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依頼と約束!〜ビガルダの毒沼〜③

5月6日 午後21時47分更新

5月7日 午後15時3分更新



その時、声が響いた。


「ーーーー捨てなさい!」


「へ?」


背後を振り返ると吊り目が可愛い猫人族の女性が腕を組み、俺を睨んでいる。


「あなた初心者でしょ?」


「えっと」


「毒沼で採れる素材系アイテムは、危険だってここの()()()は誰でも知ってる常識よ」


「……」


「それを嬉しそうに触るなんて初心者(ルーキー)丸出し!すぐキャンプに戻って治療を……あら」


彼女は俺の顔を凝視し首を傾げる。


「……ビガルダベリーに触れたのに目が変色してない。まさか暗闇耐性持ちなの?」


実はビガルダベリーには暗闇の状態異常を付与する効能がある。視神経に影響し一時的に視力を低下させるのだ。


「いや手袋をしてるから」


無論、真実は違う。


この果物は接触するだけで、有害な果汁を分泌させ空気中に目に見えない毒素を撒き散らす。つまり触れただけで目の粘膜か鼻腔内に付着し発症する。


これは鋼鉄の探究心で鑑定したから知れる内容……きっと彼女はそれを経験で知っているのだ。


ま、一々説明も面倒だから適当に誤魔化したってわけさ。


「そんな安革のハンドグローブが状態異常を無効化?」


「む」


安革ちゃうわ!ミドさん渾身の最高級品じゃい!!


「……兎に角、俺は大丈夫なので」


「ちょっと!人の善意は素直に聞くもんよ」


「ご忠告ありがとう」


「どういたしまして……じゃなくて捨てなさいって言ってんの」


「それは無理」


折角、採取したのに捨てるなんて勿体ない。


「キーー!なんなのよ!?」


それはこっちの台詞だ。


「叫ばないで落ち着いてくれ……ところで君は誰かな?」


話題の矛先を変えよう。


「ハッ!私を知らないとは相当、田舎者ね」


くるくるの髪の毛から生える猫耳を、左右に動かし鼻で笑うと彼女は襟元にピン留めした獅子と蛇と鷲の顔が、三つ並ぶエンブレムバッチを強調し得意気に喋る。


「田舎者でも同業者ならこのエンブレムを知ってるでしょ?何を隠そうアタシは」


「知らない」


「……え、本気で言ってる?」


「うん」


大きく溜め息を吐き、呆れ顔で首を横に振った。


「はぁ〜〜……もーいいわ」


冒険者歴が一年も満たない俺はGRが高くても確かにルーキーだ。……何度、振り返っても本当に濃ゆい数ヶ月間だった。体感的には数年は経過してる密度だよな。


……しかし、初心者と呼ばれるのも新鮮で悪くないかも?


「調子に乗って採取してると知らない間に、状態異常が蓄積して酷い目に遭うわよ」


「お、おー」


「ルーキーはルーキーらしく謙虚に頑張りなさい」


そう言って名前も告げず、沼地へ去って行った。


「……俺より年下だよな」


まさか若い娘に説教されるとは思わなかったぜ。


マップに表示された緑の矢印の位置を確認する。

出鼻を挫かれたが最初に目指すのは沼地の先の糞泥の塔林にある蛆溜りだ。


距離はあるし探索を楽しみつつ、向かおうじゃないか。


呻き声が四方八方から聴こえる毒沼の入り口を出発する。



〜午前11時45分 ビガルダの毒沼 蝕みの水面〜



浅瀬を出発し一時間ほど経過した。


「こりゃ帰ったら洗濯が大変だ」


泥に塗れたブーツとズボンの裾を手で払う。


「毒の霧で視界不良に陥り、泥に足を取られ動きが鈍り、毒水で体も蝕む。そして、弱った獲物を狙うは毒沼の住人達……正に自然が作り出した罠だ」


ここで連日、鍛えれば確かに強くなるだろう。


「何匹倒したっけ?」


横たわるモンスターの死骸の群れを横目に呟く。


大きな触肢と小さな触肢を無数に伸ばし、絶命後も痙攣してる……体液は黄色で薬品を煮詰めたような激臭を発していた。


えーとサーチ結果は沼ダニ・変異種?

ビガルダの毒沼の環境に適応した昆虫系モンスターだ。


「こっちはキラーフライ・変異種にビガルダガザミ……」


どれも毒持ちでモンスターディッシュの材料には無理そう!


「ちょっと嫌だけど回収しとこ」


……とはいえ錬成炉用の素材と死骸を集めるのに贅沢は敵。留め金を開き、貪欲な魔女の腰袋に吸い込む。


「道具屋開店に向け大量に必要だしな」


アイヴィーもきっと喜……ぶかな?


毒沼の水も空瓶に詰めて既にゲット済みだ。


「さてマップも大分、広がって……む」


離れた位置で無数のモンスターに襲われ白マークが点滅している。


「……余計なお世話かも知れないが行ってみよう」


足早に沼地を駆け出した。



〜数分後 蝕みの水面〜



現場に到着し苔に覆われた岩に隠れ様子を伺う。


「くそっ!魔法が効かねぇぞ……」


「な、なんなのこいつ……」


ーーブブブブェ……ブボォ…!


二人組の男女が不気味な液体音を鳴らす謎のモンスター相手に苦闘していた。


……一見すれば巨大な泥の塊……スライムいやゴーレムなのか?


重なり固まった泥が防御壁となっているのか、物理攻撃はおろか魔法の衝撃すら緩和していた。


「きゃっ!」


「レイアッ!?」


レイアと呼ばれた女性にモンスターの飛ばした泥が直撃し身動きを封じられる。


……これはもう黙って見過ごせる状況じゃない。岩陰から飛び出し燼鎚・鎌鼬鼠のトリガーを引いた。


二人を爆発に巻き込めないし火力は控え目に……っと!


ーーブボォブボボッ!!


直撃した火球が爆発した。


「だ、誰だ!?」


モンスターがこっちに向き直る。無事、矛先を俺に変えたようだな。


「忿怒荒神流・火達磨」


火球の連弾が次々、着弾し泥の外殻を破壊する。動きが鈍いのでいい的だ。


ーーキ……ギギッ…ギィ……!


距離を詰め跳躍し斜めに鎌を振り下ろす。

研ぎ澄まされた刃の一撃は豆腐を切るように滑らかにモンスターを両断した。


「ん?」


……どうやらスライムでもゴーレムなかったようだ。


崩れた泥の殻の中に木の棒のように、細長く伸びた胴体と脚を露にさせ、触角と気味の悪い単眼を左右に動かす虫。


上顎と下顎をカチカチ、と鳴らしている。


サーチ、サーチ!


なになに……名前はスラッジメイルホッパー。毒沼に元より生息する固有種だって?


粘着質で融和性のある特殊な糸を口と腹部から吐き出し、毒沼の泥を付着させ鎧を形成するそうだ。

硬度は鉱石を上回り、魔法ダメージも軽減……ふむ、泥に混ぜた分泌液が関係してるとな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 辺境の英雄だとバレた時が楽しみですw
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