表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

427/465

依頼と約束!〜糞泥の塔林〜③

5月22日 午前8時4分更新






〜同時刻〜



ベルゼブブは渾身の魔法に喘ぐ悠を静観していた。


ーー………。


勝ち誇るでも、激昂するでも、喜ぶでもなく沈黙し佇んでいるのだ。


不浄なる土壌(エルドロリッチ)は只の魔法ではない。ベルゼブブが編み出した『固有魔法』である。


そもそも魔法とは五大元素と魔力を媒介にエネルギーを抽出し超常現象を起こす技なのだ。


属性系・攻撃系・変化系・治癒系・補助系等々、カテゴリーも多彩で凡用性を誇るアビリティと言える。


アルマでさえ総ての魔法を網羅する事は不可能だろう。


そして、固有魔法の性質は術者のスキルが核となる。


不浄なる土壌は液体を一定時間、強酸液に変化させる蠅王の涎の能力をベースに土魔法・水魔法を融合させた魔法だ。土台にベルゼブブのスキルを必要とするので、他の誰にも使う事が出来ない。


極稀にアビリティがスキルへ派生する事もあり、逆も然りだ。


両項目は混同し易いが、異世界(パルキゲニア)でスキルは天賦、もしくはトレーニングや経験によって得られる()()でありアビリティは環境・技能・戦闘数値を活かす()()と考えた方が良い。


……話が脱線したがベルゼブブの手腕は見事だった。


蛆溜りの蛆兵(眷属)を突貫させスキルで溶解後、注意を逸らし魔法で拘束……攻撃を誘発させ動揺を誘い、魔力を溜め大技を出す機を窺い、見事食らわせた。


全て策略である。


耐性・戦闘数値・アビリティ・スキル……どれを取っても格上の相手に臆さず、成し遂げるとは自身を老獪と評するのも伊達じゃない。


しかも、ベルゼブブに全盛期の力はなかった。


……リョウマに敗北し瀕死の重傷を負った体を、何十年もかけ治癒に費やすが、今も満足に動けず11項目ある戦闘数値の大半が全盛期の半分以下だ。それでも十二分に強いが、悠のような化け物(契約者)を相手にするには絶望的だろう。


故に()()()()()()のかも知れない。



「ハァ…ハァ…ああ゛クソ!……めっちゃ痛かった」



この人間に殺されるならば、未練も残さず逝けると。


酸の塊を弾き飛ばし、悠は立ち上がる。怪我がみるみる内に治癒していた。……蛆溜りに蔓延する毒は、急激なスリップダメージを発生させ常人ならば数分と保たない。


環境に適応する耐性が必須の魔窟(ダンジョン)……しかし、悠には最高の環境だ。深淵の刻印により戦闘数値は増加し、自己再生により全快に近い状態まで回復していた。


ベルゼブブの緻密な策略も結局、徒労に終わる。


ーーおぉ……漸く、漸くか?


それでも蛆溜りの主に焦りはない。


まるで自分の死を悟り、達観したようである。


自然界で弱者は強者の糧になるだけで善悪もなく、あるのは明確な生死のみ……恨みも嫉みもない。しかし、自分の死が蛆溜り……いや糞泥の塔林の全域にどんな()()を及ぼすか知っている。


それこそ四十年前、リョウマが殺さなかった()()なのだ。


「……忿怒荒神流」


悠は右肩に大剣状態の大獄丸を担ぎ、低姿勢で腰を捻る。


ーーおおぉぉぉ……!


翅を失い飛べないベルゼブブは、不様に巨体を引き摺り駆け出した。無防備な捨て身の突進は、まるで光に誘われた蛾のようである。


「流星」


一瞬で懐に潜り込み、すれ違う。


淵噛蛇で強化された刃は容赦なく剥き出しの心臓諸共、胴体と腹部を両断する。


ーー……ふ、ふふ…。


緑の体液と内臓を撒き散らして尚、満足気に笑っていた。


〜同時刻〜


「ふぅ」


大獄丸を仕舞い、横たわるベルゼブブの傍へしゃがむ。真っ二つに離れた腹部が痙攣し後肢が動いていた。


ーー偶に、は……見下ろされ…るのも、悪くない…な?


「……」


パワーアップした状態の俺の攻撃を受け、まだ意識があるとは呆れた生命力だ。昆虫は神経節があるから直ぐに死なないからな……モンスターは尚更だろう。


「……最初から死ぬつもりだったのか?」


ーー……。


感じていた疑問を投げ掛ける。


あの魔法の連携は感心する程、素晴らしく正に戦闘巧者だ……ハンディを背負った状態であれなら昔はもっと強かった筈。……だからこそ最後がお粗末過ぎる。


急所を晒し愚直に突進はあり得ないだろ?


ーー……敗北し…晒す恥は耐え、難い…リョウマに、生かされた…挙句…貴様にまで生かされた…ら……我の自尊心は…どうなる?


「負けても生きてこそ、だろ」


ーーぶ、は、ははははっ…酷、い思い上がりだ……覚えておけ…契約、者よ……?


震える前肢を伸ばし肩を掴んだ。


ーー我が死は…()()()()()()()()()…次代の…礎となり…尊く……故に…慈しみは、侮辱な…のだ。


「礎だと?」


ーー……虫喰…の牝花……蔓延れ…しか、し……また…我々の……時代が…全、ては……円環…え…ん…なり……。


肩を掴む力が弱まり、ゆっくりと離れ落ちる。最後に大きく一度、痙攣しベルゼブブは絶命した。


「あっ…」


生き残っていた蠅兵が次々と鍾乳洞を飛び出していく。主亡き今、此処に居る意義を無くしたのだ。


ベルゼブブは己の信念に殉じ最後まで貫き通し逝った。その最期を忘れない……それが俺にできる唯一の弔いだと思う。


「折角だし墓でも作るか」


素材は頂くが死骸は持ち帰る気にならないし、ちゃんと埋めて供養しよう。


「あ!そーいやサーチを忘れてたっけ?急な戦闘だったしなぁ…」


む〜……リョウマ・ナナキがベルゼブブを生かした理由が判明してたのに失敗だぜ。



〜30分後 蛆溜り 沈檎花の岩畑〜



埋めて盛り上がった土に花を添え、手を合わせ唱える。


「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」


どうか安らかに眠ってくれ……よし!


「気持ちを切り替え目的のアイテム(沈檎の蕾)を探さなきゃ」


ちなみにこの花は蕾が咲いた沈檎花だ。折角だし何輪か摘まんでいこう。鑑定内容を見ると酸の蜜を蓄える花らしい……蕾の方が希少とは珍しいな。


「……およ?」


強酸の大きな池の向こう側で大量の青マークが点滅してる。


「ふむ」


あの天井の氷柱石を淵噛蛇で掴み、跳躍すれば届きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ