシュナックル+3
賊刃・悪戯丸+3
メデューサの石銃+3
腐泥の双剣+3
・防具
泥の兜+3
泥の鎧+3
泥の籠手+3
泥の足かせ+3
・装飾品
毒花の指輪
遊び人の首輪
硫酸のピアス
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職人ギルド
ギルド:巌窟亭
創作依頼達成数:10
受注依頼達成数:1
納品達成数:4
CP:1890
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〜午後16時40分 巌窟亭〜
ファーマンさんとダーニャを三人で待っていると突然、錫色の両扉が出現した。
「「!?」」
「あ」
扉は勝手に開き艶やかに装飾された三角帽子を被り、黒白のローブコートを羽織った女性が歩いてくる。身長は優に2mを越えているが麗姿で美しい。……ただ、首筋が寒気立つ殺気に警戒心が昂まった。
「……俺の背後に隠れろ」
「ユ、ユウ?」
「あ、あのおじさん…」
二人を庇うように咄嗟に前へ出て構えると正体不明の女は、鬼気迫る表情で俺を睨んだ。
「許さん…許さんえっ……世界で一番可愛い愛弟子を誘拐した大罪……自ら死を懇願するほど想像を絶する責め苦を与えてやるえ!!」
「愛弟子だと?お前は何者ーーーーーッ!?」
……あっ……ぶねぇ…!
クロスアームブロックで女の攻撃を寸でで防いだ。
防御した腕の骨まで響く鈍痛の原因は、凶悪なフォルムの六角メイスだった。
しかも、鋼鉄……破壊力を増幅させ攻撃系のバフを武器に付与する紀章文字が刻まれている。
今度は鼻先を掠めた。
「ちょ…落ち着けっつーの!まず話を」
「問答無用え!」
……聞く耳持たずってか!?畜生め!
追撃を防ごうと燼鎚・鎌鼬鼠で攻撃を構え、浅く息を吐き出した。
武器と武器が衝突し火花が散る。こんな狭い部屋の中では、俺の戦闘技は使えないし背後には二人もいるのだ。
悪条件が重なり、押されていたが……それを抜きにしても相当強いぞ!攻撃に一切の隙もなく的確で容赦がない。
自分の実力を発揮できず防戦を強いられていた。
「……あ、コラ!?」
モミジの静止を振り抜き、トトは飛び出した。
「ーーーーお師匠さま!!やめてなの!」
両拳を胸の前で握り真っ赤な顔で叫ぶ。
お、師匠さまだと…?
その叫び声に呼応し攻撃がピタリ、と止んだ。
「……嗚呼、可哀想なトト!この誘拐犯共にお前は騙されてるえ…でも心配ないえ?私が助け」
「騙してないの!おじさんもモミジも助けてくれたの」
少女の主張に遮られ、鬼気迫る顔は困惑で揺れる。
「だ、大臣の報告では、お前が犯罪に巻き込まれたと……」
「それを助けてくれたのが二人なの!」
「………」
自分が勘違いしていたのか?と疑問が過り、彼女は沈黙する。
最早、間違いない。
錫の魔女ことグローア・ヴァイヤー本人だ。
やれやれ、道理で強いと思ったよ。
「…とりあえず事情を説明するから聞いて欲しい」
俺は武器を仕舞い、錫の魔女に経緯を語った。
〜数分後〜
「……って訳だが分かってくれたか?」
「…………」
黙って話を聴いていた彼女は冷や汗を垂らし武器を仕舞うと、引き攣った笑顔を見せる。
「な、なんだ〜?私の早とちりだったかえ……アハハ!」
第一声は戯けるような口調だった。
「「……」」
「コ、コホン……あ!よーく見渡せば此処は『巌窟亭』だし誘拐犯がいる訳ないえ!?いやはや思い込みって怖いえ〜」
先程までの剣幕は嘘のように消え、わざとらしくコミカルに振る舞っている。
「…い、生きてればだ、誰にでも誤解はある!トトもそう思うえ?」
「「………」」
俺とモミジは無言で錫の魔女を見詰めた。
「お師匠さま、謝らなきゃめっ!なの」
「ふん!私は威名なる『錫の魔女』ぞ?軽々しく他人に頭を下げるなんて出来んえ」
あ、開き直りやがった。
「…むー…謝らないお師匠さまはトト嫌い」
「!」
弟子の一言に師匠は即座に反応し高速で頭を下げた。
「ーーーーごめんっ!すまぬっ!申し訳ないっ!」
「うわ、すっげぇ必死……」
モミジが呆れたように呟く。
「謝ったえ!これでいいかえ?…トトは私のこと好きかえ?」
トトはニッコリ笑い、彼女のローブに抱き着いた。
「えへへ、大好きなの」
「……はう〜〜!!私も大好きえ〜〜!トトは世界で一番可愛いえ〜」
もう俺とモミジは言葉を失うしかない。
……しかし、だ。威厳もへったくれもない彼女の姿に、俺は強いシンパシーを感じる。一先ず誤謬もあったが、騒動は無事一件落着したのだった。




