歴史が語る真実 ②
6月21日 午後13時10分更新
6月23日 午後17時25分更新
どれも貴重な宝石の原石だった!
「もしやお礼?」
呪縛から解き放った幽霊の恩返しってのも中々、洒落てやがる。
……有り難く頂戴しとこうか。
それとなく石柱の碑文が目に止まる。
「欠けてるが読めそうだな……どれどれ」
千年以上前の歴史が粛々と綴られていた。
読み進めるとモノリスにはナ・ハテ族の滅亡の経緯、帝国との確執と一族の亡命……そして、機神兵と魔導兵について興味深い内容が記載されていた。
線と線が繋がるとは正にこのことだろう。
……歴史が語る真実がそこにあった。
二時間ほど滞在しビガルダ宮へ戻る。
〜午前10時 ビガルダ宮 10F 蝮女の間〜
ーーーお暇潰しになればと思ってましたが、ナ・ハテ族の亡霊を祓ったとは驚きましたわ。
帰った後、話を聞いたエキドナは感慨深そうに答える。
「幽霊とは思わなかったけどな!」
ーーーふふ…この子は黒永様が居なくて寂しかったようで……ほら?
ーーシャ〜〜!
首に巻き付いたチビが鳴く。
ーーーチビの透明化は姿形・気配・魔力の痕跡まで消し隠す変化系のレアスキル……一度、身を隠されると探すのは困難でしたわ。先程、漸く捕まえたもの。
家でも行方不明にならないよう注意しなきゃな。
ーーー実はお渡しする物が御座いますわ。
差し出されたのは、アズテック模様の水瓶だった。
ーーーこれはナ・ハテ族が作った摩訶不思議な壺……水が湧くらしいのですが、鑑定のスキルを持たぬ私にはよく分からず無用の長物ゆえ黒永様のお役に立つ品ならば土産に持ち帰り下さい。
「え〜!気を遣わなくていいのに」
ーーー遠慮なさらず御受け取りになられて下さいな?
「……申し訳ないなぁ」
有り難く受け取るとしよう。
鑑定で正確な使い方も把握しておくか?魔導具っぽい雰囲気がする。
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カンビャメンの壺
・ナ・ハテ族が錬成した魔導具。水を注ぎ一晩放置するとランダムで液体系の素材アイテムへ変わる。
但し、そのまま放置を続けると壺が壊れ、危険で凶暴な魔導生命体が誕生してしまう。
必ず中身を確認し取り出す必要がある。
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大当たりぃ!
「鑑定したけど相当、貴重な魔導具だぞ。本当に貰って良いの?」
ーーー構いませんわ。喜んで頂けましたか?
「正直、飛び跳ねたくなるレベルで嬉しい」
ーーーまぁ!
水を注げば液体系のアイテムを入手し放題とか最高だ。
ーーーふふふ…ガウラにも似たような品をあげたら喜んでたのを思い出しました。
「へぇ」
ーーー確か……石を貴金属へ変える箱だったかしら?
「…石を貴金属に?」
ーーー『遠征資金で悩む心配がなくなったーー!』…と叫んでましたわ。
「そりゃ叫びたくなるわ」
しかし、貴重な魔導具を無料で貰うのは気が引ける。
お返しに何か………あ、これはエキドナも喜ぶかも?
「また出かけてくる」
名案が思い付いたので早速、行動に移す。
ーーー畏まりましたわ。
密林を片っ端から探して鉱石の塊を見つけなきゃ!
〜数時間後 ビガルダ宮 ユルルングルの庭〜
「ーーーーよいしょっ……と」
貪欲な魔女の腰袋から大きな塊が飛び出した。俺の身長の三倍はある大きな鏡鉱石だ。鏡鉱石は鏡のような表面が特徴の鉱石で、加工することで彫像や床のタイルに利用される
さして珍しい鉱石ではないが、この大きさは中々御目にかかれない。
いやはや、鋼鉄の探究心様々である。
「まぁ初めてだけど何とかなるさ」
世話になったお礼にミコトの神像を製作しプレゼントする事に決めたのだ。
きっと喜ぶに違いない!
「ピッケルと…まぁ手でいけるだろ」
馬鹿げた筋力と技術が可能にする黒永流アートの開幕だ!
〜1時間後〜
……ガリガリ、ガリガリ、ガリガリ……無心で形を整え、削り屑が地面に積もっていく。
「小学校の頃を思い出すな…」
図工の時間に彫刻刀で木版画を作ったっけ?
「一生懸命、彫った完成品を高橋にズタズタにされて……アイツの手に彫刻刀を思いっ切りブッ刺したんだよなぁ」
大騒ぎになって、暫く保健室登校になったのを覚えている。
「サイコパス黒永ってあだ名は誰が……あ、それも高橋か」
小学校の頃の思い出に浸りつつ、手を動かす。
夕方にはミコトの像が完成した。
〜午後18時40分 ユルルングルの庭〜
額の汗を拭い、汚れを払って満足気に頷き笑う。
「これは完璧だ」
蛇を纏い仁王立ちする構図……ラーメン屋の店主が宣伝で作る等身大パネルを思い出した。
しかし、こっちは神像だ。
細部まで陰影を意識して彫った甲斐もあり、見事な存在感を放っている。
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威光迸る深淵の女神像
・黒永悠の神魔にして祟り神であるミコトを象った石像。契約者が信奉者へ贈る友好と善意の彫像である。
闘神の威光は、眷属の戦闘能力を向上させるだろう。
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「…お?」
ユルルングルを筆頭に集まった蛇の魔物達が周囲を囲み、静かに佇んでいた。
「早速、エキドナを呼んでこようっと」
ビガルダ宮へ呼びに行く。
〜10分後〜
「じゃじゃーん!どうよこれ?」
ーーーこれ、は…。
ミコトの神像を唖然とした様子で眺めている。
「色々、貰っちゃったし俺なりのお礼ってやつだ」
ーーー……。
「やっぱ崇める像があった方が信仰も……えぇ!?」
エキドナは涙を流し体を震わせた。
ーーーふ、ふふ…歓喜の感涙ね?…この像は我々がミコト様の庇護下にある証ですわ…。
「 よ、喜んで貰えて何よわっぷ!?」
ーーー本当に…本当にっ……何と貴方様には感謝を申し上げれば良いか…見当も尽きません。
頭を抱えられ、エキドナの胸に埋もれる。
「ふぁ、ふぁなっふぇっふ〜〜」
幸せな窒息死をしちゃいそうだ!




