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龍のお母さん ②

7月21日 午前11時53分更新

7月26日 午後19時29分更新



〜同時刻〜


物陰から見守る俺は、目を白黒させ息を呑む。


「いい子、いい子〜」


ーーウルゥ〜〜……ウアァ〜ム…?


ものの数分で豹変するとは驚いた。

風の谷のナ○シカの名シーンを彷彿させるぜ。


「……オルティナ」


「ユウさん〜?」


名前を呼ぶと赤ちゃんを抱えたまま此方に近寄る。


「俺も混乱してるが実はーーーー」


寝室での出来事を説明した。


「……なるほどぉ」


「飛び出していくし本当に焦ったよ」


「まぁ生まれたばかりの赤ちゃんですからね〜…よちよち」


「お陰で助かったけど指は大丈夫か?」


「こんなのヘッチャラですよぅ」


「それは良かった……ん?」


ーーーウ〜……ヴゥ〜…。


俺を見上げキルカの赤ちゃんは唸っている。


「お〜〜やっぱり可愛いなぁ」


鼻先を撫でようと人差し指を近付けた。


ーーーガプッ!!


「あ」


思いっ切り噛み付かれた。


ーーーガジガジ…ガジガジ…ウヴ〜!


「だ、大丈夫ですかぁ?」


「ははは!元気があっていいじゃないか」


飛龍といえ生まれたはがりの赤ちゃんだし痛く……ちょ…結構、噛む力が強いぞ!


「…そろそろ離して貰おうかな」


ーーーガヴ〜〜〜…ガジガジ…!


め、めっちゃ噛むやん!?


「離してあげて…ね?」


ーーー……ウ〜。


彼女が鱗を優しく撫で促すと渋々離した。


「……」


ーーウルルゥ〜!


「よしよし」


噛まれた指を撫で首を傾げる。

俺とオルティナで態度が全然、違う……何故だ?


「んにゃにゃ!お腹空いた〜〜……ってあら」


その時、アルマがタイミング良く戻って来たのだった。



〜午前5時54分 マイハウス キッチン〜



「にゃるほど……よーやく生まれたってわけね」


オルティナの両腕に抱えられた赤ちゃんを凝視する。


ーーーウル?


「ふーーん」


前脚で頭や角を馴れ馴れしくアルマは触った。


「おい!噛まれ…」


ーーーウ〜!ウル〜!


「……ってマジ?」


「懐っこくてかわいい子じゃにゃいの」


予想に反して愛想良く鳴き、触らせている。


「さっきは虫の居所が悪かったのか?」


よし……もう一度、チャレンジしてみよう!


「そーっと…そーっと…」


恐る恐る手を伸ばしてみた。


ーーー……ヴルゥ!!


「危ねぇ!?」


慌てて引っ込めるとガチン、と小さな牙が噛み合う音がした。


ーーーヴルルルゥ……。


全然、懐っこくない。ショックなんだけどぉ!


「えぇ〜〜……」


「む?ユウさんを()()()()()()が分かったかも〜」


「おー!」


オルティナは頷き答えた。


「……この子は男の子()なんですよぅ!」


「……」


自信満々に言ってくれたはいいが……え、そんな理由?


「それは珍しいわ」


「珍しいって……世の中、雌がいれば雄もいるわけだし普通じゃん」


「飛龍は交尾しなくても子を宿せる魔物だし、雌が圧倒的に多いのよ」


「…ふむ」


確かに知り合いの飛龍の中で思い当たる雄は……鋸剣龍グラレウスくらいか?


「雄は雌に比べ気性が荒く、縄張り意識も強いし、他の雄を排除したがるって父やエリちゃんも言ってましたし〜」


「赤ちゃんなのにかぁ」


ーーー……ヴルルッ!?


また触ろうとするも案の定、唸られた。


「……ぐすん」


何気に超ショックだ。


「大袈裟ねー!その内、慣れるわよ多分……ふぁ〜あ」


気持ちが全く込もってない慰めをありがとよ!!


ーーー!…ヴル?


「ん?」


テーブルに突っ伏し嘆いているとキルカの赤ちゃんは身を乗り出し、右手の親指を嗅ぎ始めた。


鼻先の湿って冷たい感覚が伝わってくる。


ーーーウル?ヴルル!!


「お、おぉ?」


頻りに鼻先を擦り付け、鳴いてるがどうしたのだろう。


ーーーヴル!ウル〜〜。


よく分からないけど警戒心が薄れたようだ。


ーーーウル!


ピョンピョンと跳ね俺の頭に飛び乗った。


「いてて」


遠慮なく頭皮に爪が刺さり、若干痛い。


ーーーウルルルルルルゥ〜。


今度はリラックスし喉を鳴らしてるのか、小さな振動が伝わってくる。


「まぁまぁ〜!」


「あによ、普通に好かれてるじゃない」


さっきの手先を嗅ぐ仕草に既視感を覚える。


「……もしかして」


龍神の水郷での会話を思い出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『竜の子は心を許した相手の匂いを生涯、忘れないわ』


『逆も然り。敵の匂いも忘れん…赤子といえどな』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『言葉を介す知能の高い魔物や飛竜だけの特性だ。オルタもオルカも星竜の純血を継いでるからな』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


推察するとこの子は生まれる前に()()()()を記憶していたのか?


「いてて」


しがみつく腕を解き、両脇を抱え真っ正面で見据える。


ーーーウ?


しかし、卵の状態で何故……って考えるだけ野暮か。


「…ふっ」


小難しい理屈も論理も必要ないさ。この子にこうして出逢えた奇跡にただ感謝したい。


ま、一番の功労者はキューだけどね!


「うりうり」


ーーーウヴル〜…ウー!


脇腹を撫でると擽ったいのか体をくねらせる。その姿がまた愛らしく頰を弛ませた。


「ほれほれ〜」


ーーー…ヴヴルゥー…ウウ〜…。


イヤイヤする仕草が堪らん。


「あ、その辺にしといたほーが……」


「大丈夫、大丈夫!可愛いなぁこいつ」


オルティナの心配を余所に構い続ける。



ーーー………ヴルォ!!


「わぶいっ!?」



結果、横っ面に尻尾ビンタをかまされる。


ーーーヴルル!ヴルル!


「えっぷ!いっぷし!」


しかも往復で思いっ切りである。

赤ん坊の飛龍だと侮っていたが……ち、力強っ!?


「あが!」


止めだ、と言わんばかりにサマーソルトキックばりの尻尾の一撃が顎を的確に捉えた。


ーーー……ヴプイ。


俺の手を離れそっぽを向き、オルティナの胸元へ戻る。


「だから言ったのに〜……」


「あ、顎が…顎関節症になりそう…」


「ア、アハハハ!!プッ…プハ…朝から笑わせんじゃにゃいわよ」


テーブルに寝っ転がりアルマが大声で笑う。自業自得なので言い返そうにも言葉が出なかった。



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