チビとルウラ ②
7月14日 午後15時4分更新
7月15日 午前11時18分更新
7月15日 午後20時47分更新
〜夜21時 マイハウス 神樹の池〜
一服しに外へ出るとアイヴィーとルウラが夜にも関わらず、池の浅瀬で水遊びしていた。神樹から迸る蛍火が漂い、戯れる二人の可憐さを際立たせる。
「わぷっ……ちょっと」
「ふぅ〜〜!いっつくーる」
残暑厳しい日が続くので、水浴びはさぞ気持ち良いだろう。
ーーきゅるる〜きゅきゅう〜〜!
ーーシャ〜〜!
キューとチビも楽しそうに泳いでいた。
懐っこく好奇心旺盛な気質がプラスに働いてるようで、見事に環境の変化に順応している。
……ってかもう友達?
「おーい!そろそろお風呂の時間じゃないか?」
煙草の火を消し灰皿に捨て声を掛けた。
「ん」
「いえあ」
二人の着てる服がずぶ濡れだ。
「ほらタオル」
用意していたバスタオルを差し出す。
「…どーせお風呂に入るから」
「このままでおーるおっけー」
「濡らしたままだとオルティナに怒られるぞ」
注意する時はしっかり注意するし、滅多に怒らないがオルティナは怒ると結構、怖いタイプなのだ。騒ぎ過ぎて二人が淡々と怒られてる姿を数回ほど目撃している。
「オルティナのあんぐりーは師匠と別の意味で厄介」
「明日のおやつが角砂糖になっちゃうから」
タオルを受け取ったアイヴィーは雑に頭を拭く。
「もっと丁寧にやれっちゅーに」
「……あう」
見兼ねてタオルで頭皮を軽く包み、指の腹を使い優しく揉むように拭いた。
「お風呂に入るのに…」
ブー垂れる顔は年相応の一面を覗かせる。
「ルウラも拭いて〜」
「自分で拭きなさい」
拭くのは嫌じゃないがルウラも十七歳の女の子……最近、妙に子供っぽい振る舞いが増えたし、ビシッと自立を促そう。
「差別は卑劣!ふぇあな対応こそ王道……いぇー」
「だってなぁ…」
「むう」
「……そんな顔しても」
「むううううぅ」
「……」
「むうううううううぅ」
「……タオル貸してくれ」
「やふーーい」
決意虚しく根負けしてしまった。良くも悪くもルウラには、放って置けない不思議な魅力があり甘え上手なのだ。
可愛いは正義ってか?
「自分で髪も拭けないとか幼稚過ぎるから」
「がーるにぶーめらん」
た、確かに!
「…娘がお父さんに甘えるのは普通だしアイヴィーはいいの」
思いがけない一言にお義父さんは頬が弛みまくりである。
「ルウラはふゅーちゃーのわいふ」
「妄想の世界から現実世界に帰ってきてくれる?」
「はいはい、お風呂に行ってきなさい」
いつものやり取りを宥め促した。
「ん、キュー」
「へいチビ」
二人が呼ぶとキューが勢い良く池から飛び出した。
ーーきゅぶるるるるる…!
「うぉ!?」
着地と同時に翼と体を震わせ、水飛沫が飛び俺の半身を容赦なく濡らす。
「………」
一瞬でビショビショである。
「ぷっ…あはは」
ーーきゅう?
素知らぬ顔で首を傾げるキューを見てアイヴィーは笑っている。悪意はないので怒るに怒れない。
「チビも気持ちよかった?」
ーーシャ〜シャア〜。
知らぬ間にルウラに巻き付いたチビが鳴く。
「…ごしごし…チビはルウラが気に入ったみたいだな」
タオルで顔を拭きつつ答える。
「この出会いはでぃすてぃにー……チビのあんさーは?」
ーーシャウ〜〜!
「いえ〜ないすあんさー」
俺には何を言っているか全く分からな………あれ!?
「チビの鳴き声が……何を言ってるか分かるのか?」
指摘するとコクリ、と頷いた。
「鳴き声の意味が曖昧だけど伝わって……チビ?」
ーー………。
そのチビの様子が何やら変だ。
「…ば、ばいぶれーしょん」
ーーシャ……シャアアアァ〜!
全身を震わせ次の瞬間、見覚えのある青い光がルウラを包む。
「まさか……!?」
「キ、キューの時と同じだから!」
間違いなく召獣化の現象だ。光が収束すると、ルウラはゆったりとリズムを刻み始めた。
「ふぅ〜…伝わるぜびーと!MCルウラfeat.チビ!」
ーーシャシャ〜シャララァ!!
ポーズを決め、チビも体をくねらせた。
「よぉー『舞獅子』のにゅーぶらざー……召獣爆誕!爆弾以上に炎上?おーでぃえんすは響かせくらっぷ!」
ーーシャ〜〜〜!
「……え、えぇ?」
驚きの急展開で空いた口が塞がらない。
…俺を慕って付いて来たのに数時間でルウラに鞍替え?
こ、これが噂のNTRってやつか!?
「えへへ、ルウラのゔぃーぞふ!」
ーーシャウ〜〜!
顔を擦り寄せる仲睦まじい姿を見せ付けられた。
〜20分後 リビング〜
「チビの鱗はザラザラ〜」
鼻歌混じりでソファーに寝っ転がり、チビの蛇腹を撫でるルウラはご機嫌だ。
「……にゃるほど」
俺の話を聴いていたアルマがチビを凝視する。
「その子ってばルウラをかなり気に入ったのね」
「みたいだな」
「調教の技術・知識云々を度外視して主従関係を結ぶ……実際、大したもんじゃにゃい」
「ふむ」
「キューもちょっと違うけど似たようなもんでしょ?」
「まるで一目惚れだよな」
「お、今日は鋭いじゃにゃい」
俺の顔をぽす、と軽く叩いた。
……肉球がフニフニで柔らかい。
「時間が絆を育むって考えは間違いないけど、絆にも種類がある。悠が言った一目惚れってやつがそうね……自分が持ってない何かを嗅ぎ分け、それを持つ誰かに寄り添うのは生物の本能よ。ただ、一匹は祟り神の系譜の魔導生命体……もう一匹は祖の血を継ぐ魔物……それを従えるアイヴィーとルウラは並大抵の器じゃないわ」
本人達が聞けばきっと喜ぶに違いないが、本人を前に言わないのがアルマらしい。
「時間が全てじゃないって考えは俺も好きだけど…」
「にゃ?」
「てっきり蛇繋がりでチビは俺の召獣になるのかと思ってた」
サーチした内容もそれっぽかったし。
「無理に決まってんでしょバカ」
「え?」
「従魔ってのは召獣の上位互換だっつーの!アホなこと言ってるとミコトに愛想を尽かれるわよ」
「それは困る!」
「にゃひひひ」
まぁ勿論、本気じゃない。
ミコトは唯一無二の存在……俺自身なんだからな。
「……この流れだとキルカの卵が孵ったらオルティナの召獣になりそーだな?」
「流石にないわよ」
……しかし翌日、俺とアルマは予定調和という言葉の意味を噛み締める事になるのであった。




