依頼と約束!〜ビガルダ宮〜③
6月1日 午後12時53分更新
6月2日 午前9時38分更新
〜午後16時 ビガルダ宮 10F 蝮女の間〜
上半身が女性で下半身が蛇の美しい翡翠の像が俺とチビを出迎えた。
「……」
他にも戦士風の彫像や魔物の彫像が並び、他の階層とは違う雰囲気を漂わせている。
「もげた彫像の腕?やけにリアルだな……」
足元に転がっていた腕を拾いあげる。
「肉と骨の断面まで忠実に再現してる」
ぽいっと放り投げた。
「む……!?」
研磨された殺気を感じ慌てて身構えた。
天井から下がる無数の燭台に火が灯り、鱗が擦れるような音が聴こえ始めた。
ーーーうふ、ふふふ…何百年振りの御客様でしょう?
玲瓏たる笑い声が部屋中に響く。
「…想像より上だな」
ボソっと呟く。十中八九、声の主はエキドナだろう。
強者は強者を嗅ぎ分ける……って鼻が利く訳じゃないが強烈な個の存在はどうしたって隠せないもんだ。
……いや焦るな。目的は戦闘じゃなくコミュニケーションを用いた平和的な交流じゃないか。
「俺は黒永悠!伝説に謳われる魔物に会いに来たんだ」
返事はないが殺気が若干、薄れた気がする。
「姿を見せてくれないか?」
またもや返事はない。
しかし、確実に俺の側へ近付いている。
ーーー……驚いたわ。蛇語を話せるの?
「お、おー」
アザーの加護で言語が勝手にスイッチしてるお陰だ。
俺が思うに話す対象を意識することで、自動でその対象に適した言語へ変換されてるのだと思う。
そして、燭台の灯に照らされエキドナは現れた。
……紫銀の艶かしい蛇鱗が覆う下半身の尾は一体、何mあるのだろうか?上半身は女性そのもので、目を惹く大きな乳房を伸びた髪で隠している。瞳孔が細い濡れた瞳は妖しく輝いていた。
美しい半身半獣の魔人ってのは証言通りだな。
ーーー……貴方は契約者ね?特別な波長を感じるもの。
「ああ」
目を細めエキドナは怪訝そうに呟く。
ーーー…ふふ!簡単に殺せる相手ではないわね……それにしても不思議な波長…身が凍るような……それでいて縋りたくなるような……一体、何故?
「お」
その時、またミコトの幻影が現れエキドナへ右手を翳し一瞥するとすぐに消えた。時間にすれば僅か数秒の出来事だったが、予想外の反応を見せる。
ーーー……あ、ああ!!…き…奇跡…そう!…奇跡だわ!
「え」
突然、尾を震わせ感涙し跪いた彼女に驚く。
ーーーミコト様の啓示を…その心髄を!我が心と魂で!…あは、ははは、伝わった……この人の子が……いえ、黒永様こそ現界へ遣わされた救世主なのですね?
「えぇ!?」
どうしてミコトの名前を知ってる?しかも啓示…?
唐突に劇的に豹変した態度と興奮し血走った狂信的な眼差しに狼狽える。
「…ちょ、ちょっと落ち着いてくれ」
戦闘は回避できたが面倒な事態に発展した気がした。
〜数分後〜
説明を聞いた俺は腕を組み頷く。
「……そーゆーことか」
ーーー左様で御座いますわ。
簡潔に言えばエキドナは、邂逅の残滓でミコトと会話を交わしたそうだ。それだと一瞬で態度と言動が豹変した理由にも納得がいく。邂逅の残滓の世界では現実の……いわば時間軸に大きな差が生じるからな。
経験した俺には分かる。でも、対話するには厳しい制約がある……その辺はどうなってんだろ?
契約者と従魔以外には、適用されない法則なのかもしれない。
ーーー……ミコト様は仰いました。黒永様こそ異界より召喚された愚劣な神が支配し侵略者が潜む腐った世に変革を齎らす救世主だと。
「き、救世主?」
ーーー今日より貴方の意のままに私は従いましょう。
口調まで丸っ切り変わっちゃったよおい!
「……参ったな」
ーーー望みあれば仰せのままに。
傅くエキドナを横目に溜め息を吐く。
「あー…とりあえず仰々しい口調と態度はやめてくれ」
ーーー……はい?
「俺は救世主でも何でもないし」
ーーー………。
何か言いたそうな表情だが無視することにした。
「……それよりエキドナに興味があるな」
ーーー私に?
「ああ」
この調子なら嬉々として協力してくれそう!
どんな目的でビガルダ宮に来たか説明した。
ーーー私の鱗や髪が欲しいと?
「……初対面で不躾なお願いだけど協力してくれないかな?お礼はするから」
瞼を閉じエキドナはゆっくりと体を起こした。
ーーーわかりましたわ。
穏やかなに微笑み承諾する。
「助かるよ」
やった!モンスターハウス依頼編第一部完!
ーーーお役に立つならこの命、微塵も惜しくありません。
「……ん?」
ーーー守護神を宿す王へ捧ぐならば本望……先祖も黄泉の河原で喜んでいるでしょう!
鋭く伸ばした長爪を首元に突き付け、叫ぶ。
「ちょ」
ーーー生を受けし理由は今日、この日……貴方に命を捧げるため…!!
「や、やめーーい!」
自殺する気満々!?
ーーー……何故止めるのです。黒永様は私の体が欲しいのでは?
エキドナは不思議そうに俺を見る。
「ちょこっと髪の毛先や鱗が欲しいって言ったの!死ねっては言ってないよ」
ーーーあら…てっきり言葉の綾だとばかり……自害を促す比喩だと思ってましたわ。
「深読みしてもその解釈はあり得なくね…?」
誤解を解き、あらためてエキドナの素材を頂く。
…やっぱりアジ・ダハーカ達に貰った鱗と同じで倒した素材とは違うなぁ。
鱗や髪の毛も輝いて見える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蛇魔人の腹鱗×3
・蛇魔人の魔力に充ちた鱗。
蛇魔人の尾鱗×2
・蛇魔人の魔力に充ちた鱗。
蛇魔人の艶毛×15
・紫銀色の艶やかな髪の毛。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
貪欲な魔女の腰袋に大切に仕舞った。
〜クエストを達成しました〜
「よしよし」
……これで依頼と約束は無事、達成したし一安心だ!




