見習い魔女と鍛治師 ②
8月10日 午後21時37分更新
8月11日 午前11時42分更新
〜午後15時16分 巌窟亭〜
悠が露店街に出発し、早二時間が過ぎた。
大勢いた客も綺麗に居なくなり、残ったのは椅子に長時間、大人しく座るトトだけである。
「おい」
「……?」
「飲めよ」
モミジはぶっきら棒に瓶ジュースを一本差し出す。
「ど、どうもなの」
「ん」
そして、トトは小さく申し訳なさそうに頭を下げた。
「さっきはごめんなさいなの…」
「あン?」
「……勘違いでヘボ職人って言っちゃって」
「んなもん気にしてねーよ」
「でも…」
「悪ぃのはお前じゃねぇし……っつーか『巌窟亭』を知ってるお師匠さまって何者よ?」
モミジはトトの発言で引っ掛かっていた疑問を問う。
「グローアさまは魔女でトトは弟子なの」
自信満々に答える横顔は誇らし気だ。
「グローア…魔女……!まさか『錫の魔女』のグローア・ヴァイヤーじゃねぇよな?」
「うん」
元気良く頷きジュースを美味しそうに飲む。
「………」
嘘を言っている様に見えないモミジは言葉を失う。
錫の魔女グローア・ヴァイヤーは、ルルイエ皇国の鶸の魔女の好敵手で有名な魔女だ。そして、エイヴンの統治者に仕える宮廷魔術師……連邦で最高権威の魔法使いである。その弟子ともなればこの少女も只者ではないが、腑に落ちない点も多く、一概に鵜呑みにすべきか悩む。
「もぉ〜〜じっちゃん!……いい加減にしないと姉貴に告げ口すっかんな」
「ぬ、濡れ衣じゃい!?儂ぁ歓楽街に行こうなんざぁこれっぽちも思っと……む!」
その時、ダーニャを引き連れ扉を開け現れたファーマンは、トトを見付けると凝視し目を丸くした。
「……こりゃ驚いたわい。なんっつー偶然じゃ」
「?」
意味が分からないトトは首を傾げる。
「ジジイはこの子を知ってんのか?」
「うむ……実はーーーー」
彼女の疑念を晴らす様にファーマンは喋り始めた。
〜午後15時32分 第4区画 露店街〜
二時間後、苦労したもののトトを騙した詐欺商人ファンキーを見つけ出し騙し取ったお金を奪い返した。
ファンキーは各地を転々とする詐欺集団の一人で他の連中を見逃す訳にもいかず一味諸共、取っ捕まえる。今は騎士団へ身柄を引き渡す真っ最中だった。
「御協力、感謝するクロナガ殿」
「は、はは」
俺は仰々しく敬礼する第一騎士団『鮫』の団員に苦笑する。
「近頃、悪質な詐欺が頻発し苦情が相次いでいたが……こんな形で事件が解決するとは思っていなかった」
「成り行きで上手い具合に事が進んだだけさ」
「ご謙遜を……流石、シオン団長が認めた男だな」
「うんまぁ…ちょっとやり過ぎちゃったけどね」
俺は堪らず言葉を濁す。
「……なに然るべき処置さ」
団員が視線を送った先に、詐欺商人の一味が縛られ他の団員に護送馬車へ連行されていた。
「痛っ…いでぇよぉ!もっと優しく…」
「きりきり歩け犯罪者が」
「… ヒッ!?は、はやく連行してくれぇぇーー!」
一瞬、ファンキーと目が合うと悲痛な声で叫ばれた。
「おい暴れるな!」
……逃亡を図れないよう最低限、動ける範囲内で負傷させ優しく脅したつもりだったが思いの外、恐怖心を植え付けてしまったのだろう……金歯を引っこ抜いた程度で情けない野朗だ。
狡く覚悟のない悪党ってのは本当に救えない。
「…ひそひそ…凄い騒ぎアルね」
「も、もしや露天商の一斉摘発アルか?」
「……大老へ報告アル?」
「いや……どうも違うみたいアルよ〜」
癖の強い語尾の露天商の主人達が遠巻きに眺め、密談している。他の野次馬も大勢、集まりだした。スマート且つ静かに解決する筈が大捕物になっちまったからなぁ……長居は無用だし巌窟亭へ戻ろう。
「……それじゃ俺はこれで」
「待ってくれ」
さり気なく去ろうとするも団員が呼び止めた。
嫌な予感がする…。
「謝礼金を払うので一緒に本部まで来てくれないか?」
「謝礼金?そんなの気持ちだけで十分さ」
「気持ちって……貴方は本当に謙虚な人だな」
「それじゃ」
「ち、ちょっと待ってくれ」
「……今度は何?」
「……その…隠していた訳ではないぞ?実はこの件は既にシオン団長へ報告済みでな」
「……」
「直接、クロナガ殿に礼を言いたいと仰っていたのだ」
はい、嫌な予感が見事的中しました〜。それ隠してたやつ〜!彼女が礼を言いたいなんて建前の口実に決まってる……本題は間違いなくあの日の続きだ。
「えー…あー…またの機会で」
「そ、そう言わず頼む!そんなに時間は取らせな……あ、クロナガ殿!?」
呼び止める声を無視して一目散に巌窟亭へ向かった。
〜午後16時10分 第2区画 巌窟亭〜
巌窟亭に戻った俺は早速、トトへお金を返す。
「はい」
「わぁ!」
満面の笑顔で受け取り、目を輝かせた。
「金額は合ってるか?」
「いち、に、さん、よん……お札が四枚……うん!」
「そりゃよかった」
「本当にありがとうなの!トトはうれしいの」
……子供の純真無垢な笑顔ってのは心の清涼剤だ。優しい気持ちになれる。
「喜んでくれて俺も嬉しいよ」
「えへへ」
「ユウ、ちょっといいか?」
カウンターにいるモミジが手招きする。
「おー!無事、悪党は捕まえて騎士団に引き渡したぞ。これで『巌窟亭』の職人を名乗る不届き者はいない」
「……流石だぜ。ありがとな」
そう言う割に彼女は難しい顔をしている。
「どうかしたのか?」
「…実はあのトトってガキなんだけどーーーー」
〜数分後〜
「ーーーーってわけだ」
「ふむふむ…」
……モミジの話だと、トトの師匠である錫の魔女は本物の魔女で、エイヴンの王様に仕える滅茶苦茶、偉い要人らしい。最初はモミジも疑心暗鬼だったが、数年前、ファーマンさんが錫の魔女と邂逅しその場に一緒に居たトトを覚えていたそうだ。そして、トトへ質問する内に魔法を使い、王宮の護衛を撒いて市街を散策している事が分かった。
いやー……道中で詐欺に遭っても挫けず、巌窟亭を探し出し乗り込むとは根性と肝が座ってる子供だ。




